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なんでもアリの異世界エトセトラ  作者: 大福満代
第二章
174/247

第五話 朱雀の町歩き 4

「いや~、決まんないっすねぇ!!」

 片手に焼き芋を持ったミヤが元気よく言った。

「アンタたち、南の町は結構、歩いてたんでしょ?お店、どこか知らないの?」

「知ってたらこんな難航しないですよ。ってか、そもそも、昼酒飲んでないですもん」

 飲もうとした日はルルナの件での話し合いがある日で、現実逃避しようとしてただけだし。結局、ミヤに止められたし。

「定食屋なら、少しは分かるんですけど」

 食事にしても、ルオンドさん宅でお世話になっていたから、そこまで外食はしてないのだ。巻き寿司の食材探して、歩いたりはしたけどなぁ。

“うむ。それはそれでいい。それにしても、焼き芋、うまいな。芋の味がいい”

「美味しいわよねぇ。焼いただけで、どうしてお芋ってこんなに美味しくなるのかしらねっ」

 不自然に減っていく片手に持った焼き芋を見つつ、何かいい代案がないかと考える。

 昼酒、昼酒、昼酒……午後にするもの……玄武がしてなくて………。

「あ、アフタヌーンティとかどうですか?」

 なんとか俺の知識の中でギリギリひねり出した代案は、アフタヌーンティだった。本当はお茶の名産地で、更に、フユがいる東の領地の方がアフタヌーンティにはいいかもしれないけど。でも、ここには、手広く商売をしているルピナス商会の本拠地がある。ってことは、そこそこ、なにがしかのナニカがあっていいはずだ。

「いいかも。お店、知ってるの?」

「ぜんっぜん、知らないです」

 思いついたから言ってみただけだ。

「アンタねぇ~」

 呆れたようにアスカさんがため息をついたとき、ミヤがダッシュで果実ジュースの屋台に走った。

「俺、聞いてみるっす!」

 はっや。言うが早いか、屋台でジュースを買いつつ店員と会話をしている、ミヤの行動力とコミュ力に感心する。

「まあ、カツミにしてはシャレた代案ではあるわね」

 褒めてんのか、貶してんのか。微妙な感じだな!

“今日は諦めたが、そのうち焼いてみたいな、芋”

「やりましょうねっ。お店に来られるなら、店のカマドでやってもいいんだけどねぇ」

“北の領地は玄武の守護だからな。行けないということもないが。まあ、次の機会を待とう。それもまた、一つの楽しみだ”

「栗、お土産で買います?」

“玄武が持ってきたからな。違うモノがいいな。もう少し、探そう”

「はい」

「あるみたいっすよ!!こっちっす!!」

 ジュースを一気飲みしたらしいミヤが、屋台の店先から俺たちに手を振る。どうでもいいけど、ジュース一気飲みした後に、アフタヌーンティできんのか?ミヤ。腹、タプタプにならん?っつか、アフタヌーンティ、あるの?

 思い付きで言ったことが意外にも実現しそうだ。こっちこっちと、先導するミヤの後ろをついて歩く。

“アフタヌーンティとはなんだ?”

「お茶を飲む時間を豪華にするの。お茶を飲みながら、いろんなお菓子や軽食を、ゆっくりのんびり、食べてね。人数が多いと、おしゃべりも楽しいいわね。今日は寒いし、優雅にティータイムっていうのも、オツかもしれないわ!」

“なるほど。玄武はしてないんだな?”

「そうね。玄武ちゃんはしてないわね」

“よし。なら、次はそこだな!!楽しみだな”

 焼き芋を食べ終わって再び頭に移動した朱雀が、浮かれた仕草をしたらしい。爪がちょっと頭に刺さって、チクッとした。

 ………すごくじゃないけど、ちょっと痛い。もう少し痛かったら、痛いって言えんのに。

 そう思って気付く。なんか俺、ちょっと気分下降してないか?ランダと話したことやスリの件で、気分が落ち込んだのかも。これはダメだ。せっかく、みんなで楽しもうとしてんのに。

 よっし、と心の中で気合いを入れ直す。

 考えてみれば、滅多に南になんて来られないんだよなぁ。それに、朱雀も、この町歩きを待ちわびていたわけだからな。元気出そう。

“カツミ。ちょっと遅れてるぞ”

 朱雀の声に足を速めながら大通りの角を曲がろうとしたとき、アクセサリーの店が視界の隅に映った。あそこ、いいかもな。後で来よう。

「カツミさん~!!こっちっすよ!!」

「今行く!!」

 ミヤの声に、急ぎ足で後を追った。


「すげえ」

「ほんとだわ。これはすごいわね」

「俺、初めてっす!!」

 店についてテーブルに案内された俺たちの驚きの声に、朱雀が頭の上で足踏みをした。浮かれてんのかな。

 ミヤが聞いて来たお店は、大通りから二つ角を曲がったところにあった。外観は、え、マジで?と思わず声が出たくらい、ガチの塔だった。なんつうの。貴族じゃなくて、魔女が出てきそうな感じ。

 ほんとにアフタヌーンティやってんのかここ、という戸惑いを醸し出した俺の目の前で、なんの躊躇もなく、ミヤが勢いよく扉を開けた。

 ら。

 ボンッと音がして、まず扉が大きなハート形になった。そして、シンプルなドレスっぽい服を着て、ヒラヒラのエプロンをしたメイドっぽい人……魔族なのかなぁ?が三人ほど出て来た。

「ようこそ、不思議の塔へ」

 ………ここ、そんな名前の店だったわけ?建物どころか、店の名前まで別の意味で雰囲気あんな。デッカイ壷で煮炊きとかしてそうだ。

「さ、三人っす!!」

 唖然とした俺たちの中で、ミヤがいち早く我に返って言った。

「はーい。こちらへどうぞ」

 店員さんの後ろを歩きつつ、ボソリと呟く。

「あるんですね、こういう店。この世界に」

「あるのねぇ。ビックリしたわ。マジックじゃなくて、魔力よね?」

「うっす。まさか、こういう店だとはっす」

 三人でヒソヒソと話しつつ階段を上がる。驚いたけれども、ルピナス商会にはオーナさんみたいな本物の執事もいるし、メイドさんだっていた。こういう店があっても、全然、変じゃない。

「はーい。こちらのお席どうぞっ」

 そういって案内された部屋は、塔の二階になる窓際の席、なんだけど。

「ほえー」

 思わず口からおかしな声が出た。

 そこは不思議な装飾がされた空間だった。

 本物かは分からないけれど、金っぽい材質で、テーブルとイスには繊細な細工の装飾がフチとか背に施されている。テーブルの上にはカトラリーと皿とナプキンがセッティングされており、ポイントポイントに花瓶に生けられた花。ドライフラワーも天井から下がっている。ところどころに、明らかに系統が違うのがぶら下がっているのは、店のコンセプトに合わせて、薬草だろうか、っていうのがご愛敬。細いアイアン枠の窓にはレースのカーテンがふんわりとしていて、足元は毛足の長い赤い絨毯だ。

 インテリアってあんまり気にしたことなかったけど、この世界に来てから、こういう雰囲気の部屋を見たの、初めてだ。

 魔王城で、こてこての中世のお城、みたいなインテリアは見たけど。でも、こことはなんか違う。ここはなんか、こう、塔だからか、もっとこぢんまりとしているし、なんというか……ハッキリ言おう。魔王城よりも怪しい。

 メルヘンとも違う。怪しいんだ。というか、間違っているような気がする。何かが。ちぐはぐというか。そういうコンセプトの店なのかもしれんが。

「ご注文がお決まりになりましたら、お伺いしますね~」

 あっ、ちょっ!!

「ごめんなさい。アタシたち、文字が読めないの。簡単に、説明してもらえるかしら?」

 メニューを置いてサーッといなくなろうとした店員さんを間一髪呼び止めて、アスカさんがお願いする。

「はーい。それでは説明しますね」

 そうして店員さんが説明してくれたメニューの中から、せっかくだからと一番贅沢なメニューを頼み、俺たちは改めて部屋の中を見回したのだった。

“珍しいのか、こういう店は”

「そうね。アタシも十年ちょっとこっちの世界にいるけど、初めて見たわ」

「うっす。前に滞在したときは、ここには来なかったっす」

「ってか、存在も知らなかったよな」

 ロムなら知ってたのかもしれないけど。

“よしよし。これぞ町歩きの醍醐味だな!!いいぞいいぞ”

 俺たちの反応を見て、朱雀のテンションが爆上がりしている。こういったら失礼かもしれないけど、頭の上で足踏みをしているらしい朱雀のリアクションが可愛らしくて、思わず笑顔になる。

“お、カツミ、いい顔だな”

「そうね。せっかくなんだもの、そうして笑ってなさいな。ややこしいことは後回しにしましょ」

「そうっすよ!」

 アスカさんの言葉に、ミヤも大きく頷く。なんだか俺、みんなに気を遣わせちゃってたんだな。恥ずかしい。

 ありがとう、とお礼を言おうとしたところで、店員さんの独特の節回しの声が響いた。

「はーぁい。おっ待たせぇしましたっ!!」

 その声と共に、ポンッと音を立ててテーブルの中央に脚付きの大きな食器が現れた。

「わ?!」

「そーれ!!」

 何人かの店員さんの声とともに、ポンポンポポン、と食器やお菓子、お茶がセッティングされていく。

 中央に果物を飾り切りした盛り合わせ、手前にクッキーやフィナンシェなんかの焼き菓子の盛り合わせ、色とりどりの蒸し野菜にバケットをスライスしたようなパン、肉のパテ、何かのパイ。

「本日のぉパイはっ、リンゴとっさつまいもでーぇす」

 ポン、と再び音がして、それぞれの茶器に紅茶が注がれた。

「ごゆっくりどうぞでーす」

「う、うっす」

 店員さんの言葉に、ミヤがかろうじて返事をした。

「あ、わすれぇてまーした!!それっぇ!!」

 最後にもう一つ、ポン、と音がしたと思ったら、天井からテーブルの上にバラの花びらが舞い降りて来た。

「す、すげえ」

 なんだ、この店。

「どういうコンセプトのお店なのかしら」

 アスカさんもビックリした表情で、舞っているバラを見つめている。

「すごいっすねー」

“フフフ、フフフ”

 朱雀がこらえきれないように笑いながら、頭の上でチョコチョコとジャンプしている。

「あ、テーブルの空いてるところに来て大丈夫ですよ。一緒に食べましょう」

“いいか?よし。今、降りる”

 ふっと頭が軽くなる。

「テーブルから落ちないように気を付けてくださいよ」

 玄武が晩ご飯の時に、落ちたからな。

“大丈夫だ”

「ところでミヤ、この店、なんて言って聞いたんだ?」

「豪華なお茶が飲めるとこないっすか、って聞いてみたっす」

「豪華……と言えば豪華よね。アタシ、こういうお店って、初めて来たわ」

「あんまりないですよね?」

「ないわね。こういうコンセプトのお店って、アタシは知らないわ」

 驚きの余り、改めて、ないない、と言い合う。

“楽しいな!!みんな初めてっていうのがいいな!”

 浮かれたらしい朱雀が羽音を立てている。

「あっ、そうだわ。せっかくだもの。冷めないうちに、いただきましょっ」

「そうっすね!!いただきますっす!!」

“なぁなぁ、コレは何だ?”

「それはっすね……」

 と、弾ける笑い声とともに、楽しいお茶の時間は過ぎて行ったのだった。


 なんだかんだと時間はあっという間に過ぎて行き、解散の時間になった。不思議の塔は、意外にもと言うと失礼かもしれないけれど、お茶もお菓子も美味しかった。ただ、店を出るときも派手に見送ってくれて、道行く人達の視線を集めてしまったのが、ちょっと恥ずかしかった。いろんな意味で不思議な店だったなぁ。

 晩ご飯は定食屋に入った。お酒を飲んだ朱雀は浮かれすぎてしまい、テーブルからは落ちなかったが、滑り落ちそうにはなっていた気配がしていた。

“今日は世話になったな!!楽しかったぞ!!”

 周りに人がいないことを確認した朱雀が姿を現した。すっげえ機嫌良さそう。

「こちらこそ、楽しかったわぁ。アタシもこの町初めてだったから、とっても嬉しかったわ!ありがとう、朱雀ちゃん」

「うっす」

「何事かはあったけど、何事も起きなくて良かったですね」

“うん。さ、ナッツを持って帰ろう。そろそろ玄武も来るはずだ”

 朱雀は悩んだ結果、玄武とは違うお土産を買いたいと言ってナッツを買っていた。それはもう、いろんな種類が入ったナッツを、一抱えくらいある紙袋に。

「あ、その前に、プレゼントがあるのよ」

 そう言ってアスカさんが、朱雀の首に組紐でできたネクタイのような物をかけた。不思議の塔に行くときにみつけた店で売っていたものだ。緑のグラデーションが美しい、その太い組紐は、ループタイのように、胸元で金メッキの留め具でとめられるように細工されている。留め具は花柄の彫が印象的な品物だ。

“おおっ………!いつの間に!!”

「よかったら、つけてね」

「この箱に入れてくださいっす!!」

 今日はあらかじめ、宝箱をバッグに入れて持って来ていた。玄武にだけプレゼントをして、朱雀にないっていうのもなぁって。組紐は、トイレに行くフリをして買って来たのだ。朱雀にバレないように。

“ありがとう!!愛用する”

 嬉しそうに胸元を見た後、ピョコピョコと跳ねる。なんか、かわいい。

“自慢する!!私も自慢する!”

“待たせたな”

 そこへちょうどよく、玄武が現れた。

“おお。玄武。どうだ、これ。いいだろう?”

“む?なかなかだな”

“そうだろう。プレゼントなんだ”

“よかったな”

 お互い頷き合って、嬉しそうにしている。こんな些細なプレゼントにこれほど喜んでくれるなんて、ほんと、なんて言ったらいいのかな。嬉しい。

“私は先に帰るから、三人を頼んだぞ”

“任せておけ”

「あ、朱雀ちゃん、これ、お土産の」

 アスカさんが慌てて差し出した紙袋を嘴で持つ。

 ありがとう、というように頭を下げた朱雀が片足を上げた。

“また”

 そう言うと朱雀は、掻き消えるようにいなくなった。

“さあ、我々も帰ろう”

「うっす。よろしくお願いしますっす!」

「あ、帰り道、あの老婦人にもらった飴玉でも食ようか。みんなで」

「いっすね!!」

 ミヤが小さな紙袋をバックから取り出した。

「玄武さんも、どうっすか?」

”飴玉か。いいな“

 飴玉といえば前回の玄武の町歩きの時のヤツ、何十個もあったけど、どうなったんだろう。既に消費してそう。いや、下手すると数日でみんなで消費しちゃった可能性が高いな。

 飴玉って、キラキラ光ってていろんな色があるから、キレイだよな。甘いから、あんまりたくさんは食べられないけど。もしかして、マミル好きかな。今度、聞いてみよう。好きそうだけど。飴玉なめながらだったら、夜の見回りも怖くなくなったりしないかな。子どもじゃないって怒られちゃうかな。怒らないか。マミル、優しいしな。あ、キレイな物が好きっていったら、ミツさんも好きそう、飴。あっ、いいんじゃね?飴玉。次に会った時、すすめてみようかなぁ。北の役所に来ないかな、仕事で。

 思考回路がどこかへ転がっていった俺がボンヤリしているうちに、ミヤが飴玉を差し出した。喜ぶかと思いきや、それまでご機嫌だった玄武の雰囲気が険しくなった。

「どうしたんっすか?」

“その飴玉はどうした?”

「もらったのよ」

“知り合いにか?”

「違うっす。助けた人にお礼だってもらったっす」

“誰か食べたか?”

「誰も食べてないわ。町歩きの時は、他の物を食べていたし」

“ならよかった。朱雀は?”

「朱雀ちゃんは、飴玉の本体自体を見てないわ」

“そうか。………食べてはいけない。それは魔力が込められている”

 玄武の一言に、その場が凍り付いた。なんとも表現のしづらい沈黙の中、俺たちは互いに視線を交わし合ったのだった。

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