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なんでもアリの異世界エトセトラ  作者: 大福満代
第一章
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第二話 どこでも恋愛はこじれる可能性がある 6

 カランコロン。

「いらっしゃいませっす~」

 この時間からのお客さんは珍しい。扉へ視線を動かそうとしたとき、店の奥から大きな音がした。

「なんでなのおおおおおお!!!」

 倒れていく椅子。隣に座っていたオヤジさんが手を出したけど、間に合わなかった。

 立ち上がったトウカさんの被害を受けて倒れた椅子が派手な音をたてる。トウカさんの視線の先には、今入ってきたカップル。

「うわっ!」

 男の方が短く叫ぶ。

「何で、私、フラれたの?その女の人、誰?」

 トウカさんが覚束ない足取りで二人に近寄っていく。

 もしかして、トウカさんの元彼?しかも、新しい彼女連れ?!修羅場ってヤツ!?

「トウカさん」

 余計なお世話かと思いつつ、慌てて追いかけて、間に入ってトウカさんを止める。

「邪魔しないでよ!」

 バチン、という音がして、左の頬に平手が入る。最近、なんなの。人生で一番、女の人に殴られてるんだけど。

「トウカ!話は終わっただろう」

 男の人が妙に冷静に言う。

 さすがに俺でもわかる。その言葉、火に油だろ!!

 一瞬凍りついたトウカさんだったが、唇をかみしめて拳を握り、顔を上げる。

「あんな一方的な話しで、すぐに割り切ることなんて、出来ないわよ!!」

 俺をグイグイと押しながら、トウカさんが叫ぶ。ヤバい。ヘタレの俺じゃ、勢いに押される。ミヤ!ミヤは!?

 必死にミヤを探すと、俺と背中合わせに立って、トウカさんに押されそうな俺の背中を止めようとしていた。

「どうしてなの!なんでなの、どうして女の人と一緒なのよおおおお」

 暴れるトウカさんの拳が容赦なく俺に入る。

 女の人の力とはいえ、軟弱な俺には結構痛い。でも、ここで止めないと、きっとトウカさん、後ですごく後悔する。絶対に。

 失恋の痛手が癒えてないのに、元彼のデート現場に遭遇なんて、それだけでも辛いのに、そのデート中に何かしてしまったら、とんでもなく後悔する。

 しかも今は、完全な酔っ払いだ。シラフならともかく、酔っ払って勢いでやることなんて、ロクなことないんだよ。

「トウカ、お店に迷惑だよ」

 元彼、正論!正論だけど、今は正論を振りかざしてる場合じゃないでしょ!そして、彼女が暴れてるのは、明らかにアンタのせいでしょうよ!!

 暴れるトウカさんを必死に止める俺とミヤ。テーブルにはまだ洗い物があるし、お皿を割ったりして怪我をしたら、大変だ。

「そうです!簡単に割り切ることなんて、出来ないです!」

 今度は、カウンターから声がとんだ。

 なんなの、今度は!もう十分、手一杯なんですけど!やめてくれる!?

 カウンター席で帽子を深く被ったまま一人で飲んでいた、小柄な男が立ち上がって叫び、

「好きです!!ティルさん!」

 突然の騒ぎに涙も止まり、中腰になっていたティルに走って行って、抱きつこうとした。

 わー!俺もミヤもトウカさんで手一杯だし、他は呆気にとられてるし、間に合わない!

駆け付けようとしたが、焦って足元がもつれる。すると、

「あらぁ情熱的ねぇ~。嬉しいわぁ~」

 場にそぐわない、呑気な声が響いた。

「でもアタシ、イッちゃん一筋だから、ごめんなさいねっ」

 いつの間にかカマド部屋から出て来ていたアスカさんが、ガッチリと帽子の男を抱きしめていた。

「離せ!」

 暴れた拍子に、帽子がズレる。

「あっ……アンタ……!」

「なになに?知り合いなのぉ~?」

「離せって言ってるだろ!」

 帽子の男が暴れるが、ガッチリと男を掴んだアスカさんは、ビクともしない。さすが……、マッチョ。ゴリゴリの。

「知り合いというか。どんなに断っても私につきまとって……度を越し過ぎたのが原因で、警備隊の監視下で今は仕事してる、はず」

「覚えててくれたんですね!!」

「今の今まで、忘れてたわよ……思い出したくもなかったわよ!」

「忘れてたな」

「いたね、そんなヤツ」

「一体、どうやって警備隊の目を盗んで来たのよ」

「愛の力です!!」

「また、ボッコボコになりたいのかい?」

 男の言葉にオヤジさんとジンが立ち上がった。カオス!カオスだよ!!

 トウカさんも暴れてるし、もうこれ、どうやって収拾つければいいんだよ!!

 いっぱいいっぱいでいると、帽子の男をガッシリと掴んだまま、アスカさんがウィンクしつつカップルに言った。

「ごめんなさいねぇ。今日は、カンバンよぉ。また、いらしてね」

 そう言われて、トウカさんにチラリと視線を投げつつ、カップルは黙って出て行った。

 カランコロン。

 扉の音が聞こえると、トウカさんが暴れるのをやめて、座り込んだ。

「わああああああん!!」

 とりあえず、怪我しなくてよかった。

 一気に力が抜けた俺の後ろから、今度はミヤが叫んだ。

「その帽子の人、この間の騒ぎのとき、いたっす。俺にぶつかった人と、背格好がソックリっす!」

 なんだと!!つまりは、コイツのせいで俺は痴漢呼ばわりされたのか?!

「あらまっ」

「この前の痴漢、アンタだったの!?」

「痴漢だなんて。愛情表現ですよ~。泣き顔も、かわいいですね~」

 あまりな急展開に涙が引っ込んだのはいいが、グシャグシャの顔のままで、嫌悪感をあらわにしたティルが叫ぶ。

 ティルに話しかけられたのが嬉しいのか、とんでもないことを笑顔で言い放つ男。何が愛情表現だ。代わりに殴られたの、俺だぞ!しかも。

「キモ」

 うん、キモ……ん?俺の心の声とリンクしたこの、鈴の音のような声、エン?!ウッソ?!

 聞き違いかと混乱した俺に構わず、状況は進んでいく。帽子の男の発言に、オヤジさんとジンが、一気に殺気立った。

「ふざけたこと言ってんじゃないわよ!!」

 涙を残した声の激怒のティルに怒鳴られ、マッチョに抱きかかえられ、殺気立った様子でオヤジさんとジンに囲まれ、さすがに男も黙る。

 しばらく店内に響くのはトウカさんの泣き声だけ。でもやっぱり、口を開いたのはこの人だった。

「滅多に見ないくらいのカオスだわぁ~」

 その声に、ハッとしたように帽子の男がもがき始める。

「離せよ!!」

「あらぁ~。自分から抱きついてきたくせに。さっきから、ごあいさつねぇ。もうちょっと、絞めちゃいましょっ」

 そう言いつつ、ギュッと力を込める。

「ぎゅっぇ」

 帽子の男から変な声が漏れた。

 床に座り込んで泣いているトウカさんに、エンが手を差し出す。

「トウカちゃん、変質者はほっといて、座ろう?」

「こっちおいで」

「どっこいしょ」

 潰れたような音を出した男をとりあえずアスカさんに任せることにしたようで、ジンも一緒に声をかけたと思ったら、オヤジさんがヒョイッとトウカさんを持ち上げて、椅子に座らせた。

 今、変質者ってさりげなく言ったの、エンか?なかなかの一言だし、さっきのは聞き間違いじゃなかったんだな。

「うううう~」

 止まらない涙に、エンが手拭いを差し出す。

 ティルだけが、仁王立ちで男を睨んでいる。

 そこで、どこに隠し持っていたのか、男の手元で何かが光った。

 ……ナイフだ。

 ハッとしたときには、アスカさんに向かって腕を振り上げていた。

「きゃっ!危ないわぁ~」

 余裕そうな口調で男を突き飛ばす。怪我はないようだ。勢いよく突き飛ばされた男は、俺の前に転がってきた。

 こうなったらもう、仕方ない。

「みんな、目を閉じて!!ミヤ、頼んだ!」


‘え、知ってるとばっかり。知らなかったんですかぁー’

 嘘つけ。いつも、俺に連絡なんかないだろう。

‘聞いたっけか?聞いてねえな。知らねえ。’

 言っただろう!

‘あーあー、何やってんだか’

 グルグルグルグルと頭の中でこだまする、大嫌いな声。暗くなった意識は突然、ふんわりと明るい光に持ち上げられて、楽になる。


 目を開くとすぐに、ミヤが見えた。視線を動かすと、アスカさんの驚いた顔が目に入り、ケバブ一行も、泣きながら伏せたり、手で目を覆っている姿が見える。

 転がっているのは、帽子の男だけだ。呼吸は荒いし、脂汗もかいてるけど、ミヤのヒーリングは効いてるみたいだ。

「ありがとう、ミヤ」

 狙って異能を出したのは初めてだったけど、誰も巻き添えにしなくて済んだ。

「うっす。ちょっと、慌てたっす」

「だよな。ごめん」

「ミヤ、警備隊とヒーリング呼んで来て。大急ぎでね」

「うっす」

 状況を確認したアスカさんが、男をロープで縛りつつ、言う。あの……縛り方、変じゃね?普通に縛らないの?

 そんなツッコミもできない空気の中、ミヤは素早く身を翻して店を出て行った。

 カランコロン。

「これでよし、と。カツミ。アンタ、異能を意識的に発動したみたいだけど、大丈夫だと踏んでやったの?」

「あ、はい。この間、町中で発動した時に、倒れていたのが、俺の周辺っていうか、俺のことを見えてた人だけみたいだったし。ドアとか壁とか隔てると、影響ないみたいだな、ってもいうのも分かってたんで」

「アンタの姿が見えてないと、影響ないってこと?」

「おそらく」

「おそらく、じゃあダメなのよ!予測で危険な異能を意識的に発動しちゃダメ」

「………」

「結果論は、よくないわ。異能について、気づいたことがあったら、きちんと相談なさい。分かったわね?」

「はい。すみません」

 確かに、結果論はよくないよな……。

 しょんぼりしたところで、店の扉が開いた。

 カランコロン。

 ミヤと一緒に警備隊が五人、駆け込んできた。

「お待たせしましたっす!」

「あら?ヒーラーは?」

「治療院でスタンバッてくれるそうっす!」

「あらそう」

「あー。この、縛られてる人かな?」

「そうよ、コイツよ、コイツ」

「この縛り方は……」

 警備隊の一人がやっと縛り方についてツッコむ。だよな!!そう思うよな!!

「あらヤだ、昔のクセで、つい!やぁねぇ~」

 オホホホホ、と高笑いするアスカさんに合わせて、アハハハハとミヤも笑う。

 昔のクセって、なんすかね……。聞きたくない。なんで一緒に笑ってんだよ、ミヤ。マジかよ。

「縛ってあるんだから、いいでしょ。はい、コイツが持ってた刃物」

 急に真顔になってナイフを渡すアスカさん。いつの間に拾ってたんだ。

「みんな、治療院はどうする?」

「なにか、変だったら行くよ」

 オヤジさんの言葉に、みんな頷く。

「トウカちゃんは?」

「伏せてたし、へいき……」

 まだ泣きつつ言うトウカさんに頷いて、警備隊に向き直る。

「バリスに伝言してちょうだいっ。ソイツが痴漢よって」

「分かりました」

 そう言うと、警備隊は男を連れて出て行った。

 店の扉が閉まる直前、男がうめくように、ティルさんまた……と言ったのが聞こえた。こりねえヤツだな!


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