82 桜川会長、かっわいい~
「あ、しもた」
ほへ?
「またやってしもた」
ど、どど、動揺していることが丸わかりですよ……。
「桜川会長……」
「そやし、会長はやめてくれるかしら?」
そやし?
蘇我氏?……って、蘇我氏って……なに?
「そ、それは……その、だからっていう意味で……」
「混乱、されていますよね」
「……ええ」
ですよね〜。
「まず、深呼吸しましょう、はい、吸ってー吐いてー」
「スーハー」
「落ち着きました?」
私も落ち着きました〜。
「そうね。ご迷惑おかけしたわ」
あ、元に戻った。
……先の口調?も可愛かったのに……。
「……さっきの口調?で話してくれません?」
「何で!?」
「可愛いからです」
「なっ……!」
桜川伊緒の色白な頬に赤みが差していく。
うん、もとがすごく整った顔立ちだから、儚いようにも見える。目に良いです。
桜川会長、かっわい~。
「絶対かなん!」
「……かなん、とは?」
「嫌だ……絶対……」
そこまで拒絶されてしまうとは。悲しいです。
「……何でですか?私はその口調の方が、良いと思います」
「……なんで?」
「う〜ん、似合っているから?でしょうか。……桜川会長らしい、気がします」
「そやし桜川会長って呼ばいで」
「……桜川先輩?」
多分文脈からして、桜川会長と呼ぶな、だろう。
「……だって、これだと目立つもの。使っとるのはウチの一族だけだし」
「一族だけ、とは……?」
「……あんた、まるっきし知れへんのな。ウチのこと」
……すみません、無知なもので。生憎、ずっと引きこもっていたんです。後、他の人に興味はなかったんで、特に調べようとも思いませんでした。
「ウチはね……ウチは、他大陸から渡ってきた一族の末裔なの。ほら、これ。和服。知っとるでしょ?こら、他大陸から持ち込んだものらしいわ」
桜川伊緒は着物を摘み、フラフラと振る。
「150年以上経った今でも製法は明かさず、和服を売り出して、利益を独占しとる」
なるほど。商売をしている、と。
「ほら、魔法学園生徒会長になったのは注目されるでしょう?そやし、実家から魔法学園生徒会長になれって言われたの。ウチ、魔法力が高かったから」
そ、そそ、そうなんですか……大体わかりました……。
なんか、すごく利用されている感がありますよ、桜川先輩。それで良いのか?
「生徒会長になったウチが和服を着ていれば、宣伝にもなるから。ただ、それだけ。あとは桜川一族だっていう目印かな。……何があっても逃さないっていう執念みたいな?」
ねぇ、もう、悲しすぎるんですけど……!
すごく悲しいですっ!普通に怖いし!
私に、私達に刻まれているミアから課された設定?より怖いんだけど。
「先輩は、それで良いんですか……!」
「何であんたが泣きそやん?」
何でって……。
「先輩は、利用されているだけじゃないですか……!」
「だって、それがウチの存在意義そやし。ウチは、桜川の名を世の中に広めるためだけに生まれたのよ」
「伊緒さん〜!そんなこと言わないでくださいまし〜!」
……へ?
金髪少女がいきなり飛び込んで桜川伊緒に抱きついた。
「……セレーナ、はん……?」
「伊緒さんは、そんなために生まれた訳ありませんわ!」
「ウチは……」
「その口調も可愛いですっ!今までも大変美しく、神秘的な雰囲気でしたが、今の方が良いです!」
え?
マジ?
フラウト・セレーナ、壊れたの?もっとお嬢様だったよね!?
超絶お嬢様キャラだったよね!?
「ちょ、セレーナはん、何を言うとるの……」
「はぁ、女神はここにいた……」
マジでフラウト・セレーナ、壊れましたね。
なんか、桜川伊緒の信者みたいになっているし。
「伊緒さん。わたくしの女神になってください」
「はぁ!? あんた、何言うとるか分かっとるの!? 自分自身の立場も! 宮廷音楽家一族の末娘、稀代の天才フルート奏者でしょう!?」
何じゃそりゃ。
というか、フラウト・セレーナさん、すごいんですね。宮廷音楽家って。しかも稀代の天才フルート奏者って……学生なのにすごすぎです。
「そうです。わたくしは末娘。上には兄と姉がいるのです!ですから、伊緒さんがわたくしの女神となっても、全く問題ありませんわ!」
「あるのよ、問題が!」
ありありです。
私にでも分かります。
「問題などないのです! わたくしの愛に……障害などありませんわ!」
「有り余っとるのよ、このおアホ!」
盛大な声が響き渡りました。
「なら、全てのモノを説得しましょう! さぁ、今すぐ!」
「そ〜や〜し〜! 貴女に問題がなくても、ウチには問題があるのよ!」
そりゃそうですよね。
「ウチは一人娘なのよ。そやし、ウチは……桜川から逃げられへん」
う。思ったより重い……。
というか、神様でも何でも、この桜川伊緒に困難を与えすぎじゃない!?
「では……」
では?
「国外逃亡しましょう!?」
あ、完全にトチ狂ってる。
「そないなことでける訳いではおまへん! 桜川の裏組織に見つかるわよ!!」
桜川の裏組織……。
偵察部隊、暗殺部隊、潜入部隊、追跡部隊、暗躍部隊、みたいな?
「あ……い、今のは、忘れてほしい……どす」
「分かりましたわ」
「……了解です」
絶対に忘れない。
面白そうだから後で調べてみよ。怖すぎないといいけど。
「国外逃亡も無理なら……世の中の人間、全て殺します?」
「怖っ!怖すぎよ! 絶対やめなさい!?」
え〜?
私も巻き込まれるの?絶対巻き込まれたくないんだけど。
「あんた、王国の危険人物として秘密裏に処刑されるわよ!?」
あ〜、確かに。
王国、自称5万年?の歴史ですもんね。
闇も深そうです。
「……全力で返り討ちにさせてあげますわ」
「無理があるでしょう!?」
「大丈夫ですわ。フルートの高音をソイツの耳元で爆音で吹けば……」
え、ナニソレ。新しい。
というか、フラウト会長しかできなくない?
残念だけど。
「もうやめて。誰の為だか知れへんけど……余計なことはせいで」
「嫌ですわ。だって……」
「もう、ウチのせいで傷つく人を見たくないのよ」
それって……桜川家は裏の勢力がかなりあるって言うことですかぁ?
怖いです。
しばらく、霜が降りたように研究室は静まった。
「……伊緒さん、明日の打ち合わせのあとは空いていますか?」
「え? ええ。空いとるけれど? 何をする気なん?」
早くも怪しげな視線を向ける桜川伊緒。
話の雰囲気が180度ガラッと変わったからだろう。
「秘密、ですわ。では、明日、打ち合わせが終わった後に寮のエントランスでお待ちくださいね。あ、紫月副会長もですわよ?」
「え?何でですか!?」
私、研究が〜。
これ、ほんと便利な言い訳になりますね。
「貴女が一番最初に伊緒さんから事情を聞き出しましたわ。……世の中の暗黙となっている、伊緒さんのご家庭について。初めて、伊緒さんの口から語らせたのですわ!」
「無知ですみませんでしたごめんなさいどうか許してください」
「あら、謝ることではなくてよ?」
じゃあなんて言えば良いんですか。
「だって貴女は、伊緒さんからあんなに可愛い口調を引き出したではありませんか」
「か、可愛くなんてへんわ!」
「そう、それです!可愛すぎません?」
「そうですね」
「セレーナはんも稜華はんもやめてくれるかしら!?」
え〜。
今の桜川会長、可愛すぎなんですけど。フラウト・セレーナじゃないけど、女神だね。
「紫月副会長。……その、稜華さん、と呼んでもよろしいかしら? わたくしのこともセレーナで良いわ」
「いえ、お断りします」
「そこは断ってはいけないところよ!?」
「お断ります」
「復唱しません? はい、セレーナさん!」
「……自分で言っていて痛いと思いません?」
私は絶対そんな恥ずかしいことはしない。
私は失敗から学べるのだ。
「うぐ……」
やっぱ痛かったんだね。恥ずかしいよね。
「もう夜も遅いんで、帰らせていただきます。というか、先に帰ってください。研究資料を見られると厄介なことになるんで」
「え?急すぎない?」
あ、桜川さんもちゃんと口調が戻ったね。良かった良かった。
これでひとまず大丈夫そうです。
「聞きたかったこと、って言うのは後日。じゃ、おやすみなさい」
私は2人を研究室から出した。
扉が閉まる直前。
「明日、楽しみしていますね、……桜川さん、セレーナさん」
桜川伊緒の口調については……大目に見てくださると嬉しいです




