31話「工藤VS藤原(前編)」
時は少しだけ遡る。
瞳が走りに行ってから少し経った頃。
「いくら電子制御があっても旋回性能はFDにはかなわないでしょ?」
と言いだした藤原。
「んなことはねーよ。突っ込みで負けても立ち上がりとかはこっちのほうが速いし。全体的にもこっちのほうが上だ」
言い争いに発展していく二人。
「よし、それなら直接バトルして決めない?」
「ああ、いいとも!」
ということでバトルになったのだ。
やれやれという様子でスターターを務める斉藤。
「じゃ、下りと上りの混合で」
「いい練習になるといいなあー。お前がついてこれないかもしれないけど」
「ふん、こっちがちぎるし」
「5,4,3,2,1、GO!!」
横並びの状態で二台がスタートする。
パワーはほぼ同格だが、4WDのトラクションでランエボが前に出る。
しかしそれはノーズの分だけ、イン側のFDはまだ余裕はある。
突っ込みで有利なFDがランエボを抜かす。
ランエボは後ろにピッタリとつく。
いつでも抜ける体勢だ。
後ろからプレッシャーをかけミスを誘う作戦。
だが藤原は動じない。
早速工藤を引き離そうとペースを上げる。
工藤もペースを上げる。
だが、藤原のペースに引っ張られるのではなく、しっかり自分のペースも維持している。
これは走り慣れた榛名山だからできることだ。
別のコースでは、相手のペースに引っ張られ、わざとペースを乱すような走りをされたときに引っかかってしまう。
藤原にはそれをできる技術も十分にあるのだ。
だが、二人とも分かり切っている。
二人それぞれ最速ラインを持っている。
だから、かく乱は通用しない。
藤原は自分の最速ラインで逃げ切れば勝ち。
工藤は自分の最速ラインで追いかけ、抜けば勝ち。
二台の榛名山での走りの意地をかけた対決である。
基本突っ込みでは軽量かつ旋回性能に優れる藤原のFDのほうが有利だが、全体的な安定性では工藤のランエボのほうが高い。
一見工藤が優勢に見えるが、重量では200kgほど藤原のFDのほうが軽い。
そして、乗用車のランサーをベースにしているランエボと違い、RX-7 FD3Sは純粋なスポーツカー。
ドライバーの腕によっては、ランエボすら凌駕する。
対して工藤のランエボは運動性能の要となるスーパーAYCのセッティングを変え、ノーマルよりもさらに高い次元の旋回性能を手に入れている。
そこに瞳がアドバイスを出し完ぺきとまではいかないがセッティングされた足回り。
日本で最高峰の安定した旋回性能を誇る。
パワーはほぼ互角だが、トラクションはランエボのほうが上。
対してFDは軽量なおかげで藤原のFDはそれほどランエボよりは見劣りしない。
だが、コーナーからの立ち上がりは藤原のFDのほうがシビアであり、ドライバーである藤原への負担は大きい。
ヘアピンへの侵入。
ランエボはブレーキングで遅れるが、工藤にとってこれは想定内。
旋回中で追い付ける、そう踏んだ工藤だが―――。
(追い付けねえ……)
と悪態をつくほど、藤原の旋回は速い。
だが、加速である程度追いつく。
テール・トゥ・ノーズとまでいかないが、ある程度追い付いた。
(やっぱ、軽さは侮れないな)
と思いつつFDに追い付くための戦術を立てる工藤。
(あんまりここでブレーキを消耗するのも後々きそうだしな。やっぱクレバーに離れないようについていくか)
*
藤原も頭をフル回転させ、工藤に勝とうとしている。
(このまま行ってもへばり付かれたままだし、ここで振り切る!)
そこでさきほどのブレーキングからの旋回だったのだ。
上りでは重量の差が消えてしまう、それでブレーキング勝負は愚の骨頂だ。
逆に下りでは重量の差がもろに出る為、それを利用して引き離そうとするのだ。
ただしタイヤに負担はかけられない。
グリップ走行で負担をかけないように旋回していく。
フロントが逃げないように、リアのトラクションが抜けないようにアクセルを慎重に操作する。
(タコは無意識にこれをできるんだろうなぁ……それを考えるとすごいよ……)
と思いつつコーナーを立ち上がる、やはりあちらのほうがトラクションがいいのか、追い付かれる。
だが、次の突っ込みで離せられる。
ギリギリ、上りでもバトルできるようなとこを探りながらブレーキを踏む。
探り、とはいうものの、走り込みのおかげである程度は推測できている。
だから迷いはない。
ブレーキング。
ギリギリのとこまで踏み込む。
ABSのおかげで思いっきり踏んでもロックはしない。
そのまま旋回姿勢にうつる。
わずかにアクセルを踏み、車体を安定させる。
工藤のランエボは離れた。
コーナーの立ち上がりでアクセルを丁寧に踏み足していく。
コーナーで工藤のランエボから離れる。
だが、ストレートで追い付かれる。
だが、藤原はそれも想定内。
90°のコーナーが続く。
その先は、榛名山名物の5連続ヘアピン。
ここでいっきに引き離す。
そう考えながら、ハンドルを握り直す。
そして一つ目のヘアピン。
近づいていたランエボが離れる。
(ここで離れないと最後に抜かされる……!)
そう思い、必死に攻める。
工藤のランエボは遠ざかっていく。
*
一方工藤も慌てていなかった。
(別にコーナーで全部仕掛けろってわけじゃねえ。ストレートで抜いても別にいいんだよ)
高いプライドも持たず、勝つことに集中していく。
このメンタルも、コーナリングが常識外れな瞳と走っていて形成されたもの。
ヘアピンでも離れるだろうが、その先は高速セクション。
上手くすれば下りのうちに抜ける。
そう考え、リラックスする。
アクセルを踏み込む。
(焦らず、家宝は寝て待てってこれのことだな)
と若干的外れなことを考えつつ走らせる。
案の定、5連続ヘアピンでは二台の差が開く。
工藤はヘアピンを立ち上がるごとに、藤原のFDが遠ざかっていくのを感じる。
だが、その差を作るヘアピンはもう一つで終わる。
そしてストレート勝負へ。
加速ではランエボが有利。
先程の差をいっきに詰める。
ノーズを入れる。
だがその直後にコーナー。
FDを捕まえられない。
FDがインを締める。
だが、工藤の顔には焦りはない。
彼は下りで抜けなくても上りで抜けばいいのだ。
さらに、上りではアドバンテージがあるというわけではないが、下りよりもブレーキングでの差が出にくく、立ち上がりでのトラクションでランエボが有利になる。
まもなくUターン。
下りでの最終コーナーを立ち上がり、ゴール地点にあるパイロンを見る。
そこを回転して上りにうつる。
藤原はマシンをスライドさせ、上りにうつる。
ワンテンポ遅れて入ってきた工藤は停止ギリギリまで減速し、小回りしながら旋回して上りにうつる。
加速勝負。
スライドでトラクションを失った藤原が立ち上がりで若干遅れる。
逆に4WDのトラクションを利用し、ロケットスタートを決めるランエボ。
ここから工藤とランエボの逆襲が始まる。
投稿遅れて済みませんでした。
思ったより長引きそうだったので、一旦ここで切り、次回でこのバトルは完結させる予定です。
また気長にお待ちください(オイ