19話「決着、FZ対Z32」
二台とも、五連続ヘアピンに侵入。
走りに変化が起きたのはZ32だった。
それは、わずかなペースダウン。
二つ目のヘアピンを抜けて涼宮は確信する。
(間違いない、突っ込みの勢いが落ちてる……)
Z32はつかず離れずでついてくる。
大林はこう考えていた。
(ここで無理に突っ込んでブレーキを消耗するのは得策ではない。つかず離れずでついっていって、最後の高速セクションで抜く!)
という、計画を立ていた。
*
一方頂上では俺たちが話し合っていた。
「今、香織さんから連絡があって、シオが抜いたって!」
「よくやったな」
と斉藤。
「てことは、今頃は五連続ヘアピンだな」
と工藤。
「まぁ、最後の高速セクションが悩みどこだけどね」
と俺が言うと。
「最後の最後での、高速セクション……か。Z32が有利だろうな」
と工藤。俺と同じことを考えてそうだ。
「なにが悩みどこなの?」
と藤原。こいつは……
「もし、Z32のほうが、FZよりパワーがあるなら、高速セクションでは『基本的』には有利だよね」
「『基本的』には?」
と首をかしげる藤原。
「ようは、パワーだけじゃ速く走れないだろ。足回りとかもしっかり万全でってこと」
「なるほど~」
「で、ここまでのバトルでZ32はタイヤ、ブレーキを消耗している」
と工藤が俺の説明を引き継いでくれた。
「まぁ、ブレーキを消耗しないように五連続ヘアピンで我慢すれば、逆転のチャンスはあるかもな」
と工藤は説明する。
「まぁ、涼宮だったら見破るだろうけど」
と、俺は安心させるために付け加える。
*
涼宮は最後のヘアピンを抜けるとき。
(まさか、ブレーキの消耗を抑えるため!?)
そのことに気付いた涼宮は、それに対抗するためのことを考える。
(最後の最後で抜かれるわけにはいかない!)
それを追う大林も、焦っていた。
(こんなに距離を開けて大丈夫なの……? あぁーっ! すっごい不安になるぅ―――――――――――――!!)
と、心の中で叫ぶ始末。
一方涼宮は、なにをするかわかってしまえば、安心できる。
例えるなら、ゲームなどで敵に攻撃される前に、どのような攻撃をされるかわかっている状態であろう。
なにをされるかわかっていれば、対処もできる。
そして、五連続ヘアピンの後のヘアピンを抜け、高速セクションへ―――――――――ッ!
*
その頃俺たちは頂上で涼宮がどのようにすれば勝てるかを話し合っていた。
「とにかく、シオが抑えきればいいんだよね」
と藤原。
「うん、少なくとも最終コーナーまで防げれば大丈夫だよ」
と俺が説明すると、工藤が。
「最終コーナーは道幅が狭い上に、コーナーの|曲率(R)が|きつい(高い)からな」
と、付け足してくれた。
「けど、あくまで『最終コーナーまで抜かれなきゃ』だろ?」
と斉藤。
「……なんで、そんなテンションが下がることをいうの?」
と冷たい目で藤原。
「まぁ、それも事実だから仕方ない」
とフォローしてあげる。
*
後ろから追われる形で、高速セクションに突入したが、涼宮は焦らなかった。
(なにをやっても、車が応えてくれる!)
涼宮がそのように思う理由は、峠では低速すぎて役に立たないと思われている空力パーツにある。
峠のバトルでは、大した速度にはならないと思われているが、最近の車やチューニングカーの性能、などからみれば、瞬間的にも恐るべき速度に達してるときもあるのだ。
そして、発売されたばっかのFZは、FDと外見はさほど変わらなくても、細部で空力のことを考えられている。
ウイングの角度、そして、シャーシの下から効率的に空気を抜いて、マシンと地面の間の気圧を薄くしてマシンを吸盤のように地面に押し付ける役目のデュフェーザー。
そのような変更により、マシンが地面に押し付けられ、スピード自体は遅くても安定性、機動性が高い。
そして、空力パーツは速度が上がれば上がるほど、真価を発揮する。
そのため、パワーが高いZ32のほうが有利と思うかもしれないが、実はFZも有利な一面を持っている。
だからこそ、涼宮は車が応えてくれると感じたのだ。
一方で大林は。
(いける、パワーならこっちが上!)
ストレートでマシンの先端をねじ込む。
(いける!?)
だが、FZのほうがコーナーでの速度が高い。
ギリギリでFZが先頭を守る。
(ここでは抜かせないッ!)
ギアチェンジと同時に、FZとZ32のマフラーからアフターファイヤが出る。
残りあとわずか。
(どうする!? もう勝てないんじゃ……)
と、一瞬マイナス思考になったが。
(んなことはない、まだチャンスはある!)
そして、唯一道幅がが三車線あるコーナーに侵入する。
二台がコーナーに侵入。
ストレートでアウトにノーズをねじ込んだZ32が先頭を取ろうとする。
(行かせるかっ!!)
涼宮もインから攻める。
旋回性能では、一歩上のFZでZ32より早くコーナーを抜けようとする。
だが、慣性でアウト側のガードレールにジリジリと近づく。
二台とも、コーナーでサイド・バイ・サイド。
そしてそのままコーナーを脱出。
次のコーナーが最終コーナー。
サイド・バイ・サイドのまま最終コーナーに侵入。
インが大林のZ32,アウトは涼宮のFZ。
イン側のポジションだが、タイヤの消耗が激しい大林はきつい。
だが、涼宮のFZのタイヤには、まだ余裕がある。
そして、最終コーナー。
差は歴然だった。
イン側でアクセルを踏めないZ32と、アウト側でアクセルを踏むFZ。
そして、FZが前に出る。
そのままゴールラインを通過する。
勝ったのは、当然涼宮だった。
*
頂上で俺達は報告を受けていた。
「よし、涼宮が勝ったよ!!」
「やったぁ!!」
と、藤原が叫んだ。
「まぁ、涼宮なら当然の結果だろ」
と嬉しそうにインプにもたれかかりながら斉藤。
「ま、新車の割には頑張ったじゃないか」
とこれまら嬉しそうに麓のほうを見つめる工藤。
と、その直後。
「V6の音だ」
と俺が反応すると。
「しかも、VTECエンジンっぽい音だな」
と工藤。
なんだか、ものすごい力と一緒に登ってきているような雰囲気……
登ってきたのは、低い車体が特徴のNSXだった。
「兄貴のNSX!?」
そう、ピリピリとした緊張とともに登ってきたのは、俺の兄、横谷直登のNSXだった。
涼宮の勝利への喜びから一転、一気に臨戦態勢の空気になった。
「久しぶり、というほどでもないな。瞳」
と、車から降りて話しかけてきた兄貴。
「なんの用事?」
大体想像できたが、訊いてみる。
「バトルの申し込みだ」
と、今の空気を読んでか読まずか、あっさりという兄貴。
「いつ、どこで?」
「再来週の土曜日。瞳も夏休みに入るだろ?」
そういえばそんな時期だったな。
「いや待て、そろそろ期末試験の時期じゃないか?」
よく知ってるな。
「だったら、3週間後でいい。俺も瞳が万全の状態で走ってほしいからな」
「どうもありがとう」
「次は負けない、次はこのNSXで行かせてもらう」
「どんなマシンが来ようと、俺は負けないよ」
「そういうと思った」
そう言って、マシンに乗りこみ降りて行ってしまった。
それと入れ替わりに涼宮達が戻ってきた。
FZから降りてきた涼宮は。
「ど、どうしたの?」
「いや、兄貴がバトルの申し込みにきたんだ」
「え、えええぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええ!?」
と、叫んで驚く涼宮。バトルの直後だから、テンションが上がっているのだろう。
「バトルって、さっきのNSXですか!?」
と相手の大林。
「知ってるの?」
一応訊いておく。
「知ってるもなにも、今首都高のC1や横羽線で、一番速いって言われてるNSXですよ!」
兄貴……有名人だなぁ。
と、大林は恥ずかしそうに顔を下に向けてしまった。
いつもは恥ずかしがり屋で、ハンドルを握ると性格が変わるタイプなのかな。
なにはともあれ、FZ対Z32の戦いは終了したのであった。
*
「うぬぬぬぬぬぬぬぬ」
俺の前に座っている藤原が、謎の唸り声を上げる。
ちなみに、今はテスト期間でテスト勉強をしている。
「なに唸ってるの?」
と訊く。まぁ、こいつのことだろうから――――
「タコと直登さんのバトルのことよ」
即答された。
「今はテストのことを考えろ」
「けどさぁ!」
「はいはい、今は勉強」
「なんでそんなに集中できるのよ……」
ボソッという藤原。
「……|藤原(お前)の集中力が足りないだけ」
「むっ、タコ、それは違うよ」
「なにが?」
「香織さんを見ればわかるけど、|横谷家(この家)は頭の出来が違うんだよ」
「あのなぁ、姉貴はともかく俺はそんなによくないと思うよ」
「まぁ、成績は飛びぬけていいってわけじゃないからね」
「だろ、俺は平凡に生きてるんだ」
「(……一度性転換したのに平凡って)」
「なんか言った?」
「いえいえ、なんでもありません!」
嘘臭い……
「まぁ、いいや」
「ふぅ……」
「おい、誤魔化したのに『ふぅ……』で台無しだぞ」
「……」
「おい、俺のことをうるうるした目でジーっと見るな」
「どうする、ア○フルー♪」
「お前は犬だったのかっ!」
「チワワみたいでしょ?」
「いや全然」
「なによっ!」
「そっちがだろ!?」
ひどい理不尽だ。
「む、タコが適当なことばっか言うからでしょ!」
「……なんだと」
「まったかう、いつもいつも適当なことをいって、男子の時からそうだったじゃん」
「俺がいつ適当なことをいった!」
「いつもいつもいつも!」
ただいま、ケンカが発生しています。
まぁ、色々言い合って、数分後。
「このー!」
と俺は藤原に武力行使をするために、藤原を押し倒して乗りかかる。
「きゃあああ、タコが襲ってきた!」
と、藤原が言った直後、入口のドアから『ガシャン』という音が。
「ひ、瞳。そんな趣味があったのね……」
と言っているのは、一番見られたくなかった姉貴だった。
「わわわわ、私はなにも見てないからー!」
と言って、どこかに走って行ってしまった。
それから少々の沈黙を経て。
「不毛な争いはやめようか……」
「そうね、あたし達がバカみたいだしね……」
停戦協定が結ばれました。
……ちなみに、テスト勉強はノルマの半分ほどで終わったのは秘密。
とりあえず、涼宮のFZ編は完結、次からは最強のNSX編に入っていきます。
少しずつ、口調だけでもキャラがわかるようにしていきたいと思うので、違和感があるかもしれませんが、そこはスルーしてください。