メイドチョー、出陣す。
月明かりの中、四角い建物のシルエットが空に黒く浮き出ている。
小規模の砦と言うところか。
国に反乱を企てている伯爵家の砦だ。
少し離れた林の中に人影が立っていた。
エメラルドグリーンの瞳に肩までの金髪。
若草色のドレスアーマーを身にまとう。
エメラルド・ハイランド。
武の名門ハイランド侯爵家の御令嬢である。
「エメラルド様」
傍らに立ったメイドが声を掛けた。
エメラルドと呼ばれた女性が振り返る。
切れ長の黒い瞳がエメラルドを見つめ返した。
黒髪のポニーテールに金属製のホワイトプリム。
ハイパーケプラー製の黒いメイド服。
ふくらんだ肩。
その上に金属製のエプロンアーマー。
エプロンアーマーは、腰から下が蛇腹状になり足の動きを邪魔しない。
腰には大小の日本刀。
ダイヤモンド・命道。
侍の名家、命道公爵家の御令嬢。
祖母の、”オパール”が王家に嫁いだため、王家の血が入っている。
命道家は、王家や貴族である前に、侍である。
一つの主家や主に死ぬまでさぶらうのだ。
今、命道家は、ハイランド家に仕えている。
「なあに、ダイヤモンド」
「この砦には装甲巨兵はいないのですか?」
全長約七メートルの巨大ロボットだ。
「近くの砦にいるはずよ」
「その砦には誘拐してきた公爵令嬢がとらわれているはず」
――そこには、六体の装甲巨兵を有する強力な傭兵団、”サウスポート”がいる。
反乱を企てている伯爵家に雇われていた。
「誘拐ですか?」
「心配いらないわ。 公爵令嬢は王国の暗部が救出に向かっているの」
事実、傭兵団、”サウスポート”は暗部に壊滅させられているところだ。
「そうですか」
ダイヤモンドが少し残念そうに言う。
戦う機会がひとつ失われたからだ。
「やはり背後には、”ファーストビル教原理主義派”がいますか?」
「そうね、一伯爵家にしては大掛かりすぎるわ」
目の前の砦には伯爵の私兵約500名がいるはずである。
「ダイヤモンド様」
二人の前にひざまついたメイドが言った。
後ろには複数のひざまついたメイドたち。
少し周りのメイドより背が高い。
「なに、メイドチョー」
「重装甲メイド、三十名いつでも出陣可能です」
装備はダイヤモンドと同じだが、両肩に白い大袖(侍の甲冑の肩あて)をつけている。
「では、エメラルド様、どちらから攻め入りますか?」
一瞬、ダイヤモンドの目が挑発的に光った。
周りのメイドもびくりと体を緊張させる。
「? 真正面からに決まっているでしょう」
エメラルドが、それ以外に選択肢はないといわんばかりに言った。
「そうですねっ、エメラルド様っ」
ダイヤモンドがうれしそうに笑った。
「ふふふ、それでこそ我が主が認めたお方」
「32対500の戦い」
「武者震いが止まりませんわっ」
「ここで裏口などと女々?なことを言ったものなら、ダイヤモンド様に詰め腹を切らされていたことでしょう」
「エメラルド様っ。 ダイヤモンド以下装甲メイド隊32名、冥土の果てまでお供しますっ」
「「「おうっ」」」
後ろのメイドたちが喜色満面で答えた。
「ふふっ」
エメラルドが満足気に笑った。
「これより死地に入るっ、全員抜刀っ!!」
ジャキン
大声を出しながら、エメラルドが折りたたまれていたデスサイズを展開した。
彼女の装甲巨兵、”シェヘラザード”と同じデザインだ。
チャキキン
ダイヤモンドは、”裏示現流”の使い手。
左右の手に日本刀を構えた。
二刀流である。
ジャキン
残りのメイドたちは、二の太刀いらず、”示現一刀流”の猛者たちである。
「蜻蛉の構えっ」
メイドチョーが号令をかけた。
彼女の愛刀、”菊一文字”を肩に担ぐように構える。
「突撃っっ、鏖にしなさいっっ」
エメラルドがデスサイズを片手に先頭で走り出した。
「おうさっ、エメラルド様に遅れるなあ」
メイドたちが続く。
「て、敵襲だああ」
門番が叫んだ。
バウウウウウ
無音ステルス状態で飛んでいた武装した兵員輸送ヘリ(彼女たちを乗せてきたものだ)がバルカン砲を撃った。
分厚い正面門ごと門番をバラバラにした。
「キイイエエエエエイ」
「チェストオオオオオ」
「逝ってらっしゃいませえええ」
砦内に、”示現一刀流”の雌たけびが響き渡る。
1人の侯爵令嬢と32人のメイドが、500名近い伯爵家の私兵を全滅させたのだった。
命道家では侍女と書いてさむらいと読む。
超脳筋武闘派集団、ハイランド家と命道家の素敵なマリアージュであった。
装甲お嬢様シリーズ第十三段。
メイドと一緒に冥土へゴー。