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なんでもアリの異世界エトセトラ  作者: 大福満代
第二章
166/247

第三話 玄武の町歩き 3

 カランコロン。

 町歩きの次の日。遅めに起きて三人で朝兼お昼ご飯を食べていると、魔王がやってきた。なんとなく、来るような気はしていた。なんとなく。

「昨日はずいぶん楽しかったそうだな」

「うっす!!楽しかったっす!!」

「玄武が大はしゃぎで、朝まで話に付き合わされた」

「朝まで起きてたんなら、ゆっくり寝ててくださいよ」

「次の予定を話そうかと思って来たんだ」

「そうなんですか」

「うむ。玄武の町歩きがどうなるか、分からんかったからな。問題があるようならば考えねばならん。だが、大成功だったようだし、他の四神もソワソワし始めてな」

「よかったわぁ。ちょっと待ってて。今、ウオマさんのコーヒー淹れてくるわね」

「ありがとう、アスカ君」

「あ、そういえば今月のメンテナンスってどうなるんですか?」

「来週の定休日ということで予定をしていて欲しい」

「うっす!!」

「来月は、誰なんですか?」

「知らん。揉めてるから、勝手にしろと言って出てきた」

 まさか、朝まで話した後、そのまま揉めてるんじゃないだろうな。……ありえる。

「そんなに楽しみなのねぇ」

「そうだな。前の世界では町歩きはしたことがなかったんだそうだ」

 それが本来の姿なんじゃ。

「まだ揉めてるんなら、どうやって次の予定を話し合うんですか」

「ひとまず、来月も頼むと言いに来た」

 ……そうですか。

「ところでウオマさん、残ったおこづかいなんだけどね」

「ああ、玄武から聞いている。ワシに手土産を持たせてくれるんだろう?」

「ほんとに、それでいいのかしら?」

「うむ。早速今日、持たせてもらえると、アイツらも喜ぶだろう」

「なら、これから作るから、ちょっと時間もらえるかしら?」

「うむ。すまないな」

「いえいえそんな。でも、来月はもっと少なく持たせてちょうだいね」

「承知した」

「揉めてる四神、どうするんですか?」

「ワシが帰るまでもめてたら、ジャンケンでもさせる」

「……ジャンケンできます?」

「……できなそうだな」

 ダメだこりゃ。

「あ、玄武が指相撲教わって来いとか言ってたな」

 本気だったのか、玄武。

「それで揉めてる四神の決着はつけられないですよ」

「いい。後で、アスカ君の料理を待っているときにでも、教えてくれ」

「うっす!!簡単っすよ!!」

「そうか。ところでな」

「?はい」

「ミヤ君、異変はないか?」

「俺っすか?」

 ミヤがキョトンとした顔で聞き返す。なんだ?

「うむ。どうだ?」

「なんともないっす!!ピンピンっすよ!!」

「そうか。ならよかった。アスカ君、ちょっと」

 ミヤをシゲシゲと見つめた後、席を立ってアスカさんに手招きをし、カウンターの方でコソコソと二人で話し始めた。

 その様子から視線を窓の外に移したミヤが、ちょっと嬉しそうに言った。

「あ、雪っすね」

「ほんとだ」

 とうとう今年も初雪が降った。チラチラと空から降ってくる雪を見上げて、凍える冬を思う。一昨年が、この世界で迎える、初めての冬だった。去年は雪の時期は北の領地にいなかったから、俺にとって、二回目の雪国での冬だ。

 ……そうか。一昨日、ミヤが魔力を浴びて、その魔力が昨日まで残っていたから、魔王、確認の為に来たのか。魔力って、そんなに危ないものなのか?魔王がミヤの魔力を抜くまで、半日経ってなかったと思うけど。

 いや、でもそういえば。

 ふとイチカのことが思い出された。サナさんに暗示をかけられ、約一年、魔力が体内にあったらしいイチカ。暗示が作動した後に、意識不明になったんだった。アレは確か、魔力が暗示として体内にあったから、それが作動することによって、それまで眠っていたような魔力が体内に回りだしたんだったよな。でも、体の中で一年間、魔力が眠っていたことには変わりはない。

 もしかして、人間の体に残る魔力って、それだけ危険なものなのか?

 魔力を物理的にぶつけられたことはあるけど、体内に残留するような形で浴びたことがない俺は、よく分からない。

 そもそも、魔力を浴びたとして、それが残留しているかどうかは人間には分からないし。魔族にしても、魔力の残留なんて、簡単に分かるものなのか?

 考えてみると、天晴れで店員やって約一年半、この世界の領地を旅して一年、酔っぱらったとはいえ、あんなふうな形で魔力を浴びせてきた魔族は、カクチナさんが初めてだ。ルルナは物理攻撃だったもんな。

 頭の中に第三の目がチラチラする。

 前にお世話になった時は全然そんな感じじゃなかったけど、要注意人物なのか?

 気のせいだろうか?考えすぎだろうか。けれど、気を付けるに越したことはないよな。

「ミヤ。気を付けような」

「なにがっすか?」

 不思議そうに首を傾げたミヤに、大きく頷く。

「いろいろだ」

「うっす」

 大真面目に言った俺に呼応するように、ニコニコと頷く。

 ミヤは、この世界で普通の人として生きていける、今までと同じように生活できる、帰る家がある、家族がいる、ってことに、ものすごく安堵感があるらしく、考えてみると、以前あったような警戒心が少し薄くなっているような感じはする。

 俺がしっかりしなくちゃ。いつもいつも、助けられてきたんだし。

 心の中で気を引き締めていると、アスカさんが呆れたように俺の肩を叩いた。

「どうしたんですか?」

「ウオマさんが傷付いてるから、慰めてあげなさいよ」

「は?」

 なんで俺が。

「アンタ昨日、玄武ちゃんにアクセサリーの贈り物したでしょ。ウオマさん、自分はもらったことないし、アンタに嫌われてるんじゃないかって、落ち込んでるわよ」

 なんだよ?!ミヤのこと心配して、アスカさんと話してたんじゃないのかよ?!

 カウンターに座って、わざとらしく肩を落とした魔王が、俯き加減にこちらを窺っている。

「そうだって言ったら、どうするんですか?」

「ワシは今日から寝込む。後はよろしく頼んだ」

 待って待って待って待って待って!!!

「嘘です、冗談ですよ!!大体、どうしてそんなことで嫌われてると思うんですか?」

「カツミ君、なぜかワシにだけ塩対応だから」

 心当たり、ないとは言わせないぞ!!

「玄武もかなりの塩対応だと思いますけど」

「あれ?そういえば、ワシに冷たいのって、カツミ君だけじゃないな。四天王も口うるさいしな」

 分かる!!四天王が口うるさくなる理由、分かる!!その件について、俺、四天王とお茶飲みながら話したいくらいだ!!しないけど!!

「そうでしょう」

「うむ。言われてみるとそうだったな」

「ほら、取り越し苦労だって言ったじゃないのっ」

 ほんとだよ!!変な風にカクチナさんを勘ぐっちゃっただろ!!!この魔王!!思わせぶりな行動すんなよ!!

「俺に嫌われてるかもしれないと思ったら、直接聞いてください。大丈夫ですから」

「そうか!!カツミ君はワシのことが好きだよな!!そうだな!!うん。今日もアスカ君のコーヒーは、すこぶる美味いな!!」

 上機嫌でテーブルに戻ってきてコーヒーを飲みだした。なんなの、この魔王。

「じゃあアタシ、お料理作ってくるわね」

「うむ。頼んだぞ」

「俺、手伝うっすよ」

「いいわよ。ウオマさんとお話ししてて。カツミがまた、ウオマさんに冷たくするとかわいそうだから」

「理由がなければ、冷たくなんてしませんよ!」

「はいはい」

「なら、指相撲でもしてましょうっす!!」

「うむ!そうしよう!!」

 そうして俺たちは、三人で指相撲をしたのだ。思わぬ形で白熱したのは、負け続けの魔王がムキになったからだった。ゲーム、弱すぎるよな、魔王。


「何しに来たんでしょうね、魔王」

 結局、アスカさんの料理が出来上がるまで指相撲をして遊んでしまった。魔王は新しい遊びを覚えて、ご機嫌で帰って行ったけど、誰と指相撲する気なんだろう。眷属は断固として付き合わなそうだけど……四神にお願いされたらしそうではあるな。でもやっぱ、四天王かな。犠牲になるの。

 かわいそうな役回りの四天王に同情しつつ、薄っすら雪化粧の外を見る。この雪はまだ根雪にはならないだろう。けれど、少しずつ少しずつ雪が降る日が増えてきて、それに比例するるように冷え込んでいって、そして、いつの間にかすっかり町は雪に覆われてしまうのだ。

「何って、カツミの愛情を確かめに来たんじゃないの」

「アスカさん」

「これに懲りて、あんまり塩対応しないのよ」

「そんなに塩対応ですかね?」

「そうね。カツミとは思えないくらいの塩対応よね」

「そうっすよね。カツミさん、ウオマさんには常に塩対応っすよね」

「……気を付けます」

「そうね。それにしても、来月、アタシ、初の北の領地外へのお出かけね。何着て行こうかしら」

「そうっすよね!!この町よりは、どこも暖かいとは思うっすけど、十二月だし厚着で行った方がいっすよね」

「暑くなったら、脱げばいいんだものね」

「っす。まずは、中心町からっすよね、きっと」

「そうだよな。玄武が中心町を散歩したんだし、他の四神も、そっからスタートだよな」

「町の中が分かるのって、どこっすかね」

「一番歩いたのは南だよな」

 巻き寿司の材料、探して歩いたしな。

「でも、西も、南の許可が下りるまで、いたっすよね。しかも、美味しい定食屋があったっすよね」

「あったあった!!あそこ、いいよな。豪快って店だっけ?西だったら、あそこでご飯食べよう」

「そうっすね。アスカさん、どこか見てみたいとことかあるっすか?」

「他の領地のことは全然分からないから、どこに行っても楽しいと思うわ。諦めてたもの。だから、嬉しいのよ。すごく」

「あ、そういえば、来月の臨時休業は町にもいないから、ツタに一日いないって話しておかないとマズイですよね」

「昨日、アンタたちが銭湯に行ってる間に、話してきたから大丈夫よ」

 さすが。

「なら、大丈夫っすね!あ~楽しみっす!!誰っすかね?」

「当日にならないと分からないかもっていうのが、なかなかだよな」

 結局、来月は時間を決めて、城壁の外で玄武と待ち合わせということになったのだ。しかも、すんごい早朝。

「考えてみると、青龍だけは、俺たち、直接、接触したことないな」

「そうっすね。世界の歪みが修正されるときに見ただけっすよね」

「でかかったな、青龍」

 上空でとんでもない大きさになった青龍を思い出す。

「アンタたち、他の四神とは直接会ってるものね。アタシ、直接会ったのは、リウと玄武ちゃんだけだわ」

「いやでも、普通は会わないものですから」

 魔王とも四神とも眷属とも四天王とも。

「……そうよね。アンタたちと一緒にいるから、アタシもそういう機会があるだけよね」

「俺たちも、不可抗力ですよ」

 元はと言えば、望まない異能を持ったせいだ。

「それはそうっすけど、滅多に出来ない貴重な経験ができてると思えば、いいっすよね!」

「物は言いようだ。確かにそうだな」

「そうよねぇ。面白いわよね、ほんと」

 カランコロン。

 とかなんとか言っていると、扉が開いた。時刻はもうすぐ夕方になる。誰だろう?

 そう思いつつ振り向くと、コウジが立っていた。

「コウジ!!」

「よお」

「あら、いらっしゃい~。こっち来て座りなさいな。寒かったでしょ」

「俺、お茶淹れてくるっす!!」

 そう言ってミヤが素早くカマド部屋へ消えた。

「味噌と豆腐、持ってきた」

 背負子を床に置き、括り付けている箱から豆腐と味噌を出す。

「ありがとう。そろそろお味噌、なくなりそうだったのよ~」

「よかった」

「お豆腐、保冷庫に入れてくるわ。早速、明日、新メニューを作るわよ」

 張り切ったアスカさんが豆腐を運んでいく。

「コウジ、調子はどうだ?」

「うん。大丈夫だ。カツミ、いつまでそれを聞くんだよ」

 呆れたように笑う。コウジが魔王の魔力を仲介して意識を失ってから約半年。鋼鉄製の手が柔らかくなってしまったこと以外は、今のところおかしいところはないと言うが、やっぱり気になって、顔を見るたびに聞いてしまう。

「なんか、聞いちゃうんだよ」

「もう、大丈夫だって。こっちに来るたびに、治療院にも行ってるし」

「うん」

 コウジは今、月に一回くらいの頻度で豆腐を店に卸しに来てくれるけれど、そのときに、念の為、治療院で検査をしてもらっている。今のところ、どこもなんともない。

「カツミはね、心配性なのよね」

「そうっすよね」

「その割に、ウオマさんに塩対応だけどなぁ。ほんとだったら、一番気を使うだろうに」

 出た、魔王。冷たくなり過ぎないようには気を付けようとは思ってるけれども。

「いいんだ、魔王は」

「頑固だな」

「だって、コウジ、あの時一緒にいただろ!」

 サナさんの謀反の時に、一緒に行動していたコウジに訴える。

「まあ、言いたいことは分かるけど。俺にはカツミみたいな対応はできないな」

 苦笑いの返答に頷いた。俺と同じ対応をしてくれ、とはさすがに思ってない。

「アスカさん、新メニューって、なにするんですか?」

「あら、誤魔化したわね。ま、いいわ。油揚げなんかどうかなって思ってるわ」

「いっすね!美味しいっすよね!」

「揚げ物、人気あるしね」

「油揚げと豆腐が同じだって言ったら、ビックリされそうっすよね」

「言えてる」

 同じモノには見えないもんな。

「まだ、混雑してるのか?店」

「相変わらずよ~。でも、アタシの予想だと、年内にはこの騒ぎは終了するわね」

「どうしてっすか?」

「雪が降るからよ~」

 ホホホ、と高笑いで言うアスカさん。高笑いするほどのことか?

「なんで雪が降ると、騒ぎが終わるんですか?」

「寒いからよ!!」

「そんな」

「考えてもみなさい、雪が積もって足元悪くて寒いときに、わざわざ北の領地の中心町に、アンタたち二人の見物に来ると思う?だって、アンタたちがなにか特別なことができるわけじゃないって、知れ渡ってるのよ?」

 言われてみると。

「ただの青年二人の見物に、雪が降る寒い中、押しかける人なんて、いないわよ~」

「あ、そしたら、今年は年末、みんなで忘年会なんてどうっすか?」

「いいわね!久しぶりにみんなで集まりたいわね!!」

「コウジさんも、どうっすか?村長さんも一緒に」

「え……いいのか?村長も?」

「いいわよ~。宿は自分たちでとってもらうことになるけど」

「いや、それはもちろんだけど」

「なら、連れていらっしゃいな。せっかくだもの。豆腐を作る設備も、来年辺り、大きくする計画してるのよね?」

「う……まあ」

「なら、その話しもしたいし。せっかくたくさん作るんだし、どういうとこに卸したいか、とかね」

「この店で、窓口になってくれるんですか?」

「もちろんよ。カツミがエルフに卸したがっているしね。カツミ、エルフに会いたいのよねッ」

「誤解です。コウジ、本気にするなよ」

「なによ。カツミ、やたらエルフに思い入れがあるじゃないのよ」

「だって、エルフに豆腐食べさせたら面白そうじゃないですか。絶対、食べたことないですよ」

「分かるけどな」

「だろ?!」

「ハンリーアルさん、食べるかしらね」

「バーニャカウダは気に入ってたみたいですけど」

「あ、ごめん。俺、治療院の予約入ってるんだ。また来る」

 コウジが時計を見て慌てて立ち上がった。

「うん。また」

「忘年会の詳細が決まったら、連絡するわ」

「よろしくです」

 そう言ってコウジは店を出て行った。

 カランコロン。

「今日は来客があるわね。ま、でもそろそろ明日の仕込み始めようかしら」

「うっす」

「二日休んだし、気合い入れないと」

「あら、頼もしいわね~」

 その日はそれ以上の来客はなく、のんびりと過ごせたのだった。


「え、肉まん?」

 次の日、お昼ご飯の時間帯が終わった頃に、珍しくジンが店に来た。飲みに来たわけでもなく、自分の店の営業もある昼間に来ることは珍しいので、どうしたのだろうと思ったら、バリスに出した肉まんが気になって来たらしい。

「うん。バリスが昨日、お店に来てくれたんだけど、肉まんがすごく美味しかった、って言ってたんだ。フワフワの皮の中に、挽肉をこねた具が入ってたって」

「そうね。でも、あんまり馴染みがないのもあって出ないのよ。だから、しばらくは作る予定はなかったんだけど」

「そっか。残念」

「ジン、食べてみたかったのか?」

「うん。今、メニューを増やそうと考えているんだけど、悩んでてね。ウチはケバブが主流だから、品数を増やし過ぎるわけにもいかないし。それに、夜は遅くまでは営業しないから、居酒屋風にもできないし」

「うん」

「そうすると、ケバブみたいに気軽に食べられる物がいいなって考えてたんだけど、なかなか難しくてね」

 確かに。屋台に巻き寿司を出そうとして、だいぶ試行錯誤したけど、その店に合った物って、なかなか難しいよな。業務形態もあるし。厨房だって、設備に限度があるし。

「そうよねぇ。ケバブが主力なんだもの、そこがブレるわけにはいかないわよね」

「うん。とりあえず、ヨーグルトとニンニクを使ったドレッシングで、サラダを出そう、ってことにはなったんだけど」

「いっすね~!!何にかけても、美味しそうっすもん」

「そうなんだ。意外に、なんにでも合うんだよね」

「ケバブの合間につまむのも、いいよな」

「うん。でさ、肉まんのことを聞いて、もしかしていいかもって思って。アスカさんが都合のいい時に、教えてもらえないかな?試作品で終わってしまうかもしれないけど」

「いいわよ。天晴れでは合わないかな、って思ってたし」

「じゃあ、都合のいいときに、お願いします」

「オッケー」

 すると、ミヤがモジモジしつつ口を開いた。珍しいな、ミヤがモジモジするなんて。

「あの、ジンさんとこって、結構大きい保冷庫、あるっすよね?」

「うん?あるよ。生肉を扱うからね」

「あのっす。デザートとして、アイスなんてどうっすかね?」

 ミヤ、アイス好きだな!!確か、コウジの村に行ったときに、その話しになったな!!

「あっ!!コウジ君の村で話してた、冷たいデザートのこと?」

「そうっす!!いいと思うんすよ。保冷庫があるなら、保存も可能だし。それに、氷がいつもある店なら、夏でも作れるはずっす」

「でも俺、食べたことないんだよ。どんな物かも分からないし」

 この世界にはアイス、ないっぽいもんな。

「俺、雪が積もったら、作るっす!!」

「そういえば、旅が終わって冬になったら、ミヤ君が作ってくれるって約束だったっけね」

「うっす!!」

「なら、お願いしようかな。もし、ウチの店でできそうだったら、やってもいいの?」

「もちろんっす!!」

 ミヤが嬉しそうに笑う。

「シャーベットとか、食後に絶対、いいっす。もしくは、店頭でさっと食べたり、町歩きで食べたりとか!」

 なるほど。玄武も喜びそう。その前に、ケバブ屋の常連の魔王が喜びそう。

「楽しみにしてるよ。よろしくお願いします」

「は~い」

「うっす!」

 俺も手伝おうっと。

 新商品開発とかの手助けはできないけど、手伝いはできるもんな。こういうのも、いいな。ミヤとロムと巻き寿司の試作品作ってた時も、楽しかったもんな。大変だったけど。でも、いろんなアイディアを出し合って、ああでもないこうでもないって、試作を作るのは楽しかった。

 早く根雪にならないっすかねぇとか言っているミヤは微笑ましいが、個人的には雪は遅い方がいい。雪が降る領地に住んでいるが、やっぱり雪はそんなに好きじゃない。寒いし濡れるし冷たいし。とは思うものの、試作品作りの日を心待ちにしてしまうな。

 それにしても、最近、やたら営業時間外に来客があるな。でもま、仕方ないのか。だって、俺たちに用があっても、店が開いている時間帯は混んでて入れないんだもんな。前は、営業中も気軽に話したりとかできたんだけどなぁ。暇な日もあったし。

 重なるときって、いろいろ重なるんだよな。いらんことも重ならないといいけど。

 四神の町歩きを皮切りに、なんだかまた、ちょっと周辺が慌ただしくなってきたような気がしないでもない。

 少し不安になりつつ、寒空の外を窓越しに眺める。道を行き交う人達は、寒そうに首をすくめて、足早に通り過ぎていく。

 でもまあ、なるようにしかならないよな。無意味に不安になるのは、よそう。

 お店については、アスカさんの予想が正しければ、年内にこの忙しさは終わるし。実際、きもーちだけ、お客さんが減って来てるような気がしないでもない。頑張って、乗り切ろう。

「カツミさん、カツミさん!」

「え、あ、なに?」

「肉まんの試作、次の次の定休日でどうかなって話になったんっすけど、いっすか?」

 俺がぼんやりと窓の外を見ている間に、ジンと日程の話を進めていたらしい。ミヤの声で我に返る。

「あ、もちろん」

「デートの予定とか、ないの?」

「あるわけないです」

 分かってて言ってるな、アスカさん。

「アスカさんこそ、イッちゃんさんとデートはいいんですか?」

「いいわよ~。だって、アタシたちはラブラブだし、いつでも会う約束なんて、できるもの」

「へいへい」

「ごちそうさまっす!」

 ふてくされて返事をする俺と、元気に返事をするミヤを見て、ジンがニコニコしている。

 ジンは、電撃結婚だったな、考えてみると。出会ってから結婚までが早かった。

「ジン、カシメルとの結婚、何が決め手だったの?」

 二人がなんとなく惹かれ合っていたのは、ドワーフの里にいたときに分かっていたけれど、一気に結婚までいくとは想像もしてなかった。

「カツミ……それを聞いたからと言って、アンタが突然恋に落ちて結婚、なんてことにはならないわよ。もちろん、いきなりモテたりするわけでもないわよ」

「分かってますよ!参考までに聞きたいだけですよ!」

「参考までに、ねぇ。参考にできるのかしらね」

 ふーん、とニヤニヤしている。で、できるかもしれないでしょ!!

「そうだね。何が決め手ってわけではないけど、なにかがあったんだろうね。言葉で表現するのは難しいな。ごめん」

 そんな俺たちのやり取りにも動じることなく、考え考え、ジンが答える。

 ジンは、独身時代もモテていたような気配はある。実際、アスカさんが橋渡しを頼まれていたのを見たこともある。けれど、ジンはそういうのには一切興味なさそうにしていた。モテないわけじゃない。なのに、結婚どころか恋愛にすら興味がない男。

 その男が結婚を決めるような何かがあった、ってことだよな。

「縁ってヤツっすかね」

「そうだね。縁というものかもしれないね」

 なんだかよく分からない。分からないからモテないのか、モテないから分からないのかは不明だけれど、そういう機微は、俺には分からないのだろうか。野暮天って言われてるし。もしくは、まだそういう相手と出会っていないか。

「アンタね、まだ相手と出会ってない、とかじゃなかったりするのよ。出会っていても、何かの拍子に噛み合うことだってあるのよ」

「へ?」

 なんで考えてることが分かったの?また顔に出てたの?口か?ってか、何かの拍子に噛み合うって、なに?

「ほんとに野暮な子よねぇ。まだまだだわ、これは」

「……そんな感じがします」

 恋愛の機微が分からない。憧れはあるのに、よく分からない。トウカさんのような情熱的な恋がしたいわけではない。じゃあ俺は、どんな恋がしたいんだ?過去の恋愛を振り返ってみても、やっぱりなんか、あやふやだ。

「うーん?」

 自問自答しているうちに混乱して頭を抱えた俺を見て、三人が笑う。

「いいじゃないっすか、カツミさん!!楽しいことがあるなら、それで今はいいんっすよ!」

「……うん。そんな気がしてきた」

「カツミの大恋愛は、まだ見られそうもないわね」

 アスカさんが残念そうにため息をついて、冷めてしまったコーヒーを飲んだ。

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