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Save-2:光と影 (前編)

 フラワーショップ、「Licht unt Dunkel」。そこが僕と槍の勤め先であり家でもある。

 怪物を倒した後、戻ってきた僕達を迎え入れたのは小学校低学年くらいの男の子だった。

 綺麗な銀髪に、灰色の瞳。何も知らない人が見たら、多分女の子と勘違いするような、愛らしい顔立ちをしている。

 夜も遅いと言うのに、彼は今まで待っていてくれたらしい。実にありがたい。


「お帰りなさい、お二人とも。『刺客』の退治、お疲れ様でした」


 彼は僕達にぺこりと一礼すると、部屋の奥…リビングへと僕達を通す。そこには、彼が用意してくれたらしいお茶が、湯気を上げて僕達を迎え入れてくれた。


「ただいま、トゥラン」


 彼の名はトゥラン。僕達に戦う(すべ)を…僕達の鎧、ナイトアーマーを与えてくれた張本人である。

 実を言えば、彼は「プラチナス」の連中と同じ世界から来たらしい。ただしこの世界に来た目的は、連中からこの世界を守ること。

 元々彼は、「反プラチナス組織」に属していて、彼らの異世界侵攻を快く思っていなかったらしい。

 そのために彼はセイバーナイツの鎧…「ナイトアーマー」を作り、この世界で最初に出会った僕達に、この世界を守る「騎士」になるように頼み込んだ。

 …そして、僕達はその頼みを受け入れて、セイバーナイツになったのである。


「ナイトアーマーの調子はいかがでした?」

「僕は絶好調だったけど…槍は?」

「アーマー自体に問題は無い。だが、剣へのエネルギーチャージに時間がかかる」

「分かりました、調整しておきます」


 あ、言い忘れたけど、トゥランは優秀な科学者だ。それは多分、さっきの説明で薄々感じてくれているとは思うけれど。

 本当はトゥラン自身が戦うつもりだったらしいが、それは僕達が止めた。彼に戦闘のスキルはないし、何より僕達自身が、僕達の住むこの世界を守るべきだと思ったから。

 僕達だけじゃあ、このウルテクの塊みたいなアーマーの整備なんて出来ないから、正直トゥランがいてくれるのは助かってるけどね。

 持ちつ持たれつって奴?


「…光矢さんも槍影さんも、本当にお強いですよね。羨ましいです」

「その代わり、お前はアーマーの整備ができる。人それぞれだ」


 槍のフォローのためか、トゥランの顔に子供らしい、満面の笑みが浮かぶ。

 槍は、喋り方こそ冷たい感じだけどちゃんと温かみのある人間だ。そうじゃなきゃ、この世界を守る戦士なんて、きっとできやしない。


「明日も早い。さっさと寝るぞ」

「はいはい」


 そう。フラワーショップの朝は早いんだ。

 …お休みなさい…。



 「Licht unt Dunkel」とは、「光と影」を意味するドイツ語。

 今でこそ僕と槍の二人の店として定着しているが、元々は僕達の高校時代の恩師の奥さんの経営していた。就職活動に行き詰った僕に、その奥さんが雇ってくれた。後で理由を聞いたら、僕の名前が「光矢」で、店にぴったりだと思ったかららしい。

 朗らかで、とても綺麗な人だった。先生も、爽やかな人で本当にお似合いの夫婦だった。

 槍がここで働くようになってからは、より一層にぎやかになったし、楽しかった。本当の家族のように接してくれていた。

 …それなのに。

 先生も、奥さんも。

 連中…プラチナスの最初の「狩り」で、帰らぬ人となった。

 僕の目の前で、怪物…後に刺客と呼ぶのだと知った…に殺され、僕自身も怪我を負った。怪我程度ですんだのは、本当に奇跡に近かったらしい。

 悔しくて、悔しくて。毎日、力の無い自分を責めた。そして、平然と先生達を殺した、連中(プラチナス)のことも、激しく恨んだ。いや、憎んだと言っても良い。

 ……僕がプラチナスと戦う理由は、本当に世界を守るためだろうか。

 「世界を守る」と言う大義名分を掲げて、本当は自分の憎しみを晴らすために戦っているんじゃなかろうか。

 …時々、そう思う。

 確かに、襲われている人を見ると、助けなきゃって思うし、じっとしてもいられない。けれどそれは、ひょっとしたら、襲われている人の姿を、先生や奥さんと重ねているからかもしれない。

 以前、そんなことを悩んでいると槍に言ったら、「馬鹿が」と一蹴された。…戦う理由なんて、そんな物だろうとさえ、言われたっけ。

 それで良いのかどうか、僕にはわからないけれど…少なくとも、この世界を守れるのは僕達だけだ。だから、戦う。僕みたいに、悲しみに囚われた人を、これ以上増やさないためにも。

 そう思って戦っても…良いよね…?



「今日も良い天気だー!!」


 抜けるような青い空。小鳥は地上の争いなど気にしない様子で和やかに鳴いている。視界に連中の要塞が入らなければ、清々しい一日になっていただろう。

 あいつらは…何の目的で、人間を皆殺しにする気なのだろう。

 そもそも、目的なんかあるのかなぁ…


「本当ですね。どうか、良い一日になりますように」


 うーんと唸る僕の隣で、祈るようにトゥランが言った瞬間、店の奥にあるパソコンから、警告音が鳴り響いた。

 …これは…プラチナスの要塞から、怪物が出た警告。

 あの要塞は、確かに防御に優れている。だが、同時に内部からの攻撃も出来ないらしい。内部から外に出るには、一瞬だけ、その要塞を囲っているバリアを解除する必要があって、この警告はそのバリアが解除されたことを察知して知らせてくれる優れものだ。

 ちなみにこれも、トゥラン作。制作時間、なんと三十分。

 いやー、やっぱり彼は凄い。ただの子供じゃないだろうってことは、大人びた口調からも分かる。物腰も優雅だし、気もきくし…

 って、親馬鹿みたいなことを考えてる場合じゃなかった!刺客が現れたってことは、悲しむ人が現れるってことでもあるんだから。それだけは、何としても阻止しないと…!


「残念ながら、『良い一日』にはなりそうに無いな。朝から刺客など…連中は何を考えているのか」

「仕方ありません。ご武運をお祈りしております」

「ありがとう。悪いけどトゥラン、店番よろしく!」

「はい!」


 にっこり、綺麗な笑顔で僕達を見送るトゥランの声を背にしながら、僕達は要塞の麓の方へと駆け出して行った。

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