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自送式

「時和暇、残念ながら自送式は、この黒代奏が中止させてもらう!」

 自送式場に颯爽と登場して、時和暇に対峙したのは、黒代奏だった。


 自送。寿命が永遠になった世界で、人々は自分で死を選ぶ権利を有する。専門家からの観察期間を経て、自送という過程を踏むのだ。

 そして今日も自送が行われようとしていた。

 時和大学の内部にある自送式場で自送は行われる。天上の階段と呼ばれる16段の階段を上り、天上の道を進み、そして天上の扉を開く。身体が天上の光に包まれて、人々は天国に導かれていく。

 

 現在、自送式場は満席の状態であった。自送者の家族、親戚、親友などが勢揃いしているのだ。彼らは皆、これから自分で死を選ぶ自送者に対して、感謝の言葉、別れの言葉を告げる為に居合わせている。

 そんな人々から囲まれながら、教授である時和暇とともに、自送者は天上の階段を目指して歩き続ける。そして階段の直前に到着すると、乱入者に妨害されたのだ。


 自送式場に、奏を筆頭として、黒ずくめの人々が嵐の如く乱入していった。全身を漆黒の着物で纏って、日本刀を帯刀している。

「また出やがったな!」

「黒代家だ!」

「みんな危ないぞ、下がれ!」

 式に参加している人々はその存在を知っていた。


 黒代家。自送反対主義を貫き、自送を妨害しようとする組織。時和大学の近辺に城を立てて、そこでいつも大学側の活動を窺っているのである。

「黒代一家が居る限り、この世界で自送は許されない!」

 黒代家の将軍である黒代総時は、高らかに宣言した。それに次いで、黒代家の家来たちは一斉に日本刀を引き抜いて、戦闘体勢に移行した。


「……」

 死が限界にまで切り詰めた独特な緊張感の中、黒代家の宣言は朗らかに、そして雄大に響いていった。それは会場の喧騒を鎮めるには充分だった。

 



 自送式の参加者から激烈な視線を受けながらも、奏は、悠々と中央部分に歩みを進めていく。このまま自送者をさらうつもりだ。

 だがしかし、道中で障壁が現れる。そこで私は一旦立ち止まった。

「見ない顔だな。新しい護衛か?」

 見慣れない顔を前にして、私は問うた。


「紫苑って言うんだ。少し前から、この大学で自送観察者になった。あんたは?」

「黒代奏」

「そうかい」

 簡潔な会話を済ませると、奏と紫苑は改めて対峙した。そして奏が光り輝く日本刀を構え直すと、同じように紫苑も戦闘態勢にへと移行する。


 日本刀を己の眼前まで移動させて、刀身を斜めにし、口を開いた。

「悪く思うな、紫苑。私はお前を恨んでいるのではなく、自送を恨んでいるんだ」

「ふーん」


 そして二人は闘い始めた。

 自送式場の中で、2つの日本刀が交差して、流麗なる金属音が響き渡る。自送首肯派と反対派が衝突しあい、死闘を広げている。

 奏が紫苑の剣戟を弾きながら間合いに接近していくと、彼の眼前で己の剣先を押し込み、口を開いた。

 

「悪くないな」

 一度戦闘を交えると、おおよその相手の強さは把握できた。紫苑は並大抵の人間ではない。戦闘能力の突出した天才肌、そしてそこに努力も並立している。

「お前こそ、悪くないぜ」

 どうやら紫苑も奏の能力についてある程度まで感じ取ったらしい。鍔迫り合いの中で紫苑はさらに力を増して、今にも形成が逆転しそうである。


 やばい。 

 奏が一瞬そう危機感を感じると、助けが登場。

 後方で待機していた黒代家の人間の一人が、助太刀としてやってきたのだ。

 彼の名は黒代才時。黒代総時の息子でもあり、侍でもある。いつも奏と一緒に自送式を妨害している仲間だ。そして戦闘能力に極めて長けている。


「悪いな、こっちには仲間もいるんだ」

 奏と一対一ならば勝負は互角だった。だがしかし才時が加われば、一瞬にして戦闘は決壊していった。そう、紫苑は護衛に失敗したのだ。

 そうして遂に、自送者は黒代家から連行されていった。

「待て、奏!」

 

 暇の言葉を無視すると、奏は台詞を添えて、自送の身体をさらっていった。そのまま自送式場から颯爽と走り去る。

「時和暇、今回も自送は中止だ!」

 

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