81 肉体年齢数千歳、精神年齢13歳
「ふぅ」
ミアのため息に、止まっていた時間が動き出す。
実際は時間なんて止まっていなかったのだろうけど。
「稜華、お待たせ」
「待っていないです。あと、魔法陣の法則性も教えてほしいです!」
今考えた。
ここに魔法陣を使える人がいるんだから、その人に聞けばいいって。
「……そう?じゃあ、研究の補助をたくさんしてくれたら……ね?」
「やります!冬休みに行って、たくさんやります!」
やった〜!
これでだいぶ楽になるよ。
「じゃあ、俺らはこれでお暇を……」
「その前に、一つ、聞きたいことがあるのだけど」
そそくさと帰ろうとした青組にミアは鋭い視線を向けた。
「何で、飛華が表へ出た翌年、合わせたように研究成果を出してきて、わたくしのことを探ったのかしら?」
あ、それ、私も気になります。
「合わせたように、じゃない。合わせたんだ」
はぁ?
ミアをストーカーしているってことですか?
「『紫月飛華』が、表へ出た。それだけだったら要注意だ。俺だけでもできる。だが、魔法学園王都校生徒会長になった。そうなると、俺だけの監視だと危ない」
飛華、無意識に目立って警戒されているよ……。
「だから離れずつかずに位置する、別の魔法学園に希翠を入学させた。希翠には生徒会長になってもらい、紫月飛華との接触を試みたが……あとはアンタらの知る通りだ」
……なるほど。
もしも敵対関係だった時のために別の魔法学園に入れて、生徒会長という、飛華と接触しやすい立場にする。生徒会選任祭が終わったらすぐに合同文化祭だ。
そこで接触を図ったものも……なぜか飛華には双子の妹がいて、誰も魔術師のことを知らない、ということだ。お疲れ様です。
「……そんなに都合よく自我の宿った【研究成果】を作れるわけですか?」
「そんなことできるわけない」
ミアの疑問はすぐに吹き飛ばされる。
「希翠は実年齢で入学していないからな」
え。
それって、つまり……。
「自我が宿って100年ほどだ」
なにそれ。
マジでおじいちゃんじゃん。
「お前、失礼なことを考えただろう?」
今まで黙っていた青龍希翠がいう。
だけど、失礼もなにも事実じゃない。
「……別に。思ったよりお年寄りだなぁ、って思っただけです」
「それを失礼というんだ!全く、【研究成果】は創造主に似るのだな」
「そのお言葉、そのままお返しします」
青龍希翠も〈青の魔術師〉そっくりだよ。
「まぁ、私は正真正銘、13歳ですから。私から見れば大層なおじいちゃんですよ。……若作り爺か」
もう8の月31日は過ぎたもん。
私、13歳になったよ。
「だから?俺から見ればただの人生経験がない、赤子だが?文脈、というか理論的に考えて肉体は数千歳だろ?精神年齢が13歳ってだけで。……大したお子ちゃまだなぁ?」
うわ……。
「ミア、信じられません。正論に正論で返してきました」
当たり前って言えば当たり前かもしれないけど、今回ばかりは利用させてもらおう。
真面目に悔しいし。
「そうね。わたくしの可愛い可愛い、娘同然の稜華にねぇ……」
ミアもノってくれた。
「なっ、そんなつもりでは……」
「そんなつもりじゃなくても、そうやって聞こえるのですよ」
うふふん。
言い返したよ!
「……冗談ですよ。肉体年齢数千歳、精神年齢約100歳、外見14歳の超絶若作りが」
子泣き爺か。
「思いっきり馬鹿にしているだろう」
「そうじゃなきゃ何だというんですか?」
私は思いっきり笑顔を浮かべてみる。……難しいね、笑顔って。
「馬鹿にしてますよ」
逆に馬鹿にしていないなら、何なの?
馬鹿にされていないと感じているなら、とっても幸せだね。
「稜華。そろそろわたくし、帰るのだけど……」
「……そうですか。残念です」
「またいらっしゃい」
「はい」
冬休みが楽しみです。
「〈青の魔術師〉チェーロ・アッズーロ」
ミアは〈青の魔術師〉に向き直った。
「くれぐれもヘマしないくださいね。わたくし達にまで害が及びますので」
「それはこっちのセリフだ。精々、自分自身と研究、【研究成果】以外も守れるようにするんだな」
「誠意努力中ですわ」
やっぱ、この2人、相性悪過ぎでしょ。
互いにさっきのは捨てゼリフだったのか、転移していた。
……さて、私も帰ろうかな?夕ご飯食べてないし。
「おい、待て」
知らないもんね、私。
今日はただ、不法侵入者の喧嘩に付き合わされただけだから。
「副会長」
それ、役職名でしょ。きっと世の中にたくさんいます。
「紫月稜華っ!」
ガン、と肩を掴まれ、私は止まることを余儀なくされた。
「……なんですか?」
多少イラついた声になっていてもしょうがないと思う。
だって、とんだ迷惑なんだもん。敵対行動はないって契約したんだから。
「その……」
「用がないなら話しかけないでください。……さっきも言った通り、私、正直どうでもいいんですよ。〈青の魔術師〉とそこに付随する【研究成果】なんて。だって、敵対関係にはならないことができたから」
敵にならなければいい。私達の邪魔をしなければいい。
「私は、ミアと姉妹の安全さえ確保されれば、5000年も前の縁故なんて、いりません」
だって。
「ミアも私も、私たちも、もう他人同然の5000年前の同僚にわざわざ頼らないといけないほど弱くはないです」
青龍希翠の顔は固まっている。
……まぁ、私からあの契約を持ち出したし、協力関係を望んでいるのだと思ったのだろう。助けを必要としていると思ったのだろう。
「……私達は、伝説の魔術師、二次色〈紫の魔術師〉に創り出された、至高の【紫月姉妹】ですよ?」
あのミアが、私達を至高、と言うのだ。
それほど嬉しく、すごいことはない。
「そっちが何人いるのか知りませんけど……。私達には少なくとも、弱点のない【研究成果】がいると、覚悟しておいた方がいいですよ?」
ミアは秘密主義だし、まだまだ何か隠してそうだよね。
それにまぁ……なにも知らない姉妹が〈青の魔術師〉に接触するなんてないと思うけど。
「まぁ、そう言うことなんで。紫のスタンスはやられたらやり返す、です。人によったら倍返し以上になりますから、被害を受けたくなければ関わらないでください」
私は背を向け、立ち去る。転移魔法で研究室へ。
はぁ、やっと終わりました。長かった〜。
早く帰って夕飯を食べよ。
「遅かったわね」
……え?
研究室の一室、つまり私の使っている部屋の中央に、漆黒の髪の持ち主がいる。
クアットロ・ラーゴ校生徒会長、桜川伊緒だ。
「研究があるのじゃないかしら?」
あ、はい、そうですね。
えっと、えーっと……。
「……その、気分転換に外へ……」
「知っているかしら?」
な、なにをでしょうか……。
「待機令が出たのよ。学生はすぐに寮室に戻り、待機するように……と」
ま、まま、マジすか。
「学園内に不審者が侵入、強力な魔法を使った形跡があるらしいわ。種類は契約の類だったようだけれど……」
こ、心当たりが……ありますねぇ……。
原因、私達な気がします。魔術師組の契約魔術では……。
不法侵入していたし、魔術、つまり強力な魔法を使っていたし……。
だけど、その後すぐ帰ったから、余計に混乱している、と思う。
「そ、そうなんですね。知りませんでした。あいにく、外にいたので。教えてくださり、ありがとうございます。では、これで」
私は夕飯を抱え、桜川伊緒を部屋から出そうとする。
……研究の盗み見なんてされたらたまったもんじゃないからね。すごく重要なのはすごく、すご〜く厳重に保管してあるけど、それ以外はここに大体がある。だけど、その中にも大切なものはあるわけで。
「お待ちなさい」
襟元を掴まれ、元の位置に戻される。
ど、どど、どうして?
というか、今更すぎだけど、なんで桜川伊緒が私の研究室にいるのよ!?
「聞きたいことがあるの」
「……飛華じゃ、ダメですか?」
私は所詮、副会長なので。
生徒会長の飛華を通して頂きたく……と言う私のささやかな願いはすぐに打ち砕かれる。
「貴女に、聞きたいの」
それが怖いんですって。
なにが悲しくて私、他校の生徒会長様と話さなきゃいけないんですか。
「別にややこしいことやないから」
え?
「あ、しもた……」
お読みくださり、ありがとうございました。




