71 全力勝負
そして、週明け。
ついに、その日がきた。
『ころっせお』みたいな実技場には、たくさんの人がいる。正直言って、うるさい。
1つ1つは小さかったり、普通の話し声だったりするんだろうけど、それが集まると、ねぇ。しかも、聞こえないからって、さらに大声を出すと言う悪循環。
「それでは、ルールを説明しますっ!」
実技場の真ん中、私達の頭上に大きな文字が映し出される。
……うん、ヘリコニア先生は満足顔だね。
まさか、こんな場面ですら、研究発表の場にしてしまうとは。
なんでも、途中まで作っていたのを、このためだけに3日で仕上げたそうだ。曰く、トランクイリタ先生から巻き上げた、希少素材(冷凍保存)が役に立ったらしい。
「ルールは、コートから出る、または戦闘不能と判定されるか、降伏した場合は負けです。魔法制限なしの、制限時間は1時間です!」
便宜上、ルール説明が行われる。至ってシンプルなルールが。
本当は客席まで聞こえた方がいいけど、まぁ、しょうがないだろう。
後で違うって言われても、ちゃんとルール説明はしましたよって言えばいいだけだ。
「なお、今回は危険が伴うと推測できますので、防御結界を張らせていただきます。また、万が一の場合に備え、回復系魔法師も待機していますので、ご安心ください」
わー、豪華。まぁ、この人員は姉妹なんですけど。
当然だけど、防御は陽華。
そして回復系魔法師として風華だ。
主に陽華の支援として美華、補助は夢華。うん、完璧な布陣だわ。
「両者、準備はよろしいですか?」
「大丈夫ですっ!」
少し離れたところにいる飛華がいう。
「私も、大丈夫です」
審判は、あまり知らない先生だ。審判だけではなく、副審判、三審までいるという、超絶豪華さ。
これはヘリコニア先生に後でちゃんと研究資料、渡さないとなぁ。
「それでは、魔法学園王都校、校則に従い、只今より、生徒同士の決闘を開始するっ!」
そう。校則であるんだよ、決闘について。
両生徒と了承と教師の許可がある時、大勢の前で行うことを可とする。ルールについてはその場合に合わせ、決めよって言うのが。
「生徒会長・紫月飛華! 副生徒会長・紫月稜華!」
物々しいですね〜。
「それでは、始めっ!」
その声と共に、飛華は魔法発動に取り掛かろうとしているのがわかる。
「情報強化。ヴォルペ」
もう、かなりの人がヴォルペのことを知っている。
だから、もうすごく隠したりは、しない。
「我が契約精霊、アルジェント・ヴォルペの名において、ヴォルペの知り合いを召喚。……マージア・イニーツィオ!」
あくまで小声です。はい。
そして、ドドドド……!と、ヴォルペの知り合いが召喚される。その中には、ネラさんと、フォルテさんの姿もあった。
「みんな〜、そこにいるロングの内巻きの子を、ころさないていどに、攻撃して、防御してっ!おねがい!」
ヴォルペも事前に話を通していたのか、早かった。
各々の方法で了解を伝え、その体勢に入る。
正面から飛華もせっせとえげつない攻撃魔法を放ってくる。
明らかに本気だ。選任祭の時のような、甘さというか、優しさや手加減は一切感じない。
鋭くて、強くて、綺麗で。麗羅先輩のような魔法だ。
私は、そんな魔法を情報分解していっている。
選任祭では、ヴォルペが私を助けようとしてくれていたから、ヴォルペは2つの魔法を扱うことになってしまった。ヴォルペは、2つの魔法を1度に扱うことが難しい。だけど、私にはそれができる。
「情報対象、紫月飛華。移動対象、紫月飛華。移動座標位置、コート外。契約精霊、アルジェント・ヴォルペの名において、魔法発動。マージア・イニーツィオ!」
ヴォルペに全体的なフォローをお願いすれば、私は魔法に、転移魔法に集中できる。
「魔法攻撃!」
転移魔法は、攻撃により中和され、消える。
別に、情報系魔法を使わなくたって、情報分解を使わなくたって、魔法が消されるほどの威力の魔法を放てば、魔法は無効化される。
魔法は、無効ではないのだ。
「情報対象、紫月飛華。移動対象、紫月飛華。移動座標位置、コート外。契約精霊、アルジェント・ヴォルペの名において、魔法発動。マージア・イニーツィオ!」
「魔法攻撃っ!」
今の状態だと、飛華の方が疲れていて、ダメージを負っているだろう。
ネラさん達と私の攻撃を避けたり中和したりしながら、こっちに攻撃をして来ているから。
ただ、体力の面では絶対的に飛華の方があるから……。
運動少女と引きこもりの差がどれだけか、が焦点だろう。今、私は体力を情報強化で上げていますけど。
だから、勝負の行方が分からない。
この転移魔法のやりとりを、何度繰り返しただろうか。
いつしか、会場は静寂に包まれている。
最初は、応援の声とかで溢れていたはずだ。……主に飛華への。
魔法で爆せる音が、よく響いていた。それに、魔法詠唱の声も、少しだけ。
「悪いけど、私の辞書に、負けるなんて言葉はないの!」
何度も聞いて来たセリフが、聞こえる。
その声は、透き通っていて、それですごく響いて。
「私は、倍返しするから」
そう、答える。小さく呟いたその声が、飛華に届いたかどうかなんて、分からないけど。
ずっと、やられっぱなしなんて、私らしくない。
俯いて、黙っているだけなんて、私じゃない。
ミアの【研究成果】だって、胸を張れない。
「情報強化」
魔法により、自分の持久力と筋力を上げる。
うん、元々強化していたけどさらに強化できたね。
「召喚、マージア・イニーツィオ!」
召喚魔法で、武器を呼び出す。
別に、召喚できるのは生物だけではない。
無生物も、だ。なんなら、植物も呼び出させるし……まぁ、なんでもありだ。
だけど、その自由さこそが、召喚魔法。
この自由さを使いこなせないと、召喚魔法を使いこなせているなんて、言えない。
私も、召喚魔法はまだ使いこなせてないと思っているし。
そもそも、私は魔法を使いこなせているなんて、言えないし。
私の手にあるのは、刀、だ。魔法がない『ニッポン』と言う国の武器らしい。
鞘から刃を抜くと、数回振ってみる。
……うん、いいわ。めっちゃいい。ちょーいい。カッコいいし。
スラリと伸びる等身、光を鈍く跳ね返す刃……最高ですな。
だけど、一応軽くして、強度も上げておいた方がいいかな。
魔法がぶつかって折れたら、洒落にならないし。
「面白いっ!」
飛華も、魔法によって刀……じゃないな、剣。剣を作り出した。
刃には炎を纏っていて危険だ。
いや、飛華の魔法が安全だったことなんて、ほぼないけど。
「情報強化。軽量化」
そしてまた振ってみる。
……これでいいね。さっきより軽いし、一撃一撃の威力も出そう。
ふうぅぅ、と、息を整えて、落ち着いて。
私は、飛華に向かって走り出した。
飛華も、走ってくるのが見える。
コートのちょうど、ど真ん中で。
──キイイィィン!!
刃がぶつかり合う音が、響いた。
……一瞬、火花が散った気がするけど、気のせいだよね?そうだよね?
それから、何度も何度も、刃がぶつかる。
いつの間にか、ネラさん達の攻撃も止んでいて。私達の、一騎討ちだった。
──キィン……。
──キイン……。
互いに譲らない攻防。
だけど、若干私の方が押され始めている。
「情報分解」
飛華の剣を分解しようとしてみるけど、やることがバレていたらしく、飛華も刃に魔法を乗せた。
「魔法攻撃!」
あっけなく、打ち砕かれる。
……うん、分かってた。
これは、魔法の強さを表すものだ。
どちらかが強いのなら、弱い方の刃が折れる。
互角ならどちらも折れない、または、どちらも折れる、と言うことになる。
「……召喚、水。情報添付」
試しに刀に水を纏わせてみた。
飛華は炎の剣を使っているから、水なら何とかなるかなぁ……ってところだ。
「……情報強化っ!」
きっと、こんなことは長くは続かない。
飛華だって、早く勝負をつけたいはずだ。
だから、私が水を使ったこの手で、全力を出そうとするはず。
──カキィィィン!!
大きな音をたて、刃がぶつかり合った。
ジリジリと、押しては押し返す、力比べが続いた。
「情報強化」
更に刀を強化して、飛華に推し負けない様にする。
……私は、負けたくなんて、ないから。
ボキッ!
鈍い音が、鳴る。刃が根元から折れた。と同時に、観客席の方から驚愕の声が広がる。……うるさいですね。集中力を切らさないでほしいです。
ここからが、重要なのだから。
ここで止まるなんて、愚の骨頂で。自殺行為に等しくて。
そんなこと、とっくのとうに分かっている。私も、飛華も。
だから、私は持っていた刀の柄を、飛華に向かって投げた。
「情報爆破っ!!」
「炎爆っ!!」
全力勝負が始まりました!
果たして、勝敗は……?




