99 占い師の少女
「礼の話だったな。……紫月稜華。汝は我に何を望む?」
え……?
「どういうことですか……?」
「説明がまだだったな。ワタシは占い師なのだ。……まだ見習い認定だが」
占い師の、人。キロマンテ・レノアは。
「占い師は人の未来を占える。ただ、全てを占ってしまっては大変だろう? だから、人が望む一つの分野というか……そういうものだけを、視る」
なるほど。
「では、紫月稜華。汝は我に何を望む?」
急に言われてもなぁ。
「皆さんはどんなことの未来を見せてくれっていうんですか?」
「人それぞれだ。金、権力、人間関係、恋愛、成績、死亡率……まぁ、色々」
ほんとに色々ですね。
最初に金が出てくるあたり、かなりの人はお金を重要視しているんだろうなぁ。まぁ、私もだけど。
「で、何を望む?」
あ、そうですね。
「特にないです」
「は!?」
目が飛び出そうなほど見開いている。すごいね。とろんとした感じをした目だったのに。
「さ、流石にあるだろう!? 将来、卒業した後、どんな職についているのかとか、気にならないのか!?」
「別に、気にならないです」
きっと、ミアの研究所にいるだろうから。それに……私は、卒業できるのかさえ、怪しい。
どちらにせよ、ミアがこうしろと言ったら、それに従うまでだ。だって、私はミアの【研究成果】なのだから。
「どんな成績になるかとか……」
「いつもそこそこ取っているので問題ないです」
「今の友達と長続きするかとか……」
「そんなに友達いないので」
そもそも、ミアと一緒にいたら音信不通になるだろうね。
……というか、私、普通の人間と同じように歳を取れるのかなぁ。ミア達みたいにある程度成長したらそれ以上成長できないとかあったらもう会いたくても会えないよね。
「言っていて悲しくならない!?」
「別に」
私にはミアがいるので。
「どうしたら……どうしたらよいのじゃ!? こんな人は初めてだ! マニュアルにも書かれていないぞ!?」
わぁ、不運。私が原因だけど。
というか、占い界にもマニュアルがあるんだ。流石占い師様です。
「ワタシは占い以外で礼などできぬというのに……」
「……マジですか?」
逆に占いだけで成り立ってきたのがすごいんですけど。
「ああ。いつだって皆が望むのは占い師見習いとしての『キロマンテ・レノア』だ。いつだって、『ワタシ』は、『キロマンテ・レノア』にしかなれない」
あぁ、この人も苦労してきたんですねぇ。
その道しか知らないって言うのは辛いです。周りがそれを求めているのなら、尚更に。
「頼む……! 占いを、させてくれ……!」
「……仕事中毒なんですか?」
「仕事……? 占いは仕事ではない。やらなければいけないことだ」
わぁ、重症。
こう言う時ってなんて言えばいいんだろ……。
「……あの、今更ですけど」
「なんだ?」
「お礼、なくて大丈夫です。私、自分の仕事をしただけなので」
実際はちょっと介入しなくても大丈夫? だったし。早とちりだったし。
どちらにせよ、あれは業務の一環だっただけだ。
「いや、それはワタシのプライドが認めない」
「そんなプライド捨ててくれます!?」
いい感じに収まりそうだったのに……。
「無理だ。何事にもプライドは必要なのだよ……」
「そんな名言ぽく言わないでください」
なんで私と関わる年上はこんなにユニークな方々なのでしょうか。麗羅先輩に始まり、青龍希翠……じゃない、青龍会長、桜川さん、フラウトさん……。フレンドリーな人が多すぎなんですけど。そしてみんな強いっていう……。
「まぁ、実際のところ、其方にとってこのことは迷惑のようだ。今日のところは引き上げよう。何か困ったことがあったり、占ってほしいことがあれば来てほしい」
はぁ。
行くつもりなんてないですけど。
「利子をつけて返そう」
あ、早く行こ。
利子が膨れ上がったら恐ろしいです。
「今宵は迷惑をかけて申し訳なかった」
そういい、キロマンテ・レノアは私に背を向けた。
「あぁ、最後に一つ」
「なんでしょうか?」
「ちょっとしたオマケなのだが、少々大事というか……其方がかなり関わりそうでな。早いうちに助言をしておこうと思う」
占ってたんですか。
「紫月稜華」
「其方は、ワタシ……キロマンテ・レノアが卒業する時、この学園去ることになるだろう」
なんだ。
それだけか。なら安心だね。
「なんだ!? もっと驚かないのか!?」
「まぁ……別に、想定内と言いますか……」
可能性がないとは言い切れないもん。
「なんか、負けた感じがある……」
「こんなんで敗北感を味わわないでください」
ホント、ねぇ。
私、そろそろ帰りたい……。
「……帰ります」
扉をあけキロマンテ・レノアは帰って行った。最後に、言い残して。
「其方の秘密が、バレるぞ」
**
「ダンジョンへは順番に入るように! くれぐれも、危険を感じたらすぐに引き返すこと。安全第一優先で臨め!」
とうとう、ダンジョン攻略の日。
「パーティー内での責任は上級生が負うことになっている! なお、重傷以上の怪我を負った場合は実技点から引くからな! 内申点目当てで自分たちの実力に過ぎた階層に行かないように! 」
ダンジョンへの突入順は登録順だ。つまり、私たちは1番最初にダンジョンへ突入するのだ。
学園のダンジョン、どんな素材があるかなぁ。うふふ。楽しみ。
「各階層に教師が控えている! 何かあったら教師に報告すること!」
音声拡張機を手に、注意事項を述べていく先生。なお、名前なぞ知りません。
「くれぐれも狩りすぎるなよ、紫月姉妹」
……はい? 一体なんのことですか?
「教師の間でも意見が割れたんだ。学園トップシックスが全揃い。今年、最も火力が高いパーティーだ。だから最初に突入させてある程度危険な魔物を狩らせるか、最後に突入させて低階層の素材を全て狩られないようにするか」
あぁ、なるほど。それにしてもかなりの究極な選択。最初か最後だなんて……極端過ぎて悲しい。
だけど、今この最前列にいるって言うことはある程度危険を排除させるって言う方向になったのかな? ある意味利用されている感が……。
「く・れ・ぐ・れ・も! 低階層の素材を全て刈り取らないように!他のヤツのことも考えろ」
は〜い。
「安心してください、先生」
飛華が清々しいほどの笑顔で言う。
「私達は先に進むことを目標としていますから」
うんうん。そうだよ。
低階層は低品質素材ばっかりだし、最初に取りすぎると荷物が増えちゃうんだよね。……その場合は私が転移魔法で送ればいいだけなんだけど。だけどそれだと、魔力も時間も使うからあまり現実的じゃないんだよね。
「それが全然安心できないんだよ」
あら残念。
「各々、冬休み明けの授業で使う素材は必ずとってくるように! それが今回のダンジョン攻略の評価材料となる!」
え?
「稜華、忘れたの〜? 授業で言っていたよ〜」
「確か、魔法具を作るための前練習として、不純物を取り除く実習、だっけ」
あ、糸巻きイメージのことか。
「……以上で説明を終わる! 最初のパーティーからダンジョンに入るように!」
はぁ、やっと説明が終わりました。説明が大事なのはわかるけど、長いよ……。
実技場からダンジョン入り口の教室?に行く。
「それでは、気をつけて。武運を」
厳重に鍵がされていた、教室の奥にある扉が開かれ、私達は中へ踏み込んだ。
そこはもう、薄暗い、未知の空間だ。
「情報入手」
その一言で、瞬く間に、ダンジョンの様子がわかる。
上下左右、あちこちにある情報をかき集めて、一つにした。
「情報共有」
姉妹全員にこの情報を送ればワタシの最初の仕事は完了、だ。
「へぇ〜。こんな作りになっていたのね」
早速地図を見たらしい飛華が驚きの声を上げる。
「情報強化」
体力と筋力と、運動神経を。
じゃないと、ついていける気がしないよ。魔法を使わないと私だけ置いていかれそう。
特に飛華なんて運動神経抜群だし、双子も運動神経が良い。陽華と夢華も平均以上だ。……きっと、これが健康的な人なんだろうね。
「準備はいい?」
「オッケーだよ。ね、美華」
「そうだね、風華」
「万端だよ〜」
「……大丈夫」
「私も!」
みんな、準備は万端みたいだ。
「それじゃあ、行くよっ!」
「「「「「おお〜!」」」」」
こうして、私達の伝説がまた一歩、進んだのです。
「あの、邪魔なんでさっさと進んでください」
……ハイ。
いよいよ、(ようやく)ダンジョンに突入です!




