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なんでもアリの異世界エトセトラ  作者: 大福満代
第一章
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第二話 どこでも恋愛はこじれる可能性がある4

「それでは、説明させていただきます」

 治療院に行った俺たちは、ヒーラーのチェックを受けた後、一つの部屋に集められた。俺とミヤ以外の人は治療院に一晩泊まり、様子を見るそうだ。商売をやっていたり、どうしても帰らなければいけない人については、居場所を明確にしておくこと、異変があったらすぐに治療院に来ること、ということになったらしい。どうやら、ジンがケバブを仕込むから帰ると言って譲らなかったらしい。

 俺の打撲と頬の腫れもヒーリングしてもらった。軽い違和感はあるけど、痛みはもうない。

 バリスがいつもと同じように、淡々とした口調で話し始める。

「みなさんが受けたのは、カツミさんとミヤさんの異能です」

 異能、と聞くとザワザワ……と小さい声が聞こえてくる。


 ……ああ、噂の、あの子なのねぇ。……アスカちゃんのとこの子だよな?………


 ザワザワとした声が聞こえていないかのように、バリスが話を続ける。

「カツミさんの異能は恐怖を見せるもの、ただし、その発動条件は、絶対とは言い切れませんが、前の世界のことを思い出したりしたときに、引き起こされることが多いようです」


 ……絶対ってことは、ハッキリとは分かっていないってことか。……そうよね。……


「まだ発動したこと自体が数えるほどなので、ハッキリとはしていません。今回、町中で発動したことに関しては、状況的に不測の事態に陥ったことが、キッカケとなったと考えられます」


 ………痴漢って殴られてたけど。……違うっても言ってたわよ。………荷物も、両手に持ってたしねぇ。……


 バリスの説明とそのたびに起こる小声のざわめきに身の縮まる思いがする。

「そして、本人に、異能の発動のコントロールはできません」


 ……わざとじゃなくても、危ないんじゃないの……。……そうよね。……


「ミヤさんの異能がヒーリングです。カツミさんの異能が発動すると、ミヤさんの異能が発動します」


 ……ああ、それで。………苦しかったし怖かったけど、あの光に包まれたら楽になったわ。……そうそう、体がスーッと軽くなるのよね。………


「カツミさんが外出の際は、ミヤさんが必ず同行することになっています」


 ……そうなのね。……そういえば、二人で歩いてるの、見たことあるな。……


「また、カツミさんの異能を受けてしまった人に関しては、治療院で様子見をする体制も整っています」


 ……そこまでしてるのか。……それだけ危ないってことよね?……


「繰り返しますが、カツミさんの異能は、前の世界を思い出した時や、そのキッカケとなるような不慮の事態が起きたときに発動します。常に発動するわけではないのです」

 ザワザワとした声が少しずつ小さくなっていく。

「ですが、今回、町中で異能が発動してしまった以上、カツミさんはお店以外の外出を、当面、禁止とさせていただきます」

 ……そうだよな、やっぱり。ミヤのヒーリングで治るからいいってもんじゃない。突然、不特定多数の人を恐怖に陥れたんだ。

 場がシンと静まり返る。

「それでは」

 バリスが場を閉めようとしたとき、アスカさんが口を開いた。

「ちょっと待ちなさいよ。あんまりにも一方的なんじゃないの」

 いつの間にか下がっていた視線を上げると、アスカさんが腕を組んでバリスを睨んでいる。

「ミヤに聞いた話だと、カツミは両手に荷物を持って歩いてたら、いきなり、痴漢って叫ばれて、右ストレートくらったそうじゃないの。そうなのよね?」

 役所が苦手で緊張しているミヤが頷く。幾人かの人も、パラパラと頷く。

「誤解だって言ってるし、実際、荷物も両手に抱えるほど持ってるのに、痴漢だ痴漢だって騒がれたんでしょ、大勢の町の人たちがいる前で。殴られた挙句に」

 また、ミヤと何人かがパラパラと頷く。

「そんなことされたから、異能が発動したのよ。理不尽なことが、前の世界のトラウマと結びついたの。この子はね、普段から、異能が発動しないように、すごく気をつけてるのよ。アタシのお店で発動したのだって、最初の一回きりよ」

 アスカさん……。

「それなのに、外出禁止なんて、あんまりじゃないの?それとも、ミヤのヒーリングが効かなかった人でもいるわけ?」

「いえ、ミヤさんのヒーリングは効いています」

 チラリとジンを見つつ、バリスが言う。ジンはもう、ケバブが気になって仕方ないみたいだ。話も聞いているのかいないのか、ソワソワしてる。

「ならなによ。理不尽な目に遭わせておいて、更に自由まで制限するなんて、おかしいじゃないのよ」

「状況的にはカツミさんが痴漢ではないとは思われます。ただ、触られたご本人が納得されていない」

 さっきはあれほど威勢のよかったティルが、うつむいたまま、顔も上げずにビクッとした。

「彼女がカツミさんを痴漢だと断定していて、更に、異能まで発動してしまったことで、カツミさんは謹慎ということになりました」


 ……それはちょっと……。……ひどすぎない?……うん……。………


 ザワザワザワザワと、人々が再びざわめき始める。俺の状況が、圧倒的に不利、だよな。痴漢のこともあるだろうけれど、それ以上に、異能が発動したことが大きい。

「なによ。疑わしいから罰せよ、ってこと?じゃあ、痴漢の犯人、捕まえたらいいのね?!」

「はい。そういうことになります」

「分かったわよ。言っとくけど、アタシの店では、カツミに自由にしててもらうからね」

「はい」

 ふん、と視線をそらしたアスカさんは、その場にいた人たちに、頭を下げた。

「今日は治療院だからお願いできないけど、落ち着いたら、お話し、聞かせてくれないかしら?」

「あ、うん」

「いいわよ」

「あー俺、飲みに行きがてら、店まで行くよ」

 頷きつつ、同意してくれる人たち。

「俺も、お礼に、ウチの店に来た人たちに、聞いておくよ!」

 ご機嫌でニコニコしつつ言ったのは、ジンだった。

「ありがとうね。よろしくお願いします」

「よろしくお願いしますっす」

 アスカさんとミヤが、続けて頭を下げる。

「ありがとうございます。よろしくお願いします。それと、今日は、すみませんでした」

 きちんと頭を下げて謝ると、町の人たちは、戸惑いながらも、頷いてくれた。

「痴漢を見つけたら、警備隊とバリスに連絡するから。行くわよ、カツミ、ミヤ。それでは、みなさん、また後日~」

 オホホホホ、と場違いな笑い声に先導されて、俺もミヤも、その場を離れた。

「あの、アスカさん、ありがとうございました」

 店に帰って開店の準備をしつつ言うと、アスカさんはフン、と鼻で返事をした。

「カツミ、アンタもね、無実なんだからもっと自分で主張しなさいよ」

「いやでも、異能が発動しちゃったのは事実だし……」

「そりゃそうだけど、痴漢に間違えられて騒がれたのが原因でしょっ」

「はい」

「それがなければ発動しなかったんだから、言っていいのよ!!」

「……はい」

「なによ、まさかアンタ、ほんとに触ったの」

 そんな訳がない。

 慌てて首を左右に振ると、アスカさんはサラダの準備に取りかかりつつ言った。

「そうよね、アンタにそんな度胸、あるわけないわぁ」

 ミヤもアスカさんも、なんだよ、もう! 

 ちょっとひねくれ始めた俺の隣で、ミヤがゆっくりと話しだした。

「俺、もしかしたら、痴漢の犯人、見たかもしれないっす」

 何っ!?

「なんですって!!どんなヤツよっ」

「小柄な男だったっす。フードを被っていたので、顔までは分からなかったっす」

「触ったの見たの?」

「見てないっす」

 どういうこと!?

「不自然に、俺にぶつかったんす、その人。その直後に、痴漢騒ぎが起きたんす」

「なるほどね。ソイツが犯人とは断定できないけど、限りなく怪しいヤツはいたってことね」

「うっす。あっという間に、人混みに紛れちゃったっすけど」

「そうか」

 でもまあ、とりあえず、ミヤがそれっぽい人を見たっていうのは大きい。

「ありがとう、ミヤ」

「うっす」

「あの、ところで、どうしてツタじゃなくて、バリスが来たんですか?」

 登録関係は北側の役所のはずで、西側のバリスは新職業課なのに。

「一応、今、あそこを窓口に仕事の登録してるから、とりあえずバリスのとこに連絡したの。それに、ツタは見回りでいないわよ、昼は。違ってたらバリス以外が来るだろうから、とりあえずいいんじゃないの」

 そんなもんか?でも、そうか。窓口が違っているなら、本来の担当が来るだろうしな。そこは俺が気にするとこじゃないのか。役所に連絡する、ということが大事なんだよな。この場合。

「そうですね」

「そんなことより、アンタもしょげてないで、お客さんに積極的に聞き込みしなさいよ!!」

「はい……」

 居酒屋の仕事をしつつ情報を集める、という同時進行ができるかどうかは限りなく不安だけど、頑張るしかない。

 つうか、ティルとかいうケバブ屋の看板娘。もう、勘弁してくれよ。状況だけで、俺が痴漢じゃないって、納得してくれよ!!

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