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なんでもアリの異世界エトセトラ  作者: 大福満代
第二章
210/247

第十五話 流れていく日常の中で 4

 深夜に開催された腕相撲大会は、ミツさんは不参加で、俺とミヤはアッサリと負けた。アスカさんは何人かは倒したけれど、やっぱりすぐに負けてしまった。

 なんだかんだと、族長が一番強かった。

「やっぱり敵わないわね。この日に備えて、筋トレ増やしてたのに」

 とアスカさんは悔しそうに言っていたけれど、それはもう、致し方のないことだろう。無理でしょ。狼男に人間が勝つの。しかも、満月の夜に。何人かに勝っただけでも、アスカさんはすごい。

 っつうか、増やしてたのか、筋トレ。だから俺、付き合わされてたんじゃないだろうな……。

 ミツさんは泊まらずに、俺たちが寝るタイミングで帰って行った。今度は別の魚を天晴れに持って来てくれるって。

 嬉しいけれど、あんまり頻繁にもらうようだと申し訳ないから、ミツちゃんに魚の仕入れをお願いしようかしら、でも四天王にそんなことさせていいのかしら、とアスカさんが真剣に悩んでいた。

 さあ、来週は町歩きだな、なんて思いつつ開店前の店の掃除をしていたら、コウジが豆腐を持って現れた。

 カランコロン。

「よお」

「おう」

「これ、今回の分」

「ちょうどよかったわ。今からお昼にしようと思ってたの。コウジも食べてらっしゃいよ」

「おっ。じゃあ、遠慮なく」

 カマド部屋からひょい、と顔を出したアスカさんの言葉に、素直に頷いたコウジが店の中ほどのテーブルに座る。受け取った豆腐は保冷庫に保存だ。今日のオススメに入ることになるだろう。

「コウジさん、どうぞっす」

 すかさずミヤが差し出したお茶を礼を言って受け取り、一気に飲み干す。喉が乾いてたのかな。いい天気だもんな。今日も。

「なあ、カツミ。エルフに連絡とるとしたら、どれくらいかかる?」

 もしかして、豆腐の量産の見通しが立ったのだろうか。

「どれくらいだろう?とりあえず、この町にいるエルフに連絡をしてからになるから」

「分かったら、手紙をもらえるか?」

「うん。量産できるようになったのか?」

「おう。ただ、今の倍量くらいが限界だな、現時点だと」

「えっ。でも、すごいな。一気に倍量って」

「そんなこたねぇよ」

 とか言いつつ、なんか嬉しそうにしてる。

 きっと、すごく頑張ったんだろうな。村長と一緒に、ああでもないこうでもないと、試行錯誤している姿が思い浮かぶ。今度は、流通がスムーズにいくように、俺が頑張らなきゃな。ただなぁ。ハンリーアルさんに連絡を取れたとして、コウジの村へ連絡して、そこから豆腐を持ってコウジがこっちに来て、試食してもらって、とかだと、時間がかかり過ぎるよな。せっかく、コウジが頑張ってくれたのに。

 なんかないかな、いい方法。…………あ。そうだ。

「アスカさん、今日納品してもらった豆腐、少し分けてもらってもいいですか?」

「食べるの?」

「違いますよ。この町にいるエルフに渡して、ハンリーアルさんに持って行ってもらったら、話しが早いかなぁって思って」

 エルフって、独自のいろいろなルートでも移動できるみたいだし。

「いいわね、それ」

「でも、それだと店で使う豆腐が減っちゃうんじゃないか」

「いいわよ。だって、せっかくのチャンスですもの。それに、エルフの反応がイマイチだったら、アタシ、ルピナス商会に売り込むわ」

「え、ほんとに?」

「もちろんよ。ちょうど、一緒にマヨネーズを流通させたとこだし。ツテはあるの」

「うわ。すげえ」

「コウジの村では、話題になってないか?マヨネーズ」

「俺のとこでは、まだ話題になってないなぁ。でも、そのうち噂がくるだろうな。そしたら、村長が大喜びしそうだ」

 無愛想だけれど、理解がある村長の顔が思い浮かぶ。若い者にいろんな経験をさせたいと言っていた。うん。メッチャ喜ぶだろうな。中心町で話題になっている調味料、先駆けて村人が食べてたんだもんな。

「カツミさん、ハンリーアルさんに渡してもらうのはいいっすけど、説明書きをつけないと、なんだか分かんないっすよ。食べ方も分からないだろうし」

「あ、そうか。そうだよな」

 けど、ここにいるメンツは、誰もこの世界の文字を書けない。四人で顔を見合わせて、吹き出す。

「アハハ。異世界人って、数が少ないのに。今、ここに、この世界の人が誰もいないって、なんかおもしろいっすね」

「そうだな」

「なかなかないわよね」

「まったくだ」

「ま、いいわ。そしたらカツミ、お昼ご飯食べたら、イッちゃんのとこに行って来なさいよ。黒板持って。ついでに豆腐の説明書きを書いてもらうといいわ」

「はい」

「で、戻ってきたら、豆腐持ってエルフのとこに届けてきなさいな」

「なら、俺も一緒に行くよ」

「え。なんか用事あるんじゃないのか?」

「どうせ今日は、この町に泊まりだから」

 そうか。コウジの村、日帰りできないもんな。日帰りどころか、数日かかるもんな。

「そういえば、その保冷庫の氷ってどうしてるんだ?」

「ああ。カツミたちが村に来た時、食料が置いてある洞窟に行っただろ。あそこのずっと奥に、冬のうちに切り出した氷を保存してんだ」

 へぇ。生活の知恵ってヤツかな。ヒンヤリした洞窟の空気を思い出す。

「結局、あの洞窟の最深部はどこにつながってるんだ?」

「知らねぇ」

「探検してみたいっすよねぇ」

「いらんことしてると、戻って来られなくなるぞ」

「ありうる。ミヤ、やめとけ」

「そうっすか?」

「もう一つ別の異世界があって、そこに飛ばされたらどうすんだよ」

「あるっすかね?!そんなこと」

「あるかもしんないだろ。実際、俺たちみんな、ここに来ただろうが」

「ほんとだよなぁ。ないとは言い切れないよな」

 コウジがしみじみと言ったところで、アスカさんがお昼ご飯を運んできてくれた。

「さ、一先ずお昼ご飯よ」

 お盆の上に乗せられた丼を見て、うおおお、と歓声が上がる。

「牛丼!!俺、この世界に来て初めて食べる!」

「俺もっす!!」

「でっしょ。たまにはいいかなって、フッと思ったのよ。さ、食べましょ、食べましょ」

 いただきますと手を合わせて、丼をかきこむ。

「美味いっす!!」

 ミヤの言葉に頷きつつ、俺たちは牛丼を頬張った。

「……丼屋っていうのも、儲かるかもしれないわねぇ」

 ただ一人、冷静に俺たちの姿を見つつアスカさんが呟く。確かに、いいかも。屋台とかでもできるし、牛丼なら。

「名案っすよ」

「屋台でもできそうだよな、牛丼」

「屋台な!旅してるときに、したんだろ?」

「そうそう、お好み焼きだけど。でも、巻き寿司も試作してさ」

 コウジと出会ったのも、旅がキッカケだった。ひとしきり旅の話をしていると、その話しをのんびりと聞いているアスカさんに気が付いた。そして、ふと気になった。

「アスカさんは、俺たちが旅に出てる間、どうだったんですか?」

 自分たちの旅の話しはいっぱい聞いてもらったけど、一人で店に残っていたアスカさんの話を聞いていなかったことに、今更ながら気付く。

 ……ちょっと、恥ずかしい。思い至らなかった自分が。同じ一年を、それぞれ過ごしていたのに。

「なによ、急に。穏やかな日常を過ごしていたわよ」

「特に何もなくっすか?」

「特に………………あ、そういえば、アンタたちがいないとき、なぜか昼間に人生相談に来る人が多かったわね」

「昼にっすか?」

「そうなのよ。なんでかしらね?」

「一人だから準備とか忙しいのに、大変だったですね」

「そうねぇ。でも、あんまり忙しい時は出直してもらってたから。考えてみると、二人が戻ってきたら、パッタリと収まったわねぇ」

「なんでですかね?」

「………アタシたちにハプニングが目白押しだからかしらね。それに、他に人がいると話しづらいのかもしれないわね」

 それはそうかも。だよなぁ。全員に聞いて欲しいって思う人ばっかりじゃないだろうし。アスカさんだけが対応するとしても、俺たちが開店準備でバタバタしてたら、落ち着かないだろうし。

 俺たちにしてみても、四神が家出するわ、町歩きに月一で出かけることになるわ、行った先で若返ったりするわ。ハプニングとアクシデントの連続だったもんな。

「考えてみると、万相談の最初のデカい出来事は、マミルさんだったっすねぇ」

「そうだったわね」

「ああ、青龍が出たんだっけ?」

「俺たちはそのときは会ってないんだ。眷属だけでな」

「あのレベルの万相談、最近、ないっすねぇ」

 …………そんなわけないだろうが。

「ミヤ。忘れたのか。デカいのが一発、あっただろう」

「そうよ」

「え?!あったっす?」

 二人でゆっくりと頷く。けれど、ミヤは思い当たらないようで、一生懸命考え込んでいる。

「四神の家出事件があっただろう」

「ああ!!忘れてたっす!!だって、秋の終わりだったじゃないっすか」

 忘れんなよ。アレがきっかけで、いいことも面倒なことも起きただろ。

「それはそれとして、そろそろなんか、おもしろい相談事が転がり込んでこないっすかね?」

「いらんこと言うな!!ミヤ!!そういうフラグは、今までロクな案件が舞い込んできてないし!!」

「カツミ、語彙が崩壊してるわよ」

 慌てふためいた俺の隣で、コウジが腹を抱えて笑い出した。

「カツミ。そんなに慌てなくてもいいだろ」

「だって、ほんとにロクでもないことが多いんだって!」

「ロクでもないことが、平凡な日常のスパイスっす!!」

「なんてこと言うんだ!!俺は平凡な日常に、なんの不満もないぞ!!スパイスなんぞ、いらん!!」

 大慌ての俺を見て、コウジがますます大笑いをし、アスカさんが苦笑いで頬杖をついた。

 イタズラっぽく笑っているミヤの様子は、完全に俺をからかいにきている。うぐぐ。よし。

「コウジ。イッちゃんさんのとこに行って来よう」

 こういうときは、逃げるが勝ち、だ。

「そうね。そろそろ動かないとだわ。……あ、コウジちょっと待って」

 黒板を持って出かけようとした俺たちに、アスカさんがストップをかける。

「この紐、おもしろいから何本かあげるわ」

「あ、これ、忘年会でカツミがグルングルンになってたヤツ」

「そうそう。いっぱい仕入れたから、コウジも何本か持って行って」

「確かに、持ってると何かに使えそうだ。ありがとう、アスカさん」

 ……………。

「アスカさん、最近なんで怪しげな生地屋の商品、みんなに配ってるんですか?」

「おもしろいからよ~!!」

 そのままオホホホ、と高笑いをし始めたので、コウジに向き直る。

「コウジ、行こう」

「おう」

 斜めになった俺にちょっと不憫そうな視線を向けた後、コウジがカンナ紐をバッグにしまって、俺たちは店を出た。

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