75 言い訳
「稜華。貴女は、私に何を隠しているの?」
ヒュ、と喉が鳴る。
隠している。
それはきっと、ミアのことを指しているのだろう。
「私に、じゃないわね。私達に、だわ」
今の飛華は恐ろしく冷たく、暖かさを感じられない口調だった。
「いつも、抱え込んでいるわね。ずっと、小さい頃から。……なんで私に、私達に言わないの?言えないわけ?信用できないわけ?」
飛華の言っていることは正しい。正論だ。
だって、飛華は私の太陽なのだから。「正しい」の塊なのだから。
「……秘密は、秘密だから。だから、言えないものじゃないの?」
私がずっと使ってきた言い訳。
飛華が言葉に詰まる。
「簡単に伝えられることなら、とっくに伝えている。……だけど、それはできない。今の私と、姉妹だと。だけど、知ったところでみんなが傷つくのは目に見えている。だから、私は……みんなが気づくまでは、何も言えない」
ミアとも、約束したから。
だけど、それ以上に、私は姉妹にこんなことは知られたくなかった。
自分が作りもので【研究成果】だと知って、存在意義を疑ってしまう姉妹を、私は見たくない。
ふ、と幼い私が脳裏を横切る。6歳になったばかりの、私が。
──私は、作りものだから。
──他の人とは、違うから。
──このことは、秘密にしないと。
──私が、守らないと。秘密にしないと。
責めて、責めて、責めて。
ミア以外、誰にも言えなくて。
自分がなんだか、分からなくなって。
辛くて、悲しくて、痛くて、苦しくて。
どうすればいいのか、わからなかった。
考えて、考えて、悩んで、悩んで。1年が経った。
7歳の私は、知らない場所に、1人でいた。
「……とにかく、言えないから。みんなが気づかない限り。飛華だけじゃ、ダメ。風華も、美華も、陽華も、夢華も、みんなが気づかないと、いけないから」
私は、私だけは違う。
自分で、自ら迷い込んでいって、知ってしまったから。
私は、隠し通さないといけないから。
「少なくとも、私はその最低条件をクリアするまで、何も言うつもりはないの」
飛華の目には、涙が浮かんでいる。
……なんで。なんで、泣くの?
「……私は、ただ、あの時の稜華みたいに、なってほしくないだけなのに……」
「……ゴメン」
お互い、頭を冷やす必要がある。
そう考えて、私は研究室に転移する。
ヘリコニア先生と接触しないように、直接自分の研究室に。
明かりもつけていない研究室は、静かだし、不気味なぐらい薄暗い。辛うじて外の光が入ってくる、って言う感じだ。だけど、もう日は暮れているし、真っ暗になるのも時間の問題だろう。
私は山積みとなり始めている資料をかき分け、できたスペースに座りこむ。
合同文化祭を前に、魔法学園、しかも王都校の生徒会長と副生徒会長が喧嘩した。
これ以上ないネタだろう。きっと、このままの状況が続いたら、選任祭の後みたいになっちゃう。せっかく、改善なされたのに。
……仲直り、しなきゃいけないんだろうけど……。
「……どうすればいいの……?」
その小さな声が、無性に響く。
いつの間にか、本当に真っ暗になってしまっている。
伸ばした自分の手ですら、闇に溶け込んでしまう。
……寒い。
心も、体も。
……みあ……わたし、どうすればいいの……?
**
「美華、稜華は寝ているよ?」
「でも、起こさなきゃ、風邪ひいちゃうよ、こんなところだと」
目の前は真っ暗で、体が動かない。
なのに、話し声だけが鮮明に聞こえる。これが半覚醒状態、だろうか。
「というか、なんで私達の組み合わせなの?ビミョーじゃん」
「ホント、美華は文句しか言わないよね。私達は双子だし。だからこそ一緒なんでしょ?それに……」
その後は小声で言っていたらしく、うまく聞き取れなかった。
「というか、稜華冷たくない?いつからいるんだろ?」
「そりゃあ、転移魔法でいなくなってからじゃない?大体1時間……って、冷たっ!低体温じゃん。ヤバイヤバイ」
「というか、稜華の周りに氷が張っているんですけど」
「魔法じゃないかな。魔法を使って、尚且つこんな寒いところにいたから低体温になったんじゃない?」
「風華、つべこべ言わず、回復魔法!体温を上げないと」
「分かってる!美華、いい感じの支援、お願い!」
「分かってるって!」
「……体温回復!」
「なんかいい感じの支援!」
なんじゃそりゃ。
だけど、体は確実に暖かくなっている。
カイロみたいだ。だけど、まだまだ上がっていない?
だんだん、暑くなってきたんだけど……。
「わ、風華、やりすぎ。熱が出てる!」
ですよねー。
「え?そう?じゃあ、ちょびっとだけ下げるね」
「風華のちょびっとは全然信用できないっ!私が支援するから、ちゃんとタイミングを合わせてよね!」
「おっけー」
「……うん、私も大丈夫」
「体温調節「支援」」
少しだけ体温が下がっていい感じだ。
「……稜華、起きた?」
「風華、何言ってんの?稜華、起きてるよ」
「違うって。起きて大丈夫かって聞いたの。察しなさいよ、美華」
「はぁ?そんなこと、一言も言っていませんでした〜」
……やっぱ2人は2人で1人だね。
1人だと会話のペースが落ちるし、魔法も中途半端というか、いい加減だ。
「……その、ありがと」
「いやいや、感謝されるほどでも〜。風華は足で纏にしかならなかったし」
「何言ってんのよ。美華は私の支援をしていただけじゃない」
……そっと言ったつもりだったんだけど。
この2人は漫才でもやっているのか?
「……ところで、なんで2人が」
私は行き先も言わなかったし、そもそもあの現場にいたのは飛華だけだ。
「そりゃあ、飛華が号泣しながら麗羅先輩のところに行ったからだよ」
「全く、姉妹を頼ってほしいよね」
「そうそう。でね、麗羅先輩は飛華を片手に、うちの部屋まで来たの」
へぇ〜。
というか、飛華を片手にって何……?
「只事じゃないなって思ったから、私が陽華と夢華を呼んで、聞き取りをしたの」
「麗羅先輩の同室の子……名前、なんだっけ?」
「津城つむぎ、だよ、風華」
「そうそう。その子も交えてね」
……津城さん、姉妹喧嘩に巻き込んですみません。
「特に陽華と夢華はびっくりしていたよね。風華」
「そうだね。多分、2人とも飛華の泣いたところ、見たことないんだと思う」
「お姉ちゃんだからって気ぃ張ってんじゃない?弱った姿を見せるのは基本的に麗羅先輩」
「私達がギリギリの許容範囲?なのかな?」
なるほど?
というか、こういう時って大体、陽華と夢華が私のところに来る気がする。なんとなく、フォローする相手が決まっているんだよね。
姉3人と妹3人で。だから、私は双子と関わることはそれほど多いわけではない。
「で、飛華グジグジ言っていて、稜華がどっかに行ったって言ってさぁ」
「それはヤバいってなったんだよね。学園の外に出られたら大変だったよ、美華」
……すみません、ご心配をおかけしてしまい。
「飛華のフォローは麗羅先輩と津城さん?に頼んであるから」
「で、風華と私、陽華と夢華に別れて稜華捜索隊を結成したんだよ」
そうですか。
陽華と夢華に私が見つかったって連絡しなくていいんでしょうか?
「さっさと仲直り、しなよ」
「美華の言う通りだよ。……飛華も、稜華も、傷ついている」
「……ヤダ」
その言葉は、するりと出た。
「なんで?稜華、傷ついているのに。飛華と喧嘩して、苦しくなったんでしょ?」
「いつまでもここでグズグズしていたら、もっとめんどくさいことになるよ」
風華の優しげな口調を美華がズバズバとぶち壊す。
「……ヤダ」
だって、私は。
「負けを認めるなんて、ヤダ」
意外と(?)負けず嫌いだった稜華でした。双子と絡むことはなかなかなかったので新鮮です




