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なんでもアリの異世界エトセトラ  作者: 大福満代
第一章

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第十四話 旅路の途中で 4

「焼くっすよ~」

 そう言いつつ、ミヤが五人分のタマゴを鉄板に割る。片手でカシャカシャと鮮やかに割っていく姿は、ちょっと見ものだ。

 待っている間に生地を作っていたのだろう、既に混ぜてあったキャベツと山芋、小麦粉に塩胡椒をふる。豚肉は、細切りにしたものと薄切りにしたものを両方使うらしい。細かく刻んだ方を生地に混ぜている。

「魚介系の出汁があるのか聞くのを忘れたっすから、代わりに豚肉も細かくして入れるっす。ついでにちょこっと醤油も」

 あ、なんか、粉入ってたりするよな、お好み焼きって。あれって、出汁系なのか?それとも、お好み焼きって、魚介系の出汁が入っているものなのだろうか?疑問に思いつつも、ミヤの邪魔をしないように、おとなしく見守る。

 ジンは真剣な顔で、ミヤの手元を見ている。

「で、一人前ずつ生地を鉄板に流して焼くっす。生の豚肉が入ってるから、薄めに焼くっす」

 ジャー、といい音が広がっていく。丸い生地が高さを作って五人分並ぶ。ヘラを使って手早く平たく丸く、少し薄めにしていく。

「あんまりいじらない方がいいんっすよー」

 ジュワジュワと焼かれていく、その音がいい。

「油は?」

「油は、菜種油を使ったっすよ。豚肉の脂があったら、細かく切ってそれで焼いてもいっす」

「ミヤ、すごいな」

 すごいなってしか言ってないな、俺。

「そっすか?」

「うん。すごい」

「照れるっすね」

 そう言って笑いつつ、皿を用意する。ジンは鉄板の前で生地が焼けていくのをジーっと見ている。すごい集中力だ。

「五人分って言ってたけど、村長の他は誰が来るんだろうな?」

「家族っすかね?」

「かもな。喜んでくれるといいな」

「うっす」

 生地が焼けてきたのをみはからって、ひっくり返しつつ、目玉焼きもひっくり返す。豚肉を鉄板に敷いて、その上にひっくり返したタマゴを乗せ、生地をのっける。パパパパパ、と鮮やかな手つきだった。

 あっという間に、見たことがあるお好み焼きができてきた。

「ネギがあったら、ネギ焼きもうまいっすよね」

「ああー。美味いよな!」

「機会があったら、作りましょうっす」

「だな。俺も手伝う」

 今日は調理場を借りることができたし、大きな鉄板も使えたけど、なかなか旅をしていると、そんなチャンスもないだろうなぁ。でも、意外に楽しいな、こういうのも。

「来たぞ」

 コウジと村長がいいタイミングで現れた。土間から板間に上がって村長が座り、コウジが俺を手招きする。

「カツミ、台を出すから手伝ってくれ」

 窓際にあった、ちゃぶ台のようなものを二人で運び、折りたたまれている脚を出す。ソースとマヨネーズを並べて、更にフォークを並べる。

「できたっすよ~」

 出来上がったお好み焼きを、ミヤが皿にのせる。それをジンが運んでくる。テーブルには見事なお好み焼きが五人前、のっかった。鰹節とか青のりとかはないけど。今はないけど、もしかしたら、あるのかもしれない。この世界にも。可能性は、ゼロじゃないよな。

 湯気の立つそれを眺めて、村長が口を開く。

「なにをしているんだ?せっかく作ってくれたんだ、食べよう」

 え、俺たちも?

「不思議そうな顔をするな。五人前と言っただろう」

 あ、そうか!!俺たちを入れて五人か!!じゃあ、最初から俺たちと食べるつもりだったのか。

「うっす!!」

 ミヤが素早くテーブルにつき、ジンもいそいそと嬉しそうに座る。コウジと俺も並んで腰をおろした。

「いただきます」

「これは、どうやって食べるんだ?」

「この、マヨネーズっていう白いのとソースをかけてもいっすけど、そのままでもいっすよ」

「そうか」

 真面目な顔で頷いた村長がまずは一口食べる。うんうんと頷いた後、今度はソースをかけて食べ、次にマヨネーズもかけて食べる。

「そのままでも十分美味いが、マヨ?と言ったか、とソースをつけて食べると、更に美味いな」

 無愛想な表情が崩れ、柔らかい表情で村長が食べつつ言う。

「やったっす!!」

 ミヤがニコニコと言い、自分も一口頬張る。

「なかなかっす」

「美味いな」

「面白い食べ物だね。屋台でもできそうだな」

 ジンが真剣に食べつつ言う。おお。確かに元の世界でも、お祭りとかの屋台で、お好み焼き売ってたりしたよな。……ってお好み焼きは異世界の料理だっつうの。ああ、ジンにも、もっとこの世界での食べ物との出合いがあるといいな。

 悩みつつ俺も一口食べてみる。

「美味い」

 山芋の効果か、春キャベツの柔らかさなのか、生地はふんわりしていて、でも豚肉とタマゴのおかげで食べ応えはしっかりある。マヨとソースがこってりしているし。

 どうでもいいけど、マヨネーズってどこでも評判いいな。万能調味料だな。塩とタマゴと酢と油でできてるとは思えん。

「今晩、この料理を村人に作ってもらえるか?」

「いっすよ!!」

 ひゃ、百人分?!

「材料、使って大丈夫ですか?」

「気にすることはない。どのみち、全員がご飯は食べるんだ」

 あ、そうか。そうだよな。

「じゃあ、俺たち四人でお好み焼き作ります」

「全員分をこの大きさで作らなくてもいい。村で用意している晩ご飯もある。一人、半分か四分の一くらいで十分だ」

「分かりました」

「コウジ。足りないものがあったら、言ってくれ」

「分かった」

 いつの間にかコウジが食後のお茶を淹れてくれていた。お茶を飲みつつ、ちょっとだけシンとなる。こういうときって、何を話すもんなのかな。お好み焼きの感想は、聞いたしな。

「俺はな、今まで農業以外のことはあんまりやってこなかった。村のことと農業のこと、それだけを考えて生きてきた。それを悔いたことは、一度もない」

 お茶を飲みつつ、ポツリポツリ、と静かに村長が語り出した。

「ただ、この歳になってコウジと出会った。最初は異世界だなんだ、警備隊がどうだ、厚生の為に協力しろだ、ハッキリ言って面倒だなと思った。こんな田舎の、小さな村に、面倒事を持ち込むな、とな」

 そこで一口、お茶を飲む。

「だが、コウジがどんどん変わってきてな。楽しそうに働くようになった。そうしているうちに、なんだかいきなり豆腐とかいうのを作りたいとか言い始めてな。そのときだ。不思議な気持ちが芽生えた」

 コウジの鋼鉄でできた手がピクリと動く。

「アレはないか、コレはないか、どうすればいいのか、どうしたらよくなるのかと、俺も知らないことを聞かれて、ああだこうだと一緒にやっているうちに、楽しくなってきた。豆腐が完成したときは、感慨深くてな。豆が、こんな風になるのか、ってな。それで、知らないことも、やってみると面白いもんだな、と思ったんだ」

 静かに語る村長。視線はお茶に固定されたままだ。

「だから、村の若いモンにも、若いうちに機会があれば、そういうモノに触れさせたいし、俺もまだまだ、知らないことを知ってみたいと思った。今日は、無理を言って済まなかったな。夜も、頼むぞ」

 村長は言うだけ言うと、立ち上がって行ってしまった。

 農業というのは、人手がいるし、手間も暇もかかる。小さな村だ。農繁期は、そうそう遊び歩いたりもできない。商人は来るだろうけれど、頻繁でもないっぽい。移動手段も限られているし、そもそも移動には時間がかかる。もちろん、インターネットなんてない。情報だけを手に入れる、ってことも、なかなか難しそうだ。写真もない。そして、冬になれば、この辺りは雪に閉ざされる。環境的に、新しいナニカと接する、ということは、珍しいことなのかもしれない。

「人生、いろいろっすね」

「そうだな」

 ポツリとミヤが言ったその言葉が、なんだかしんみりと心にしみた。


 その夜は集会所にたくさんの人が集まり、入りきらない人々は集会所の外に敷物をしいて、ちょっとしたお祭りのような騒ぎになった。

 ジンは村の人が作ってくれた、塩漬けの鮭と野菜がたっぷりが入った汁物を、美味そうに食べていた。お好み焼きにも使ったけど、ちょうど春キャベツがたくさんできていたので、具材は春キャベツ、玉ねぎ、芋、ニンジン。味付けは鮭の塩っけにお酒をちょっと入れ、醤油と、出汁!!出汁があったのだ、この世界にも!!ビックリした!!

 粉末状のそれは、よくよく聞いてみると煮干しを粉末状にしたようなものと、細かいエビをすりつぶしたものだった。なんと!あったよ、この世界にも!!顆粒出汁とは違うけどさ。……でも、よくよく考えてみると、あの粉、天晴れで見たことあるような気がする。

 まぁ、それは置いておいて。この村には二種類だったけど、もしかしたら、もっと違う魚介出汁もあるかもしれない。ちなみにもう一つ驚いたのは、干し貝柱があった。貝柱、干したヤツ。考えてみると干物があるんだ、貝が獲れるなら、干し貝柱があったっておかしくないわな。

 ジンが、町とは違う形の食生活に興味津々で村人の後をついて回り、積極的に手伝いながら、いろいろ聞いている姿に、ちょっとホッとした。

 ルウとアシとナガには、コウジがご飯をやってきてくれた。村の人は、ナガとアシには上等の牧草を、ルウには肉入りご飯を用意してくれた。ありがたい。

 炊いた米や汁物。サラダはなんとクレソンだった。クレソン、川が綺麗だから自生してるらしい。川辺で収穫してきた、新鮮なものを出してくれた。フレッシュなクレソンはケバブにも合うんじゃないかと、真面目な顔で、黙々とクレソンを食べ続けるジンが微笑ましくて、笑ってしまった。

 肉は最近獲れたという鹿肉をバーベキューっぽくして焼いてくれた。そして、俺たちが作ったお好み焼き。遅ればせながら、エビの粉末を好みでかけてもらう。みんな初めて食べたけど、美味しいと喜んでくれて、俺たちもすごく嬉しかった。キャベツの千切り、メッチャ大変だったけど!!腕、疲れてダルダル。持ち上げるのも、億劫だ。

 ジンの食材との出合いもあり、無事に異世界風の食べ物を作った俺たちは、次の町までの食材を譲ってもらえることになった。

 が、ここでちょっと一騒動が起きた。金を受け取らない村長と受け取って欲しい俺たちで、もめたのだ。

 農作物は労働の成果だ。引くわけにはいかない。

 約束を守ってくれたからと、かたくなにお金を受け取らない村長と受け取って欲しい俺たち。代案を出したのは、なんとジンだった。

 北の領地を出て、珍しい食材があったら、村まで送ると約束したのだ。北の領地を出たことがないという村長は、無理はしなくていいぞと言いつつも、嬉しそうにその言葉に頷いてくれた。

 長いようで短い一日は、あっという間に過ぎた。農村の夜は早い。みんな、晩ご飯を食べて後片付けを終えると、さっさと帰ってしまった。一日作業をして、疲れているのだろう。寝るって言ってた。

 朝日と共に起きて仕事をし、夕日とともに帰宅して寝る。そんな生活もあるのだと、つくづく思う。

 今日はナナリも入れて男六人で転がった板間で、まだ早い時間で眠れない俺は、ゴロゴロと狭い場所で寝返りをうっていた。誰かの寝息が、静かな部屋の中に微かに響く。外では、虫の声が遠くに聞こえる。

 幾度目かの寝返りをうったとき、隣のミヤが話しかけてきた。

「眠れないっすか?」

「ごめん。起こしちゃったか」

「や、俺も起きてたっすよ。最近、ハードな毎日でバタンキューだったっすけど、今日は移動もなかったし。なんか、目が冴えちゃったっす」

「起こすと悪いから、ちょっと外で話そうか」

「うっす」

 二人でコソコソと起き出して、そうっと戸を開けて外へ出る。暗闇の中に、星が見える。あまり離れて何か起きても怖い。戸の横に二人で座り込んで、星空を見上げつつゆっくりと話す。

「楽しかったっすね、今日」

「そうだな。久しぶりに大人数で賑やかだったな」

 店にいた頃はお客さんがワイワイと盛り上がって、賑やかな毎日を過ごしていたんだけど、旅に出てからは、基本的に四人だ。大人数って過ごすのって、すごく久しぶりな気がする。まだ、そこまで日にちが経ってないのにな、旅に出てから。

「アスカさんに、手紙書きたいっすね」

「うん。今日のことも、きっと、喜んでくれるよな」

 アスカさんが、頑張ったじゃないの、といつもの明るい笑顔で褒めてくれる姿が目に浮かぶ。

「今日、上手くいってよかったっすよね」

「そうだな。俺、またミヤに頼りっぱなしだったな」

「そんなことないっすよ。マヨネーズも作ったし、キャベツも鬼のように刻んでたじゃないっすか」

 ププ、あの時のカツミさんの顔、とミヤが笑いをこらえきれないように下を向いて肩をふるわせる。

「そんなにすごかったか」

「あんな必死の形相、初めて見たかもっすよ」

「そうか。見ろ、暗くて見えないかもしれんけど、千切りのし過ぎで手がプルプルしてる。明日、ナガから落ちるかもしれない」

「アハハハ、そうしたらヤバいっすね!!あのスピードで走ってるときに転げ落ちたら、大惨事っすよ!!」

「ヤバすぎだよな」

「治療院もすぐ側になさそうっすから、マジで命がけっすよ」

「落ちないように気を付ける」

「あ~、楽しかったっすね。ほんと」

 しみじみと言ったミヤが、星空を眺める。何を考えているのかは分からないけれど、ミヤが楽しく過ごせたのなら、それはそれでまた、よい一日だったと思う。

 旅の中で思わぬことが起きても、予定通りいかなくても、いいことだってある。いい出合いがあったりする。

 この世界には写真が存在しないから、形として残ることはないんだけれど、今日の事は記憶の中に、大切な思い出の一つとして残り続けるんじゃないかな、と思った。

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