33話「BNR32対ランエボⅨ」
あの後3人でとっつかみあいとなり、30分ほど時間を消費してからである。
具体的にはポカポカ叩いたりなどなどだ。
そして決着は。
「不毛な争いはダメだね……」
と藤原。
「結局瞳はツンデレじゃないのね……」
と天井を見上げながら姉貴が言う。
「だから俺に恋愛を求めるなと……」
3人でぜぇ……ぜぇ……と息を整えた後、結論として。
「じゃあ瞳は百合ってことで」
うん、そう俺は百……
「おいこらまてそこのロリコンショタコンシスコンビッチ」
「なんて酷いこというの……」
「事実を言ってるだけだ」
と言いながら姉貴をみてみると涙目でジーっと見てきている。
「同性にやっても変な奴にしか見えないからな」
「私ビッチじゃないのに!!」
「否定するのそこだけかよ!!!」
そうすると姉貴は「酷い……酷い……妹が酷い……」と永遠ループしながら体育座りで隅っこに座り込んでしまった。
「言いすぎじゃない……?」
「いや、そのうち復活するから大丈夫だろ」
と言ってみるが、隅っこで体育座りしている姉貴は若干不憫だった。慰める気はないけど。
*
それから夜。
「で、昨日のバトルでなにかを得たと」
「そう、だからまたセッティングを変えようと」
と工藤、今更なにをいうんだこいつは。
「具体的には?」
「一発の速さを削ってもっと抑え目でいこうと思う」
「普通に考えればそうなんじゃない?」
「いや、多少キレがあるほうがいけるかと思って」
ダメだこいつ。俺だって最近はまったりなセッテングにしてるのに。
いくら走ってはいても身体がもたない。
「多少は余裕が必要でしょ。いつまでもキレキレじゃそのうち集中力がキレるよ」
「うまいこと言ったつもり?」
「そんなつもりはないからね」
「クールに返さなくても……」
「俺になにを求めているんだよ」
ここでツンデレ風に返しても誰が得するんだよ、ネット風にいえば誰得。
このまま議論しても仕方ない気もするので工藤なりのセッティングを試してやることに。
ランエボに乗り込みながら訊く。
「どこを変えたの?」
「当たり前ながらサス回りだ、バランスじゃなくて全体的に柔らかくした」
「へー」
「なんだその気のない返事」
「だってどうなるかあんまわからないし」
「走ればわかることだ」
と言いながらランエボを発進させる工藤。
ハチロクとは違う、4WD+2リッターターボの加速。
あっという間に第一コーナー。
一気に減速、少しずつブレーキをゆるめながらそのままターンインしていく。
確かに前のときよりロールが増している感じがする。
その分の余裕もできているかもしれない。
いや、それよりも―――――。
「やっぱアクセルオンでアンダー出るなぁ」
と工藤。
そういいつつも完ぺきなラインでアウトインアウトのライン。
そしてまたフル加速。
そして第二コーナー。
ここは軽めのブレーキで侵入。
突然工藤が軽く笑いながら。
「こりゃ……思ったよりもいい感じに仕上がってる」
そういい、フルスロットル。
次は初めてのヘアピンだ、
フルブレーキング。ABSのおかげでロックしない。
ブレーキをゆるめながらターンイン。
アクセルを入れていく、だが微妙にグリップが抜けていく感触。
だがわずかにクリッピングポイントを外す。
軽く舌打ちする工藤。
マシンの問題というより、工藤がまだ挙動に慣れていないらしい。
同じマシンでもセッティングで動きは変わるからなぁ。
次もヘアピン。
こっちは少し道路幅が広くなっている。
毎度のことながら、ブレーキングからの侵入。
今回はアクセルオンをこらえているようだ。
慎重にアクセルオン。
だが今回は踏みが足らず、思ったように脱出ができなかった。
「苦戦してる?」
「まぁ、まだ俺が慣れてないってとこだな」
「俺が降りたら違うかもよ」
「40弱のウェイトってとこか」
「いや、40強だよ」
「え」
「えって言われても」
「いや、普通は『そんなに重くないし!』とか言われるのかと思って」
「いや流石に30キロ台はないでしょ」
「いやー……でも」
「俺がそんな女々しいことをいうと思うの!」
「いや……うん、もうどっちでも」
走行中に複雑な顔をする工藤。
まったく、俺は生粋の女子ではないんだから。
*
その日は、俺を下して一人で黙々と走っていた工藤。
なにはともわれ、今日は相手とのバトル当日である。
予定の時間よりも早く今回の相手、杉村がスタート地点にやってきた。
「じゃ、予定より少し早いけど練習走行をしててくれ」
「わかった、ありがと」
といってマシンに乗り込み走り去っていく。
「さて」
と工藤はランエボに寄りかかる。
「これからどうするの?」
と聞くと工藤はGT-Rが走り去って行った方向を見ながら。
「まぁ、特にやることはねぇな」
「ここで腰を落ち着けてるって?」
「まぁそんなとこだ。走りをみたってどうってわけでもないし、なんかズルい感じだしな」
「工藤らしい」
「そうか? じゃあ俺と付き合」
ボカッ!
「な……ん……で……腹パン……を……?」
「いやなんとなく」
「なんとなくでされるのかー!!」
「だって」
「バトルする直前の奴にそんなことするのか!!」
「俺にやられれば喜ぶって聞いたのに……」
「い……いや、そんなリアクションもとれない……」
「なんて貧弱な……」
「そんな問題かー!!」
「まったく、ボケとして成り立ってないぞ」
「そんなキャラになったつもりないからな!!」
とワイワイやっていたら練習走行は終了。
ついにバトルだ。
*
二台の4WDターボマシンが並ぶ。
方や2リッターターボのランサーエボリューションⅨ
方や2.6リッターのスカイラインGT-R BNR32
よくよく考えてみれば、二台の成り立ちは少し似ている。
乗用車をベースに、レースで勝つための車をつくる。
そうした生まれたマシンなのだ。
その二台が激突する。
この日は珍しくカウントを瞳がする。
「じゃあいくよ!」
と手を上げ。
「5、4、3、2、1、GO!!」
カウントに合わせるように空ぶかししていた二台が、わずかにスキール音をさせながら加速していく。
まるでロケットのように飛び出していく二台。
排気量の差か、GT-Rが前に出る。
そしてコーナーに飛び込んでいく。
イン側にいたGT-Rが一足先に第一コーナーに飛び込んでいく。
工藤が後追いという形になる。
それを一瞬ながら確認でき、藤原が口を開く。
「これは予想通りってとこ?」
「まぁ、そうだね」
とガードレールに腰をかけながら瞳。
「まぁ、年式が新しいランエボのほうがコーナーでは有利だろうけどね」
「ってことは、杉村がリードを守れるか、工藤が抜けるかってところが勝負だよね」
と二台の音がする方向を見ながら横川。
「ざっくりと言えばそうだね、まぁ工藤なら大丈夫でしょ」
「ずいぶんと工藤のこと信頼してるね~。なんかあったの~?」
と涼宮。
「いやなーんにも」
と真顔で返す瞳。
「タコ、そういうときは顔を真っ赤にして『そ、そんなことないもん!』でしょー」
藤原がブーイングのようなものをいいながら言ってくるが瞳は。
「だってホントにそういう関係じゃないし」
「「「つまんなーい」」」
3人がブーブーとやじを飛ばす。
「あんたらはなにを期待してるんだよ!!」
瞳の叫びが峠に響き渡る。
*
二台のマシンは一気に下っていく。
コーナーでは今のところは互角である。どちらかが意図的に抑えているという可能性もあるが。
ラインの自由度は工藤のほうが高い。
なにかといって、コースの熟知度が大事なのだ。
先行では抜かされやすいポイントを熟知し、後攻では抜きやすいポイントを知っている。
この点では工藤が凌駕している。
(しっかし、相手もうまいもんだ)
と相手の走りを称賛する工藤。
二台の走りには派手というわけではないが、圧倒的な威圧感でギャラリーを圧倒する。
瞳の非力なマシンを、最低限の減速で駆け抜けるのとは違い、この二台はマシンをなだめるように走らせていく。
下りはなにもなく終了する、そう思った矢先、ヘアピン直前のストレートで杉村が工藤の動きに気付く。
いきなりレイトブレーキでイン側にねじ込むように入ってくる。
アウト側でめいいっぱい加速し事なきを得る。
そして、わずかながら杉村のペースがあがった。
それを見て、工藤はわずかに笑う。
どうも、お久しぶりです、オロトです。
テストやら修学旅行やらなにやらしてて書けずにいたら、こんなにも()
待ってくださっていた読者のみなさん、本当に申し訳ありませんでした。
とりあえずこのバトルの話を1話か2話ほど書いて、瞳のバトルに戻したいと思っています。
では、できれば次回も気長におまちください(ぇ