79 魔術師の(嬉しくない)再会
「「もう、見ていられないっ!」」
夜の闇に2つの声が重なったかと思うと、白衣を着たミアとローブを着た人が現れる。
「……アズ?」
「……ミア?」
ミアとアズと呼ばれた人は顔を見合わせ、一瞬キョトンとするとお互いを指差して言った。
「〈紫の魔術師〉レッダ・ミア!?」
「ウソ!? サイテー最悪、腹黒性悪魔術師、〈青臭い魔術師〉!」
……ミア?
ものすご〜く混乱しているのか、もしくは本気で馬鹿にしようとして言っているんですか?
〈赤の魔術師〉とやらを犠牲にされたからって。
「な、何ですか!? その〈青臭い魔術師〉とは!」
「何だも何も、アンタは〈青臭い魔術師〉よ!」
「違う!私は〈青の魔術師〉だ!」
ですよね〜。
ミアも流石に言い過ぎだと思います。
「ハッ!それより、稜華!逃げるわよ!」
「そうだ!希翠、行くぞ!」
え〜、マジですか?
「ミア、待ってください」
「なんで!?」
「おそらく向こうは敵対する意志はありませんよ。現在の状況は明らかにミアのせいです」
「そんなわけないっ!」
それがあるんですよ。
チラリと向こうを見れば同じような状況になっている。
なかなかシュールですね〜。
「それより、とりあえず謝った方がいいと思います。ミアは明らかに言い過ぎです」
「だけど、アイツは〈赤の魔術師〉様を……!」
「とりあえず、謝りましょう」
「〈赤の魔術師〉様ぁ……」
というか、〈赤の魔術師〉ってどんな人なんでしょうね?
聞いた感じだとすごく体育会系な雰囲気が。
「……〈青の魔術師〉チェーロ・アッズーロ、殿。此度は大変失礼な発言をしてしまい、申し訳ございません。今後、誠心誠意努めますので、暴言吐くな」
「ミア」
「失礼しました。お口の油はさっさと拭ってください」
「それはお前の方だろ」
ですよね〜。
私も思いました。今回ばかりは〈青の魔術師〉に同意します。
「じゃあ、口は慎め?」
「ねぇ、ミアに敬うって概念、ある?」
「〈赤の魔術師〉様以外、ないわっ!」
ですよね〜。
〈赤の魔術師〉の名前を出しただけでこれだけ反応するとは……。今後は使い所を見極めないと。
恐るべしミアの妄信力?
「で、稜華。貴女、なんで青龍希翠と必要以上に話しているのよ。わたくし、関わるなって言ったわよね?」
「……すみません」
「すみませんじゃないの。もしも向こうがわたくし達を害そうと企んでいたらどうする気だったの?」
「ゴメンなさい」
「だから、わたくしは謝ってほしい訳じゃないの。なんでって聞いているのよ」
腰に手をあて、怒っていますよポーズをしているミア。
「……言いたく、ないです」
「なんでよ」
「言いたくないから、です」
「……ねぇ、わたくしには無理矢理考えていることを白状させられるんだけど?」
ナニソレ。怖。
「お前……【研究成果】にそんなもんを仕込んでたのか?」
〈青の魔術師〉はドン引きしたように言う。
「え?当たり前じゃないですか。自我があるんですから、わたくしへの謀反など企まれたら困りますもの」
そ、それはそうかもしれないけど、私達が裏切る可能性を考えているのがショック……。
「ミア、私は絶対にミアを裏切りません」
「……絶対、なんてないのよ」
その悲観さに、私はなんとも言えない。
……きっと、ミアは絶対が叶わなかった場面を、知っているから。
「……分かりました。後で、言うので。それでいいですか?」
「……ええ」
なんとか納得してもらえたようだ。
「それで、レッダ・ミア」
あ、そういえば〈青の魔術師〉がいましたね。ド忘れしていました。
なんか、いつもみたいな感じだったから。
「お前の目的は何だ?なぜ、魔術師の【研究成果】を表に出した?」
……なんか、〈青の魔術師〉って、ミアの上司だね。上司感が漂っています。
いつの間にかミアの口調も(一応)敬語になっているし。
「別に、わたくしは……研究を続けられればいいと思っていて……。【研究成果】、紫月姉妹を表に出したのは魔術師狩りから5000年が経ったこと、姉妹に自我が宿ったこと、それと……もう一つの理由は言えません」
へぇ〜。
魔術師狩りって、5000年前なんだ。初めて知りました。
やっぱり、教科書の歴史は間違っていたか。いや、改竄されたのかな?
それに……ミアが言えないもう一つの理由は、心当たりがある。きっと、それは復讐、だ。
「理由はどうでもいい」
指先同士をツンツンと突きながらボソボソと理由を述べるミアに、〈青の魔術師〉はバッサリと切り捨てす。
「私は警戒しましたよ。ええ、とてもです。人間と見分けもつかないほどの精巧な【研究成果】を日の本に出して。……名前だけではなく、出来具合からも貴女だろうと分かりましたよ。〈伝説の魔術師〉と呼ばれた貴女しか」
うわぁ、ネチネチネチネチ、嫌われる人だ〜。
しかも、わざと敬語にしている感があるんですけど。
「別に、もう魔術師が表に出ても、いいと思います。……この5000年、どれだけ文明が発達しましたか?もちろん、多少は進歩していますが、退化している部分も多い。わたくし達魔術師の全盛期に比べたら、カメのようです。わたくしは……それが、耐えられません」
儚げに目を伏せるミア。
分かる。分かります。自分自身にアイディアはあるのに、それを実行できな歯痒さ。
あれほど辛いものはないっ!
「だから、何だと言うんです?」
そんな言い方しなくてもいいじゃないですかっ!
だけど、今の私にはそれが言えない。
今は、ミアと〈青の魔術師〉が話しているから。【研究成果】は黙っていろってことだろう。
「自分の望みのために、他の逃れ魔術師を危険に冒し、犠牲にしていいとでも?」
「……それは、しません」
「私は原色の魔術師です。貴女は二次色の魔術師です。今までそうだったように、自力でどうにかなるでしょうね」
……何でこんなきっつい言葉でしか言わないんだろ、この人。
もうちょっとオブラートに包むっていう方法はないの?
「しかし、三次色の魔術師、称号を持たぬ魔術師が標的となってしまった場合、どうする気ですか?……貴女の【研究成果】により、魔術師の存在が露呈した時に」
……そっか。
私が、私達が魔術師の【研究成果】とバレた場合、被害を受けるのはミア、だけじゃないんだ。
もしかしたら、芋蔓式に〈青の魔術師〉や〈青緑の魔術師〉の存在が、バレる可能性もあるんだ。
「貴女は、責任が取れますか?他の魔術師を庇い、逃すことはできますか?」
その言葉は、ひどく重かった。
「私は、できます。これでも原色の魔術師ですから。でも、貴女は二次色の魔術師です。……本当に、できるのですか?」
「……無理、です」
ミアは、俯いていた。
とても悔しそうに肩を震わせている。
「わたくしには、無理です」
「でしょうね」
「わたくしには、自分の身と研究と、【研究成果】を守るだけで、精一杯です」
「二次色の魔術師でありながら〈伝説の魔術師〉と呼ばれた貴女でさえそうですから、三次色以下の魔術師は自分の身を守るのが精一杯、下手したら自分の身も守れないでしょうね」
ズバズバと、心の柔らかい部分を的確に突いてくる。
すごく、痛い。
辛辣で、現実主義だ。
「貴女は昔から、甘いのですよ。ずっとずっと。甘過ぎです」
……だけど、その甘さが、ミアなんだよ。
甘いから、ミアなんだよ。
「……まぁ、それはさておき」
その一言で、潰されてしまいそうな重い空気がフッと霧散する。そのことで、〈青の魔術師〉が作り出して、醸し出したオーラ?なのだと認識する。
「この世界にはもう、私と貴女以外の魔術師は生きていない。皆、殺された。つい最近……2000年前まで〈黄の魔術師〉も生きていたみたいだが、少しヘマしたようで。情けない。それでも原色の魔術師なんでしょうかねぇ。しかし、〈黄の魔術師〉らしいです」
え?それ、笑顔で言うことじゃなくない?
さりげな〜く〈黄の魔術師〉とやらの悪口も盛り込んでいるし。
しかも、2000年をつい最近って言うって……どんだけ長生きしてるんですか?
〈青の魔術師〉と〈紫の魔術師〉の相性は最悪。
魔術師全盛期にも、この2人は会うと嫌味の応酬を繰り返していました。




