8 異端
「なんなのダ!無属性と複合属性とハ。しかも姉妹でとは。何かの冗談だろうナ」
冗談のわけない。私だってこんなめんどくさい冗談、言わないよ。
冗談の為にわざわざ魔法の基礎知識について解説しないし。
あー、ホント、魔法の基礎を考えた人のセンスを疑いたい。
「稜華と夢華がそれぞれ、無属性と複合属性なのは事実です」
飛華が文句を言ってきた先生に対して真面目に受け答えしている。
実際、心の中では仕事増やすな馬鹿野郎とか言ってそうだけど。基礎魔法力検査のこと、クソつまらないって言っていたし。
見に纏う雰囲気というか、オーラがイラついているし。
「ほらほら、せんせ、時間の無駄だよ。美華もそう思うよね?」
「当たり前じゃん、風華。とりあえず妹のことは置いておいて、次の子達を検査したほうがいいよ?」
「残業になっちゃうし」
「そうそう」
風華と美華は検査結果を言ってくれる先生をフォローしている。
口調はそのまんまだけど。
この2人の裏表のないところは見習いたいね。
「陽華ちゃんは言いがかりをつけられていないから、先に行っちゃっていいよ。稜華ちゃんと私は属性について、ぜ~んぶ言いくるめてから追いつくから。ね、稜華ちゃん」
「う、うん……」
「ほら。陽華ちゃんは安心して先陣をきってね。そしたら、みんな陽華ちゃんの凄さに気づくだろうし。雑魚の相手は、私に任せて」
夢華の言い方が怖くて反射的にうなずいてしまう。
なんなんだろう、ぜ~んぶ言いくるめるって。よくわからないからこそ怖いんだけど。
それにしても唯一の妹の口が悪くなっている気がする。すごく素直で可愛いという印象しかなかったのに、今ではそれを武器としているような、そんな気がする。
「ねぇ、貴女、4番の子?私達、ぜ~んぶ言いくるめてから追いつくから、先に検査しちゃっていいよ。あ、装置が光らなかったときは私達に言ってよね。まぁ、稜華ちゃんの説明を聞いていたら分かると思うけど、ほぼないと思うけどね」
まぁ、そりゃあそうだよね。希少属性は本当に例外だし。
夢華に引いたように4番の人がコクコクと頷くとさっと逃げるように先に進む。
周りが、ザワついている。
ここに、学園内で超有名な紫月姉妹がいるから。飛華がいるから。
希少属性持ちがいるから。
「……だから、なぜ、無属性、複合属性だと分かるかと、聞いているんダ!」
「なぜって、調べたからです。……当り前ですよね?」
……飛華。入学前に属性を調べるのは当たり前じゃないよ。むしろ、例外だし。
飛華は真面目に疑問に思っているらしいし、ちゃんと補足しておこう。
「飛華、入学前に調べるのは……イレギュラーだよ……」
「え?ウソっ!?そうなの!?」
……ゴメンなさい。
飛華の知識が私のせいで偏っちゃっている……。
ホントに申し訳ない。
というか、周りはひいているね。だって、10歳の時に調べたのは魔法力だけだもん。属性とかは今日この時まで、分からないし、個人で調べられるものでもないし。
「……信じられないようなら、属性検査装置を、貸してくれませんか?」
「え?稜華、やっちゃうの?」
……飛華のためなら。
というか、言いがかりをつけられたままなのも癪に触るし。
実力は現実を叩きつけるのに1番効果的、だと思う。
「……なんです?」
「……すみません、少し借ります」
疑うような目で見ないでほしいな。
これから、とってもいいことをするんだから。
検査をしてくれていた先生から、装置を貸してもらう。
触ったりしなくていい。むしろ、指一本触れない。
だって、そんな必要、ないんだもん。
……ねぇ、お願い。私の魔法を、助けて。
「……情報操作」
魔法が発動する。
情報の網を広げて。装置にたどり着いた時、装置だけに意識を集中させる。
やっているのは、あの、入学式の日と同じだ。
この装置の、情報を動かす、魔法。
「……情報透視」
装置を中心に、辺りが白銀に包まれる。
光だけではない。粉雪っぽいものも舞っている。まぁ、白銀って言ったら雪だし。
思いのほか、情報が重いっていうか、情報が多くて短縮詠唱だけだとダメだった。
情報が古い。あと、老朽化だ。毎年毎年100人以上も検査してきて。それが200年程。
そりゃあ、これだけボロボロになるよ。いや、それ以上にボロボロ、かな。
あちこちか、限界を迎えている。
無理矢理無理矢理、使って使って。それを、繰り返してきたような、そんな情報だ。
……今まで、ありがと。
そう、心の中で言っておく。
「マージア・イニーツィオ」
その言葉と共に、白銀がより強くなる。光も、雪も、増える。
私は、装置に流す魔力の量をさらに増やした。
それぞれの情報を新しくし、古い情報を破棄する。
ここでいう『情報』とは、部品のことだ。要するに、部品を入れ替え古い部品を捨てているっていうことになる。
『ゲンシ』……だっけ。『チキュウ』で分かっている、物の仕組み。全ては『ゲンシ』によってできている、んだよね。
多分、魔法の仕組みでは古い【情報】を『ゲンシ』レベルにして、『ゲンシ』を組み合わせて新しい【情報】を構成しているんだと思う。
「……できました」
私の体感では時間が経っているように感じられるけど、実際は数秒だろう。
魔法を使う時は大体、時間の流れがゆっくり感じられるし。
「これで……基本属性に加え、希少属性も判別できるように、なりました」
中身をイジっただけだから、見た目はあんまり変わっていない。だから、ちゃんとグレードアップされたか、半信半疑、というところなのだろう。
夢華が机に置かれている検査装置の前に行く。
「ちょっと借りるね」
「え……あ、はい……?」
そういうと、さっと手をかざした。
装置は、虹色に光る。
「なッ……」
「ほら、稜華ちゃんも」
私は夢華に手をかざすよう、促される。
恐る恐るかざすと、白銀に光り。
「ななッ……」
文句を言ってきた先生は目が飛び出そうなぐらい目を見開く。
ガチで驚いてますね〜。自分の常識が崩れている場面に遭遇していますねぇ。
「そっ……そんなわけなイ!その装置を勝手にいじって設定を変えたのだろウ!」
……とんだ言いがかりだなぁ。
そんなことわざわざするわけ、ないじゃない。
「そんなに稜華が信じられないんだったら、研究者にでも見せればいいよね、美華」
「そうそう、風華の言う通りじゃん。ここ、国内最大級の研究施設があるしね」
双子組が頼もしい、かもしれない。言っていることは正論だ。
口調についてはハラハラするだけなんだけど。
「呼べ!呼ぶんダ!魔法器具について詳しい研究者ヲ!」
というか、私がズルしたと考えているんだから、詳しい人を呼んだら、自分が間違っていることが露見しそうだけど。
そこまで頭が回っていないのかなぁ。
「あの先生はね、同年代で最強とも呼ばれたのよ。褒められて、勝って、自分が最強と言う認識しかないわけ。だから、自分より優れている人を認められないみたいなのよ」
飛華が小声で教えてくれる。
サンキューです。
それなら、今までの態度にも納得がいく。
「早く、いらしてください!お願いします!じゃないと……」
「いったい、何の用ですか。研究……いえ、仕事でヒマなどないのですが」
呼びに行った先生も大変だね。魔法を使っていなかったら、持久走してんのかっていう感じ。だって、実技塔を出て中央校舎を突っ切って、研究棟に……って行って、また戻ってくるんだよ?
おつかれさまです。
それにしてもこの先生、絶対研究室にこもりっきりでず~っと研究している人だ。仕事を研究って言い間違えたし。
「この属性検査装置についてダ!」
「その古ぼけた装置がどうかしましたか?」
「どうしたも何もッ!」
大声で説明をしているけど、聞いている研究者先生(仮名)はうるさいという表情をしている。いや、それよりも早く装置を見てみたい、という感じだろうか。
「そうですか。では、失礼」
研究者先生(仮名)は装置を覗き込んだ。
「これはっ……!」
研究者先生は目をキラキラさせ、装置をいじり始めた。
めちゃくちゃ楽しそうだ。
「というか、研究者先生って、一年桜組の担任じゃん?風華、違うっけ?」
「確かそうだった気がするよけど……」
え。あ。確かに、双子の言う通りです。
あの研究者先生、どっかで見覚えありますもん。今まで気づかなかったけど。
「でしょ。なんだっけ、名前覚えにくいし……。研究者せんせって呼ばれているしね」
やっぱ、風華も覚えていないか。ということは私もセーフ。
「ヘリコニア・プシッタコルム先生、だよ。風華ちゃんと美華ちゃんはまだしも、稜華ちゃんが覚えていないのは問題なんじゃない?」
……夢華の言う通りです。
すみません。名前を覚えようともしませんでした。今朝の時点で確実に忘れていました。
「この装置はかなり古かったはずです。なぜ、こんなに新しくなっているのですか?新しくしたのは誰ですかっ!?」
稜華の適性魔法、情報系魔法を真面目に使いました。