18話「激突、Z32対FZ」
登ってきたZ32を見て、詳細はわからないが見た目で相手のチューニング度を測ってみる。
見た目、足回りを変えて、ブレーキ回りも強化されている、エンジンはブーストアップにECUてとこか。
ボンネットは変えてある。もしかしたらFRPやカーボンの軽量素材かもしれない。
後はレカロのフルバケットシート、スポーツハンドル、マフラー、ホイールなどのお決まりだけだ。
「じゃあ、始めましょうか」
と涼宮が言って、ドライバー二人で話している。
その間にも失礼してZ32を見る。
ボンネットには大きいダクト、しかもカーボン製。
ホイールも軽そうだし、エアロも軽そうなパーツで出来ていた。
「軽量化重視みたいだな」
と工藤。
「にしても、ランエボに乗ってる俺が言うのもなんだけど、でけえダクトだな」
とボンネットのダクトを見ている。
「まぁ、Z32はエンジンルームが狭くて熱が抜けにくいからね」
「これで車重は1390kgってとこか」
と工藤が言っている。
「って、横谷。なにを見てるんだ?」
「このZ32、2シーターだよ」
「なに?」
驚くことにこのZ32は2シーター仕様の前輪と後輪の間が短いタイプだった。
「これだと、FZとはパワーでは若干上、重量でも若干上、操縦性は悪め。ってとこだね」
「思ったより旋回性能はありそうだな」
「しかも、これをうまく仕上げれば峠ならかなりいけるかも、なにせFDよりちょっと大きいくらいだしね」
「予想より厄介そうだな」
と工藤は言うが、それでも余裕は消えていない。
「まぁ、涼宮には伝えておこう」
そして、バトルが始まる前に。
「涼宮ちょっと―――」
と涼宮に、さっき気付いたことを教えた。
「わかった……ありがとね」
と頬笑みながら言う涼宮。
俺が離れると、カウントが開始された。
*
「5,4,3,2,1、GO!!」
合図とともに二台のマシンが峠に飛び出していく。
先に前に出たのはわずかながらパワー差があるZ32。
「あー、やっぱ先頭取られちゃったね」
と藤原。
「仕方ないよ。パワーならZ32だもん」
と横川。
「でも、コーナーではFZが有利なはず」
と瞳。
第一コーナーでは互角。
だが、第二コーナーからヘアピンにかけてはFZが余裕を見せる。
(ちょっとでも油断したら、一気に抜かれる……ッ)
と大林。
大林も下調べで自動車研究部と涼宮のことを調べていた。そして、今の速さから見ると。
(なんて……実力)
若干ヘタレな発想ながら弱いやつから倒して上に挑戦しようと思っていた大林からすれば、最初から中ボスに戦いを挑んでしまったような感じだった。
(自動車研究部でも中盤の実力と言われてるドライバーでも、こんなに速いなんて……)
と唇を噛む。
(車自体もいいけど、それ以上にドライバーからのオーラが違いすぎる……)
一方涼宮も、それなりに気を使っていた。
(意外とやる……タコが言った通り、コーナーでも思ったより速い)
と、頭の中で整理していく。
二台はヘアピンを抜けてストレート。
ストレートではZ32が速く、FZがわずかに離れる。
だが、次のヘアピンの侵入のブレーキングでFZが差を詰める。
(やっぱり、突っ込みだと詰められるか……)
と普段のおとなしそうな印象から一転、若干顔が険しくなっている。
(このまま終盤のセクションに持ってくと抜かれそう……)
涼宮も険しい顔になっていた。
(このままいくと、中盤のスケートリンク前とかで抜けない……やっぱ五連続ヘアピン抜きたいけど、あっちも警戒するだろうなぁ……)
と作戦を練るが、どれにしても難しい。
二台が、一旦右に曲がって、そこから切り返してヘアピンに侵入する、難しいコーナーに侵入。
(ここで!!)
と涼宮は勝負を仕掛けるが。
(行かせるもんかっ!!)
と、大林も抵抗。
Z32が華麗なドリフトを見せ、FZの道を塞ぐ。
突っ込むスペースが無くなり断念する涼宮。
(チッ、やっぱり、失敗した……やっぱり『あそこ』しかないか)
と心中で舌打ちする涼宮。
*
頂上では、瞳たちが話し合っていた。
「タコならどこで仕掛ける?」
と藤原。
「俺なら、第二ヘアピンかな。相手によっては手前の緩い右で減速するのもいるし」
「横谷ならフェイントみたいにして、その反動で次のヘアピンをドリフトで抜けるからな」
と工藤。
「そう、けど、あのレベルの相手なら別のところで仕掛けないと」
「五連続ヘアピンだと、防がれそうだけど……他にあった?」
と横川。
「仕掛けるなら、俺も使った『あそこ』しかないんだよ」
と瞳はニヤリと笑いながら言う。
「けど、『あそこ』はかなりの度胸がいるぞ」
「涼宮は運転すると性格が変わるから大丈夫だよ」
と瞳。
*
その頃二台のマシンはストレートでの攻防に移ろうとしていた。
(やっぱり離される、やっぱ後半で……!)
と、涼宮。
*
スケートリンク前ストレートの後の(峠では)高速コーナーにいる二人の男女。
「まぁ、あいつらなら、ここで仕掛けるはずだ」
と言ったのは、瞳の兄。横谷直登。
「けど、涼宮ちゃんは車に慣れていない」
とその隣で喋ったのは、瞳の姉かつ、直登の妹の横谷香織。
「まぁ、根性があれば仕掛けるだろ」
と直登がつぶやく。
*
二台のマシンはストレートで競う。
ストレートではZ32のほうが上。
FZが離れる。
だが。
(ピッタリ私の走行ラインをなぞってる……?)
と、バックミラー越しのFZの動きに不信感を抱く。
(まさか、スリップストリーム!? こんな速度で……!)
スリップストリームとは、ストレートに入ると先行車の真後ろについて空気抵抗を減らして加速力を上げて抜き去るテクニックであるが、大林が驚くように、このテクニックは100km/h以上でなければほとんど意味がないはず。
だが、大林は気付いていないが、この時の速度は80km/hを超えている。多少なりとも効果はある。
そうまでしてでも離されたくない涼宮。
そして、二台ともフルブレーキング。
コーナーではFZが有利。
そして、FZは多少離されたがまだ射程圏内。
(まさか、ここで!?)
と驚く大林。
(こんなハイスピードで、道幅もそんなに広くないのに……っ!)
本能的な危機回避で相手が入れるようにアウト側の道を空ける。
(あいつ、バカじゃない!!)
そして、アウト側に空いた道に間髪入れずにマシンをねじ込む。
そして、サイド・バイ・サイド。
*
それを見ていた香織と直登。
「やっぱ、ここでくるか……」
「やっぱ、外から見るとすごい怖いわ」
「相手のドライバーもいい、これは、あの後のヘアピンで勝負が決まるかな」
「しかし、涼宮ちゃんはすごいよ。まだ乗って1カ月も経ってない車でガードレールスレスレまで攻めてる……」
かなりの解析をしている二人だが、実際に見れば二台が二人の前を通ったのはほんの少し。
それなのに解析できるのは、二人の動体視力などの良さがある。
そこからでも二人のドライバースキルの高さがうかがえる。
「ま、ここで先にヘアピンを抜けた方が勝ちだな」
と直登は言う。
「まだ挽回できるチャンスはあると思うけど……」
と香織。
「どっちかがよほどのミスでもしない限りは次のヘアピンで決まりだよ」
と言って自分の車のほうに行く。
「兄さん」
と香織は呼び止める。
「本当に、瞳とまた走るの?」
「ああ、今回は本気の本気だ」
と今日乗ってきたマシンのドアを開けながら言う。
「今回のバトルは、俺が首都高、サーキット、そして峠での培った全てを出させてもらう」
今直登が乗りこんでいるマシンはGT-Rではない。
全体的に低い車体、運転席と助手席の後ろにあるダクト。それはこの車がミッドシップであるということを表している。
GT-Rとか違い、サーキットでも走ってそうなレーシングカールックなエアロ。
そのマシンに乗り込み直登は行ってしまった。
*
サイド・バイ・サイドのまま高速コーナーを駆け抜ける二台。
アウトとインが入れ替わるが、まだ並んでいる。
ヘアピンの飛び込み。
((ここで先に飛び込んだ方が勝ち!!))
二台が飛び込む。
イン側の涼宮が有利。
そしてイン側でのフルブレーキング。
(FZのラインが膨らむ!?)
ほんのわずか、FZのブレーキが遅れてアウト側にラインがふくれる。
(マズった……っ!!)
イン側が空く。
そこにマシンをねじ込む大林。
(もらったっ!!)
だが。
アウト側に膨らんだFZが、一歩早くアクセルを踏んだ。
ストレートでわずかに前に出る。
(FZ,頼む、加速して!!)
と念じる涼宮。
綺麗にトラクションを掛け、フル加速するFZ。
Z32の加速が遅れたため、結果的にFZが前に出る。
だが、大林もストレートでFZの横にノーズをねじ込む。
そして、次のヘアピンに突入する。
二台、フルブレーキング。
イン側の一見有利なポジションに見える大林だが、ブレーキングではFZの方が上だ。
(ブレーキもタイヤも余力は無い……頼むよ、Z32!)
だが、ブレーキングでFZが前に出る。
FZがリードして五連続ヘアピン前の中速コーナーに侵入。
操縦性が高いFZがここでもリードする。
このままでは負ける、そう思った大林。
(どうすれば、どうすれば……っ!)
と念仏のように頭の中で唱えていた大林だったが。
「あ」
と間抜けな声を出してしまう。
(ギャンブル性が高いけど、やるしかない……!)
先行する涼宮がバックミラー越しでZ32を見ると。
(ペースがほんのわずか落ちた? 諦めた? いや、まだなにかあるんだ……!)
二台は五連続ヘアピンに突入する。
とりあえず、早めに投稿できましたね。タイトルは「Z32VSFZ」だと、紛らわしいのでこのタイトルにしました。
次回、涼宮のFZ、VSZ32編が完結の予定です。