91 飛華の方が頑張ってる
猫カフェを出た後は他の出店とか、研究の展示とかのところに回って過ごした。
1日目はとっても楽しかったよ、ほんと。だけど、2日目になると、ねぇ?
この熱気の中にいるのはすっごい疲れるんです。
だからほぼずっと人気がないところ……文化祭中は立ち入りを禁止されている、会場全体が見渡せる個室にいた。
立ち入り禁止だから、ちゃんと飛華と桜川さんとセレーナさんにお願して立ち入りを許可してもらった。もちろん、時々窓の方を見てトラブルが起きていないか確認して、指令が降りたらすぐに会場の方に行ったよ?
「皆様、お楽しみいただけましたでしょうか。まもなく、ステッラ・ポラーレ王国、国立魔法学園合同文化祭は終了となります」
このアナウンスはご来場のお客さんへの帰宅しろ、と言うものだ。
窓から会場を見下ろすと、生徒たちがいそいそと片付けを始めているのがわかる。
……さて、そろそろ移動しますか。
会場に戻る(?)とすぐそこに陽華と夢華、津城さんの姿が見えたので合流した。
早いところではもう店仕舞いが済んでいるところもある。生徒たちが片付けを急いでいるのには理由があるんです。
「もうすぐ後夜祭か〜」
そう!
生徒(と教師)のみの、後夜祭が始まるのだから!
「生徒……と、教師しか参加できない、謎に満ちた後夜祭。卒業生たちも詳しくは語らない、ミステリアスな空間……!」
津城さん、目が輝いております!
そして情報通です!
「何が行われるんだろーね」
さぁ?
生徒会役員であっても、詳しくは知らされていないのだ。
飛華に聞いても曖昧な笑みで誤魔化されたし。
「後夜祭で当番の人って、残念ですよね」
え? あ。
「私、後夜祭が当番だ……」
「稜華さん、ホントですか!?」
「マジ」
冗談でもなくマジです。
担当枠が少ない代わりに後夜祭に当たっているんですよね。
だけど、私、籠っていたし、多いほうがむしろ……いや、対人関係が死にかけているからダメだ。
「……ちなみに、相方は……」
「ん〜、飛華、だったかな」
「紫月会長が、ですか!?」
津城さん、そんなに驚きます?
「飛華、後夜祭はあまり出たくないみたいだから」
「そう、なんですね……」
メッチャしょげてる津城さんも可愛い。
「生徒会長は、重役だからでしょうか……」
「違うよ〜」
それが、違うんだよね。疲れているとかじゃなくて。
「疲れるから出ないんだって」
「え? どういうこと……」
「飛華ちゃん、強いし美人だからすごくモテるんだよね」
そうだそうだ〜。
我らが飛華はモテモテなのだ。
「で、大勢に囲まれ身動きが取れなくなったんだって〜」
「桜川会長とフラウト会長に助けられてその時はことなきを得たらしいけど」
飛華が1年生の時の話だ。
家に帰ってきて、すっごい愚痴って桜川さんとセレーナさんに感謝を述べていた。……本人に言えばいいのにね。
「だから去年からは後夜祭は絶対に当番を入れるんだとか」
「……私、紫月会長が1年生の時に紫月会長を囲った人達を恨みます」
「つむぎちゃん、やめようね!?」
「……冗談です」
冗談に聞こえないから怖いです。
「残念ですけど……稜華さん、頑張ってください」
「うん。ありがと」
転移魔法を使い、司令室へ行くと既に飛華がいる。
見ていた書類から顔をあげ、柔らかく微笑む。
「稜華。お疲れ様」
「……飛華はもっと休みなよ?」
この子、四六時中仕事をしているイメージしかない。特に、この学園に来てからは。
「私は、生徒会長だから」
その一言には、大きなプレッシャーと責任が入っていた。
やり遂げなければいけない。それだけがひしひしと伝わってくる。
「だけど」
飛華は、私の。私達の。
「……お姉ちゃん、なんだよ……」
そう言ってから、それはただ再び、重圧をかける言葉でしかないことに思い至る。
「ぁ、ご、ごめん……」
この気持ちは、飛華にとってきっと迷惑だ。
隠し事をしなければならない飛華にこうやって甘えようとするのは、間違っている。
「……おいで」
小さく手招きした飛華の胸元に、私は飛び込んだ。
飛び込むことしかできなかった。今の表情を、飛華には見られなかったから。
優しく、緩く回された腕は、私を包み込んでいる。
「そうだね。私は、お姉ちゃんだったね」
「……違う」
飛華のそんな我慢はいらない。
飛華の自己犠牲なんていらない。
「飛華は、飛華なのに」
結局のところ、ミアの【研究成果】でしかないのに。
本来ならこんな負担を負わなくて良かったはずなのに。
「……稜華、頑張ったね」
「飛華の方が頑張ってる」
むしろ、私は迷惑ばかりかけている。
**
「アルキーミア様! 起きてください!」
そう言うのは、チリチリの黒い髪を一つにまとめた少女。癖毛なのか、ところどころ、跳ねていた。
「シナーア……? まだ、寝れるわよね……」
「いい加減にしてください! そろそろオリアナさんが来るんですよ!」
むにゃむにゃと口元を動かしたアルキーミアは目を少しだけ開くと、布団を頭から被った。
「大丈夫……でしょ……」
実際、オリアナが来るまであと1時間ほどはある。だが、アルキーミアの寝起きが悪いことを計算し、シナーアはアルキーミアをこうして起こしていた。
「いくら本家にいないからといって、気が抜けすぎです!」
──私達は、秘すべき術を扱う一族なのだから。
その言葉はシナーアの口からは出なかった。出せなかった。出せるわけがなかった。
──その言葉を口にしてはいけないよ。
だって、そう言われているから。
絶対的な、ものだ。疑うことすらできるか、怪しい。
「……わたしはミアよ」
「そうでしたね」
今、ここでは。その生き方を、しなければならない。
「……この状態でわたし、 を使えるかしら……」
「本家の者ですし、大丈夫です」
を使うのに疑いがあっても問題ない。ただ、効果が落ちるだけだ。本家はそれを恐れ、絶対的な価値観を刷り込んできた。ただ、少女たちはそんなことを知る由もない。
「……シナーア、本気で言っているの?」
今にも嘲笑が漏れてきそうだった。
「こんなわたしが、本家の者と認めらるわけないじゃない」
「ですが、心のどこかでは信じていらっしゃいますよね」
「……そんなことないわ」
そう答えるアルキーミアの声は、少しだけ震えていた。
── を操る一族。
アルキーミアも、シナーアもその一族に数えられている。
ただ、アルキーミアは本家の者として、シナーアは分家、ロイヤルティーの者として。
それこそが、幼馴染のように育った2人を明確に隔てるものだった。アルキーミアは主人として、シナーアは従者として。その関係性に疑問を持ったことなど、ない。
同じ環境で、同じ価値観でずっと過ごす。だからこそ、2人は今まで、 は絶対的なものだと考えていた。
だが、今は。
「……わたし、もう分からないもの……」
以外の世界に触れ、特にアルキーミアは今までの価値観が揺らいでいた。
この世界に出されたのは、厄介払いだったのではないか。そう考える自分は、 でいいのか。
その疑問が、アルキーミアを取り巻いていた。
「アルキーミア様も、私も。結局のところ、 であることには変わりないのです」
だって、自分達はその生き方しか、知らないから。それ以外の生き方なんて、知らない。
今の生き方は、 とした上での生活。仮初にすぎない。
「誰が何と言おうと、アルキーミア様は、魔術師である前に、 ですよ」
きっとそれは、呪いだ。
幼い頃から刷り込まれた呪い。
逃れなれない呪い。
疑問を持つことすらできない、呪いだ。
「……そう、なのね……」
布団の端から覗くアルキーミアの髪は、紫に染まりかけた、美しい黒髪。
──2人は、知らない。
歪んだ に、滅亡の時が訪れることを。
その原因が、2人にあることを。
「……もう、誰もいないの……?」
アルキーミアは、そういった。
お読みくださり、ありがとうございました。




