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なんでもアリの異世界エトセトラ  作者: 大福満代
第一章
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第一話 始まり4

「イッちゃん、ごめんなさいね。こんな目に遭わせておいてなんだけど、お話にも付き合ってちょうだいね」

「もちろんさ」

「ありがとうね」

 一息ついて、俺とミヤを交互に見て再度口を開く。

「カツミ。ミヤ。アンタ達は異能持ちよ」

 異能?

「って何すか?」

「この世界に来ちゃったアタシたちの世界の人間はね、基本的に、どこかしらに変化が出るのよ。大なり小なりね」

「例えば?」

「体の一部が変形した、別の生き物になった、……そうね、林で会ったクモ、彼もこっちに来たのよ。そいういう変化があるの。大体は」

「そうなんすか」

「そうなの。法則も決まりもないから、必ずこれという形があるわけでもないの」

「はい」

「ただ、アンタたち二人やアタシみたいに、何も変化がない場合は、百パーセント異能持ちになるの」

 何かの力が備わるってことか。目に見えないタイプの。

「アスカさんは、何の異能を持ってるんですか?」

「アタシはね、異能が効かない能力。だから、この世界に来ちゃった子の異能を確かめる仕事もしてるのよ」

「じゃあ、俺らに店の外に出るなって言ってたのも」

「そうよ。危ないからよ。何の異能か分からないから」

 俺を見据えて、キッパリと言う。

「カツミ。アンタさっき、何を考えてた?」

「会社のことを」

 思い出しそうになるのを、息を飲んで我慢して答える。

「ブラックで。パワハラもひどくて。休みもなかなか取れなくて」

「そう」

「はい」

「恐らくそれが引き金になって、異能が出たのね。こっちの世界に来て、会社のこと考えたのは、これが初めて?」

「えっと……」

 必死に記憶を掘り起こす。この三日は、多分、考えてない。新しい世界に夢中だった。来た日は……あ。

「ミヤに初めて声をかけられたとき、ちょうど今みたいになってました」

 確かあのとき、頭の中で上司の声が反響していた。

「あーあのときっすね!ヤバい目をしてたんすよ~。何度か揺すって、やっと目の焦点が合ったんっすもん!」

 そうだったのか。

「そのとき、ミヤはどうもなかったの?」

「うっす!!元気いっぱいっす!!」

 静かな沈黙が漂う。つまりは?

 眉間にシワを寄せつつ床に視線を落としていたアスカさんが、静かに顔を上げる。

「カツミの異能は、ブラック企業トラウマの、他人に恐怖とパニックを与えるモノなのかしらね。そして、ミヤがそれを治療できる。ミヤの異能はヒーリングね」

 そんな。

「カツミの異能は、この世界のヒーリングでは今のところ、すぐには治せない。きちんとした治療院で試してみないと絶対、とは言い切れないけど。でも、ミヤならその場でヒーリングできる」

「どうしてそんな?」

「知らないわよ。二人で一緒に飛ばされたから、セットの異能なんじゃないの」

「マジで……」

「カツミって、語彙力終わってるわよね、実は」

 マジか。

「カツミがこの世界で生きるには、とりあえず、会社のことを考えないこと、ミヤと一緒に行動すること、かしらね」

 マジか。そんな。

 あまりな展開に、頭が真っ白になる。

「いっすよ!!」

 呆然とする俺を気にすることもなく、ミヤが元気に返事をする。

 待て待て待て待て待て待て待て待て。

「いいのか?」

「いっすよ!!だって、一緒に飛ばされてきた仲じゃないっすか!!」

 恐る恐る聞いた俺に、笑顔で言う。一気にどわっと涙があふれてきた。ついでに鼻水も。

「ごっ………ごめ、あっ……ありがと……‥う」

 嗚咽交じりにやっとのことで言うと、

「うっす!!」

「きったないわねぇ~」

 迷いのないミヤの声とアスカさんの容赦のない声が響いた。

「俺、注文してもいいかなぁ?ちょっと、ゆっくり飲みたいよ」

 俺の涙と鼻水が止まり始めた頃、それまで黙って話を聞いていたイッちゃんさんが控えめに言った。

 顔色もさっきより良くなっているし、気分転換をするのにも、ゆっくりお酒を飲むのは、いいかもしれない。

「もちろんよ!!今日はアタシのオゴリよ!!バンバン頼んでちょうだい!!」

 分厚い胸板をドンと叩いて、アスカさんが胸を張った。

「あの。すみませんでした」

「いいんだよ。知らなかったんだろう?回復したし」

 ニコニコと言う。

「でも俺、捕まったりしないんですか?」

 どう考えても危険人物だ。アスカさんは登録と条件で生きていけるって言ってたけど。

「制限はつくだろうが、ミヤちゃんの力で治癒できるし、本人が意識してやっていないことに、どうもこうもないよ」

 この世界の住人のイッちゃんさんに言われて、ほんの少し安心する。

「それに、この店に来る常連はみんな、こういうこともあり得るって、承知の上さ。な、アスカちゃん」

 バチンと大きくウィンクしたアスカさんが、パンと音を立てて手を叩き、笑顔で言った。

「さあ、開店よ~」

 いつもより少し遅い時間に開店したその日は、なんだかやけにお客さんが多い日だった。


「あの。あれは何ですか?」

「見りゃ分かるでしょ。城よ、城」

 異能が判明した翌日、役所に登録に行くと言われ、三人で店を出た。午前中の町中は、焼きたてのパンや屋台の串焼きの匂いが漂っていて、まだ新しい朝の空気が新鮮だった。

 やっと出られた町の石畳を踏みしめつつ、ミヤも俺も、キョロキョロとするのを抑えられない。浮き足立った俺たちの姿に、アスカさんがパン屋の前で足を止める。

「朝ご飯にでもしましょうか」

 そう言うと、パン屋の店先にいる店主に、パンとミルクを三つ頼む。

 垂れ目の店主は愛想良く返事し、ゆっくりとした動作で目玉焼きが乗った厚切りのパンとミルクを運んできてくれた。

「はい!ウチの自慢のタマゴのせパンとミルクだ!!」

 まだ温かいパンと冷えたミルク。いい香りに、ゴクリと喉が鳴る。

 店先のベンチに座り、受け取って食べようとした瞬間、頭をよぎる疑問。と同時に届く声。

「うまいっすねえ!!」

「カツミ。この期に及んで、何の卵とミルクだとか考えてるんじゃないでしょうね」

 大口開けて早速かぶりついたミヤを微笑ましく見守る店主と、ドスの利いた声ですごむアスカさん。

「いえいえいえいえ。いただきます」

 目をつぶって、パンにかぶりつく。

「うまぁい!」

 口から声が自然とでる。フカフカのパンに、卵の濃い味がする。多分、調味料は塩だけなのに、すごく美味しい。子どもの頃、映画で見た目玉焼きパンを思い出す。

 うん、うん、と頷く店主の前で、ミルクも飲んでみる。

「濃い」

 こんな濃いミルク、初めて飲んだ。ウッソみたいにクリーミーで濃い。その後はもう、夢中でパンとミルクを頬張り、あっという間に朝ご飯は済んだ。

 そうして、再び三人で役所を目指す。

 これだけ西洋ファンタジー風の町だ。城もさぞかしすごいんだろうなとワクワクしつつ歩く。町の中心の方へ進んでいくと、突然、視界が開けた。

 だだっ広い平地が広がっていて、開けた視線の先には湖。

 東北の観光地で見たような、大きな橋が湖の中心に向かって架けられていて、湖の周りには、箱型の洋風の建物が東西南北に建っている。そしてその中心、湖の中の島に建っているのは。

「し……、城?!」

 メッチャ見たことある、馴染みの深いヤツ!!

「オダノブナガ、俺、知ってますよ!!」

 俺も知ってる。修学旅行とか遠足で、城の天守閣上ったことあるよ、俺も。だけどミヤ、今はそういう話じゃない。

 何でこれだけ西洋風の町並みなのに、城だけコテコテの和風なわけ?

「アスカさん、何で城だけ和風なんですか?」

 お決まりの“知らないわよ”が返ってくるかと思いきや。

「焼き討ちするからよ」

「そうですよね、知らな……えええ?!焼き討ち?!」

 すごい返事が来た。

「そうよ。この世界のトップは、ロクでもない統治をすると焼き討ちに遭うのよ。だから、燃えやすい城なの。デザインに関しては、知らないわよ」

「百姓一揆っすか!」

 違うんじゃないか。ツッコミが追いつかない。

「アハハ、カツミのその顔!!」

 どこからツッコんでいいものやらと悩んでいると、アスカさんの笑い声が響いた。

「するんですか?焼き討ち」

「そうよ、それがこの世界の決まり事だもの」

 笑いすぎて目にたまった涙を拭きつつ、説明してくれる。

「湖の中心に城が建ってるのは、焼き討ちの時に町にまで延焼しないように、消火隊が水のバリアを張るためよ。町に向かって、川が流れていたでしょう?この町、水路も豊富だし」

「うっす」

「町の中心は城、その周りが湖、湖を囲むように東西南北に役所。それを囲むように円状に町。そして、湖からの水路が町中に流れている。この世界の中心町の作りは、そうなっているわね。小さな町や村とかは違うけど」

 なるほど。

「それにしても……トップを焼き討ち。よくあることなんですか?」

「アタシが見たのは、一回ね。そんなによくあることじゃないわよ。それに、焼き討ちするのは建物だけだから。領主は助け出されるわよ」

 肩をすくめて言うと、ちょっと急ぐわよ、と急ぎ足で北側の役所へ向かった。


「なるほど」 

 北の役所は、見たところ、三分の一くらいがツタと同じ種族のようだった。ツタは、役所の所属なのだろうだ。領地内のパトロールを行っているらしい。

 もちろん、広大な領地を一人で廻っているわけではなく、きちんと組織として行っているし、拠点はこの町だけではないそうだ。

 アスカさん曰く、飛ばされてきた人間はそう多くはないと思うが、たまに発見できずに、自力で町まで来てしまう者もいるらしい。それに、俺たちみたいのを野放しにするのは危ないらしい。

この世界にはこの世界のルールがある。

 以前、勘違いして、“俺は勇者だ”とか叫んで、町に入るなり、魔族に片っ端から襲いかかったヤツもいたらしい。

「どうしたんですか、その人」

「どうもこうも、寄ってたかってボッコボッコにやられてたわよ。当然でしょ、いきなり町の人に襲いかかったんだから」

 ボッコボッコ、にやけに力を入れて言う。

「ヒーリングなしで治癒院に放り込まれてたわよ」

 わー……聞いてるだけで痛そう。

「でもその子、コリなくてねぇ。治るたんびに襲いかかって暴れるから、今は、監視付きで農作業してるわよ」

 すごい対処法だな。

「自分が作った野菜食べて、感激して泣いたらしいわよ。もうすぐ、厚生完了するんじゃないの」

「最近の話しなんですか?」

「そうね。割とね」

 なるほどと言って部屋を出て行ってしまった役所の人が、あまりにも戻って来ないので、怖い話を聞いてしまった。

 そういえばミヤがさっきからおとなしい。

「どうした、ミヤ」

「お堅い役所とか書類、俺、苦手なんすよ~」

 意外。ミヤにも苦手な物があるんだな。

「書類なんてないわよ」

 と言うアスカさんに、露骨にホッとしてる。

「それにしてもその人、異能は何だったんですか?」

「異能じゃないわよ。両手が鋼鉄製になってたわ。でも、不自由なく動くの。素手で色んな物が壊せてたわね」

 なるほど勇者。有名な、誰でも思春期に一度はかかる病か?

 でも俺も、中世ヨーロッパみたいなゲーム風の景色を見てワクワクを抑えられなかったから、人のことなんて、どうこう言えない。なんとなく気持ちは分かる。

 自分が物語の主人公になったような錯覚を覚えちゃったんだろうな、ソイツ。俺の異能だって、あんなんじゃなかったら、勘違いしたかもしれんもん。

 そのとき、ガチャリとした音が響いて、役人が……あれ?!十人?!

「申し訳ないが」

 一気に血の気が引く。ヤバい。俺、やっぱダメなのか?

「異能を使ってもらえるだろうか?」

 座りながらも恐怖で足がガクガクしている俺に、“なるほど”さんが言った。

「え?!」

「一応、我々も確認しておかんとな」

「危ないわよ」

「もう一人の子がヒーリングできるんだろう?」

「そうだけど」

「なら、いいではないか」

 メッチャソワソワしてるな、役人たち。

「じゃあ。チャッチャッとやっちゃいなさいな」

 そう言われても。

 モタモタしている俺にアスカさんが叫んだ。

「ああもう、じれったいわねぇ!!ミヤ、いい?カツミ!部長!課長!納期!同僚!新人!!」

 アスカさんの声がドンドン遠くなる。それに合わせるように、目の前が暗くなっていく。


“こんなことも出来ないの?”

“今まで何してきたんですかぁ?”

”アイツ、バッカみたいだよね“

“私、そんなこと言ってません”

 次々といろんなヤツの顔とセリフが浮かんで消えて行く……。


 気付くとミヤに抱きかかえられていて、役人はみんな、床にへばりついていた。

「こっわ」

 アスカさんが呟く。

 その声を合図にしたかのように、役人が少しずつ起き上がる。イッちゃんさんと同じように、脂汗をかいて、顔色も悪く、少し震えている。

 何度も深呼吸をして呼吸を整えてから、身を寄せ合って何かを話しつつ、ゾロゾロと出て行こうとする。

 なになに、何なの?!険しい顔は仕方ないけど、一気にゾロゾロ出て行くの?!っていうか。

「すみません」

 ミヤに抱えられたまま、身を乗り出すように叫ぶと、役人たちは、一度振り向いてうんうんと頷きつつ、手を振って出て行った。

 どうしよう。どう判断していいか、分からない反応だ。

 身を起こすと、“なるほど”さんが近づいてきた。

「異能は確認した。登録しておく。申し訳ないが、カツミ君の行動範囲は、この町と領地内だけということで了承して欲しい」

「はい」

「それから、ミヤ君と必ず行動を共にすること。家の中で一人だけならいいけど、外出や人がいる環境では異能を発動させないように気をつけること。発動した場合には、役所に連絡をすること」

「はい」

「いいかね?」

「うっす」

「以上だ。アスカ君」

「はい」

「少し残ってくれ」

 軽く肩をすくめて頷く。

「アンタたち、町を見学してらっしゃいな。お昼頃に、また、この役所の前で待ち合わせましょう」

「いいんですか?」

「気をつけるようにね」

 そう言われ、俺とミヤは部屋の外に押し出された。

 扉の前でミヤに向き合う。

「よろしくお願いします」

 九十度に体を折って頭を下げる。

「うっす!!任せてくださいっす!!」

 明るい声が頭の上から響いてくる。見えないけれどきっと、いつものように笑ってくれているのだろう。

「一人より二人の方が心強いっすよ。早く探検、行くっすよ!!」

 しゃがんで顔を覗きこまれ、顔を上げる。やっぱり、ニコニコ顔のミヤがいた。

「ありがとう」

 そうして俺たちは町に出た。


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