32話「工藤VS藤原(後編)」
このまま逃げ切れる、それが藤原の目標だ。
だが、上りではランエボのほうが一枚上手の可能性もある。
ブレーキでもあまり離れず立ち上がりで近づいてくる。
ただ、FDもただ不利になったわけでもない。
リアに荷重がかかりやすくなり、トラクションが増すのだ。
だが、代償としてフロントの荷重が抜け、旋回性能が無くなるのだ。
だが、ランエボは違う。
曲がるセッティングをしても、4WDのおかげでトラクションは抜けにくい。
下りで武器にしていた、FDの軽さという武器は、上りでは通用しにくい。
工藤の白いランエボが迫る。
長いストレートからのブレーキング。
わずかに離れたものの、引き離せるほどではない。
ほぼ同じくらいのパワーのはずだが、トルクが違うのか、ストレートで追い付いてくる。
そしてブレーキング。
ここから5連続ヘアピンだ。
わずかにスライドさせるように旋回させる藤原。
(ここまできて離せないなんて……ッ。ここで離すしか……)
と考えているが、ランエボもランエボでコーナリングは速いのだ。
派手な動きはしていないが、速さは一級品。
地味な走りで遅く見えることがあるがのほうが速かったりすることもあるのだ。
バトルの状況を見て、派手に走るのも、地道に走るか判断できるのが工藤の特徴。
今は淡々と走り、FDの後ろにつき藤原を精神的に揺さぶる方がよいと判断したのだ。
その作戦は、わずかながらでも効いてきてると判断する工藤。
走りには大した影響は出てなさそうだが、いずれは破綻しそうなオーラを感じる。
そして、破綻の時がきた。
五連続ヘアピンのあと、ストレートのあとのヘアピンだ。
侵入は完ぺきだった藤原。
だが、離れない工藤。
いっきにインにマシンをねじ込んでくる。
イン側のラインをふさがれた藤原はアウトギリギリでコーナリング速度を稼ごうとする。
だが無理だった。
計画的に侵入した工藤のほうがしっかりと旋回できたのだ。
藤原のFDは少し体制を崩すようにして立ち上がる。
藤原が加速勝負を、と思ったとこでももう遅し、工藤のランエボが前に出る。
(ミスったぁ……! まさかこんなとこで……!)
ストレートでランエボが完全に前にでる。
峠で前に出られると、抜くのは困難となる。
だが、藤原は諦めない。
(まだ、どこかでいけるはず……)
だが、今度のバトルに備えてマシンをチューンした工藤は今まで以上の速さだ。
4WDならではの決して壊れることがないように感じる走り。
だが走らせているのは人間。うまくプレッシャーをかければその走りは崩れる、藤原はそう考えた。
コーナーへの侵入。
ブレーキングで無理やりインにマシンを動かし、実際は無理なのだが『抜くぞ』というようなプレッシャーを与えた……はずである。
やはり工藤は動じない。
やはり普段の軽い調子とは全然違う。
煽ることはやめ、後ろにピッタリとついていくことに。
この方法でも、精神的にはボディブローのようじわじわ効いていくのだ。
(この方法なら、最後でチャンスができるかも……ッ!)
と前向きに考える藤原。
*
そのころ、頂上に戻ってきたいた俺はかと言えば。
「ランエボとFDを比べたら、どうなるか…かぁ」
と横川の質問を復唱していた。
「ぶっちゃければ、ランエボのほうが戦闘力は高いよ。けど工藤のランエボはまだ最後の詰めをできてないから、ほぼ互角ってところかな」
「正直に言って、どっちが勝つのかわかるか?」
と斉藤。
「俺でもわからないね。あまりにマシンとドライバーが互角だし。……ただ、ランエボに不確定要素があるんだよな」
「不確定要素?」
「車重だよ。FDとランエボには200キロ以上の差があるから、ランエボは終盤でタイヤがタレるかも」
「けどそれくらいは工藤は予想するだろ」
と斉藤は言ったが。
「どうだろね。あいつはバカだし」
*
その工藤は後悔していた。
(くそ、タイヤが……)
瞳が予想した通り、工藤のタイヤは熱ダレ――要はグリップ力が低下してきていた。
(同じくらいの重量のGT-Rのことしか考えてなかったから、予想よりも藤原と差がつかねぇ……いやそれどころか……)
どう考えても、煽られている。
そのことに気づいてしまい、焦りはじめる工藤。
藤原も工藤の変化に気づいていた。
(ランエボの動きが変わった……?)
さっきまでいつでもぶっちぎるぞ、といった様子だった工藤のランエボだが、明らかにペースダウンしている。
(これはチャンスかも)
仕掛けられるポイントはあと一つだけだ。
残すコーナーはあとわずか。
工藤が推測するに、このあとくる2連続ヘアピンか、最終コーナーあたりで仕掛けてくると予想している。
2連続ヘアピンへ突入。
ブレーキング。
工藤のランエボがわずかに膨らむ。
藤原のFDがインを刺そうとする。
工藤は無理にブロックしようとはせず、加速体制にうつる。
だが、FDは抜きにこなかった。だがノーズはアウト側に入れてある。
これにより工藤は迂闊にアウト側によれなくなる。
(無理を避けたか……?)
だが、コーナーはまだある。
ストレートでは大して離れない。
そして最後のヘアピン。
ここを過ぎればゆるめのコーナーしかない。
工藤がイン、藤原がアウトのままコーナーに侵入する。
藤原は壁際を攻める。
工藤はインベタで攻める。
だが。
(くそ……タイヤがヘタっててグリップしねぇ!!)
藤原と並んで立ちあがる、サイドバイサイドだ。
そして2連続ヘアピン直後のゆるい左コーナー。
ここではわずかに藤原が遅れる。
わずかに工藤が先行しながら最終コーナーへ。
*
藤原は瞳のように考えながら勝負を仕掛けたわけではなかった。
わずかに工藤のラインがズレたところにマシンを突っ込んだけだけだった。
(姿勢が崩れてる、これならいける!!)
そのままノーズを突っ込んだままストレートを駆け上がる。
そしてアウトの壁ギリギリからのサイドバイサイド。
加速勝負。
わずかに先行している工藤が有利と思われているが。
(頼む、曲がってくれよ!)
工藤は内心ヒヤヒヤだった。
藤原も藤原で。
(リアタイヤがあやしい……こんなところで)
そしてステアを握り直す。
(だけど、このFDならいける!)
最終コーナー、アウトに工藤、インに藤原。
工藤のランエボはアンダーステアを誘発した、だが許容範囲。
一方藤原のFDは――――
(滑ってる!? オーバーステアなのか!)
正気の沙汰とは思えない、並走状態でスライドなど下手をすれば2台とも絡んでスピンをしてしまうかもしれない。
だが工藤には不思議と藤原のFDは無事に立ち上がると思った。
強引にインにマシンを戻した藤原。
二台ともアクセルを踏みこむ。
クラッチを切りシフトアップ。
二台のマシンがアフターファイヤーを吹く。
そして瞳達が見守る中ゴールラインを越えてゴール。
*
俺達が見守る中、二台が駆けあがってきた。
工藤が微妙にアンダーを出して失速するなか、藤原はオーバーステアながらも見事にマシンをコントロールしてインベタで立ちあがってくる。
完全なサイドバイサイド。
二台がフル加速してくる。
そしてゴールラインとなっている俺の目の前を通り過ぎた。
「同着!?」
と横川。
「そうみたいだな、横谷はどうだ?」
と斉藤が訊いてくる。
「俺から見ても同着だったね」
「まさかの同着かー」
とFDとランエボのほうを見ながら涼宮。
俺もFDとランエボをみていたら、ドライバー二人が飛び降りてきた。
息を切らしながら工藤が。
「どっちだった!?」
ここは真実を伝えなければならない。
「同着だったよ」
「え……」
とつぶやくように言う藤原。
「ここまでやって同着ってなんなのー!!」
知るか。
工藤に至ってはガードレールにもたれかかっている。
*
そんなこんなで、バトル後にしては異常にテンション低く帰宅である。
「ただいまー」
「ただいまです……」
わかると思うが、上が俺、下が藤原だ。
「おかえりー♪」
もちろん返事しているのは姉貴だ。
漫画でいうと『ぬっ』といった感じで出てきた姉貴だが……
「なんでネコ耳付けてるんだ?」
「イメチェンよー。最近影薄いしー」
「なんの影が薄いんだよ」
「うふふふふ」
変に笑いだす姉貴。
変な人だ。いや、いつもか。
それはともかくとして、今日のバトルについて姉貴に話す。
「ランエボⅨになってそんなに速くなってたのねー」
と紅茶を飲みながら姉貴。
「正直乗り換えた直後はドン尻同然だったからビックリしたわよ。流石工藤君もセンスあるわよね」
「まぁ、あいつは昔から速かったしなー」
と俺が言うと。
「なんであんなに仲良さそうで付き合わないんだろ……」
と藤原がつぶやくのが聞こえた。
「おい、よーく聞こえるぞ」
「え」
「俺があんなのと付き合うと思うのかああああああああああああああああああ!!」
「いやあああああああああああああああ!!」
お待ちにしていた方待たせてすみませんでした!
ようやく投稿できました(汗
次からはやっとR32とのバトルになると思います。
次回も首を長くしてお待ちしていただけるとありがたいです(オイ