92 後夜祭の司令室
「……飛華……?」
ぼんやりとした、薄暗い先に、飛華が見える。
「稜華、ようやく起きたのね」
よ、ようやく!?
「覚えてる? あの後寝落ちしてそれから……30分ぐらいかしら」
「……大変ご迷惑を……」
私、仕事中に寝落ちしたことに……。
「大丈夫よ。何も起こっていないから」
「だよね〜。むしろ暇すぎるっていうか」
飛華の奥に座っている人がいう。
「麗羅先輩……」
「稜華が寝て、話し相手いなくて暇だから来てもらっちゃった」
「ヤッホ〜! 麗羅先輩だよ〜」
え?
この人、ほんとに麗羅先輩?
「麗羅、稜華が驚いてる」
「まぁ、最初はそんなもんでしょ」
どういうこと……?
麗羅先輩がわからなくなって来たんですけど……。
「あ〜、それにしても羨ましい! なんでこんなにカップルがいるんだ!」
は?
麗羅先輩が指さすモニターには会場全体が写っていた。
「麗羅、落ち着いて」
「これ、落ち着けると思う!? ほら、見てよ! ここも、あそこも、あっちもこっちも! あ、こいつらも!」
え?
普通のグループだよね?
カップルっていう感じはないんですけど。
「稜華ちゃんは甘いね。噂が立つと面倒だから、フェイクしているんだよ……」
へ〜。(よく分からないけど)なるほど?
「まるでカップル探索機ね」
「飛華、何か言った?」
「何も?」
飛華、誤魔化せていないですぅ……。
「なんで私はモテないの!? あ、飛華!」
麗羅先輩、モテたいんですか?
「何?」
「貴女のモテ度を分けて!」
「バカじゃない?」
飛華ぁ〜!
そんなこと言っちゃダメだよ! 確かにバ……愚かとしか言いようのない言い分だけど、言っちゃダメだ!
「大体、麗羅もそれなりにモテてるからね?」
「そんな〜」
チョロい。
麗羅先輩、こんなキャラじゃなかったような……。もうちょっと冷静なお姉さんキャラっていうか。
「麗羅はね、お祭りとかになるとテンション爆上りなのよ」
「……もう私、この時のこと、見なかったことにするね?」
「それがいいわ」
忘れよう。
これは夢だ。そう、私はまだ寝ている。
というわけで、おはようございます。
「姉妹で密約を結ばないで!?」
……。
おやすみなさい。
**
「それにしても麗羅は後夜祭の方はいいの?」
麗羅先輩、ようやく落ち着きました。よって、私たちも落ち着いて会話ができます。これほど嬉しいことはあるでしょうか。いや、ない。
「問題ないわ。私、一緒に回ろうって約束している人、いないし」
問題、あるのでは……。
「そうなの? 桜川会長とか、フラウト会長を誘ったら? あの人、かなりフレンドリーを望んでいるわよ?」
フレンドリーを望んでいる……否定できそうでできないね。私がさん呼びでも何も言わないし。そう考えるとセレーナさんもか。
2人とも意外と優しい、と思う。
「私じゃ手の届かない、雲の上の人よ」
「そんなことないと思うけどなぁ……」
まぁ、雲の上っていうのは頷けます。
「和服を持ち込んだ、桜川一族の一人娘と、天才フルート奏者……敬遠するわよ」
「そうなの!?」
え?
飛華、知らなかったの?
私も言われるまで知りませんでしたけど。
「麗羅……」
「どうしたの?」
きょとんと首を傾げる麗羅先輩。可愛らしいです。
「なんで先に言わなかったの!?」
「なんでって……聞かれていないから?」
「だとしても教えてよ〜」
ガクガクと麗羅先輩を揺すっております。
「もしかして皆んながことごとく逃げて行ったのも、ただお嬢様だから、じゃなくて……」
「知っていたかもね」
「そんな〜!!」
麗羅先輩が!麗羅先輩が犠牲になっています!
「稜華! 貴女は知っていたの?」
「あ〜、言われるまで知りませんでした」
「じゃあなんで逃げたのよ〜」
「え?忙しいからだけど」
後、お嬢様と関わるのは避けたかったので。結局、関わっていくことになっちゃったんですけど。
「私、すっごい緊張して全然食べられなかったんだから〜!」
「頑張ったね」
「そう! 私、すごく頑張った!」
……あれ?
麗羅先輩に続き、飛華まで混乱していますね。いつの間にか。
まぁ……ファイト!
「で、後夜祭って何が行われるの?」
私、知らないんだよね。
今年、入学。後夜祭、当番。
うん、知るわけないわ。卒業生も語らないらしいし。
「えっと、余興?」
「その他諸々よね」
……全然分からん。
「なんか……うん、生徒により出し物とか」
微妙な間は何!?
「まぁ、毎年盛り上がるし……すごいことになるよね」
「そうね。あの熱狂的な空気、辛いわ……」
「私、当番で良かったと今改めて思いました」
熱狂的な空気の中にずっといるのは無理です!
いるだけで疲れます。
「モニター、見てれば?」
「……怖いからいい」
「大丈夫、そんなに怖くない」
「それが怖いんだよ!?」
飛華さん、いい加減にしてくれ……。
「稜華ったら、怖がりなんだから〜」
「飛華の方が怖がりだよね」
「そうなの?」
そうなんです。
「お化けが小さい頃から苦手で、今も……」
「ストォ〜ップ!!」
「……残念」
「麗羅、そんな残念そうに言わないで?」
そう言ってもねぇ。気になるところで切られちゃうのが1番気になるんだよね。
「じゃあ、代替案として飛華の幼少期を……」
「いいですよ。えっと、飛華は……」
「私の心を抉らないで〜」
飛華の頼みなら。
「加減するね」
「そうじゃないぃ……」
「大丈夫、飛華の黒歴史は言わない。名探偵飛華ちゃんとか……」
「思いっきり言ってるぅ……」
あ、すみませんでした。
飛華のダメージが予想以上に大きそうなので、この辺りでセーブしておきますか。
「じゃあ稜華ちゃん、また後のでね」
「分かりました」
「違うでしょ〜」
はぁい。
「……真面目に、会場の監視でもしておく?」
「そうしよ」
3人並んでモニター越しに会場を眺め始めたけど。
……平和すぎる。
何も問題が起こらない。それはそれで嬉しいことなんだけど、眠くなりそう……。
「ねぇ、飛華……」
って、あれ?
寝てる?
飛華の向こうにいる麗羅先輩も。
……2人とも、すっごい騒いでたもんね。
夜だし、眠くなるか。私も寝てたし。
「……おやすみ」
私はそっと席を立った。
「……紫月稜華」
音もなく現れたのは、言うまでもなく。
「何の用ですか」
「そこの二人は……寝ているな。一応、催眠魔法をかけておくか」
指を軽く振る。それだけで、飛華と麗羅先輩に魔法がかかったことがわかった。
「さて、何の用か、だったか」
「そうです」
「特に用はない」
「……さっさと出て行ってください」
というか、用がなかったら2人に催眠魔法なんてかけないでしょ。
「まぁ、あると言えばあるんだが」
どっちなの?
青龍希翠は私の方へ近づいてきた。
「……なんですか?」
私の警戒心は、より一層強くなる。
「まず、呼び方について。今のままだと危なっかしい」
呼びすてという面が問題なのだろう。きっと。まぁ、普通に考えて他校の生徒会長、しかも年上を呼び捨てはありえないでしょうね。
「分かりました。では、青龍会長、と」
「……それは皮肉か?」
「どうでしょう?」
あくまでも、余裕という姿勢を崩さないように意識する。
味方じゃない。敵でもない。だからこそ、だ。
「青龍会長が会長でなくなる日を、楽しみに待っていますね?」
私に言える、精一杯の嫌味(?)。
「ならば、そうならないように努力する」
うわぁ。清々しいほどの笑みで返されました。イラつきます。
「俺が今後、会長でなくなるのは、卒業する年だけだ」
ポン、と頭の上に手を置かれる。……なんか、負けた感があって悔しいんですけど。
「……と、盗み聞きはここまでにしていただきましょうか、紫月会長?」
え……?
「えっ!?」
飛華、起きていたの!? つまり、今までの、見てたっていうことに……。
「ち、違うの!ちょっと、興味本位で……」
全然違くないじゃん。聞いていたのには変わりないし。
「……ちなみに、どのあたりから……」
「青龍くんの、俺が今後〜っていうところから……」
あ、結構最近だ。なら問題ないね。多分。
「……このことは、内密に頼みます」
「頼み事には対価が必要だと思うけど?」
うわ。
飛華、ここで対価を要求するんですか……。
「では、借一つです。俺の叶えられる範囲で紫月会長の無茶を聞きましょう」
「うん、いいよ。じゃあ、それで」
「ありがとうございます」
飛華の頼み事とか怖すぎるんですけど。
「……それでは、俺は失礼します」
青龍希翠はそういうと、一瞬だけこっちの方を見た。
──……に……。……ないのなら。
そう、小さく伝えると、司令室を去って行った。
──紫月稜華に隙を見せるな。創造主を知られたくないのなら。
第6章 魔法学園合同文化祭編、でした!
次回からは
第7章 ダンジョン攻略編
となります。
また、『設定等』の方に第6章の登場人物まとめも更新しました。
これからもどうぞ、よろしくお願いします。




