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なんでもアリの異世界エトセトラ  作者: 大福満代
第二章
201/247

第十三話 騒動の顛末 2

 晩ご飯は、俺たちが泊まる部屋に三人分、用意された。ルタタもオルタさんも、今回の事件の後処理で忙しく、戻って来られなかったためだ。

 ルオンドさんがいたときは、よほどでないときは、食事は家族全員で食べる習慣だったけど、今は違うのかな?まあでも、俺たち、他の兄弟とはほぼ、会話したことないしな。

 親しい存在がいなければ、かえって気を遣うと考えたのかもしれない。

「なにかありましたら、名前を呼んでいただければ参りますので」

 オーナさんが一礼し、フッと消えた。

 テーブルには肉の煮込み料理、豆のサラダ、根菜の炒め物、パン、果物が並んでいる。

「いただきますっす!」

 みんなで手を合わせて食べ始める。

「あら、このサラダ、スパイス入りだわ。美味しい」

「南って、スパイス料理多いかもっすね」

「そうね」

「カッラ!!この根菜の炒め物、辛い!!」

「どれどれ。アラほんと。ちょっと辛いけど、でも美味しいわね」

「美味しいですけど」

 ワイワイと三人で囲む食卓は、いつもの天晴れではないけれど、それだけでホッとする。

「それにしても、ビックリしたわぁ。なに、あの大浴場!!王侯貴族になった気分だったわよ~」

「温泉なんっすよ、しかも」

「そのようだったわね。スッカリ長湯しちゃったわよ。お肌、ツルツル!!二人はこの屋敷に滞在してたとき、毎日、入ってたのよね?」

「そうです。ちなみに、食事も全員で食べていたので、量もすごかったですよ」

「どこのパーティかしら、って感じ?」

「です」

 はぁ~、とアスカさんが大きくため息をついた。

「あの温泉、昼間は無料で、一般に開放もしてるらしいですよ」

「ルピナス商会、すごいわね」

「ほんとですよね」

 他の領地も含めて、あちこちの町や村に拠点があることを考えると、正確な規模は把握できないくらい、デカい。

「そういえば、メンテナンスって明後日なんですよ、予定では。明日、帰れますかね」

「多分、帰れるわよ。ルタタちゃん、今日はゆっくりしてください、って言ってたじゃないの」

 あ、そうか。今日は、ってことは、明日は帰れるってことか。

「オーナさんが送ってくれるんですよね?」

「って言ってたわね」

「ちょっとした疑問なんですけど」

「なによ?」

「オーナさんって、登録証、どうなってるんですかね?」

「もちろん、持っております。余程の異常事態でなければ、境界橋も通りますよ」

「わああああ!!」

 なななななななななに!?

「どっ、ど、どどど」

「名前を呼ばれましたので、御用かと」

 な、なるほど。メッチャビビった!!び、ビビったけど、なにか気になる内容のセリフがあったような。

「あ、あの、余程の異常事態だと、境界橋は通らないんですか?」

 その言葉には、オーナさんは微笑むだけで返事はなかった。うん。これ、聞かない方がいいヤツ。

「ところで、明日って、どういう予定なのかしら?オーナさんに送ってもらえるって聞いたんだけど」

「そうですね。その予定です」

「みんな、いっぺんに運んでもらえるっすか?」

「そうしたいのですが、安全性を考えて、お一人ずつになります」

 えっ………。それって、オーナさんがすごく大変なんじゃ。

「ごめんなさいねぇ。全員となると、境界橋渡るのに、手間かかっちゃうわね」

「気になさらなくてよいですよ。他の領地へ行くには、魔族であっても境界橋を渡る。それが約束事なのですから」

 ……………サナさんの謀反のとき、南から北に来てたけど、あの時ってどうしてたのかなぁ。でも、魔王城とは行った来たしてたみたいだけど、南と北の行き来は頻繁にはしてなさそうだったし、やっぱりその都度、境界橋は通ったのかなぁ。

 っつうか、境界橋以外のとこには結界が張られているから、通れないはずだよな。ってことは、余程の異常自体の場合は、結界に風穴開けるってこと?!……違うか。だって、それほどの異常事態の時に、結界に風穴開けてる時間も魔力ももったいないよな。多分、高位の魔族には、なんか抜け道があるんだろうな。エルフが独自のルートで移動できるみたいな。魔族だったら、魔方陣もあるしな。魔王城を経由するとか?

 でもきっと、エルフも高位の魔族も、約束事はきちんと守って、境界橋を渡っていそうな気がする。だからこそ、秩序が保たれていると思うんだ。

「よろしくお願いしますっす!!」

 ミヤの元気な声につられて、不穏な想像を勝手にしていた俺も慌てて頭を下げる。このことは、これ以上考えるのよそう。知っても仕方ないことだしな。

「はい。そろそろ食後のコーヒーとデザートをお持ちしましょう。それとも、追加で料理になさいますか?」

「デザートがいいっす!!」

「かしこまりました」

「あ、あの、オーナさん」

「はい」

「人間を抱えて移動できる魔族って、たくさんいるんですか?」

「おりません。それほど魔力が強い魔族は、限られています」

「そうですか」

 頷いて姿を消したオーナさんのいた場所を見つめつつ、ぼんやりと考える。

 オーナさんは人間を抱えて移動できる、ということは、ルルナももしかしたらできたかもしれない。ってことは。

 オーナさんくらいの魔力があれば、人間を抱えて移動することができる、ってことだ。だとすれば、四天王は確実にできるのだろう。実際、サナさんはミヤを抱えて移動した。会ったことがないだけで、南だけではなく、他の領地にも、それくらいの魔力を持つ魔族がいる可能性はある。数は少ないんだろうけど。

 改めて考えると、四天王以外にも、人間を抱えて移動できる魔族は確実に存在する。

 俺たちを攫うのに魔力を使って移動するほどの魔族がからんでこないのは、数が限られていて特定されやすいせいか、それとも、そこまで魔力の強い魔族がからんではいないのか。どうなんだろう………。

 考えても埒が明かないことは分かっていても、少しでも可能性があり得ることは考えておこう、と思ったが、対処方法が思いつかないことに気付く。

 うん。意味ないかな、もしかして。考えても。

 思考が斜めに逸れたところで、更にどうでもいい方向へとズレていく。 

 待てよ?人間抱えて移動できるんなら、なんで俺たち最初、魔王城に呼ばれたとき、魔方陣使わされたんだ?

 えっと………サナさんの城までの往復は役所が関与するからドラゴンになったんだ、確か。で、人間特化の魔方陣じゃないとバラけるし、魔王城直通なら、変なとこには作れない、ってことで、サナさんの城に行ったんだよな。

 え。でも、そもそも、北の中心町から魔王城に飛べないの?直接は無理なんだっけ?なら、魔方陣とか?あ、魔方陣があったとしても、人間特化の魔方陣じゃないのか?それに、役所に人間特化の魔方陣なんてあったら、悪用するヤツが出てくるかもしれないな。いろんな人が働いているし。

「カツミさん、カツミさん!!」

 すっかり考え込んでいたらしい。ハッと気づくと、目の前にはいつの間にかデザートとコーヒーが並んでいた。

「あ、ああ」

「どうしたんっすか?」

「あ、えっと」

 視線を彷徨わせると、オーナさんはテーブルに寄り添うように立っていた。

「あの、人間を抱えて魔王城へは行けるんですか?」

「それは不可能です。魔王城と領地の間には、ぐるり、と結界がありますので」

 ああ!!結界!!蜃気楼がどうとかって。そういえば、人間にとってはすっごく危険だ、って言ってた!!だから、グルッと遠回りで行ったんだ。それに、魔方陣ってそんなにあちこちに作るもんじゃないとも言ってたよな。

「納得いただけましたか?」

「はい」

「この子ったら、眉間に皺寄せて考え込むのが癖になっちゃって。ごめんなさいね。食事中に」

「いえ。いろいろなことがありましたから」

 静かな声が含みを持たせてその場に響く。オーナさんと俺が一緒に過ごしたあのとき、ミヤは攫われていたし、アスカさんは意識不明の重体だった。あのとき現場にいたのは、ここでは俺とオーナさんだけだ。

「こうして、みなさんが楽しく食事できて、嬉しく思います」

「ありがとう」

 そう言うと、珍しくオーナさんが笑みを浮かべた。

「ほんとうは、ルタタ様も一緒に食事をとりたいとおっしゃっていたのですが、どうしても時間の都合がつかなかったのです」

「俺たちの為に、無理をしてるんじゃないんですか?」

「いえ。事件の事後処理もありますが、ルオンド様が引退なされたので、そもそも、ルタタ様自身も多忙なのです」

 そうなのか。そうだよな。ルオンドさんも、いつも忙しそうにしてた。もしかして、他の兄弟も手伝ったりしてるのかな、今は。前回はそんな気配なかったけど。

「忙しいのに、助けてくれて、ほんとうにありがとう」

 顎を引いて小さく頷き、オーナさんが優雅に礼をした。

「コーヒーが冷めないうちに、どうぞ召し上がってください」

 そして、次の瞬間には、その姿はもう消えていた。

「オーナさんにも、ずいぶんお世話になったのよね?あのとき」

「そうですね。ルオンドさんと交代で天晴れで警護をしてくれていたし、ルルナが北の中心町を襲った時には、対応してくれてました」

「そう。…………オルタって、自力で移動してるのかしら?」

 突然変わったな、話が。アスカさんがこんな風に話題転換するのって、珍しいな。俺はしょっちゅうだけど。

「一緒に移動してた時は、自力でしてたっすよ」

「商談のときとか、北の町にも来てるでしょう?」

「あ、そうっすね。どうなんっすかね?」

「聞いてみたらいいんじゃないですか?」

「そうね。もし、オーナさんに連れてきてもらってるようだったら、なにかお礼とか……できなくても、料理をふるまったりとか、できないかしらね」

 サナさんのときのことを思い出してみる。オーナさんはあのときは、基本的には姿を消して警護をしてくれていたはず。でも女性陣と買い物に行ったときは、姿を現したままだったな。そして、店の中に滞在することは、ほとんどなかった。

「本人に聞いてみたらいいかも。のんびり座ってるとこ、見たことないですけど」

 ルオンドさんは日向ぼっこみたいな感じで座ってたりしたけど。

「いつも、姿勢よく立ってますもんね」

「だよな」

 あまり表情を変えない、シュッとした立ち姿がすぐに目に浮かぶ。オーナさんといえば、あの静かな立ち姿だ。だからこそ、買い物に付き添ったときの反応は新鮮だった。

「女性陣の買い物につきあったときは、華やかなものでございますね、って感動してたけどな」

「そうなんっすか?」

「え~。意外!!こんな状況じゃなかったら、アタシも一緒に買い物してみたかったわぁ~」

「俺、西にある筋肉食堂に一緒に行ってみたいっす」

「マジか。やめとけ」

「なんでっすか~」

「どうするんだ、オーナさんがビックリして腰抜かしたら」

「カツミじゃあるまいし」

「どうせ俺はビビりですよ」

「実際、腰抜かしたことあるっすもんね」

 ええ、ええ。ありますよ!!

「知ってるか、ミヤ。腰って、いきなり抜けるんだぞ」

「知らなくていいっすよ」

「そりゃ、抜ける前に合図があったら、ビックリするわよね」

「抜けるっす!!ってっすか?」

「なんだよ、それ!」

 久しぶりの軽口の会話に場が和み、ほんとうに数日ぶりに、穏やかな空気で食事時間を過ごしたのだった。

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