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なんでもアリの異世界エトセトラ  作者: 大福満代
第一章
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第一話 始まり5

 スキップでもしそうな足取りで、ミヤが目の前を歩く。気持ちは分かる。すごく。

 町は城を中心に放射状に道が作られていて、迷ったらとりあえず、また円心に向かえばいいとうことは分かった。

 町の中は、さっきよりも賑やかになっていた。

 ツタと同じような半漁人系、エルフっぽい髪がサラサラで耳が横に長い系、小柄なドワーフっぽいガチっとした系、イッちゃんさんのように耳が垂れていて長い系、等々。虫っぽい系もいる。この間、林で会ったクモと模様は違うけど、同じようなのがパンを抱えて歩いていた。妖精みたいのもいるし、とにかくとにかく、俺の貧困な語彙力では言い表せないくらいの種族の生き物がいる。

 もうすぐ昼だからか、朝よりももっとたくさんの店が開いて、屋台も出始めていた。ジュースっぽいのを売っている店、貝や魚なんかを売っている店。ケバブ屋っぽい店。こがね虫みたいな色の衣も売っている服屋や花屋、八百屋と店先は賑やかだ。

 が、何か買いたくても金がない。

 この世界にも紙幣や硬貨があり、硬貨は金貨、銀貨、銅貨だ。生活していくんなら、金を稼ぐ方法も考えなきゃなぁ。

 町を眺めつつ、ぼんやりと考えていると、花屋のお姉さんと目が合った。

 うすピンク色の肌の、キレイな宝石が散りばめられた服を着て、花の世話をしている。気づいたミヤが、足を止めて挨拶する。

「ちはーっす」

 微笑んだお姉さんは、両手に花を抱えたまま、口を開いた。

「こんにちは。お花はいかが?」

「うっす。実は俺たち、まだお金持ってないっす」

 ミヤの言葉に隣で頷く。

「そうなの?」

「あ、はい。この世界に先日、来たばかりで」

 そう言うと、お姉さんは大きく頷いた。異世界人の存在は、一般の人にも周知されている事実なんだな。

「そっか。ようこそ!!」

 そう言うと、両手に抱えていた花が消えた。ビックリしていると、上からチラチラと何かが舞ってきた。よく見ると。

「花!!」

「すごいっす!キレイっすね!」

 両手を上げて喜ぶミヤ。

 太陽に照らされつつ、フワフワと舞い散る花。どういう仕掛けか、俺たちの体に触れるとスッと消える。

 パチン、とお姉さんが指を鳴らすと、シャボン玉みたいなものも一緒に舞い始めた。

「おお~!おお~!」

 ミヤが口を開けて上を見て、拍手をしている。

 俺はと言えば、なんかもう、言葉も出なかった。あまりにもキレイ過ぎて。

 花とシャボン玉の歓迎が終わると、ミヤがお姉さんの両手を握りしめて上下に揺らして、激しくお礼を言っていた。

「感動したっす!!ありがとうございますっす!!」

「あっ俺も!!ありがとうございます!!」

 お姉さんはとっても嬉しそうに笑った。


「で?」

 役所の前で腕組みをしつつ半眼でこちらを睨んでいるアスカさんの前で、二人で小さくなる。

「花屋に歓迎してもらって、屋台のあちこちからも歓迎の品をもらって」

 俺たちは両手いっぱいのジュースやパン、串焼きやらを抱えていた。

「待ち合わせに大幅に遅刻した、と」

「っす。すんませんっす」

「すみません」

 小さくなって謝罪する俺たちを一睨みした後、アスカさんは笑い出した。

「ウソよ、ウソ。怒ってなんかないわよ。たいして待ってないしね」

「え」

「アタシもここに飛ばされてきたとき、大歓迎されたわよ。そういう町なの、ここは」

 そうなのか。

「さ、その両手に持ってる物で、お昼にしちゃいましょ。焼き討ちにあうかも知れない城を眺めつつね」

「予定あるんですか?」

「ないわよ。今のとこは。でも、毎回デザイン変えるみたいだから、今のうち見ときなさいよ。絵はあっても、写真はないわよ、この世界。」

「そうなんっすね。あっこれ、美味いっす!おにぎりっぽいっす」

 いつの間にか湖畔の芝生っぽくなっているところへ座り、紙袋をゴソゴソしていたミヤが、早速食べ始める。

 見ると、肉が巻きついている丸い物を頬張っている。

「肉巻きおにぎりで通じるわよ」

 そう言って串焼きを食べ始めたアスカさんに並んで、俺もケバブサンドっぽい物にかぶりつく。

 美味い。ピタパンじゃなくて、コッペパンを少し薄くしたみたいなパンに、タレが絡まった薄切り肉がたくさん入っていて。

「向こうにあった物は、大体、似たような物があるの。何でか知らないけど、言葉もどこかで変換されているのか、通じるのよ。肉巻きおにぎりとか、ケバブとか」

 なんでかしらね、文字は全然分らないのに、と少しだけ心細そうにアスカさんが言う。

「便利でいいじゃないっすか。俺、難しいこと分かんないっすから、それでオッケーっすよ~」

 そう言いつつ、今度はデッカイ骨付き肉にかぶりついている。

「そうね、……そうよね。いいこと言うわね、ミヤ!!」

 フフフ、と楽しそうに笑ってから、アスカさんがこれからのことを話し始めた。

「ひとまず、どうしたいかしら?」

「どうって」

 食べる手を止めて言うと、二本の指が目の前に来た。

「選択肢は、二つ。一つは、とりあえずアタシのとこでバイトしつつ生活する。この三日と一緒ね。でも、今度はバイト代を払うわ」

 えっ。

「二つ目は、役所の支援施設に行くか。寝泊まりするとこもあるし、職種もある程度選べるわよ」

「どんなのがあるんですか?」

「そうね、農業、職人、役所の臨時、林業………。魔力や特殊能力が必要なとこ以外は、大体あるわよ」

 食いかけのケバブサンドに目を落とす。

「ミヤ。ミヤはどうしたい?」

「俺っすか?俺はアスカさんとこがいっすね。この三日、結構、楽しかったっす」

 ジュースを一気に飲んだ後に、キッパリと言う。

「じゃあ、そうしよう。アスカさん、お世話になります」

「いんっすか?」

「いいに決まってるよ!」

 だってミヤは、この世界に来てから、一つも選択肢がなかった。これからどうするかなんて、ミヤが自由に選んでいいに決まってる。

「さ、決まりね。バリバリ働いてもらうわよ」

 たくさんあった食べ物も食べ終わり、ふくれた腹をさすりながら、みんなで店までのんびり歩いて帰った。


 あれから二週間が経った。

 アスカさんからのお使いは主にミヤ一人に行ってもらって、自由時間は俺も一緒に町をブラついた。

 アスカさんの店は常連も多く、毎日、ほどよく客が来る。ツタも仕事が休みの日に来てくれて、俺たちはやっと、ちゃんとお礼を言うことが出来た。

 俺の異能は人前で発動することはなく、たまに夢でうなされるが、部屋は一人なので何の被害もない。

 実際、新しい暮らしが物珍し過ぎて、ブラック企業のことなんて、思いだす暇もなかった。

 そういえば、林のクモにも会いに行った。

 名前はイチカという。話すことは出来たのだが、姿だけでもビックリするだろうに、話したらパニックを起こすかもしれないと、あの時は話さなかったそうだ。

 イチカも町の中に暮らしているのだが、元の世界にいた頃は林なんて行ったこともないし、こんなにキレイな川を見たこともなく、面白くて、休みの日は飽きもせずに通っているのだそうだ。

 イチカはなんと、換金所で働いているのだそうな。硬貨を札に両替したり、金とか銀とかを換金したり。足が多いから便利だと言っていた。すげえ。

「お待たせしました」

 町の人は新参者もすんなりと受け入れてくれて居心地もよかったが、実は、ちょこちょこと気になることがあった。俺を見ると、顔を寄せ合って、ヒソヒソ話す人たちがいるのだ。

 でもまあ、新参者だし異能も噂にはなっているだろうし、当たり前かとあまり気にしないでいた。町も大きいし人口も多い。全ての人が俺のことを知っているわけでもないしな。

 ただこのときは、四人掛けのテーブル席に三人で来たお客さんが、オツマミを置いた途端、視線を合わせて頷き合って、そのうちの一人が話しかけてきた。

「君とミヤ君に話しがあるんだ。いいかな?」

 閉店間近のその時間帯は、お客さんもだいぶ引けてきていて、少しずつ閉店作業も始めている頃だった。

「確認してくるんで、ちょっと待っててください」

 三人が頷くのを見てから、カウンターのアスカさんの所へ向かう。

「テーブルのお客さんが、俺とミヤに話しがあるって言うんですが、いいですか?」

「いいわよ~」

 メッチャご機嫌に鼻歌まじりに言う。もしや。

「この後、デートですか?」

「やぁだぁ~!なに言ってるのよ、この子ったら!!」

 マッチョに勢いよくバンバンと背中をたたかれ、よろける俺。

 デートだな。

 この世界では恋愛に関しても、いろいろな偏見や差別はないらしい。個人として、みんながその人を見てくれる。それはやっぱり、いろんな種族が暮らしているということもあるのだろう。姿形からして、いろいろだもんな。同一種族でなければ子どもは難しいらしいけど。ただ、絶対できない、ってわけでもないらしい。

「じゃ、ちょっとだけ。ミヤ、ミヤ」

 ミヤを呼び、ヨロヨロとテーブルへ向かう。うぅ………背中が痛い。

 三人は改まった様子で切り出してきた。種族は分からないが、俺たちとほとんど変わらない外見をしている。人かな。うん。

「私たちは、西の役所から来ました」

 北の役所は住民の登録等の把握、町周辺の環境整備、福利厚生などの担当だが、西の役所は職業や税金関係を主に管理しているのだそうだ。

 で、話というのは。

「君たち二人の異能を、厚生施設で使わせてもらえないだろうか?」

 厚生施設で?

「どういうことですか?」

「うーん。なんと説明したらいいか」

 三人は代わる代わる、丁寧に説明してくれた。

 様々な生き物が共生しているこの世界では、外見等で驚くことも、差別もほとんどないこと。問題等があれば、様々とみんなで協力して助け合い、解決すること。

 基本的には厚生も、そこまでややこしくなることはないのだが。

「そうは言っても、やはり、自分の罪が理解できない者や考えを曲げない者、残酷な思考の者はいるんだよ」

 この世界も、そんな人がいるんだな……。口調からいくと、そう数は多くなさそうだけど。

「そういう者の厚生施設も専用にあるんだが、なかなか、厚生するのが難しくてね」

 なるほど。でも、なんでそこで、俺の異能?

「北の役所で、君たちの異能を十人で受けてみた。地の底に引きずり込まれるような身体的恐怖に加えて、十人が全員、違う映像が見えた」

「違う映像?」

「そう、全員が、本人が考えたことがないような、恐ろしい映像を見た。別々のね」

 そんな。そんなに恐ろしい異能なのか。改めて、自分の異能の恐ろしさに背筋が寒くなる。

「だが、ミヤ君のヒーリングで、彼らも記憶は残っているが、恐怖自体は治癒されるし、後遺症も残らないことは、身をもって体験した」

 そうか。ミヤにはほんとに、感謝だな。

「その異能を、ぜひ、厚生に役立ててもらいたい」

 沈黙が降りる。

 ミヤのヒーリングはすごいけど、俺も、異能を受けた人も、しんどいしなぁ。厚生しない人に、その人の無意識領域に働きかけて、恐怖を体験させるって……ことだよな……?

 三人は考え込む俺と黙ったままのミヤをしばらく見ていた後、立ち上がった。

「もちろん、職業として使う異能だから、報酬もあるし、西の役所の一室を使用できるように、こちらも準備します」

 うーん。アスカさんには迷惑かけ通しだし、自力で稼げるのは嬉しい。けど。

「考える時間をください」

 俺だけの問題じゃないし、しっかり話し合ってから決めるべきだ。軽々しくこの場では決められない。

「そうですね」

「突然、すまなかった」

「話しが決まったら、西の役所の“新職業課”まで来てくれ」

 そう言うと、三人は軽く頭を下げて、会計をして帰って行った。

 とんでもない話だったな。

 テーブルを片付けてミヤとカウンターの方へ向かうと、片付けを終えたらしいアスカさんが、スキップしながら出てきた。

「アタシ、もう時間だから、後は任せたわよぉ~」

「うっす!!」

「あっあのっ」

「聞こえてたわよぉ~。ま、自分たちで一回、考えてみたら?」

 バハハーイと昭和っぽい言葉を繰り出しつつ、スキップしてアスカさんは行ってしまった。

 カランコロンと音が響く。マッチョなのに、足音さっぱりしないスキップだったな。

 妙なことに変に感心していると、

「どうなんすかね」

 食器を洗いつつミヤが言った。

 いつも前向きなミヤらしからぬ様子に少しビックリしつつ聞く。

「どうって、どう?」

 俺もどうかとは思う。でもミヤは、どういう風に、どうって思ってるんだろう。

「上手く言えないんすけど、罪が自覚出来ない人に、その人自身の恐怖を体験させるってことっすよね?」

「だな」

「俺の力が役に立つのは嬉しいっす。でも、俺は平気だけど、目の前で人がバタバタ倒れて苦しむのを見ると。なんともっす」

 そうだよな。黙って頷く。

「カツミさんを責めてるわけじゃないっすよ」

「うん。分かってる」

「それに、カツミさんも、ものすごく苦しそうで」

 そうか。俺のことまで考えてくれてたのか。

「断ろうか」

「っすね」

 窓の外には、満月と半月の二つの月が、九十度の角度でそれぞれ輝いていた。


「あらそう」

 翌日の朝ごはんを食べつつアスカさんに話すと、そっけない返事がきた。

 喧嘩でもしたかな、昨日。

 アスカさんの恋人は、何をかくそう、イッちゃんさんだ。バイトを始めた頃に知って、驚いたのは俺だけだったが。

 ムッツリとパンを食べていたアスカさんが、フォークを置いて急に話し始めた。

「あのね、多分、アンタたち深刻になり過ぎよ」

「え?」

「治るんだから、いいと思ってるのよ、この世界の人たち。実際、この間の十人、治療院で三日過ごしたそうよ。経過観察して大丈夫って判断したんでしょ」

「マジで?!」

「そうね。役所の人間が来たってことは、この世界のヒーリング系の機関も絡んでくるわよ。ミヤだけが治せるんじゃなくて、解析して治せるようにしようとしてるんじゃないの。できるかどうかは別として」

 ミヤと目を合わせる。

「でも」

「どうやっても厚生できない人に、厚生してもらう方法を考えてるんでしょ」

「そんな」

「もちろん、それで厚生できるかなんて分かんないわよ。でも、キッカケになるかもしれない、って思ってるんじゃないの」

 キッカケ。荒療治過ぎるでしょ。

「いろいろやっても、どうしても、いるみたいよ。自己中で、他人の痛みが想像できない人が」

 そうなんだ。

「人助けになるかもしれないってことっすか?」

「そうね。そうなってほしくて、役所の人間も依頼に来たんじゃないかしら」

 ミルクを飲んで、続ける。

「アンタたちが役所に行った時、異能を確かめるってゾロゾロと十人くらい来たじゃない?」

「うっす」

「はい」

「あれ、責任者以外、野次馬よ。半分は、野次馬」

「マジで?!」

「そうよ。ヒーリングがあるんでしょ、ドレドレってなもんで来たのよ」

 そうなのか?ヒーリングがある世界の感覚って、ちょっと違うな。

 驚いていると、アハハハッとミヤの大きな笑い声が響いた。

「そうなんすね!面白いっすね!」

 しばらく大笑いした後、ミヤが俺を見て言った。

「やってみるっすか?」

「マジで?!」

「アンタ、ほんとうに語彙力ないわね」

 呆れたようにアスカさんが言う。

 確かにないな、語彙力。

「でもまあ、やるならやるで、不安もあるだろうし、役所ときちんと話した方がいいわよ」

 一度、言葉を切って、残っていた朝ご飯を食べる。

「あそこまで言ってるってことは、役所がお膳立ては全部するだろうし、責任の所在も、役所だとは思うけど」

 そんなもんかな。

「善は急げっす。早速、今日、役所行ってきてもいっすか?」

「いいわよ」

 決断、はやっ!

 と、そこでいきなりアスカさんが野太い声で笑い出した。

「フフフフフフフフフッフフフフフフ」

 何?!怖い!!

「話しているうちに、い~いこと思いついちゃったわぁ~。イッちゃんに、ちょーカッラーいクッキー作って食べさせてやるわぁっ!そうと決まったら、激辛唐辛子、山ほど仕入れなくっちゃ!!」

 そう叫ぶと、アスカさんは勢いよく飛び出して行った。

 カランコロン。

「味見してみたいっすね~」

 ミヤのメンタルもどうなってんだか分からん。でも相当強いのは確かだ。展開の早さについていけない俺の朝ご飯だけ、まだ皿の上に残っていた。


「はい、それでは、登録証を出してください」

言われて、首から下げていた登録証を出す。

 小柄な妖精が現れると、登録証に両手をかざす。フワリ、と登録証が浮いて、軽く光る。登録証への登録方法はいろいろあるみたいだけど、妖精が出てくるのが、一番、ファンタジーっぽくてワクワクするな。

「以上で終わりです。厚生施設との都合が付き次第、お店に連絡しますので。日程等は、その都度、調整しましょう」

「はい」

「うっす」

 あっという間に登録は完了してしまった。

 担当者は、バリスという、牙がある種族だった。バリスと呼んでください、ってことだったので遠慮なくそう呼ばせてもらう。

 決まったのは、次のこと。

 まず、場所はこの西の役所の地下。少し大きめの、ガランとして何もなく、窓がない部屋だ。

 ミヤの他に、役所機関のヒーラーも待機する。

 まだこっちの世界の物価って把握しきれてないからよく分からないけど、報酬も、そこそこ用意してもらえるようだ。

 よろしくお願いします、とみんなで頭を下げあって、そうしてあっけなく、俺達の職業になるかもしれない話はまとまった。

「カツミさん、下見して行きましょうよ!!」

 嬉しそうにミヤが言う。

「下見?なんの?」

「初めて自分たちで稼いだ金で、アスカさんやツタさんや、イッちゃんさんに、プレゼント買いましょう!!」

 おお!!

「いいな、それ!!行こう」

 なんとなくこれでいいのかな、っていう気持ちを振り切って、露店の方へ歩き出す。

 お昼前の空気はカラッとしていて、今日もいい天気だ。

 お店を物色し始めると、遠くから変な声が聞こえてきた。

「待ちなさいよオオオオオオオオオオ!!!!!」

 聞き覚えのある声の方を見ると、砂埃を立てて誰かが走っている。

「それは無理だ!!」

 全力で逃げているのは、イッちゃんさんだ。彼を追いかけて、アスカさんが紙袋を抱えて走っている。

 もう激辛クッキー作り終わったのか。神業だな。

 二人の追いかけっこを見て、町の人たちが笑っている。

「イッちゃんさん、頑張れっす!!」

 ミヤも、俺の横で笑いつつ、イッちゃんさんを応援し始めた。

 気づけば俺も、大笑いしていた。

 異種族が平和に暮らし、ちょっと例外はあるみたいだけど、みんなが優しい世界。夢だって、なんだっていい。こんな世界があっても、いいじゃないか。

 アスカさんの店の名は、天晴れ。

 青空を見上げて、俺は笑顔で深呼吸した。


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