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78 私は、知りたいんです

「青龍希翠」




名をあげてみても、大して驚いた様子はない。


「研究棟の植物園になんて不法侵入して、何する気ですか?」

「不法侵入じゃない」


冷たい声が、返ってくる。飛華と話していた時の丁寧な口調の時とは違う。やや乱雑さが混じっていた。

窓の外にうっすら人影が見えて、見当がついていたけど、やっぱり合っていた。

〈青の魔術師〉のところの、青龍希翠だ。


「たとえ生徒会長だとしても、他校の生徒がそのようなことをしていいとでも?下手したら、研究の窃盗になりますよ」

「ハッ……!それを言うなら、お前のほうが問題だ。窓から飛び出したと思ったら魔法を使って追いかけてきた」


え?

見られてたんだ。窓から降りた事。


「覗きも追加ですかねぇ。……ちなみに私は攻撃をしませんでした。なのに、攻撃されたんですよ?私は被害者でもいいはずです」


正確には攻撃する暇もなかった、だけどね。そのことを考えると、青龍希翠は相当の強者だろう。

……だけど、余計なことはお口チャック、だよ。


「……まぁ、そんなことはどうでもいい」


そうですか。

それは、私も同じですけど。だって、ただの挨拶みたいな感じ?だもん。


「それで?何の用だ?」


ここからが、本題だ。

私も、青龍希翠も。

お互い、わからないことが多すぎるから。

敵なのか、味方なのか、中立なのか。はたまた、第3勢力となるのか。


「私は、知りたいんです」

「何を?」




「……魔術師を」




私は、ミアを知りたい。魔術師を、知りたい。だけど、ミアは故意に情報を制限している。もちろん、私が探る術なんてない。夏休みに会った〈青緑の魔術師〉からも、ロクな情報が得られなかった。


「そうか。なら、お前は()()()()()()()()()、か?」

「……はい」


ヤバい、しくじった。

確かに魔術師のことを聞いちゃったら、色入りであることを認めているようなものなのに。

というか、今更だけどどっかの本を読んで知ったとか言い訳できる場面だったよね。結果的に必要はないけど。

だけど、向こうと対話することはできそうだ。最悪のパターンだった、いきなり捕まえて王家とか本部に突き出すっていう感じでもない。味方にはならないかもしれないが、敵対関係にはなりにくそうだ。


「で?あの場で、嘘をついていた理由は?」



「姉妹は、知りません」


───わたしはあなた。


「自分達が、【研究成果】だということを」


───あなたはわたし。


「私は、そのことを知って傷つく姉妹を見たくない」


───1つで6つ。6つで1つ。



しばらくの間、私も青龍希翠も、言葉を発しない。時折、木々が風に揺られる音と、遠くから微かに聞こえる談笑の声だけが、聞こえた。


「だから、どうしたい?」


どうしたい?

私は、どうしたい……?


「……分かりません」


───わたしは、あなた。あなたは、わたし。

───わたしは、わたしたち。わたしたちは、わたし。


「分からない?まぁ、そうかもしれないな」


───『私』は振り返らず、進む。後ろには、きっと痛々しいほどの光景が広がっているから。


「お前は、【研究成果】だ。元はと言えば心を持たないただの人形だ」




**




鬱蒼とした森の中をただ1人、歩く者がいた。簡素なローブを着ていて、被ったフードからは紫系統のグラデーションの髪が覗いていた。

だが、ローブはところどころ汚れていたり、木に引っかけたのか、小さな穴が空いてしまっていた。


「全ては消える……。誰の記憶にも、どんな記録にも残らない……」


暗い森に、掠れるような、小さな歌声が響く。

それと共に魔法陣が展開され、魔術が発動された。巻き上がる風に煽られ、被っていたフードが脱げる。すると、まだ10代半ばほどの幼さが残る顔立ちが表れる。


「シナーアとオリアナの気持ちは……全部、わたしが受け継ぐから」


そう言ったのも、魔法陣を展開させたのも、この少女だ。

少女の中にはまだまだ膨大な量の魔力が残っているようで、大魔術を展開させた後にも関わらず、何も変わりないようだった。


「ゴメンね。だから……」


シアーナとオリアナ、と呼ばれた人物は、何かで死んでしまったのだろうか。今にも泣きそうにも関わらず、少女は必死に涙を飲み込んだ顔をしていた。その胸にはしっかりと箱が抱えられている。


「全部、全部……わたくしが、やらなければ」


ローブの者は決意を固める。が、その息は白い。

あたりは、凍えるような寒さだった。冬の夜中なのだから当然だろう。

『私』の心も、あたりもとても冷たいのに、空だけは、無垢にも美しい。そのオーロラの空には、流星群が流れていた。




**



───私は『私』。『私』はあなた。


───あなたはミア。ミアは、あなた……。


───わたしたちが、ミアをまもらないと。


……うん、知ってる。

頭をガンガン打つような、記憶と、私自身の定義。

ずっと、ずっとずっと知っていた。

分かっていた。気づいていなかっただけだ。思い出せなかっただけだ。


「……だから、なんでしょうか」


青龍希翠は目を見張る。


「私はミアの人形です。だけど、私は……私達は、意志を持って生まれました。ミアを、守るために」


全ては、ミアのために。

一種の刷り込みかもしれないけど、それでいい。

私はミアを守らないといけないから。

……ミアが入っていた言葉も、今ならわかる。

元々の基準より高い能力を持って生まれて訳。


ミアを守るためだ。


目覚めかけた自我が、ミアの気持ちを受動して。

守らなきゃって判断して、()()能力を上げたのだ。


「……言いたいことは大体わかった。結局、お前の創造主は誰だ?」

「誰も何も、見当はついているんじゃないですか?」


私が、青龍希翠を〈青の魔術師〉の作りものと考えたように。

向こうも、わかるだろう。色入りなのだから。


「……〈青の魔術師〉の作りものなのだから」

「流石は、〈紫の魔術師〉の【研究成果】だな。作りものへの教育と刷り込みも完璧らしい」


やっぱり。分かっていて聞いていたんだ。意味のないことをしたがるのか、確信を持ちたかったんだか。


「……ところで、貴方の目的は何ですか?何のために、私達に接触を?」


よくよく考えれば、私がどーのこーの白状しているだけで、向こうのことは全く聞いてない。

〈青の魔術師〉は何が目的で青龍希翠を魔法学園に潜入させたのだか。


「もちろん、お前らの監視のためだ」


思ったより素直に白状してくれて嬉しいです。

内容は全然嬉しくないですけど。


「……それは、ご迷惑をおかけしました」

「ああ。全くその通りだ。明らかに色入りだろうに、魔術師のことを全く知らない。それどころか悪目立ちをしまくる」

「姉妹は知らなかったんで、大目に見てあげてください。どこで飛華の存在を知ったんです?」


双子と同い年だし、私達の監視目的なら、飛華の存在を知って魔法学園に入った、と言うのが自然だ。


「……俺の創造主は魔法界に関わっている。そこで、『紫月』飛華のことを知った」

「そうなんですか。何はともあれ、排除目的ではなくて安心しました」


とりあえず、は。

もしかしたらこの後油断させて本部に突き出す、と言うパターンも考えられるし、一応警戒しておこう。

それから、再び沈黙が続く。

私も気持ちとしてはさっさと帰りたいんだけど……空気が、私を動かしてくれない、と言うのだろうか?

すごく、動きにくい雰囲気なのだ。


「……他に、何か用でしょうか?」


用件はさっさと言ってください。

私も暇じゃないんで。

なのに、青龍希翠はうんともすんとも言わない。

……何なの、コイツ。
















「「もう、見ていられないっ!」」

お読みくださり、ありがとうございました。

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