11話「決着、最速の才能」
荒畑の全身から冷や汗が出てくる。
(無理だ……!)
瞳のハチロクはそのままガードレールにぶつかる。そう思われるラインだった。
あのまま、ハチロクのボディがペシャンコになるのがまざまざと脳に浮かんでくる。
瞳は必死にアウトに逃げるハチロクを最小限のロスで抑えようとする。
(ハチロク・・・・・・どうすればいいの!?)
そう伝えてるつもりの瞳。
タイヤも少しトラクションを失っている。
もう、ガードレールと接触する。
その時。
――――慌てるな。リアバンパーを軽くガードレールに接触させろ。
そんな『声』が聞こえた。
瞳はその『声』を理解する前にそうした。
荒畑は後ろから見ていてどうなったかが理解できない。
唯一できるのは。
―――ワザとバンパーをぶつけようとしてる?
瞳はハチロクのリアバンパーをほんの少しぶつけるようにした。
ほんの少し、接触の衝撃があった。
そして、トラクションが復活すると同時に脱出のラインが見える。
トラクションの復活で安定性を取り戻した瞳はアクセルを踏む。
荒畑は本能的にアクセルを抜いてしまった。
だが、次の瞬間。瞳のハチロクは加速した。
荒畑は舌打ちをしながらアクセルを踏む。
だが、一度アクセルを抜いてしまったため、ブースト圧が落ちてしまいそこから立ち直るのにほんの少し。ロスしてしまった。
ほんの少しアルファードが離れたのをミラーで確認した瞳。
「よし、計画通り。ここから先は高性能車殺しだ」
瞳のハチロクはその後のヘアピンを早めのブレーキングから立ち上がり重視のコーナリングで立ち上がる。
*
頂上では、直登達が話し合っていた。
「そもそも、タコが五連続ヘアピンで仕掛けると思うなら、相手もそう思うんじゃないですか? 榛名山では有名なセクションだし」
と藤原。
「まぁ、瞳が裏をかくなら、スケートリンク前のストレートから二つ目までだ。二つ目のヘアピンは、ある特徴があるしな」
「ある特徴?」
「地元なのにわからんか……」
と直登が呆れる。
「ヘアピンの出口か……」
と工藤がつぶやくように言う。
「そうだ。あそこは出口が一車線多い。だから、今までのヘアピンより深く突っ込める」
「走り慣れていないと……わかりませんよね」
と涼宮。
「そうだ。荒畑のバカは自分とマシンを過信してほとんど走ってないからわからないだろう」
「そのまま五連続ヘアピンで引き離す……」
と斉藤。
「そうすれば、瞳の勝ちは近くなる。それプラス荒畑が焦ってタイヤを消耗すれば、確実ともいえる。というか荒畑ならやるな……」
*
その瞳はやはりパワーの差でへばりついてくる荒畑には動じない。
パワーに頼るようでは高性能車殺しには勝てない。
瞳は車線が多いことを知っている。
だから、深く突っ込む。
だが、荒畑は知らない。
なので、また無謀な突っ込みをしたように見えた。
(あの野郎。またさっきみたいなことをするのか!?)
今度こそ早めの減速をする。
だが、瞳の突っ込みはセオリー通りなのだ。
アウト側ギリギリで抜けた瞳。しっかり操作できる範囲で―――
荒畑は焦る。
(車線が増えてる、これが狙いだったのか!?)
完全に、瞳の罠にはまった荒畑。
瞳は技術を出し切って逃げの体勢に入っている。
五連続ヘアピンの前の連続90度コーナーは最小限の減速で逃げる。
荒畑は無理に車を曲げようとステアリングをこじり始める。
(曲がれ……ッ)
そんなことをしている間にも、ハチロクとの差は広がっていく。
(ここを立ち上がれば、いるはずだ―――――――ッ)
と願いながら立ち上がる荒畑。
だが。、荒畑が五連続ヘアピン前の連続コーナーを抜けた時には、瞳は五連続ヘアピンへのアプローチに入っていた。
これ以上離されると追いつけない可能性が出てくる。
だが、瞳は最大限の攻めで五連続ヘアピンを抜ける。
荒畑がその姿を見ていたのは二つ目のヘアピンまでだ。
瞳の本気のドライブについていけない。
この理由は簡単だった。
スケートリンク前のストレートで肝を冷やすような走り方を見せられ、後半からの瞳のキレた走りがさきほどのような無謀な走りに見えてしまっているのだ。
それでも食らいつこうとする荒畑。だが、コースも知らずにむやみに走りタイヤからグリップが減っていく。
(だが、こっちには3倍近くのパワーがある。負けるはずがない――――)
そう思う時点で、瞳の作戦に引っかかっている。
直登が五連続ヘアピンとその後のヘアピン二つを抜けて、最後のストレートの前のヘアピンを見ると、一瞬だけ、瞳が見えた。
そのコーナーを荒畑が立ち上がると、瞳がストレートの五分の二ほどのところにいた。
(追いつく)
と思いアクセルを踏み込む。
荒畑の思った通り、ギリギリノーズが入るくらいまで追いついた。
だが、そこまでの速度差ということは――――――
(チッ……)
ブレーキを早く踏まなければいけない。
瞳はもっと奥で踏む。
よって、抜けない。
瞳はこれもある程度は予想していた。
アルファードの巨大な車体で抜き去るにはコーナーの前から横にならばければいけないことを。
そして、軽いドリフトで荒畑を牽制する。
いくら小型なハチロクとはいえ峠道、アルファードのでかい車体では抜けない。
そのまま、ゴール。
この瞬間。横谷瞳の勝利が確定した。
*
俺はスタート地点に戻りながらぶつけた部分の心配をしていた。
まぁ、ヘコんではないと思うが……
頂上に戻って、藤原達と話す前に確認する。
ううむ……ガードレールの擦った後のような……
「タコォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
静寂を壊すように藤原達。
「ドライバーは無事でよかったぁ~」
と俺に飛びついてくる藤原。百合ですか?
その後渋川もヘバりついてきた。暑い……
俺は藤原と渋川を剥がしていると。
「ぶつけたみたいだな」
と兄貴。
「擦ったようにも見えますが……」
と涼宮。
「こっちから見れば、少しだけヘコんでる」
「そう言われてみれば……」
と別の方向から涼宮と兄貴が見ている。
「まぁ、ボディは無事なようだし。走行には問題はないだろうな」
と兄貴は言った。
なら大丈夫か……
「横谷……」
と声が聞こえ、そちらを見ると――――
「そっちのバカ兄のほうだ。こっちにこい」
と荒畑が呼んでいた。
「ちょっと言ってくる」
*
直登と荒畑は隅のほうに移動した。
「なんだ? 瞳と付き合いたいのか、あいつは無理――――」
と言っている直登の言葉を遮って。
「違う。お前の妹、なんて運転なんだ……」
「なんだ、ぶつけられたか?」
確かに瞳のリアバンパーにはぶつかった形跡があったが……
「違う。いい意味でだ」
「なに?」
と眉をひそめる直登。
「正直に言おう。お前の妹のほうがお前より速い。または速くなる」
「そんなの、わかりきったことだ。俺でも負ける」
「いや、まだお前のほうが少し速い。だが、そのうち抜かれるだろうな」
「今更だが、なんでわざわざここに連れてきていうんだ?」
「お前の妹なら、遠慮するし、逆に舞いあがらせるのも嫌だしな。だったら、その対象となるお前に伝えて、緊張感を与えた方がいいかな、と」
「ふっ、相変わらずわけのわからんやつだ」
「だが、今のはマジだ。お前も、自分でわかっていても他人から言われて、グサっときてるだろ?」
と言って、アルファードに乗りこみ。
「妹に伝えてくれ、もし金銭面で困ったら相談してくれて構わないって」
「ああ、でもあいつは別口があるみたいだしな」
「らしいな」
と言って、走り去ってしまった。
それを見送った直登は。
「……そんなこと、言われなくてもわかってんだよ」
とボツリと呟く。
*
無事、アルファードとのバトルも無事終了。
さて、今日は―――
「やることも無くなってしまった以上、我々はなにをして過ごしていくかっ!」
と藤原。
「ていうわけで、VSアルファードが終わってしまった以上。なにか次のことを考えようと思って、いつも通りの練習走行とかだとマンネリに入っちゃうし」
「それなら、俺と横谷のラヴストーリーを―――ぶがぁ!!」
工藤を黙らせて。
「じゃあ、変態は散ったところで、最近気になってることを発表しようか」
ということで、気になっていること。
……そういえば、涼宮のことが……出番少ないし。
あ、別に百合ではないので。
そして、私生活も謎に包まれているし、てか、いつも一緒にいるけど目立ったことをしてないし……
「涼宮―――」
いつもはどんなことをしてるの? と訊くつもりだったのだが。
視界の隅で復活した工藤が。
『これを読んで「付き合ってください」』
反射的に。
「―――付き合ってください」
しまった、なんてことをぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
アトデクドウコロス。
一方みんな、笑顔のまま固まり。
「そうよね。タコは元々男子だもん。アハハ」
と固まったまま藤原。
「そうだよ。タコは男の子だよ。フフフ」
と横川。
「そうだぜ。それを忘れてはいけない。ヘヘヘ」
と斉藤。
「そんな横谷も好きだぜ。グフフ」
と工藤。テメェのせいだろ。
なにか、なにかで誤魔化さないと……ッ。
俺は、とっさに目に入った。
「涼宮、胸大きいねっ!」
バカヤロぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!! 逆効果じゃねぇかぁぁああああああああ!!
「タコ……そんな目で……」
と涼宮。もうだめかっ!
よし、工藤と話して誤魔化そう。
「ねえ、工藤」
「なんだ?」
「……お前、手に持ってるボードを渡せ」
と工藤がさっきのボードを落とす。
「おいおい、なにやってんだよ……」
と言いながら拾おうとすると工藤が先にもぐり。
「……絶景だなぁ……美少女達の脚……」
テーブルの下から、そんな声が……
「「「「このド変態ッ!!!!!」」」」
しばし、工藤をボコします。
「ぜぇぜぇ……まったく……どこかの生徒会副会長でもまともな気がする……」
「というか……裏で役に立ってる分、工藤はただの変態じゃない……」
といいつつ、工藤の屍を見る。
「まぁ、これで解決したと……」
と藤原はなにか忘れものをしたような顔をして。
「ねぇ……あたし達、なにをしてたっけ?」
……なんだっけ。
「なんかどうでもよかったような……」
と横川。
「だったら、本当にどうでもいいことじゃない?」
と涼宮。
「「「でしょうね」」」
……ほんとは、忘れてたフリをしてただけなんだけどね。
なんか適当に忘れてくれたが、藤原達の間では、そんなに大したことではなかったのだ。
さて、気を取り直して。
「涼宮、いつも家でなにしてんの?」
と訊く。
「まぁ、読書とかかな」
うん、普通だ。
「でもなんで?」
「いや、涼宮ってプライベートが謎だから」
「そういえばあたしも最近はシオの家に行ってかないからあんまり知らないね」
と横川も無言だが頷きながら乗ってきた。
工藤を除く全員で涼宮をみつめる。
「ええっ、みんなでどうしたの?」
涼宮を見ながら「ムムムムム」と唸った後、藤原が。
「まぁ、今日はなにも思いつかないようだったから、今日はお開きにしよ」
と藤原がいい、解散。
だが、俺は見ていた、藤原が『尾行しよ』と目で言ってきた。
ということで、尾行開始。
若干、気が引けるが……ここは、好奇心を抑えるためだっ!
ということで涼宮とわかれ道で別れてから。
「よし、作戦要員は揃ったね」
と藤原。
メンバーは藤原、俺、横川だけだ。
斉藤は「遠慮しとく」と言って帰り、工藤は空気を読めないとこがあるのでダメ。
なんか謎に包まれた涼宮の生活を失礼ながら覗いてみる。
明日くらいになるかなと思っていましたが、予定より多く書けたので投稿しました。
次回から、普段は影が薄い涼宮の出番が増えます!!