第二十三話 祭りの始まりに別のイベント勃発 1
「ほう!こんな組み合わせの食べ方もあるんだな」
ルオンドさんがツナマヨアボカド巻きを食べて、目を丸くする。ルタタやオルタさんも、初めて食べたその味に驚いていたようだった。
「お……しろい、……すね」
ルタタがボソボソと言い、
「うん。初めて食べる味だけど、美味しいな」
オルタさんも頷く。
ルオンドさんの養子は全部で六人。他に、女性が二人、男性が二人だ。フワフワの濃い金髪をサイドアップっていうんだっけ?にしている女性、クルクルとした黒いクセ毛をベリーショートにしている女性、サラサラの髪をほどよいショートカットにしている男性と、丸坊主の男性だ。
外見はみんな二十代に見えるけれど、魔族っぽいので実際の年齢は分からない。朝晩の食事の際に顔は合わせるが、それほど親しく会話をしていないし、詳しい話も聞いてはいない。四人とも、感じが悪いというわけではなく、それほど俺たちに強い関心を持ってはいないようだった。
その四人も、不思議そうに首を傾げつつツナマヨアボカド巻きを口にして、うん、と頷いている。
「この白いソースは、なんていうソースなんだね?」
ルオンドさんが巻き寿司の断面をじぃっと凝視しつつ聞いて来た。
「マヨネーズです。俺たちがいた世界で、よく使われていた調味料です」
「ほう。これだけの試食はできるかね?」
「あ、できます。厨房の保冷庫に入れてあるので。今、持ってきます」
「いや、オーナ」
「はい」
その一言で、オーナさんはフッとかき消えた。厨房に取りに行ってくれたのかな。ってか、アレ、どうやってるんだろう。かき消えるの。後でロムに聞いてみよう。
「あの、どっちが好きっすか?アボカド。形が残ってるのと、つぶしてあるの」
「私は潰してある方が食べやすくて好きだな。口に入れたときの具材と米の馴染み具合いも、いい気がする」
「そうですね」
ルタタも頷く。
「私は味がハッキリするから、形がある方がいいわ」
「そうかもー。俺も、そっちが好きかもー」
珍しく、他の兄弟たちも会話に参加してきた。
「うっす。ワサビはどうっすか?」
「ワサビ?これ、ワサビ入ってるの?!」
ショートカットの子がビックリしている。
「うっす。摺り下ろして、混ぜてあるっす」
「ああ。微かに香りがしているのは、ワサビか。いいアクセントになるものだな。市で手に入れてきたのか?」
「うっす。黄緑色のっす」
「なるほど。ワサビはこうして加熱せずに使ってもいいものなのだな」
感心したようにルオンドさんたちが頷き合っている。
「ワサビは、加熱が一般的ですか?」
「そうだな。加熱したソースの仕上げに入れたり」
「お待たせいたしました」
フッと現れたオーナさんが、マヨネーズが入ったボウルを持ってルオンドさんの方へ歩み寄る。
「どうぞ」
「冗談だな?」
「もちろんでございます。笑っていただけるかと思いまして」
………どうやって笑うんだ、今の冗談。さすがのミヤも全然笑ってないぞ。
笑いの沸点が低いはずのミヤがシンとしているのは、なかなか珍しい。ロムは聞いてなかったような顔をして食事をしている。子どもたちも、全くの無反応だ。分かる。
その場のシンとした空気をものともせずに、涼しい顔でオーナさんがルオンドさんの皿にマヨネーズを給仕する。どこから出したものやら、手にはいつの間にかスプーンが握られていた。
マヨネーズを、スプーンで少しだけすくって、香りを嗅いだ後に、口に入れる。
「ほう~!これは初めて口にしたな。こういった料理以外には、どうやって使うんだ?」
「焼いた肉につけてもいいですし、サラダにも合います。パンとも相性がいいので、パンにも使えます。割と、なんでも使えますよ」
「うっす。ただ、ちょっとコッテリしてるっすから、クドイのが嫌いな人は苦手かもっす」
確かに。口の中に油の後味が残ったりするからな。
「なるほど、なるほど」
ルオンドさんがチラリと視線を走らせた先には、眉間にシワを寄せて、考え込んでいるオルタさんの顔。
なんか、マズかったかな。
会話はそこで途切れて、みんな黙々と食事を食べ始めた。隣に座っているミヤも、なにやら思案顔でパンを食べ始める。
その日の晩ご飯はそのまま終わり、俺たちは風呂に向かった。
「あー」
何回入っても、ここの風呂って気持ちいい。温泉って、そもそも気持ちのいいものだけど、更にプラスしてここはものすごく広いし、何より俺たちが入る時間帯は貸し切りだ。ルオンドさん側で、気を使ってそうしてくれている。
「ミヤ。試作品の反応、結構よかったな」
いつも返事が早いミヤだが、今はなんとなく煮え切らず、湯気の向こう側で何やらまだ考え込んでいる。
「どうした?」
「うっす。評判は思ったよりもよかったっすけど、気を使ってくれたっていうのもあったと思うんす。プラス、自分で食べてみた感じも、ちょっとバランスが悪かったっす」
「そうか?」
「そうっす。酢飯じゃない方がいいんすかね。それとも、マヨネーズと醤油のバランスっすかね。ワサビはあのくらいでいいと思うんっすけど」
そう言われてみると、ちょっとバランスは悪かったかも。特に、アボカドの形がある方。なんか、具材と米の一体感が薄いっていうか。でも、潰した方も、ちょっと滑らか過ぎて、もう少し具っぽい感じがあった方がよかったかも。
そう思い、素直にミヤに言ってみる。
「そうっすね。そう思うっす。ツナじゃなくて、アボカドといえば、のエビを使った方がよかったんすかね。ああ、炭火焼きのデカいエビ、美味かったっす」
後半、市で食べたエビの感想になってる。でも、そうか。
「確かに、アボカドとエビも相性いいよな」
その組み合わせって、いろんなとこのメニューでよく目にした。ツナマヨはツナマヨだけの方がいいのかな。細巻みたいにしてさ。
他に、アボカドと仲がいい食材っていうと。
「トマト、チーズ、サーモン、マグロ、ニンニク、鶏、カニ、タマゴ………」
思い付くままに上げてみるけれど、こうして考えてみるとアボカドって意外に万能だな。何とでも合う。
「そういえば、カルフォルニアロールって、アボカド潰してなかったような気がする」
「そうかもっす。タマゴとか、エビとカニ……。マヨネーズって、具材に混ぜないで巻いた方がいいんっすかね?それにしても、焼きガニの身にカニミソつけて食べたの、美味かったっす」
後半、またしても市の炭火焼きの感想になってるぞ、ミヤ。
「でも、そうかも。具材にマヨネーズは混ぜないで、ビーっと一直線に引いた方がいいかも。そうすると、醤油も点々と垂らした方がいいのか?」
「うっす………どうっすかね」
そうしてミヤは、また考え込み始めた。そういえば、お好み焼きも屋台でやれたらいいなって話してたんだよなぁ。そっちの試作、できてないな。一緒にやればよかったな。
「お好み焼きの試作も、一緒にすればよかったな」
考えたことが、湯気に紛れて口から出た。
「あ、そうっすね。確かに」
「前も話したけど、ミヤはあの箸でクルクル巻いてあるの、食べたことあるんだよな?」
「うっす。流行った時に食べたっす。ただあれ、箸二本で巻いてあるんっすけど、難易度高そうなんっすよ」
「マジで?」
「そうなんっすよ。生地が箸を巻き込んでるんっす。生地自体も薄いし、アレはちょっと難しいと思うんっすよ」
「そうかぁ」
器用なミヤがそう言うなら、よっぽど難しそうなんだな。ひっくり返して両面焼く調理法よりも、薄い生地で箸を巻き込む、って確かに難しそうだ。
「同じようなのなら、タコ焼きって手もあるっすけどね」
「アレは鉄板で型を造らないといけないから、難易度高いだろ」
「そうなんすよねー。巻き寿司も、あんまり具材が多いと食べてるうちに崩壊するし、シンプルな方が屋台での食べ物としてはいいっすよね」
「ちょっとずついろいろ食べたいから、ボリュームがあり過ぎる物は敬遠されるな」
「ううー。難しいっすね。味も決まらないし」
「そうだな。そう考えると、商品として成り立ってる物ってすごいな。考えた人」
屋台には食べやすくてそれなりの量で気軽に食べられるモノ、お店では食べでがあって満足できるもの。甘味、食事系……、どれもこれも、きちんと目的に合った形で考えられて、作られている。
何気なく作っているようだけど、アスカさんもすごいよな。マヨネーズに頼らない料理だって、天晴れにはたくさんある。いくら似たような食材がたくさんあるとはいえ、異世界で食事として提供できるレベルのモノを作って商売しているんだからさ。
「使い捨ての食器があれば、お好み焼きも屋台でできるだろうけどな」
「ないっすもんね」
「うん」
「ううー。とりあえず明日、残ってる食材に追加して、エビとかカニとか買ってきましょうっす。それで、また試作するしかないっす」
「そうだな。それしかないよな」
「うっす。頑張るっす」
グググググッと手足を湯船の中で伸ばして顔の汗を拭う。
あ、そうだそうだ、オーナさん。
「ロム、オーナさんのあのかき消えるのって、どうやってやってるんだ?」
「どうやってって、本人しか分からない。アレは彼の能力だから。ただ、ものすごく強い魔力を持ってるよ。俺なんか、比べものにならないくらい」
「そうなの?」
「人間に見えるだろう?どっから見ても。俺から見ても、人間に見える。要するに、魔力が強いんだ」
「へぇ」
あ、そうか。魔王もそんなこと言ってたな。人間の真似をしているときは、自分より強い魔力がなければ、人間に見えてるはずだって。
「じゃあ、この屋敷ではルオンドさんだけが人間なのか」
「そうだろうな。使用人も全部魔族ではないだろうけど、オーナさんと子どもたちは魔族だな」
ふうん。
「珍しい感じがするな」
「どうしてだ?」
「だって、自分は人間なのに、魔族の孤児を養子にしてるんだろう?」
「もしかしたら、人の養子は独立しているだけかもしれないぞ。魔族の寿命は、人とは違うしな」
「あ、そうか」
目の前にあることだけが全部ってことはないんだよな、なんでも。
「あー!!なんか色々試作のこと考えてたら、のぼせてきたっす!!俺、先に出てるっす!!」
いつの間にかタコみたいに真っ赤な顔になったミヤが、ザブザブと湯を揺らして出ていった。
「ミヤ、茹だってないか?」
「茹だってたな」
なんか、俺、試作品のこと、もっと軽く考えてて、申し訳なかったな。もうちょっと、深く考えよう。もっとこう、簡単にできるかな、なんて思ってた。ツナマヨ巻きとかアボカド使った巻き物って、コンビニでもどこにでもあったし。
でも、やっぱあれって、プロがやってることなんだよな。商品として確立するには、一朝一夕にはいかない。
気軽過ぎた自分を反省し、改めて試作品のことを考えて没頭してしまい、俺もあやうく茹ダコになるところだったのだった。




