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85 とある物語

「えっと、こんにちは……?」


記憶を頼りに放課後、あのお店まで来た。ドアを開けると、カランという軽い音がする。


「いらっしゃい。……あぁ、先日の嬢ちゃんか。できあがっているよ」

「ありがとう、ございます」


手紙をもらってきたって言わなくても良かったね。……って、私、住所なんて言ったっけ?

言った記憶がないけど……あの後すぐ寝ちゃったし、多分忘れているだけ、だと思う。


「ほら。注文通りの6つ。間違いがないか確認してご覧」


店主さんは店の奥から木箱を6つ、取り出すとカウンターに並べた。開かれた箱にはそれぞれ、イヤリングが入っている。全て色も形も、問題ない。

派手すぎず、地味すぎず。いい塩梅のものだ。しかも私が想像していたものとそっくりだった。


「……大丈夫です」

「そりゃあ、良かった。魔法耐久値も上げているから安心しな」


なんですか、この店主さん。

半分の期間で6つのイヤリングを作ってさらに魔法耐久値も上げているとか……凄すぎでしょ。

すごい以外の言葉が出ません。


「あの、お代は……」


これだけ色々と効果があればかなりの額になるだろう。一応、かなりのお金は持ってきた。どれくらいなのか、分からなかったし。






「お代は……お客様の知識、とでもしとこうかねぇ」


……え?

私の、知識?

ヤバくない?私、ヤバめなことも知っているんですけど。ミアのこととか、ミアのこととか、ミアのこととか……。


「安心なさい。何せ、この老婆は外に出ないものだから世に疎くてねぇ。だけど、まだまだ色々なことが知りたいんだよ」


あ、おばあさんだったんですね。

年齢不詳の外見でしたけど。


「知り得たことは誰にも話さないと約束しよう。老婆の趣味は情報を独り占めすることだ」


ヒッヒッヒと魔女っぽく笑う店主さん。

……うん、妙にマッチしているね。


「……分かりました。私はただの小娘ですが、良いのですか?」


桜川さん達からは現金を受け取っていた。知識という面では、どちらかっていうと、桜川さん達の方が価値がありそうだ。私より長く生きているし、有名?な家の出身らしいから、機密情報もたくさん握っていそうだし。

桜川さんの家の和服の製造法とか知って、安く売り出したら儲けられるんじゃないかなぁ。


「嬢ちゃんだから、だよ」


私、だから……?


「嬢ちゃんは、色んなことを知っているね」


その鋭い眼光に、怯む。


「博識、と言えば聞こえがいいが、実際はかなり薄暗いことまで足を突っ込み始めている」


……薄暗い、か。確かに、そうかもしれない。

私は、本来知るはずのなかった魔術師、その歴史まで知ってしまっている。


「……それは……」


桜川さんの方が、知っていると、思う。だって、『桜川の裏組織』があるみたいなんだもん。桜川家だけでそれだけの力があるっていうことは、国の中核にもかなり食い込んでいると思うのに。


「私などでは、力不足かと」

「違うね」


即座に、否定された。


「嬢ちゃんは感違いしている。あたしが欲しいのはただの薄暗いものじゃない。心が沸き立つような、【演劇(テアトロ)】だ」











「現実味のあるものなんていらん! あたしが求めるのはファンタジーだ!!」






え……? ファ、ファンタジー?

求めるのは、演劇とファンタジーですか……。

つまり、物語がいいっていうことですね。できれば動く感じの。できれば声がつく感じの。可愛い絵柄の。なるほど?


「……そ、そうですか」


色々と……すごい人だった、うん。


「さぁ! あたしに、ワクワクするような物語(ストーリー)を教えてくれ!」

「ど、どうすれば……」

「語るでも見せるでも! あたしは新しい形態を求めているんだ!!」


……どうしよう。

この店主さんが望む物語、かぁ。そーとーなものじゃないと楽しめないよねぇ……。


「……脚色ありでも、いいですか?」

「脚色! いいね! ワクワクが増幅するよ!!」


この人、ほんとに(自称)老婆か……?普通の若い女子みたいなんですけど。外見は年齢不詳だからさらに混乱する……。


「えっと、逃避行系と復讐系と師弟愛系と……絶望系。どれがいいですか?」

「全部!!」

「無理です」


流石に全部話していたら明日になってしまう。忘れかけていたけど、今日は平日なのだ。明日は普通に授業がある。


「じゃあ……絶望系で」

「……絶望系、好きなんですか?」

「別に。面白そうだから」


あ、そうですか。


「まぁ、最近の話です。物語の主人公の【私】は、普通の人間ではありませんでした」

「それで?」




**




私には、姉と妹がいた。両親はいない。両親という存在は、必要なかったからだ。いたのは、支援者。

若い女性だったが、私達姉妹を養っていた。……ただ、私達の前に、姿を表すこともなく、お金と、生きていけるモノを渡したり派遣していたりした。

その例がお手伝いさんだ。流石に幼い頃はお手伝いさんを雇っていた。だが、私が5歳になる頃には来なくなった。


つまり、5歳になる頃は監視の目が緩まったのだ。かなり自由になれた。だから私は家を出て、周囲を探検することがしばしばあった。そこで見つけたのは、森の奥深くにひっそりとあった建物。そこで、私は支援者に出会う。

それから、月に1回はその建物に出入りするようになった。そこで私は研究に出会い……そして、1年後。私は、私を、私たちを知ってしまった。


普通の人間ではない。作りもの。


その評価は、常に私自身を付き纏った。

私だけが抱え込み、悩み、考えて。




**




「私は絶望しました」




**




研究に出会い、2年経った頃にはもう何もかも分からなくなって。私は、フラフラと彷徨い歩いていた。

どこかも分からない、見知らぬ場所を、ただただ、彷徨い歩いていた。



その頃、姉と妹は、いなくなった私を探していたらしい。

そりゃあそうだろう。2年前から急にフラフラ出かけるようになり、だけど帰ってくる。行き先は言わない。そして、1年前のある日を境にすごく考えこみ、思い詰めている。

見ていたらどんな状況!? と思うだろう。

今までは帰ってきていたからよかったものも、今日はいつになっても帰ってこない。

そりゃあ、心配になるだろう。姉は私の2つ上と1つ上、妹は同い年。つまり、9歳と8歳と7歳。

十分な子供だった。

だけど、私を一生懸命、探してくれていたようだった。

まだまだ小さいのに、あちこちに渡り歩いて。



迷子なったと把握した時、もうどうでも良くなった。だから、あちこちを歩き回った。

まだ私は子供だし、お金なんて、何ももっていなかった。だけど、私には魔法があった。魔法を使えば、どこへでもいけて、水も食料も困らなかったから。


魔法を使って、使って。魔力がある限り、どこまでも行った。

地図を持って、大体の現在地を把握しながら進んだ。文字とかは読めた。5歳の時までいたお手伝いさんに仕込まれていたから。


大きな山に登ったり。

近くの海を見たり。

綺麗な珊瑚礁を見たり。

その近くにある、南国風の街に行ったり。

海で遊んでみたり。……舐めたらしょっぱかった。


その海の反対側に行って、海を挟んで見える大きなお城を見たり。

海を渡る船に乗ったり。

海みたいに大きな湖を見たり。

その近くにも海が広がっていた。そこで初めてお魚を食べたけど、不味かったからもう二度と食べないと誓った。

大きな崖の上にある街を見たり。

その崖の上に行ってお店を回ったり。

お城を近くで見た時には、びっくりした。


国内を一通り見た時には、飽きていた。

普通に温暖な地域に、飽きていたのだ。

そこで、ふと聞いた話を思い出した。


この国……ステッラ・ポラーレ王国は暖かいけど、北の帝国は寒いらしい。だから生活が大変で王国に出稼ぎに来る、と帝国の行商人が言っていた、と。

さらに、東の山脈……つまり、家がある山を越えた先には共和国と連邦国があって、そのさらに向こうには、もう一つ王国があるのだとか。

共和国はどの国とも近いから、交易の中心地で、様々なものが集まっていて、連邦国はダンジョンがたくさんあるのだとか。

特に、向こうの王国は、金や鉱物がバカスカ出るから、出稼ぎにいいらしい。


……私は、すごくワクワクした。

だけど、国を越えるのにはすごくお金がいるらしい。だから、夜中にこっそり家に戻って、自分の少ないお小遣いを握りしめ、夜の山を登っていった。

お読みくださり、ありがとうございました。

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