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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

血ぃ。

作者: ヒロモト


この世で一番嫌いな人間を1人あげろと言われたら俺は双子の兄。良二を迷わず選ぶ。


「本当にこれで最後にしてくれ。頼むから俺と縁を切ってくれ」


兄貴から膨らんだ封筒ををぶんどって枚数を数えた。

100万かよ。

10年ぶりに会って100万。本当に公務員ってのはつまらないな。

もう2.3万色を付けろよ。


「たまに連絡があったと思えば金を貸してくれって話ばかり……俺にはもう家族がいる。家族はヤクザの弟がいるなんて知らないんだ……だから」


「それが何だってんだよ?弟がヤクザってのを知られたくなければお前は俺のATMになるしかねぇんだ」


「くそっ……龍二ぃ」


「なんだいお兄ちゃぁん?」


高校で俺は悪行三昧を理由に親から縁を切られ家を追い出された。

それから数年か10年かに一回。俺たちは金をちょっと貸し借りするだけの関係だろうがよ。

返した事はないがな。

こっちだってお前が俺を見る時の『ゴミを見る目』は大嫌いだしぶっ殺してやりてぇよ。

でも金ヅルはしゃぶれるなら永遠にしゃぶるのがヤクザだ。


「じゃあお兄ちゃん。また何年か後に会おうねぇ?ケータイの番号変えるなよ?電話に出なかったら家に行くからな?」


「本当に悪魔だよ。お前は」


封筒をポケットにぶち込んで背中を向けて歩きだして10秒。

怒声が聴こえた。


「龍二ぃ!死ねやコラぁ!」


「だだだ……誰だい?」


明らかにぶっ飛んでる目をしたジャンキー男が包丁を握って良二に突進していく。

一瞬で理解した。ラッキー。あいつは良二と俺を間違ってんだ。

俺を殺しに来た他の組の鉄砲玉だろう。

身に覚えは腐る程ある。

俺を殺して捕まって、出所したら若頭か?ざんねーん。そいつは俺じゃございませーん。

お前はカタギを殺して豚箱行きだ。

あは……は。


「痛い!痛いー!」


我慢しろよ良二。ちょっと突き飛ばされて擦りむいただけだろ。


「……龍二?」


「あ……れ?」


何で俺が刺されてんだよ。

無意識に走って良二を突き飛ばして……。

俺を刺したジャンキーは呆然として、しばらくすると千鳥足で逃げていった。


「龍二!龍二!?今救急車を呼ぶからな!」


「おお。お前のその目久しぶりに見たわぁ」


『兄貴が出来の悪い弟を見る目』だ。

嫌ではない。


「……なつかし〜」


こりゃ俺は死ぬな。

腹と背中が貫通するほど深く刺されちまったから臓器がぐしゃぐしゃだ。

血が噴水みたいになってるし。


「……あーあ。つまんねぇ人生だったな」 


おやじ。おふくろ。良二。全員くたばれや。




この世で一番嫌いな人間をあげろと言われたら私は迷いなく弟の龍二の名前をあげる。

(良二さぁん。あなたは相変わらずつまらない人生おくってますね〜)というあいつの私を見下した目が大嫌いだった。


あいつが高校を退学になって闇の世界に堕ちて30年。

『龍二は死んだことにしよう』と両親に言われ家族の縁を切ったハズなのにあいつはいつも金がなくなると俺のところに連絡をしてきた。

ヤクザでそこそこの地位にいると偉そうにしていたがあれは嘘だろう。

じゃあ何で俺に金を借りに来た?


ポクポクポクポク……チーン。


木魚と鈴を鳴らす音は本当にマヌケな音だ。

これで死者が報われるのか?

おお腹が立つ。

龍二の遺体の引き取りも葬式も先祖の墓に納骨するのと両親は反対した。

おかげで全部俺がやることになってしまったのだ。

もちろん家族にも弟のことはバレた。

仕方がない。

公務員が家族の葬式も挙げず墓も作らず

なんて世間体が悪すぎる。

いったい全部で何百万かかったとおもっているんだ?あのゴミは。

あの世からも俺からたかる気か?あ?


「パパ」


まだ幼い末っ子が私の袖を引っ張った。

『死』という物をまだ理解出来ない彼にとって葬式なんて退屈でしかないだろう。


「ん?」


「おじいちゃんとおばあちゃん何で泣いてるの?」


「……悲しいんだろ。多分」


父も母もあれだけ龍二を拒絶したくせに葬式に来て泣いている。

理解できん。パフォーマンスだろうか?俺が世間体を異常に気にするのもそういう『血』か?


「あの人はパパの弟なの?」


龍二の遺影を指さした。

龍二の最近の写真なんてあるわけがないので高校時代の写真を葬儀屋に30代ぐらいに見えるように加工して貰った。


「あ〜。うん」


「パパ」


「もうママの所へいきなさ……」


「パパも悲しいの?」


「わか……らん」


俺も泣いていた。

葬儀が始まってからずっとだ。

俺たち兄弟が憎み合っていたのは間違いない。

でも。

『金を借りるのが龍二の唯一の俺とのコミュニケーションだったのではないか?』と考えると何故か目頭が熱くて涙が。

そういう風に考えるのは俺がそう思っていたからだろう。

本当に龍二と会うのが嫌なら電話番号を変えて引っ越してしまえば良かったんだから。

しかもアイツ。最期に俺を庇いやがった。

俺のことが大嫌いだったくせに。


「パパ?パパ?」


「お前は……兄さんと仲良くしろよ」


「お兄ちゃん?うん。僕とお兄ちゃんは仲良しだよ?」


違う。兄貴の俺が努力すべきだったんだ。


『家族は血が繋がっている』


と最初に言ったのは誰だろう?

真理だな。全ての答えは……


「……血だな」


血。血だよ。


死に間際。腹から血を噴射しながら子供の時以来見ていない『兄貴を頼る弟の目』をしていた龍二の顔が頭からこびり付いて消えない。













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― 新着の感想 ―
[気になる点] 兄の名前が「良二」である事に違和感を覚えました。
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