74 紫は赤を妄信する
「……すみません。体調が悪いので……抜けます」
私は生徒会室を出てすぐ、転移をする。
ねぇ、どうしたらいいんですか?
「ミア……」
「稜華?」
研究所には、いつもと変わらず、ミアがいる。
いつもと変わらない、定位置に。それだけで、安心する。
「こんなにすぐに来るのは久しぶりね。早速だけど……」
「それどころじゃ、ないんですっ!」
いつも通り、仕事を振ってくるミアに、今まで出したこともないような大声で言う。
「……そうなの?だったら、どうしたの?」
「名前に、色が入っていたら魔術師の、【研究成果】なんですよねっ!」
「ええ。そうだけれど?」
やっぱり、間違えなんかじゃない。
だけど、間違えの方が、よっぽど良かった。
「魔術師は……狩られたんですよ、ね……?」
「そうね。だけど、わたくしや稜華の言っていた〈青緑の魔術師〉のように、まだ生きている者もいるかもしれないけど」
これは、どうでもいい質問だった。
聞かなくても、分かっていること。だけど、聞かずには、いられなかった。
「……青龍、希翠、って……」
「せいりゅう、きすい……」
小さく名前を反復したところで、ミアはバッと勢いよく顔を上げる。
「その名前、もしかして」
「苗字に、青が入っています」
「なんでっ……!」
今まで聞いたことないような、悲鳴に近い声。
私には、なんでそこまで過剰反応をするのか、理解ができなかった。
「なんで、〈青の魔術師〉がっ……!アイツが生き残れたなら、なんであの方が、犠牲になったの!?」
文脈から察するに、青龍希翠は〈青の魔術師〉とやらの【研究成果】なの?
「逃げて、隠れてっ……!アイツは、いつもそうだった!あの方を踏み台にして……!許せない……許せない!!」
「……ミア、一回落ち着いてください」
狂ったように呪詛のような言葉を吐き続けるミアを一回落ち着かせよう、まずは。
しばらくして、ミアは落ち着いたらしい。
「……ゴメンなさい、取り乱して」
「大丈夫です。私の方こそ、すみません。ミアが〈青の魔術師〉とやらに、過剰反応するとは思わなくて」
私、魔術師としてのミアを全然知りませんし?
知っているのは山奥に住む研究者、創造主としての姿ですし?
「……魔術師にも、階級があったのよ」
ミアは、ポツポツと話だした。
「トップは、白と黒の魔術師。……けれど、長い間空席だったし、多分、魔術の始祖のことを表している」
なるほど。神様的存在。
「次に、原色。赤、青、黄の魔術師。現存する魔術師では、最強クラスだったわ」
〈青の魔術師〉が入るところですね。
「その次に、二次色。橙、緑、紫の魔術師。前にも言ったと思うけど、わたくしはここに属していた」
つまり、〈青の魔術師〉の方が強い……?と言うことでしょうか。
「そして、三次色。赤橙、黄橙、黄緑、青緑、青紫、赤紫。……稜華が前に会ったという〈青緑の魔術師〉が属しているところね。その下に他の細々とした色の魔術師がいたの」
なるほど。
青の魔術師>ミア>青緑の魔術師、となるわけだ。まぁ、階級そのものが純粋な力を表しているわけじゃないと思うけど。
だけど、ミアもかなり高位の魔術師だ。白と黒は抜きとして、上から2番目。すごすぎません?
「まぁ、十中八九、というか確実に〈青の魔術師〉の【研究成果】でしょうね。目的が分からないけど」
ホント、向こう側の目的は何なんでしょうね。
「……ところで、どこでその名を?」
「学園の、合同文化祭の準備で、です。5つあるうちの1つの学園の、生徒会長、です」
と言うか、会う前に発覚して良かったと思う。もし聞き流していたらものすごい混乱に襲われていただろう。
「そうなのね。最初に会うのはいつ?」
「……すみません、その名前を聞いた後すぐにこっちに来たので、他はわからないです」
申し訳ないっ!
「やっぱり、稜華、貴女は肝心なところで抜けているわ」
ヒドイです……だけど言い訳ができない……。
「まぁ、何があっても、見知らぬふりをしなさい。不用意に関わらないことがベスト。ないと思うけど……魔術師のことを出されても、適当に誤魔化しなさい。怪しい挙動をすれば、疑いの目は向くでしょうね」
わあ……全然嬉しくないね。
かなりの高難度。
果たして、私にできるのでしょうか。……いや、やらなきゃいけないだけどさ。
「向こうの目的がなんであれ、わたくしが言えるのは一つだけ」
はい。なんでしょうか。
「アイツは、あの澄ました顔に合わない、お腹の中真っ黒の策士。真っ黒なのに〈青の魔術師〉だなんて、笑えるわ」
……はい?
「……あの、それって……ミアの偏見も入っていたり?」
「偏見?わたくしがそんなことを言うとでも?」
え〜?
なんか凄みのある笑顔をしていますけど、変なスイッチを押しちゃったでしょうか?
「アイツは、事実、ずっと澄ました顔をしていたわよ。それはそう、〈青の魔術師〉らしくね」
じゃあ、そう言えば良かったじゃないですか。
「だけど、とにかく腹黒いのよ!隙あらば嫌味を言うし、何かと自分が勝っているってしめしたがるし、あの方の名誉を一時、血の底まで落ちるように裏で動いていたのよ!?」
「……すみません、あの方って、誰ですか?」
「〈赤の魔術師〉様に決まっているじゃない!」
わぁお。
〈赤の魔術師〉様と、アイツかぁ。
階級が同じなのに扱いが……。
「あの方ほど凛々しくて、勇敢で、お優しく、賢い方なんていないわ!」
あー、コレは、アレだな。妄信しちゃっているタイプ。
こう言うのに何を言っても無駄だ。
「あーうん、そうですか。ところで、こっそり情報を……」
「絶対ダメ!」
……というか、ミア、ちょっと狂ってません?
主に、〈赤の魔術師〉が出てきたあたりから。
「情報を見るのは、ダメ。逆に探りを入れられて下手したらわたくしのことまでバレるから」
へぇ。そうなんですか。
今後、気をつけます。
「……ねぇ、知っているかしら?」
「……何を、ですか?」
「魔術師が姿を消した原因」
「魔術師狩りがあったからでは?」
ミアに聞いた話も、歴史も、〈青緑の魔術師〉の話も、そうだった。
魔術師狩りがあったから魔術師は世界から姿を消した。
「そうよ。魔術師狩りの内容、知っている?」
「知りませんよ、そんなもの」
むしろ、知っていたらどこで知ったのかを聞きたいね。
「……魔術師を差し出したら、一時的に貴殿の安全を確約する。ただし、人間、魔物、魔術師、種族を問わない」
何も感情を写していないその言葉。
どうなるか、想像した時。怖くなった。
「罠よ、罠。魔術師が魔術師を差し出す。差し出した魔術師は一時的に安全になる。差し出された魔術師は見せしめにされる。……魔術師だけ、安全を確約された時間、短かったのよね」
自重気味に言うミア。
きっと、彼女の知り合いも犠牲を出し、犠牲になったのだろう。
「呑気に過ごしていたら別の魔術師が自分を差し出すの。階級なんて、関係なく」
ナニソレ。怖。
「魔術師狩りの最初の餌食は、わたくしの弟子だった。……将来有望で、少し抜けていたから。さぞかし格好の餌だったのでしょうね」
ミアの目は、暗い。何も、写してない。ドロドロとしていた。
「この地にあった王国の話よ。中央には、詳細な情報も残っているでしょうから……くれぐれも、気をつけなさい」
ミアはそういうとフラスコに怪しげな液体を入れ始める。研究を始めたミアは相当なことが起こらないと決して手を止めない。
これ以上は無理そうだ、と思い、学園に戻ることにする。
寮の部屋には、飛華がいた。どうやら、会議は終わったらしい。
「稜華、どこに行っていたの?体調が悪いなら寝ていないと」
……そう言えば私、体調が悪いからって会議抜けたんだよね。
ミアと話していた忘れたけど。なんて言いましょうか。
「えっと……でも……」
「でもじゃないっ!」
モゴモゴ言っていたら、飛華が大きな声を出す。
「稜華が自分のことを分かっていない?そんなことない。貴女は、聡明だから。だけど、自分で自分の不調を見ぬフリにするよね。前だって、そうだった。私は、そんな稜華を見たくない。これまで黙って見逃してきたけど、もう、ちゃんと言うね」
飛華が、私の方へ、近づいてくる。私は後退する。飛華は近づいてくる。
だけど、すぐに壁と背中がぶつかった。
飛華は私の手首をとり、壁に押し付けた。
これ、いわゆる壁ドン、では?
そう認識した時、頬が熱くなるのを感じる。だけど、それは一瞬だけだった。
「稜華。貴女は、私に何を隠しているの?」
稜華初(!?)の壁ドンはまさかの飛華からの問い詰め!




