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なんでもアリの異世界エトセトラ  作者: 大福満代
第二章
172/247

第五話 朱雀の町歩き 2

“城をこの角度でじっくり見るのは初めてだな”

「アタシも南のお城、初めてだわぁ。やっぱり、元々の北の城とはちょっと違うのね、デザイン」

「西と東だと、城の背景に滝が見えるんっすけどね。南はないっすもんね」

「南は境界の自然、砂漠だからかしらね。それにしても、パッと見の町の造りは、北とそっくり。水路がちょっと少ないくらいで」

「うっす」

 アスカさんとミヤの会話をバックBGMに、城をマジマジと見ているのか、前のめりになった様子の朱雀の爪の先が頭に突き刺さる。ちょっと痛い。

「あ、焚火始まってるわね。さ、朱雀ちゃん、あたりに行きましょっ」

 鼻歌交じりのアスカさんさんが、弾むような足取りで歩いて行く。

“アレが焚火か。玄武が騒いでいたんだ。栗とか芋とか焼いてるんだろう?”

「時間的には、焼くのはまだやってないかもですね」

“玄武は出来上がった物を買って食べたと言っていたから、私は焼きたい”

 何の対抗心なんだよ。

「芋とか焼いてる間、待ってないといけないですよ」

“なんだ。時間がかかるのか”

 そりゃそうだろうよ。すぐに焼けるような代物ではない。

「すぐには焼けないです」

“なら、ちょっと考える”

「ところで、暑いとか寒いとかって、あります?今から焚火にあたりますけど」

“暑さ寒さは、ある程度は感じる。バテたり、凍えたりすることはないがな。焚火の暖かさは分かると思うぞ”

 最後尾を歩きつつ頭の上の朱雀と話していると、ミヤがクルリと振り向いた。

「カツミさん。でっかい声で独り言を話してる人になってるっす」

 マジか。ヤバい。

「気を付ける」

 そうだった。朱雀は他の人には見えないし、声も聞こえないんだった。まだ人気(ひとけ)があんまりない時間帯でよかった。ふぅ。

「あったかいわぁ~」

 ご機嫌で焚火にあたっているアスカさんの隣に並ぶ。うん。確かに暖かい。

「甘酒、冷めないうちに飲みましょう」

「あっ、そうね。朱雀ちゃん、どうしようかしら?」

「俺が二つ持ちます。肩に移動すれば、そこから飲めますよね?」

“うん。飲める”

「どうぞ」

 器用に頭から肩へ移動してきた朱雀が飲みやすいように、不自然になりきらない角度で甘酒を持つ。

“うん。甘いな。これは、麹が入っているのか?”

 良く知ってるな、麹なんて。眷属からの知識なんだろうか。

「そうよ。寒い時に飲むと、温まるの。だから、冬はよく飲んだりするわ」

“そうか。季節を感じる飲み物なんだな”

 そういえばそうだな。この世界では、甘酒って冬しか見ない。元の世界では夏にも飲まれてた気がするけど。そう考えると、この世界は食べ物に季節感あるなあ。季節外れになると、見なくなる食べ物、結構、あるもんな。

 パチパチと、時折火が爆ぜる音を聞きながら甘酒を飲みつつ焚火にあたっていると、ミヤが思い出したように言った。

「ミヤビさんのとこ、顔出すっす?」

「あー………」

 どうしようかな。出したい気もするけど、ビャクと別れて寂しがっているであろうミミと会うの、気まずいなぁ。だって、俺もミヤも、ビャクと会ってるしな。月一で。

「ミヤビちゃんって、薬師見習いだったわよね?」

「うっす。ミミっていうヤモリが、いつも一緒にいるっす」

「でもさ、あそこって薬屋だぞ。町歩きで行くようなとこか?」

“知り合いがいるなら、行ってもいいぞ。北の領地から南は遠い。なかなか会うこともないだろう?”

「いいんっすか?」

“もちろんだとも”

「なら、通りかかったら行こう」

「会いたくないんっすか?」

「いや、なんつうか、ミミに会うの気まずいなぁって思って」

「どうしてよ?」

「ミミ、ビャクと仲良しだったんですよ。だから」

「あー……そうっすよねぇ」

「眷属って、あんまり出歩かないですもんね?」

“眷属は、必要以外は出歩かない。本来であれば、私たちも、こういう形で出歩くことはない”

 だよねぇ。しかも、ビャクって白虎の眷属だし。

「文通とか、できないっすか?」

“文通?”

「あの、ミミっていうヤモリが、白虎の眷属とすごく仲が良かったんです。でも、離れ離れになっちゃったんで。手紙のやり取りはできないかな、って」

 ミヤビがミミと意思疎通できるしさ。ミミの様子とかをミヤビに書いてもらって、手紙を通してやり取りする、とか。

“なるほど。気持ちは分かるが、それはなかなか難しいな”

 ……そうだよな。神様とか守護神とか、そういう存在と交流する、ってことは本来ならあり得ないことだ。俺たちはたまたま、そういう縁ができたというか、ややこしい繋がりができただけだ。

「カツミ。きっと、ミミちゃんだって分かっているわ。会えなくたって、友達だって、思ってるわよ」

「はい」

 それは分かってはいるんだけれども、それでも、ミミのことを考えると、胸が痛む。

 なんとなく気分が沈み、俯き加減になった俺の肩の上で、朱雀がバランスを取ったときだった。

「あれっ?!なんかお前、見たことあるな?!」

 焚火にあたりに来たのか、隣に走り込んできた体のデカい男が、俺の顔を覗き込んで大きな声を出した。

 はぁ?!いきなり、なんだっつうの?!

 しんみりした気分を台無しにされたようで、面白くない気分になりつつ、声の主を確認する。うわ。確かに見覚えがある。大柄な虎のような魔族の男だ。誰だっけ?

 ……あー!!コイツ、アレだ!!南の爬虫族のお家騒動の盗賊!!

「ランダ!!」

「あ、やっぱり会ったことあるよな?どこでだっけか?」

 俺たちはあの場にはいたものの、完全に蚊帳の外だったので、記憶が薄いらしい。いやむしろ、どっかで見た、って意識がよくあったよな。一言も話してないぞ、俺たち。記憶力すごいな。

 えー。正直に言った方がいいのかなぁ。思わず名前、口から出ちゃったな。誤魔化せばよかった。

 どうしようかと迷っていると、反対側にいたミヤが元気よく答えた。

「爬虫族の女王様のとこで会ったっすよ!ルタタさんと一緒に!!」

「ああ!!あのときか!!ん?でも、もう一人は違うよな?あの時も三人でいたけどさ」

 マジで、よく覚えてんな、コイツ!!

「うっす!!こちらは、俺たちの働いてる居酒屋の店主のアスカさんっす!!!俺はミヤで、ランダさんの隣の人は、カツミさんっす!」

「初めまして。よろしくねっ」

「おお。俺はランダだ。よろしく頼む。っつーか、二人とも話すのは初めてだよな?」

「そうですね」

「うっす!!ルタタさんは、元気っすか?」

「元気なんてもんじゃねぇよ。アイツ、人使い荒いな!!」

 苦笑いで言うけれど、その口調は笑いが含まれていて、顔にも笑みが浮かんでいる。上手くやってるっぽいな。

「タチモナさんは?」

「お久しぶりです。元気ですよ」

 タイミングよく、ランダの後ろから声がする。

「待ち合わせしてたんだよ。たまに、仕事の前に顔合わせてんだ、俺たち」

「そうなんですよ。その節は大変ご迷惑をおかけしました」

「あ、いえ」

 謝られるのも、なんとなく居心地が悪くて、ゴニョゴニョと言葉を濁す。

「お元気そうで、なによりっす!!今、タチモナさんはどうしてるっすか?」

「はい。私はルタタ様の紹介で、この町の警備隊として働かせてもらっています」

 そうなのか。そうか。近衛だったし、腕も立つ。本来は生真面目な人なんだろうから、向いてるかもなぁ。あれ?でも。

「大丈夫ですか?寒さ」

 爬虫族は寒さに極端に弱いはず。村だって、集落ごとドームみたいな透明な膜で覆ってしまうくらいの種族だ。いくら南が暖かい土地とはいえ、ドームもないところでの寒さは堪えるんじゃないか。

「大丈夫です。厚着もしていますし、防寒対策もしっかりしています」

「そうですか。………南って、今、どんな感じですか?」

 世界が修正されてから南に来たのは初めてだし、せっかくなので、聞いてみる。北では異世界人が魔族になる、っていう出来事が起きていた。南ではどうだろう。何か気になることとか、変化があったりするんだろうか。

「どんな感じってか?そうだなぁ。なんか、活発になってきてるな、何かが」

「何かが?」

「俺の気のせいならいいけどよ。なーんか、今まで裏で蠢いてたようなモンが、活発化してきてるような気配がすんだよなぁ」

「あんまり良くないことが起きてるってことですか?」

「いや、起きてるわけじゃない。ただ、なんつーの?例えば酒場とかさ。あるじゃん、雰囲気とかさ。酔っ払いの威勢が良すぎるな、って思うことが多かったりな。お前、飲みに行ったりしないか?そういうとき、感じたりしない?」

 そう言われても、そもそもあまり外に飲みに行ったりしないしな。でもまあ、職場は居酒屋だ。思い返してみるけれど、ここ数ヶ月の天晴れは忙し過ぎて、些細なことは見逃しているのか、そんな客は来ていないのか。前とは確実に客層は違うけれど、それは野次馬のせいだと思うし、俺には分からない。

 首を傾げつつ考えていると、アスカさんが話を引き継いだ。

「うーん。アタシ、居酒屋やってるんだけどね。お店では分からないわねぇ。けど、町を改めて歩いてみたら、なんとなくザワついてるような感じはしたわね」

「だろう?ザワついてる、そんな感じだな。明確に何かが起きてるわけじゃねぇのよ。活気がある、と言えば聞こえはいいが、同じようにマイナスの方面も活気づいてる気がすんだよなぁ」

「ランダ。私はもう時間だから行く。それでは、いつかまた」

 話は途中だったけど、タチモナさんはそう言って、俺たちに会釈をして行ってしまった。

「あ、俺ももう行かなきゃな。じゃあな」

 そう言ってランダも去って行ってしまった。はっや。あっという間にいなくなった。でも、仕事の時間なんだろうから、仕方ないよな。

「さ、朝ご飯にしましょうっす!!」

 ランダ達も行ってしまったし、今の会話はとりあえず置いておくことにしたらしい。ベンチへと向かいつつ手招きをしたミヤに誘導され、俺たちは朝ご飯を食べることになった。


 焚火の近くのベンチに座って、ミヤが買って来た朝ご飯を広げる。アボカドと目玉焼き入りのサンドイッチに、ホットドックみたいなヤツ、それから。

「あれ、これってフルーツ入りのロールケーキ?」

「うっす。なんか売ってたんすよ。この時期、北では生のフルーツ入りってあんまり見ないし、いいかなと思って」

“なにっ。北ではこの時期は食べられないのか?なら、玄武は食べてないな?”

「そうっすね。玄武さんは食べてないっす」

“よしよし”

 朱雀の満足気な声と共に肩がふっと軽くなる。食事の為に、パンを広げているベンチに移動したようだ。どうでもいいけど、子どもみたいな対抗心燃やしてんな。どんだけ自慢したんだ、玄武。

 アスカさんが朱雀にサンドイッチの説明をしている間、さっきのランダとのやり取りを思い出す。あの話しぶりだと、ただただ一方的にマイナスのモノが大きくなってきてる、って感じではなかったな。プラスもマイナスも、って感じだった。ってことは、やっぱり、世界の歪みが修正されて、光が強くなる分、闇も濃くなる、みたいなのがジンワリと出てきてるってことかなぁ。明確ってわけではなさそうだったもんな。

「カツミ、ぼんやりしてないでアンタも食べなさいよ!」

 アスカさんの声にハッとする。慌ててベンチを見ると、もうみんな食べ始めていた。

“どれも美味いな。私はこの、フルーツの入ってるのがいいな”

 無邪気にはしゃいでいる朱雀の声を聞きつつ、ホットドックを手に取る。一口かじると、ふんわりと柔らかいパンに包まれたソーセージが、パリ、と音をさせた。美味しい。肉の味がしっかりしてて、ハーブやスパイスがきいているので、ケチャップとかマスタードが欲しいと思わない。

「美味しい」

「うっす!!」

「なんかまた、変なことでも考えてたんでしょ。どっかイッてたわよ、目が」

「怪しい人みたいに言わないでください」

「怪しくないわよ。変な人よね」

「違います。……さっき、ランダと話していたことが気になって」

“ああ。我らも目覚めたし、世界も修正された。多少のことはあるだろう”

 なんと、朱雀が率先して疑問に答えてくれそうだ。

「そうなんですか?でも、よくないモノも活性化してそうだって」

“あるだろうな。世の中というのはバランスだ。清いだけでは生きられない。濁ったモノだけでは生きられない。どちらも必要なんだ。無理があれば、歪みが生じる。その歪みが、世界を傾ける”

「でもそれで、世の中がおかしくなっていくことはないんですか?」

“ないとは言い切れない。我らもできることはするが、生きている者たちが全力で歪みを大きくする方向へ向かってしまえば、成す術がないこともある”

 それは、以前の世界のことなのだろうか。滅んでしまったっていう。

「そういうものですか」

“我らにも、できることとできないことがある。そういうものなのだ”

 確かに、全知全能、なんでもできる、という訳ではないことは、四神にも魔王にも感じていたことだ。どちらかというと、世界のバランスをとるための要というか、そんな存在だな、って。

「さ、せっかくの朱雀ちゃんの町歩きよ。お仕事の話はなし、なし。楽しいこと、しましょっ。そろそろ店も開いて来たし、朱雀ちゃんはなにがしたい?」

 アスカさんの言葉で我に返る。あ。そうだったよな。朱雀、今日はものすごくものすごく楽しみにしてた町歩きだった。それなのに、余計なことを聞いてしまったな。

「すみません」

“気にすることはない。まだまだ時間はたっぷりある”

「そうよ!!アタシも初めてだもの、南の中心町。どこへ行こうかしらねっ」

「うっす。まずは、露店でも冷やかすのはどうっすか?」

“露店?店がいっぱいあるところだったな?”

「そうっす!!いろーんな店があるっすから、見てるだけでも楽しいっすよ!!」

“それはいいな!町歩きっぽいな!!”

「さっき、栗とか芋とか焼いてみたいって言ってましたよね?」

「おっ!いっすね!焼くっすか?」

“いや、カツミが時間がかかるって言っていたから、やめておこうかと思ってな”

「時間はかかるけど、やりたかったらやってもいいのよ」

“うむ。まずは、歩きながら考えよう。カツミ、頭借りるぞ”

 そう言って朱雀がまた、俺の頭にとまった。

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