21話「首都高完結、そして日常へ――」
二台のマシンが首都高を疾走する。
それは、感動的な美しさに見えるかもしれない。
しかし、同時に戦闘機の空中戦にも見える。
荒畑は直登のNSXについていくのがやっとだ。
(くそ、どうすればあんなに曲がるんだ……!)
同じ車に思えない。
確かに、パワー重視の80スープラと、コーナリング重視のNSXでは性能は違う。
だが、本当にそれだけなのか?
荒畑も首都高では速い方だ。峠も走るから、コーナリングも上手い。
格が違う……
そうとしか考えられない。
(あれなら、|榛名のハチロク(横谷瞳)にも勝てるかもしれない……)
と考えるが、違うことも荒畑は考える。
(だが、それだけで勝てるのか? あいつの妹も、かなり無理をするやつだ。土壇場でなにをするかわからんからな……)
しかし、何故そう考えられるのか、自分でもわからない荒畑。
(まぁ、まずはバトルだ)
と心を入れ替え、バトルに集中する。
荒畑のスープラは離されてはいるが、まだ絶望的というわけではない。
それに、コーナーが多いC1は後少し。
あとはC1より直線的な9号、そして湾岸。
ここを凌げばチャンスはある。
一方直登も、そんなことはわかりきっている。
(C1でどこまで離せるか、それが勝負だ)
と思いつつ、次のコーナーへのアプローチをする。
(9号だと五分五分か、スープラが上だろうな……)
ステアを握りなおし。
(それがどうした、そんなことでは瞳に勝てない……!)
わずかでもストレートがあると荒畑のスープラが近づく。
(流石だ、トラクションの掛け方が上手い)
と直登は心中で荒畑をほめる。
トラクション―――すなわち駆動力は、いくらパワーがあっても地面に伝えられなければ意味がない。
二台とも、それが上手く、加速でほとんどホイールスピンをさせない。
それが、どのくらい走りに影響が出るか、実際に走っている人ならわかることだろう。
そして、9号線に突入。
荒畑のスープラが本領を発揮する。
700馬力ものパワーが大きい車体のスープラを加速させていく。
速度はあっというまに150km/hオーバー、そこから減速、また加速の連続。
そんなスープラから逃げるNSX。
コーナーへの侵入では一歩先にいくが、立ち上がりから加速は追いつかれる。
このままでは、湾岸線で負ける。
わずかにマシンを滑らせながら、加速していくスープラ、それをミラー越しで見たいた直登は。
「ここまでか……」
直登は、C1でスープラを引き離せたことで満足だった。
この9号でも700馬力クラスのマシンと渡り合えるとわかった以上、湾岸で負けてもどうということはない。
そして、日本で最高峰の最高速ステージ、湾岸線に入る。
排気量では直登のNSXのほうが上だが、ターボ付きの荒畑のスープラのほうが、加速、最高速ともに高い。
湾岸線への合流。
普通に流しているマシンもいるが、多くいるわけではない。
直登がフルスロットルで駆けて行く。
それを追うように、荒畑もギアチェンジからフルスロットル―――――できない。
荒畑が飛び出ようとした車線に、流している車が居たのだ。
それにより、一瞬アクセルを踏み損ねる。
ターボ車には痛い失速だ。
ターボは排気ガスにより、動力を得てエンジンに過給する。
だから、アクセルを踏まないと、排気ガスが出ないので、タービンが動かない。
そして、タービンが動くのは、最近では少なくなってきているが、ラグがある。
それにより、一瞬加速が鈍る。
さらに、シフトアップしたばっかで、落ちた回転数を補うため、シウトダウンさせるか悩んでしまったのだ。
その一瞬をつき、NSXがさらに加速する。
荒畑はギアは変えず、そのまま加速させる。
唯一の救いは、スープラに搭載されているエンジンの2JZ-GTEは、第二世代GT-Rに搭載されているRB26DTTとは違い、低中速でもトルクはあるため、失速してもすぐに挽回できたことである。
(これがスープラのいいところなんだ。さぁ、仕切りなおしだ!)
二台のマシンは、150km/h前後で走っている車を左右とよけて走る。
湾岸では、左右の車線変更でのミスが命取りになる。
二台とも、そこではミスをしない。
直登のNSXのすぐ後ろ―――10メートル以内に荒畑のスープラが近づいてきた。
ゴールは大井パーキングの近く、そこまであとわずか。
そこまで直登のNSXは逃げ切れるか。
NSXの後ろにピッタリとついていたスープラが前に出る。
荒畑がギリギリで抜き去る。
そして、勝負が決した。
*
減速して大井パーキングに入る二台。
NSXから降りた直登は。
「荒畑、お前の勝ちだな」
対して。
「なにいってんだ、C1,9号で圧倒されてたから、実質はこっちの負けだよ」
と言ってから、NSXを見て。
「しっかし、どんだけコーナーで速いマシンを作ったんだよ」
と直登を褒める荒畑。
「ま、これでも足りない気がするけどな。なにせ相手は高性能車殺しだしな」
*
そして、対戦相手の俺こと、横谷瞳は親友達と帰りながら。
「まぁね、だって、今回のバトルは自信がないもん……」
と言うと。
「なんで……?」
と雰囲気を察したのか涼宮が神妙そうに訊いてくる。
「だって、相手は兄貴だし、軽量ミッドシップのNSXだよ。正直、俺がバトルしたくない車種上位車になってるよ」
「そんなに速いっけ?」
と藤原。
「しっかり仕上げれば、GT-Rよりも速いはずだよ」
「そんなに……」
「兄貴なら、そんくらいできそうだし。俺でもダメだろうなぁ……」
我ながら、いつになく弱気だ。
「そんな弱気な横谷も、好きだぞ」
と工藤が俺の手にキスをする。
…………………………………………
「って、なにすんだこの変態がぁぁああああああああああああああああああ!!」
「くそぉぉおおおおおおお! どさくさに紛れる作戦が!!」
「紛れても俺の思考が追いついたら意味が無いんでしょ――――――――――――――――――!」
「ってことは、瞳の思考が追いつかないうちに攻撃すれば!」
「さりげなく呼び捨てにするな――――――――――――――!!」
そうやって、ワーキャー騒いでいるうちに帰宅。
「タコー、今日のご飯は?」
「……決めてない」
忘れていました……
ということで、夕食をなににするか会議。
「なにがいいかな」
と俺が訊くと、いつの間にか居た姉貴が。
「瞳を食べましょうか」
「あ、いいですね」
と同意する藤原………
「ってなにサラッと恐ろしいことを言ってるの!?」
「冗談よ。ふふふ」
あなたが言うと冗談に聞こえません。
結局夕食は―――
「瞳で決定!」
「わー」
「だからそれはやめてぇ―――――――――――――――!!」
俺は変態に囲まれているような気がする……
*
結局夕食は肉じゃがなどなどで決定。
ちなみに、肉じゃがなのは、姉貴が。
「女たるもの、肉じゃがくらい作れないといけないのよ!!」
と、偏見満載なことを言い出した。
だが、俺と姉貴は料理はできる。
誰が料理するか……それは
「うー……女は料理できないといけないって、偏見すぎるじゃん……」
とスーパーに一緒に来て嫌そうに言う藤原。
「男でも女でも、料理が出来た方がいいでしょ」
となだめつつ食材を眺める。
「これと、これ……」
カートに入れていく。
「って、藤原?」
いつの間にか居なくなっていた。
「あれ?」
いくらなんでも、お菓子を買いに行くような年じゃないと思うけど―――――
「タコー、このお菓子買って~」
――――藤原は例外のようだ。
「おい、ガキ」
と、声を低くして言う。
ちなみに俺が声を低くすると男子にも聞こえるらしい。
「う~、お姉ちゃんのケチ~」
こんなことを言っているが、見た目は同い年、誕生日は藤原の方が上である。
「まったく……」
と俺は藤原が持ってるお菓子を見る。
……美味しそう。
「仕方ないなぁ……」
試しに買ってみることに……
そんなことをしながら買い物を終えて帰宅。
「お帰りー」
と姉貴が言ってきた。
「さて、藤原、作るよ」
「頑張って~」
「お前が作るんだっ!」
と台所に引っ張っていく。
……これが、全ての始まりだった。
投稿が遅くてすみません……ネタが切れてきて……これから更新頻度が落ちてしまいますが、ご勘弁を……
いつNSX編が完結するかww




