96 真実を司る者
「私の適性魔法は、真実、です」
真実。それが、ヘリコニア先生の適性魔法。普通、適性魔法とかは言わない。自分の不利になったりするから。なのに。
「私は、ほぼ全ての真実がわかってしまうのですよ」
ふんわりとした、だけど感情の乗らない声で言われる。
「だから、分かってしまうのです」
そこまで言われて、ゾッとする。
「稜華さん、貴女が無属性であり、適性魔法が召喚系魔法、情報系魔法、ということも」
もしかしたら。
いや、わざわざ魔法を使わなくても、今まで、私は取り乱してた。魔術師のことで。
「今まで情報系魔法を適性魔法と述べ、召喚魔法のことをひた隠しにしていたことも」
血の気が、引いていく。召喚系魔法のことは、姉妹にしか、言っていな胃から。
魔術師であるミアとの関係が、バレるかもしれない。
「まぁ、それくらいですね」
……え?
急に明るい口調で言われ、混乱する。
「人の本当に隠しておきたいことは、鮮明には分かりません。特に、私より魔法力が強い子はそうです。ですから、私にはそれ以上、稜華さんのことがわかりません」
肩の力が、ドッと抜けた。
「まぁ、私も許可もなく、人の個人情報を覗き込む趣味はありませんので。警戒されなくて大丈夫ですよ」
はぁ。
「……自分でペラペラと話しておいて、なのですが……契約魔法、結んでくれませんか?」
「適性魔法を話さない、という内容ですか?」
「そうです。世間にバレると色々と面倒なので」
先生の適性魔法は真実。属性は……どっかで、みた気がするけど……。
えっと、属性検査装置に触れた時……。
あ。そうだ。
まだ、この学園に来たばかりの頃。一瞬、先生が触れた時……金色に光った。
「……あの、質問なんですけど」
「なんですか?」
「属性検査装置が金色に光る属性って……なんですか?」
私が読んでしまった資料を棚に片付けていた先生の手が止まった。だけど、振り向いた時には、いつもの表情で。
「光属性、ですよ」
そう、言った。
「それでは、契約。結びましょうか」
「……はい」
それ以上は何も答えないというばかりに。
属性が希少属性の光属性。適性魔法が真実。……きっと、物語であるならば、聖女とか、そういう立位置のはずだ。
だけど、なんでこんなところで、研究なんてしているのか。
本人が研究が好きって言うのがあるのかもしれないけど……だけど、そこまで考えていて辿り着いてしまった。
もし、真実がわかると、知られたら。
偽りの『王国正史』のことが、バレてしまう。それ以外にも、色々な不正とか。
きっと、国はそれを恐れて秘密裏に……先生を、処理するだろう。表向きには、病死とか偽って。
だって、王国は何万年も続いていないもの。せいぜい、千年ぐらい。
「……私が、その契約魔法を、かけてもいいですか?」
きっと、その方が強制力が出る。ミア達、魔術師組の契約魔術を、1番近くで見ているから。
魔術なんて、使えない。だけど、再現はできるから。
「一つ、今日知り得た、互いの秘密を両者の承認がない限り、他人に話さない」
至って、シンプルだ。
「……稜華さんになんの得があるんですか?」
「今日、取り乱していたことです」
これを知られたらかなり怪しまれるから。
「このことを私、紫月稜華は……契約します」
契約精霊、アルジェント・ヴォルペの名の下に。
「同様のことを、ヘリコニア・プシッタコルムは契約します」
私は空中に魔力を乗せた。
魔法式……あの魔法陣から一部拝借した部分も入れて、描く。
「先生、空気中に魔力を乗せてください。少量でいいので」
戸惑いますよね、これ。初めてだと。普通、こんなことなんてしないから。
くるくると回して、回して。
魔力が触れあった時、霧散した。
「……これで、契約が成立しました」
ふぅ。
結構魔力、持っていかれるね。
「稜華さん、今のは……」
あ。
こんな魔法、魔法省に届け出なんてしていなかった。というか、私が持っている魔法の大半は届け出してないから、感覚が鈍りすぎている。
「……えっと、このことは……」
「すごいですっ!」
目をキラキラと輝かせたヘリコニア先生が詰め寄ってくる。
「すごく美しいです!是非とも教えていただきたいっ!」
「え?あの、届け出してないので……」
「構いません! 研究用なので!」
ものすごい食いつきようなんですけど……。
「えっと、構いませんが……」
「ありがとうございますっ!!」
私の手を上下にブンブン振る。……結構珍しい。
「あ、忘れかけていましたが、学園長の許可は取れました。これがその証明書です。私の許可印もありますので、あとは生徒会長に許可をもらってくださいね。今日中に印をいただければ、あちらに行けるのは明日からです」
「ありがとうございます」
そうです。そうでした。
許可をもらいに……じゃない!
「先生、私、魔法具を作りに来たんですっ!」
いつの間にか助手に駆り出されてとんでもないことに足を突っ込んでいた件について。
「魔法具ですか?」
「はい。元となるものはあるんですけど、魔法具への加工の仕方がわからなくて……」
「なるほど。いきなるやるのはあまり良くないですよね……簡単に作り方と練習だけ、してみますか。その後は自己責任でやってください」
「了解しました」
先生は実験台を片付け、どこからか小さめの金属の塊を持ってきた。
「一年生はまだ、魔法具作成の授業はやってませんもんね」
はい。やっていません。
「内容的には二年生なのですが……まぁ、稜華さんなら大丈夫でしょう」
謎の期待はやめてください。
「まず、元となるものの純度を高め、魔法と順応しやすくします」
魔法で金属の塊から何かを取り出した。サイズは一回りほど小さくなったけど、先ほどより光っている。
「その際、落としたりしないように。順応しやすくなる、それは良くも悪くもなので」
なるほど。
「付与したい効果の魔法をかけます。できればより効率的な魔法の方が良いですね。ですが、多少悪くても、媒介となってくれるので魔法発動が楽になります」
じゃあ、早急にやるのは魔法式の構築、になるわけか。
「光よ、集え。暗闇でも先を示せ」
おぉ〜。光属性らしいです!
「これで完成です。今回、私がかけたのはロウソク魔法なので、光源になってくれますね」
実験台の上には煌々と光る金属の塊が。
これで完成、みたいだ。
「練習はこの辺りにある適当なものを使ってくださいね」
指し示されたところには山積みになったガラクタ?が。……どこから出てきたんだろうね。
「稜華さんは一応、情報系魔法が適性となっていますから……それに類いするものが作りやすいと思いますよ」
なるほど?
じゃあ……何を作ればいいんだ?
「あったらちょっと便利そうなものとか?」
あったら便利そうなもの……。
「音声拡張機?」
というか、情報の範囲、広すぎなんですよ。私が情報と認識すればなんでも情報となるわけで。
「いいですね。じゃあ、作ってみましょうか。……魔法式は分かります?」
「できてます」
既存のものがあるので、それを利用させてもらいましょう!
「えっと、まずは純度を高める、でしたっけ?」
「そうです。物質の不純物を取り除くようにしてみてください」
取り除く……?
ヘリコニア先生は簡単そーにやっていたけど、すごい難しい技術かもしれない。これ。
「大事なのはイメージです。そうですね……稜華さんは水の中にゴミが浮いていたらどうしますか?」
「別にどうもしません」
「え?あ、コップの中の水だったら……?」
「水ごと捨てて洗います」
だって、汚れた水はあんまり飲みたくないもん。
「えっと……捨てる以外の選択肢で……」
捨てる以外……?
「なくないですか?」
「ありますよね!? そのゴミを取り除くとか……」
「それ、めんどくさくないですか?」
ダメだ。
私の発想が偏りすぎている……!
「……一旦この例えは忘れてください。別の例えを考えるんで」
……お手数かけてすみません。
いらないものを取り出す、だよね。大事なのって。ゴミを吸い寄せる、『ソウジキ』みたいなのでもいいのかなぁ……。
えっと、吸引力を強くして……ってダメだ。まるまる飲み込んじゃいそう。
「えっと、糸がぐるぐる巻きの状態であります。一本ずつ使いたいです。どうしますか?」
「普通に……端の方からとって、くるくるしていれば伸びるのでは……?」
「良かったです。ちゃんと話がつながりました」
あ、例えでしたか。
「では、さっき述べていた糸を手繰り寄せるイメージでやってみてください」
糸を、手繰り寄せる……。
「あ、その糸は不純物の糸で、不純物同士は磁石みたいにくっ付きます」
なるほど。
えっと、糸を、くるくる巻く……。
そのイメージをしながら指をくるくるしていると金属の塊から糸のように細くなった不純物が出てくる。それはある程度出てくると、プツリと切れた。
「成功、です」
ふぅ。
良かった良かった。
「では、魔法をかけてみてください」
「はい」
魔法をかけたら、完成。
「あー」
小さく出した声が、金属の塊を介し、大きくなる。
「……できました!」
やったね。
大体の感覚は掴めた。
「失敗したくなければいくらでも練習してくださいね。それでは、頑張ってください。私は私の研究に戻るので」
「ありがとうございました」
私は自分の研究室に戻り、6つの並んだイヤリングを前に情報共有の魔法式の仕上げをする。
情報の入力方法は、音声と打ち込み。
消費魔力はできるだけ少なく、しかし共有はスピーディー、正確に。
後は……位置情報と記録もつければ完璧だ。
「情報共有付与」
契約精霊、アルジェント・ヴォルペの名において。
「魔法発動 マージア・イニーツィオ」
……うん、ちゃんとくっついたみたい。
右側が情報の受信、左側が受信した情報の出力になっている。
同じことを5回繰り返して、全てのイヤリングを魔法具にする。そこにさらに物理と魔法の耐性をつけ、強度を上げれば完成だ。
万が一のことを考え、渡すときまで研究室に備え付けられている金庫に入れれば安全。暗証番号も設定してあるし、5重ロックぐらいになっているし。
……いつ渡そっかな〜。
不純物を取り除く工程で説明を謎理論でぶっ壊す稜華でした。
ヘリコニアはめっちゃ困った。こんなこと、飛華や双子たちでさえしなかったのに……
先日、短編小説『侯爵令嬢ラピスラズリはそんな、叶えられない約束に希う』をアップしました。
よろしければそちらもどうぞ。このページ下部にもリンクがあります。
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