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なんでもアリの異世界エトセトラ  作者: 大福満代
第二章
202/247

第十三話 騒動の顛末 3

 メンテナンスには間に合って帰ったものの、一週間放置していた店の掃除や食材整理が必要で、結局、更に休みを延長することになってしまった。予定よりも、ずっと長期の休みになってしまった。なのに、年末までの忙しさを考えたら、いい羽伸ばしだったわよ、とアスカさんは笑っていた。

 メンテナンスで神殿に行った時に朱雀にお土産を渡したけれど、しょんぼりした様子は変わらなかった。

 ……やっぱ、落ち込んでたか。なんか、そんな気がした。

“二人とも、土産を持って来てくれてありがとう。あのときは、すまなかった”

「朱雀さんが、アスカさんに俺たちの場所を教えてくれたから、助けてもらえたんっすよ!」

「そうですよ。ありがとう」

“その場で助けることができずに、すまない”

 居場所を伝えてくれて、助けに向かったアスカさんが乗り物酔いをしないように側にいてくれたおかげで、俺たちは無事なんだけど。

「あの、俺たちは助かったし、アスカさんも乗り物酔いしなかったです。だから、朱雀が責任を感じる必要はないです」

「そうっすよ!!助けてくれたっすよ!!」

“そうだろうか……”

「うっす!!町歩き、楽しかったっすよ!!」

“そ、そうか。そう言ってもらえると……”

「海の洞窟と、スークのお土産話し、みんなにしてくださいね」

“う、うむ”

 メンテナンスが目的なので、別の話をしているのはそこまでだった。そして、メンテナンス終了と共に、俺たちは神殿から店へ戻った。

「ウオマさん、全然話さなかったっすね」

「話せる段階じゃないんだろ」

 難しい立場だしな。そもそも、メンテナンスのときって、あんまり無駄話しないし。今日が話し過ぎたくらいだ。

 ミヤが気落ちしたように言う。

「町歩き、なくなるんっすかね。あんなに楽しみにしてたのに」

「町歩きが問題なわけじゃないだろ。狙われるんなら、どこにいたって狙われるんだ。たまたま、南で攫われただけだ」

「でも」

「とりあえずは、状況が動くのを待つしかない」

 ルタタは、あの後どうなったかを教えてくれると約束してくれたし。

 こういうときは焦って何かしようとしても、よくない結果になったりする。気は焦るけど、待つしかないんだ。

 シンとなった店内で、カウンターの上にズラリと並べられたカンナ紐が、唐突に目に入ってきた。

「アスカさん!カンナ来てたんですか?」

「なによ、急に。来たわよ。アンタたちが出かけてる間に」

「マジですか」

「言ったでしょ、今、おもしろい生地開発してもらってるって」

 あれ、冗談じゃなかったのか!!

「マジですか」

「アンタ、ほんと語彙力どうなってんのよ。嘘なんて吐かないわよ」

「あの紐、俺も何本か、もらってもいっすか?」

「もちろんよ。その為に仕入れたんですもの」

「意外に難しいぞ、取り扱い」

「カツミが鈍くさいだけよ」

 ぐぬぬ。筋力も体力もついたけど、鈍くさいのはどうにもならない。

「練習するっす!!カツミさん、付き合ってくださいっす!」

「いいけど、お互いにやるってことは、ミヤもビヨンビヨンになるんだぞ」

「それはそれで面白いんで、オッケーっす!!」

 マジか。

「早速、しましょうっす!!」

「分かったよ……」

 やはり俺は鈍くさいのだろうか。その後の練習で、カンナ紐でビヨンビヨンになった回数は、俺の方が多かったのだった。悔しい。

 

 カランコロン。

 バリスが店に顔を出したのは、更に一週間が経過した、月の半ば過ぎだった。

「こんにちは」

 バリスがいつもの調子で店に入ってくる。

「どうぞっす!!」

「バリス、待ってたわぁ~。今回ばかりは、なんだか焦れちゃってねぇ」

 アスカさんがコーヒーと一緒にフロアへ来た。

「時間がかかってしまい、申し訳ありません」

「ヤダ、責めてるわけじゃないわよ。歓迎してるの」

「とりあえず、座りましょう」

 全員でテーブルに腰を落ち着け、まずはコーヒーとクッキーでお茶だ。今日は定休日だけれど、平日の休憩時間にもお茶やコーヒーを飲んだりするので、日持ちのする焼き菓子は、常に店に置いてある。

 一息吐いたところでバリスが口を開いた。

「盗賊ですが、人間と魔族の混合の集団でした。今は全員、南の中心町の警備隊に身柄は拘束されています」

 黙って話しに耳を傾ける。

「人間はこのまま警備隊によって監視及び厚生となりますが、魔族の処遇はまだ決定しておりません」

「どういうこと?」

「南の四天王に引き渡すことになるかもしれません」

 へぇ。

「そんなパターンもあるんだ?」

「ありますね。ただ、人間に危害を加えているので、役所に連絡もなしに釈放されることはありません」

 魔族へ危害を加えた場合は、魔族同士で解決してもらうけど、ってことか。人間の役所も関与しているから、どちらかの判断だけでは決定できない、と。

「じゃあ、それだけはこれから決まるってこと?」

「そうなりますね」

「で、なんだったの、カツミとミヤが狙われたのは」

「カツミさんが盗賊の一味に言われたこと、そのままです。タマゴと二人を生贄にして神様を呼び出し、一生、悠々自適に過ごすという願いを叶えてもらう予定だったそうです」

 その言葉に、四人で思わず視線を交わす。多分、頭に浮かんでるのは同じだ。あの、妙に人間くさい魔王の顔。

「…………叶えるかなぁ。そんな願い」

「神様としては、叶えないでしょうね。しかし、魔王様としては分かりません。けれど、神様として呼び出すつもりだったようですから、どちらにせよ無駄だったでしょう」

 魔王としては分からない、って。

「魔王としてなら、その願いを聞き入れる可能性がある、ってこと?」

「そもそも魔王様は呼び出すような存在ではないので、前提が間違っているのですが」

 確かに、呼び出すんじゃなくて、ヒョコヒョコ歩いてるモンだよな。

「可能性はゼロではないでしょう」

「その盗賊たちのナニカと引き換えにってこと?」

「契約でしょうね。ただし、それはどの種族とも結んでいる約束事に抵触する可能性があるので、実際、難しいでしょうが」

 ふと、初めて魔王城に行ったときに、異能を貸してくれないか、と魔王に聞かれたことを思い出す。悪魔の契約、って思ったんだった。

 あのときの魔王、何を考えていたんだろうなぁ。今となっては聞く気もないけど。聞いたところで、上手くはぐらかされそうだし。

「それで、それをヤツらに吹き込んだのは、誰だったの?」

「見知らぬ男だったそうです」

 はぁ?!

「見知らぬ男の言う事を、鵜呑みにしたってこと?!」

 盗賊なのに?!そんなホイホイ知らないヤツの言う事聞くようなら、おびき出して捕縛するのも、メチャクチャ簡単じゃんか。

「鵜呑みにしたわけではなく、結果的にそうなった、ということですね」

 どういうこと?!

「まず、盗賊はタマゴを盗みました。それは今回の事と無関係の、いつもの盗みの一環として。そのタマゴを無事に盗んだ祝杯を上げていたところ、見知らぬ男がいつの間にかその場に混ざっていた、と」

「なんか、迂闊だな?盗賊なのに」

「全員が既に酔っていたそうなので、感覚が鈍くなっていたのでしょう。出入りは容易くできたようです」

「見張りとか」

「一緒に飲んでいたそうですよ」

 いくら祝杯をあげてたって言っても、盗賊の集団だろう?!迂闊だな!!あ、でも、ランダが盗賊くずれって言ってたな。そういうとこなのかな。

「で?」

「その男が言ったのだそうです。こんな、盗んで売って、役所から逃げる生活にはうんざりしていないか、一生、何の心配もせず、悠々自適に過ごしたくはないか、と」

 そこで一度、コーヒーを飲む。

「タマゴとカツミさんとミヤさんを生贄に神様を呼び出して願いを叶えてもらえばいい、とその男は言ったのだそうです」

 やっすくさくて、胡散臭い誘い文句だな!!

「唐突ねぇ。大体、カツミとミヤのことなんて、南の領地の、しかも盗賊が知らないでしょ」

「いえ。以前、お二人に賞金がかかったときに、似顔絵が出回っていまして。世界が修正されたときにも関係していた、ということも相まって、後ろ暗い稼業をしている方々の間では、お二人はそこそこ有名です」

 なるほど。東の町歩きのときだったか。写真もない俺たちの顔なんて分かんないよな、みたいな話ししてたけど、そういえば、かけられてたな、俺たち。賞金。あのときの似顔絵のせいで、ありがたくない方面には顔が知られてるってことか。

 それに、タマゴは神秘的だからっていう面があるけど、俺たち二人を生贄にって言われたところで信じるかよって思ったけど、そうか。世界が修正されたときのことが影響してたのか。

 なんつうか、微妙に上手い作り話だよな。元々存在している貴重なタマゴと俺たちを組み合わせて。ギリギリ信じられるかどうかってライン。

「それにしたって、生贄なんて。概念自体がないはずなのに」

 大きく頷き、続きを話し出す。

「ええ。盗賊たちも、やはり最初は相手にせず、いつも通り、タマゴを売り飛ばす段取りを組んでいたそうです。が、スークに二人がいる、という情報が当日、入ったと。半信半疑で実際にスークに赴いたらいたので、これは、とその気になったそうです」

「そんなことで?」

「そんなことではありますが、北の領地に住んでいるお二人が南の領地へ来るなど、滅多にないことですので」

「これはどうしたことだ、何の巡り合わせだ、となったってワケね」

 取るに足りないフワフワとした不確定情報が、俺たちが実際にいた、ってことで、真実味がグッと増したわけだ。

「そういうことですね」

「で、その男は?」

「捕らえた中にはいませんでした」

「でも、顔を覚えているでしょう?人数、そこそこいたじゃない」

「それがですね。誰も覚えていないのだそうです」

「一人も?」

「はい」

 そんなことある?!

「狸に化かされたんじゃないですよね?」

「狸は、生贄にされる方なんじゃないの」

 バカげた話しに思わず呟くと、アスカさんがイマイチのキレでツッコんだ。

「じゃあ、結論としては、誰からの情報だったのかは分からない、ってことよね?」

「そうなります。飴玉の時と同じですね。飴玉のときは、老婦人にもスリにも話は聞けませんでしたが」

「結局、黒幕というか元凶は分からない、と」

「モヤモヤするっすねぇ!!」

 ミヤが眉を八の字にして言った。

「そうよねぇ。対処の仕様がないしね」

「また、俺たちに外出禁止令とか出てない?」

「出ておりません。役所同士の情報交換は、これからですし」

 そっか。ルタタ、分かった時点でバリスに連絡してくれたんだな。ありがたいな。役所同士でどんな情報交換になるにせよ、当事者の俺たちに詳細を知らせるのは、当然ではないかもしれないけど、悪い事ではないはずだ。

「なら、自由にしていていいのよね?」

「はい」

 それもそれで、ほんとにいいのかな、とは思うけど。でも、こんなことが続くかどうかも分からないし。自分から外出を控えるようなことでもない。

「来月、多分、東に町歩きに行くんだけど」

 次の予定までは、半月を切っている。まあ、予定通りであれば、の話しだけれど。

「町歩きについて、ウオマさんたちと話し合いはされましたか?」

「いいえ。でも、するだろうな、とは思っているの」

 アスカさんの言葉に頷く。

「町歩きをするにしても、半月足らずじゃ、俺たちの戦闘能力が上がるわけじゃないしなぁ」

 襲われたときに備えて鍛えるにしても、そんなすぐには身につかない。

「あんまり気にし過ぎても、楽しくないっすからねぇ」

「なんだよな」

 襲われるかも、なんてビクビクしながら町歩きをしても楽しくないし、四神だってかわいそうだ。

 コーヒーに視線を落として俺たちの話を聞いていたバリスが、ふと顔を上げた。

「東の領地での具体的な行き先は、まだ決まっていないんですよね?」

「うん」

 東は冬の滞在だったし、旅芸人の一座と一緒に行動することができたから、観光はしてない。エルフの里に行ったのと、腕相撲大会に出たくらいだ。

「どうしようかな?」

「そうっすねぇ。観光はしてないっすからね」

「エルフの里も、腕相撲大会の場所も、観光って感じじゃないしな」

「あ、でも、晩ご飯は、あそこの宿場町の店なんて、いいかもっすよね」

「ハールが連れて行ってくれたとこか?」

「うっす」

「いいかも」

「腕相撲大会に出てもおもしろいかもしれないけど、あそこでも俺たち攫われかけたから、なんとなく行きづらいよな」

「そうっすよね。あっ、アレっす。そういえば、東の四天王の城、見てないっすよね?」

「西とな」

「なら、四天王の城見物、とか」

「それもいいけど、もうちょっと、なんかないかなぁ」

 ちょっと首を傾げて何かを考えていたバリスが、そこで口を開いた。

「来月ですよね?果物狩りなどはどうでしょう?いい季節です」

 いいかも!!青龍も喜びそう。

「もしよろしければ、私の一族に案内させましょう」

 それはありがたい。ありがたいけど。

「ちょっと保留でもいい?」

「はい。もちろんです。ウオマさんにお伺いしてみてください。もし難色を示されるようでしたら、私がご案内します」

「バリスが?!」

「はい。あらかじめ、予定の場所までドラゴンで運んでもらいますので。私の行き来の心配はいりません。それに、果物狩りが終わりましたら、私は別行動しますので、後は三人で行っていただければ」

 事情を知っているバリスがそうしてくれるのは嬉しいけど。

「とりあえず、聞いてみるわ。そうしてもらえたら、アタシたちも安心だし」

 確かに。バリスがいたら、なんか百人力な気がする。いろんな意味で。

「それでは、ウオマさんとの話し合いが終わりましたら、連絡をいただくということで」

 そう言いつつ、バリスが立ち上がった。

「それでは、私はこれで」

 カランコロン。

「どうしようかしらね。話し合い」

「多分、そろそろ来ると思うんですけどね。役所の沙汰が決まったみたいだし」

「バリスさんが一緒に行ってくれるなら、ますます楽しいっすよね」

「そうだな」

 頷いたところで、ハッする。

 誰もが顔を見たけれど、記憶に残っていない。顔バレしていない、っていう存在がいることに気が付いたからだ。

 それは今、話題になっていた存在。

 この世界の神様であり、魔族の王だ。

 気づいたけれど、それが魔王だけとは限らない。力がものすごく強い魔族ならできるかもしれないし。

 なんだか嫌な、その思い付きを振り払うように、俺は頭を振ったのだった。

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