76 負けを認めるなんて、ヤダ
「負けを認めるなんて、ヤダ」
双子は互いに顔を見合わせ、吹き出す。
「稜華、そんなことで意地はってんの?」
「かっわいい〜。さすが私の妹だわ」
「私達の、だよ、風華」
「はいはい」
左右の頬をそれぞれに突かれる。
……地味に痛いんですけど。
「私達の妹はカワイイな〜、イジりたくなっちゃうな〜」
「というか、いつもこの可愛い生き物を飛華が独占してるの!?ズルっ!」
「私も同感だよ、美華」
「よし、飛華に抗議しに行こう」
「それはやめてほしい」
流石に飛華と同室じゃないのは耐えられない。
……って、え?
なぜか、いつもの調子に戻っていることに気づく。
これは、完全に双子のペースに飲まれたおかげ?ですね。もう、どうでも良くなってきました。
「……帰る」
「え?」
「ワンモアプリーズ!」
「帰る。飛華のところに、帰る」
私の帰る場所は、いつだってミアの次に飛華だ。
「ホント?」
「ホントだよ、美華。私、嬉しいっ!」
2人が満面の笑みを浮かべる。
言動が似通っているところを見ると、やっぱり双子だよね。
「これで飛華からお菓子がもらえるよ」
「それより、飛華直筆の参考書を……」
……え?
コレ、もしかしなくとも2人は釣られて来たの?
私、引っ掛けられたの?
……信じない。信じられない。
私が飛華からお菓子と、飛華直筆の参考書をもらえないなんて!
「帰らないっ!」
……許すもんか。
浮き上げた腰を再び下ろし、私はその場にうずくまった。
……と言う騒動もあり。
風華と美華からは参考書1冊とお菓子少しを分けてもらえることになった。
やったね。
「ごめんなさい」
「……ゴメンなさい」
ちゃんと謝りました。
一瞬遅れて言うことで、多少といえど、飛華から謝った。そう言うことにしておこう。
「……稜華、秘密って、私達が分かるまで、だよね……?」
「そう。知りたいんだったら、頑張ってね」
まぁ、かなり難しいと思いますけど。
飛華に学習能力があって安心しました。
**
そして、翌日放課後。
私達は王都の闘技場にいる。王都校生徒会メンバーだけでなく、他の魔法学園の生徒の姿もある。
それぞれの学園同士を繋ぐ転移陣があるから、それを使って最寄りの王都校まで来て、それで闘技場まで来たのだ。
闘技場。
騎士とか冒険者が試合をする場所。春には国内外から腕自慢が集まって、グランプリを開く場所ともなっている。そして、秋の今は魔法学園が1ヶ月ほど貸し切って合同文化祭に向けて準備をしていくのだ。
形は楕円形。『さっかーすたじあむ』に近い。
もうすぐ、闘技場の控え室みたいなところで打ち合わせ会議が始まるところだ。
五角形となった席に、生徒会長を中心に各学校1列に座っている。
「それでは、第1回、合同文化祭運営委員会を開始します」
そう言ったのは、クアットロ・ラーゴ校の生徒会長、桜川伊緒。
漆黒の髪を鮮やかな色合いの簪でまとめている。
「それでは、時間がないので自己紹介は割合します。ですので、説明を始めます」
やった。だって、放課後ですもんね。王都校に関わらず、早く帰って休みたいですよね。
地獄の難関、自己紹介をカットできましたぜ。
別に私がカットするように仕向けたわけじゃないけど。
「ここが当日、会場となる闘技場です。仕事の内容は既に各校説明されていると思いますので……とにかく、地理感覚を頭に叩き込んできださい」
地理感覚、か。
かなり重要だよね。
チラリ、と陽華と夢華を見ると、2人とも青ざめていた。……うん、頑張ってほしい。
「トラブルが起きて指令が下されたらすぐに現場に行けるように。生徒会役員が会場で迷子とか、笑えません。絶対にやめてください。他人の仕事を増やすだけですから」
黒い瞳はただひたすらに、無機質に、文字を追っていた。
多少の実力差があれど、5つある魔法学園。生徒会長の中で最年長者がこの場を取り仕切ることになっているらしい。だから4年生の桜川伊緒が議長のような役割をやっているのだ。
「続いて、各校のスペースですが、闘技コートは共同スペースとなります。客席などは6等分し、そのうちの1つを本部とします」
わー、すごくかっこいい感じだけど怖いわ。
だって、本部って先生がたくさんいるところでしょ?怖すぎ。
「また、室内の1室を司令室とし、交代制で会場全体の監視・生徒会への司令を下す場とします」
なんか、すごく本格的です。
いや、もちろん力は入れているんだろうけど。
その後も説明が猛スピードで説明が続き。
「以上で、第1回合同文化祭運営委員会を終了します」
予定より30分近く早く終わった。夕ご飯にも余裕で間に合うわ、コレ。ちなみに学校までは歩いて帰りま〜す。別に飛行魔法を使ってもいいらしいですけど。
それより、この人、マジ有能。桜川伊緒。
すごいです。尊敬します。
「飛華、この後、すぐ帰る?」
人がう動き出したのを確認して、私は隣にいる飛華に問いかける。
「ん〜、どうする?」
「私は別に、美華が言うように」
「風華がそう言うなら、私も」
あー、この2人は変わりませんね。
互いを至上主義としています。
「私はちょっとだけ王都観光してもいいと思うけど〜?」
「だけど、あんまり時間はないよ、陽華ちゃん」
そういえば、王都を回ったことってないね。王都にきて数ヶ月が経つけど。
王都って、どんなお店があるんだろう。地元のモルタ・モンテ地域の町にも私はあまり行かないから、イメージがつきにくい。ただ、寮の窓から見える限りだと、夜まで灯りがポツポツとついていて、星のようだと思う。
星。うん、それが私の中の王都イメージだ。
「飛華、あまり寄り道しちゃダメよ」
「……麗羅」
背後には、麗羅先輩が立っている。その隣には津城さんもいて、夢華が小さく手を振るとそっと振り返していた。
「べ、別に私じゃないわよ、王都観光しようって言ったのは。言ったのは陽華だもの」
「ひどい〜!私に押し付けなくてもいいじゃない、飛華〜!」
飛華は髪をくるくるとイジりながら陽華に責任転嫁する。
……というか、飛華が髪をイジる時って、大体誤魔化すときなんだよね。
10年近く飛華と暮らしてきた私はわかります。
「まぁ、どっちでもいいんだけど……」
「分かってるわよ。真っ直ぐ学園に帰ればいいんでしょ?」
「そう。分かってるじゃない」
拗ねたようにいう飛華と苦笑いする麗羅先輩。
飛華、相当王都を回りたかったんだね……。
「紫月会長、お話中失礼します」
低めの、声。
その人の姿を見たとき、飛華は淡い笑顔を浮かべた。
「あ、青龍くん、いや青龍会長、になったんですよね。おめでとうございます。……それで、何ありましたか?」
サラサラの青髪の、男子生徒。
身長は飛華と同じか、少し高いぐらいだろう。
「ありがとうございます。……少し、聞きたいことがあって」
キリッとした目つき。切長で、冷たく感じられる。
いかにも優等生、と言う雰囲気だった。
青龍希翠は私達3つ子の方に向き直ると、言った。おそらく、飛華と双子には既に挨拶をしているのだろう。
「初めまして。グランデ・フィウーメ校、生徒会長の青龍希翠です。よろしくお願いします」
「紫月陽華です〜。よろしくお願いします〜」
ふわふわとした、若干媚びとも聞こえる口調で、陽華が答える。本人に媚びなんて気はないんだろうけど。
左脇を、夢華に突かれる。私に自己紹介しろ、と言うことなのだろう。
「紫月、稜華、です」
「紫月夢華です。青龍会長、よろしくお願いします」
……なんなの?
目的は、なんなの?
なんで、私達に声をかけてきたの?
「それで、うちの妹に何の用かしら?」
「少し、聞きたいことがあったので」
聞きたいこと。
ドクドクと、心臓の音が大きくなった。
息が、苦しい。
喉に、何かが詰まったようだ。
そして、さっきより何段階も冷えた声が、私の中で異様に響いた。
「色入り。知らないか?」
お読みくださり、ありがとうございました。




