10話「焦らし作戦」
で、相手はアルファードというので俺なりのシュミレーションを考えてみた。
もし、その辺のスポーツカーと変わりない機動力としたら、なにが障害となるか……
やはり、車体の大きさだろうか。それだな。
しかし、MRとあの車体の大きさだ、セッティングとかがしっかりしてないとエラいことになりそうだな……
「俺も一緒に走ったが」
と兄貴。
「100%ではないが、ついてきたくらいだからな」
「直登さんについてくるなんて……」
と藤原。ということは、速いか……
「弱点も特に見つけられなかった……」
と兄貴、俺に土産が作れなくて悔しいのだろう。
「今回は、瞳には負けて欲しくない。だから、全力で協力する」
「ありがとう、でも、そんなに速いの?」
「まぁ、アイツは金があるバカだから厄介なんだ……」
「というと?」
と藤原。
「バカだから気に入った車はなんでもチューンする。確か初期型RX-7(SA22)に20Bエンジンを載っけたり、ハチロクにRB26載せたり―――」
「まともな組み合わせがないな……」
「――――で、ハチロクにRB26はボディに亀裂が入って終わり」
そのハチロクのボディにRB26可哀そう……
「しかも最終的には600馬力はオーバーしていたという」
うん、バカだ。
「で、最後は80スープラに落ち着いて俺と湾岸でやりあったんだ」
「やっとまともな車が……」
「で、一時は1000馬力も出たという噂で―――」
「バカ連発ですね……」
「――――で、結局エンジンを4機潰して」
「エンジンが……」
「で、さらには――――」
「もういいから(です)」
藤原とこれ以上の相手の武勇伝を語らせるのを止める。バカバカしくなる……
「まぁ、バカだということだ」
「いや、わかるから」
「で、いつ―――――」
と藤原が言いかけた時に。
「……V6の音。まさか!?」
と兄貴は家を飛び出した。
で、外から。
『なに人んちにきてんだよぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!』
『威力偵察だ』
『ゴチャゴチャうっせぇんだよぉ!』
『横谷、落ち着け』
『テメェはどっかで転がってろ!』
『なんだと! しっかりと近くのスイートルームを予約してあるから平気だ。路上で寝るなど!』
『だったらホテルでグースカ寝てろ!!!!』
『テメェこそ妹と寝てろ!』
『うるせぇー!』
『うらぁぁあああああ!!』
などどコミカルな音が聞こえてくる。バカばっかからか?
ぜぇはぁ言いながら兄貴が戻ってきた。
「さて、バカを帰らしたとこで、作戦会議だ」
「お疲れさまでした」
と藤原が水を差しだす。
それを飲み干してから。
「冗談抜きで車はハチロクより上だ」
「『車は』でしょ?」
「そうだ。ドライバーも腕はいいが頭がバカなんだ」
「で、どこに突破口が?」
「あいつは必ず勝つ。の前に気持ち良く勝つ。というのがある」
「どういうこと?」
「ようは後ろからプレッシャーを掛けまくったりしてミスするのを楽しんだりぶっちぎって満足したり。そこに隙が生まれるんだ」
「ようは、自分の思うようにいかないとイライラしてくると?」
「そうだ。例えば後ろからプレッシャーをかけてミスさせようと思ったのに全然ミスしない。ぶっちぎるつもりなのにぶっちぎれない。そうなるとあいつは慌ててタイヤなどを酷使する」
「相当なアホだな」
「おそらくあいつはマシンに頼り切ってまともに練習もしないでお前とバトルをするだろう。それならすぐに始めたほうが楽だ」
「だね。始めたいと言ってきてできるならすぐにやるよ」
と、話していたら。
ガタガタ、ガチャ、ドーン!!
「よしわかった、今週の土曜日にやろう!」
と、青年というか今どきの若者が入ってきた。
俺と藤原が状況の整理をしていると。
「テメェ! 勝手に人の家に入るんじゃねぇぇえええええええええええ!!」
「なんだと! 大体テメェの妹はどこだ! こんな可愛いやつらがお前の妹のわかがない!!!」
「そこの長髪美少女だっ!!」
「養子か!?」
「血のつながった妹だぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「なるほど」
「なにがだ!?」
「お前は妹に見た目の良さを吸い取られてそんなブサイクに――――ってそんな怖い顔をしないでくださいよ。ハハハハハハハ」
「うるせぇ――――――――――!!」
ドンッ、ガチャガチャッ、ズドドドドド、バッターン!!!!
あれ、なにがあったの?
「ふぅ……バカを退治できたぜ」
なにか、壮絶なことがあったようだ(俺達の脳内処理力では追いつけませんでした)。
ということで土曜日。
「なんか無駄にギャラリーが多くね?」
とげんなりしながら訊くと。
「まぁ、財閥の息子VS高性能車殺しだもん」
と涼宮。
俺は工藤のほうを向いて。
「じゃあ、タイヤの空気圧を見ておいて」
「了解」
と工藤が機材を持ってタイヤに駆け寄る。
そして、バトル相手の元にいく―――――
「ん? 緑のRX-8?」
珍しいな、あの緑は純正ではないはずだが……
「タコォ―――――――――――――――!!!!!!」
とエイトからドライバーと思われる少女が降りてきた。
降りてきた少女は俺達と同じ中学だった渋川 美希だった。
確かこいつも財閥の娘で某ファンタジーゲームの好きなキャラのイメージカラーと合わせるために愛車のエイトを緑にオールペイントして、満足しているやつだ。少なくとも今回の相手よりは車を愛してると信じている。
「久しぶり、どうしたの?」
俺達の顔でも見たくなったのだろうか、確か俺達の高校に比較的近い高校に行ったんじゃなかったけ?
「いやいや、今回バトル相手の荒畑勝二は我が渋川家のライバルの財閥、荒畑財閥の息子だからね。どうしてもタコに勝ってほしくて」
「俺には荷が重そうなんだが……」
「いやいや、そこまで気にしなくていいよ。勝手に巻き込んでるだけだし」
とケロっという渋川。
「とはいってもねぇ……」
「大丈夫大丈夫」
と手を振りながら言う渋川。
「じゃあ、頑張ってね。サオ達にあってくる~」
と藤原達がいるほうに行ってしまった。
さて、次こそ相手のところに。
「貴方が相手の荒畑さんですか?」
「ああ、そうだ」
「今日はよろしくお願いします」
「こちらも」
と握手する。
「では、開始はあと10分くらいで?」
「いいですよ。では――――」
と別れた。
「さてタコ、今回はどんな作戦?」
と藤原、周りにはいつものメンバー+渋川がいる。
「らしくはないが、出たとこ作戦だ」
「なんで?」
「まだ相手の実力が測り知れていない。なら、走ってみて確かめるしかないだろ」
「ある意味怖い相手だね……」
涼宮が言った通り、今までは相手は練習走行で相手の走行データを集めて作戦を立てていたが今回はほとんどそのようなデータがない。
「じゃあ、あと少しだから」
あと3分ほどで約束の時間。
*
開始一分前に二台はスタートラインに並んだ。
スターターの斉藤がカウントを始める。
「5,4,3,2,1、GO!」
二台のマシンがスタートする。
だが。
(後ろにつく?)
瞳のハチロクの後ろに荒畑のアルファードがついてくる。
(ちぎるか? いや)
瞳は即座に作戦を立てる。
(焦らし作戦でいくか……)
二台は最初のコーナーに侵入していく。
瞳はドリフトしてるかしてないかのギリギリの領域で走らせる。
二台の差は全く変わらない。
(その程度か? それともわざとなのか?)
と考える荒畑。
(まだ奥の手があるのか?)
二台は第一ヘアピンに侵入。そこでも両者の差は変わらない。
(この程度なのか? 横谷の妹とはいえ)
一向に離れない二台。
*
頂上ではいつものメンバーが話していた。
「結局、瞳は『焦らし作戦』だろうな」
と直登。
「『焦らし作戦』ってなんですか?」
と藤原。
「今回のように意図的に後ろにつかれたとき、あえて相手に抜かされないスピードで走って相手を焦らすんだ。で、ミスった時に逃げる」
その後に工藤が引き継ぐ。
「もちろん、相手の速さを見極められきれなかったら、無駄に終わるか抜かれるかで終わる」
「仕掛けるとしたら?」
「五連続ヘアピンだろうな。あれ以上引っ張ると最後のストレートで抜かれる」
「そこで引き離せれば勝ち、ダメだったら、絶望的だ」
と工藤が引き継ぐ。
「まぁ、瞳のことだから、なにをするかわからんよ」
と締めくくる直登。
*
ヘアピンの侵入。やはり差は詰まらない。
だが、ここからスケートリンク前のストレート。
荒畑はアクセルを踏み込む。
3倍近くあるパワー差は峠の短いストレートでも十分に追い抜きができる。
だが、横に並ぶだけで抜かない直登。
(動じない……こいつ、まるで感情の無いコンピューターみたいだな……)
と荒畑は思う。
だが、瞳はそんなことはない。しっかり、感情を持っている。だが――――
(やっぱり、ここで煽ってくるか……)
瞳は最初から予想していた。
(まだセーブ。ここからが勝負だからね)
中速コーナー。
おそらく、榛名山で1,2を争うコーナリングスピードだろう。
(予定通り―――を超えて予想以上のタイヤのグリップ。これはチャンスッ!)
瞳は通常の侵入スピードよりわずかに速いスピードで侵入!?―――と思っている荒畑の推測は違う。
本来はリスクが高いため瞳でもためらうが、今回は相手を動揺させるために、あえて侵入速度を上げた。
それも、ハチロクへの高い信頼があるからできるのだ。
(曲がってくれ、ハチロク――――――――――――――――ッ!)
百戦錬磨の瞳ですら汗がにじむ。
(いけるか……? いけるよなぁ?)
と祈る瞳。
荒畑は。
(バカ野郎! 行けるものか!)
と思うが、瞳のハチロクはまるで空力パーツを付けたようにビシッと安定している。
(何故、そこまでいけるんだ!?)
瞳は――――――――
(いける、ハチロク?)
ハチロクの声を訊く。
(ダメか……?)
人間、最大限の集中力になるとスローに見えるときがあるとかないとか。
それを、瞳と荒畑は観てる。
(くそ! ダブルクラッシュ覚悟で突っ込むぜぇ!)
腹をくくった荒畑。
(曲がれるか? いや、侵入速度が2km/h速すぎた―――――――)
ガードレールが近づく。
慣性の法則に従ってアウト側―――つまりガードレール側に流れるハチロク。
「曲がってくれ―――――――ッ!」
このバトル初、口を開く瞳。
もう、ガードレールと数メートルもない。
とりあえずテンションが上がってきたところで切って、次回でVS荒畑は完結です。
あと、文字化けがあったそうです、指摘してくれた方、ありがとうございます。