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Save-5:ある意味最強の敵 (後編)

 思考がぼんやりする。強烈な吐き気が僕を襲い、呼吸も出来ない。

 何だ…これ…っ!?


「君達、森に入る時不自然に思わなかったかい?」


 その場に蹲る僕達を、蔑むように見下ろしながら、フライアーガはその場に蹲る槍を、こちらに向かって蹴り飛ばす。

 容赦ない蹴りに、槍は低く呻き、悔しげに相手の顔を見上げるが…多分、彼も僕と同じ状態なのだろう。ぜいぜいと肩で息をしながら、相手に向かって行く体力など無いように見えた。

 一体…何をされたって言うんだ?


「君達がここに来る前にね、私の胞子を蒔いておいたんだ」

「胞…子、だと?」

「そう。君達は胞子の充満する森の中を動き回り、知らず知らずのうちに毒を吸い込んでいたのだよ。まさかこんなに上手く行くとは、おじさんも思わなかったけどね」


 く…森に入る前に、やけに煙っていると思ったけれど…まさかきのこの胞子だったなんて…!


「ああ、簡単すぎると、本当にやる気出ないなぁ~。もういっそ、この猛毒胞子で死んでもらおうか」


 ふう、と溜息混じりに言われた言葉で、ぼんやりしかかった意識が覚醒する。

 まずい、逃げないと。何かすっごく嫌な予感がする!

 槍も同じことを思ったのか、苦しそうにしながらも、割と俊敏な動きでその場から離れた。

 その瞬間。今まで僕達のいた所に、ドス黒い色をした大量の胞子がばら撒かれる。いや、アレを胞子と呼んで良い物か。何しろ、一つ一つの大きさがソフトボールくらいあるのだ。

 もはやそれは、胞子とは言わない気がする。


「冗談だろう?あんな巨大胞子、毒にやられる前に窒息する!」


 こんな危機的状況でも、ツッコミを忘れない槍に感謝。

 僕も同感。あんなの、吸い込めないし。仮に吸い込んだとしても、喉やら鼻やらに詰まって間違いなく窒息する方が早い。


「おやおや。危機回避能力は高いんだねぇ。おじさんちょっと感動」

「お前に感動されても…嬉しくないな」

「同感」


 ぐぐ、と何とか自分の体を起こしながら、僕達は相手を真っ直ぐに見据え、再び剣を構える。

 気持ち悪いとか、苦しいとか、そんなことを言ってる場合じゃない。

 僕達が倒れたら、もっと沢山の人が、今の僕達と同じ思いをするに違いない。世界中の人が殺され、あいつらの望む通りになる。そんなの…許せる訳が無い!


「成程、気力で立ち上がるか」

「悪いね。こっちだって、世界を守るって言う大義名分があるんだ」

「貴様らのような侵略者に、負ける訳には行かないんでな!」


 怒鳴って言葉を返すと、死に物狂いで剣を振るう。それは槍も同じらしい。毒なんかにやられている場合じゃないと言う思いが、今まで以上に動きを良くしているように思えた。

 …まあ、その分後の反動は結構キツイだろうけれど。実際、今でも吐き気はするし、フライアーガの顔が二重になって見える。息だって上手く吸えないし、そのせいか頭だって朦朧としている。

 だけど、それでも…僕は、僕達は。

 この世界を、守るんだ!

 その思いと共に振るった剣は、相手の笠の部分をばっさりと切り落し、落とされた部分は僕の足元でざらりと音を立てて青い塵と化した。

 胞子とは違う、今まで見てきた刺客と同じ…「亡骸」だ。

 ぼんやりとだが、分かる。フライアーガの顔が、さっきまでのやる気の無い物から、生き生きと楽しそうな物に変わっているのが。

 楽しんでる。僕達との、戦いを。


「楽しいねぇ。おじさんはこう言う奴と戦いたかったんだよ」

「俺達は…」

「全っ然楽しくないけどね!」


 冗談じゃない。戦うことが、楽しいなんてあるはずが無い。きっと、僕達と侵略者達とは、永遠に分かり合えない。少なくとも、こんな刺客がいるのならば。

 振るった剣が、再び相手を捕らえ、今度は深々とその体に傷を作る。

 槍の攻撃も相まって、相手の体には、はっきりと「×」を描くような傷がついた。

 間違いない。相手の動きが…鈍った!


「終わりにさせてもらうぞ、フライアーガっ!」


 僕はそう怒鳴ると同時に、剣の柄に宝玉を嵌めこみ、必殺技の準備に入る。

 瞬間。相手は悟ったらしい。

 この戦いにおける、自らの敗北を。

 彼は身動きが取れぬまま、どこか穏やかな表情で何事かを呟き…だけど、僕達の剣は彼の体を容赦なく切り裂いた。


「無様にも敗北を喫した事…誠に…申し、訳……」


 最後まで言葉を紡ぐことは出来ず…彼は、その身を「青」の塵となって散らせた。



「どんなことをしたら、あんな風になるんですか…」


 ナイトアーマーの整備を開始するなり、トゥランにしては珍しい、顰め面でそう言いながら、彼はナイトアーマーについたきのこの胞子をバシバシと払いのける。

 だけど…うう、やっぱり気持ち悪い…


「…きのこの形をした、刺客だったんだよ」

「きのこの……?」


 何とか搾り出した声に、トゥランは更にその綺麗な顔を顰め…深刻そうな表情で俯いた。

 そう言えば、彼もプラチナスと同じ世界から来たんだっけ…


「きのこが、どうかしたの?」

「…いえ。きのこが…と言う訳じゃ、無いんです」


 悲しそうな表情で、きつくその拳を握り締めながら。トゥランは、僕の知らない誰かを思っているらしい。

 そして、それは多分…彼にとって大事な人であると同時に…僕達の敵の一人なのだろうと、容易に想像できた。


「きっと…あの人は、決めてしまったんだ…」


 小さく呟かれた「あの人」と言う単語から考えると、家族って訳じゃ無さそうだけど…それを聞き出す程、僕は野暮じゃないつもりだ。

 …そりゃあ、気にならないって言ったら、嘘になるけど。

 でも、きっとトゥランのことだ。きっと、いつか…必要な時だと判断したら、話してくれるに違いない。

 そう信じて…僕はぐったりとその場に横たわった。

 ……ううぅ…気持ち悪い…

次回、SAVER KNIGHTS ―SIDE Knights―



「あ…うわあっ!」


「トゥラン!」


「貴様ら…よくも俺達の弟分を!」



次回、Save-6:牙剥く狼

正義と平和の名の下に、セイバーナイツ、参上!!

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