7 基礎魔法力検査
「これから、基礎魔法力検査を開始いたしますっ!」
前のほうで、精一杯声を出していますっ!という人。
多分、先生かな。制服、着ていないし。
「基礎魔法力検査は、属性、適性魔法、魔法力、魔力、魔力貯蓄量などについて検査しますっ!」
「魔法力と魔力、あと、魔力貯蓄量って、何が違うの~?」
魔力と魔法力、ね。確かに、分かりにくい。
正直、そんなに細かく分けなくてもいいのにと思う。
「魔法力は、1発の魔法で、どれだけの規模になるかで、規模が大きいほど魔法力が強い、もしくは高い、と言われるけど……。魔力と魔力貯蓄量は分からないな。稜華ちゃん、分かる?」
夢華、そしてなぜ私に振る。説明できないことはないけど、説明しにくいだよ、魔法用語は。
「魔法力についての認識はそれで正しいよ。魔力は魔法を発動するためのエネルギーみたいなもの……かな」
ここまでは分かりやすいし、説明しやすい。問題は、魔力貯蓄量だ。
「魔力貯蓄量は魔力がどれだけ貯められるかというもの……?例えば、コップが魔力をためる器、水が魔力だとしたときの、コップの大きさ……じゃないかな」
イマイチ、この認識が正しいのかは微妙だけど。
ホント、魔法用語を考えた人って、メンドクサイことをしたよね。わざわざ難しい表現とかにして。しかも、視認できないものだから、タチが悪い。
「……というのが、魔力貯蓄量ですっ!」
思いっきり説明してたな。
というか、これだけに1週間もかけるって……どんだけのんびりやるんだか。
「なお、この場は顔つなぎも兼ねているので、積極的に様々な人に話しかけましょうっ!」
あ、そういえばそんなことを言っていた気もする。
……これは、飛華たちがつまらないというのもわかる。
全力でやれば、検査なんて1日で終わるもん。
だって、1年生、4クラス分しかいないんだよ?顔つなぎも兼ねているとはいえ、そこに一週間かけるって、時間が勿体ないよ。
私、部屋に帰ろうかなぁ。
魔法力検査じゃなくて、顔つなぎがメインな気がする。
「それでは、桜組は魔法属性から、梅組は……」
属性、ねぇ。
私達は既に調べているけど、ほかの人はまだなんだっけ。
「では、検査する場所で今朝伝えた順番に並んでください」
私は陽華の後ろに並ぶ。順番を確認され、検査が始まった。
前にいる陽華は分厚い装置に手をかざす。
「1の桜の1、土属性」
属性検査装置が緑に光る。
装置、分厚いなぁ。重そうだなぁ。無駄に武骨だなぁ。軽量化、しないのかなぁ。
陽華は検査結果が書かれた紙を受け取り、次の検査で出すように言われた。
私は属性検査装置に手をかざす。
見た感じ、古いし、性能が悪そうだ。
だから。
「1の桜の2、属性ナシ」
無属性の私に、反応しない。
というか、属性ナシって言い方もひどくない?
私は無属性のだけなのに。別に、無属性じゃなくても古くて性能が悪い装置だと反応しないけど。
「それはひどすぎです!」
「待ってください!」
「なんですか?」
「その装置~、古いです~」
「その装置、性能が悪いです」
「「だから、無属性の稜華ちゃんには反応しません!」」
陽華と夢華、息ぴったりだなぁ。
見事な掛け合いだ。呼びかけとかしたら、すごくよさそう。
「何の根拠があって、そんなことヲ?」
「稜華、パス~」
「稜華ちゃん、後は頼んだ」
ふざけてます?言うだけ言って説明を頼むって。
まぁ、話を振られたらいうしかないか。なんか、さっさと言えっていう圧が掛かっているし。
「……まず、装置についてです。これは、かなり古い型……と考えられます。ざっと……ん~、200年、でしょうか」
ザワリ、と辺りが騒がしくなる。
というか、200年ものって凄いよね。それだけ歴史があるっていうことなのだろうか。
「次に、性能です。200年前でも、無属性を判定できる装置はありました。……とても高価、ですが。今も高価ですが、今より高価です」
この世界は『チキュウ』に比べて、あまり発達していないからなぁ。
魔法があるから、『カガク』とかそういう考えは必要なかったのだ。魔法があるから当たり前。そういう考え方だ。
「次は、無属性について関係するのですが……。無属性、及び複合属性など、希少属性と呼ばれる属性はは全体の一パーセント未満の人しか持ちません。しかも、魔法力が低いほど、希少属性の人は多いです。魔法力が高いと希少属性は少ないというわけですね。あ、ちなみに属性の分かりやすさは魔法力の高さに比例します。属性検査をしない普通学校が多いのは、これが理由です」
ふう。さすがに一息では言えなかったね。まだまだ説明は続くのに。
そして自分で説明していても何が何だか分からなくなってきた。
それにしても先生が生徒にこんな難解な説明を求めるとは。しかも、授業という授業はまったくやっていないのに。それでも先生なのだろうか。
「……つまり、魔法力が高いほど、属性は分かりやすい。そして、魔法力が弱いほうが希少属性が多く、しかも魔法力が弱いと属性が分かりにくいため、希少属性は少ないと言われています。先程述べました通り、魔法力が高いほど、希少属性は少ない傾向にあります。だから、魔法学園に入る人に、希少属性はいないに等しい。コスパの面も考えて、安くて基本属性しか図れない装置にしたのでしょう」
これであっている、よね。多分。
凄くメンドクサイことを説明させられているんだけど。そして先生はこんなことも知らないのかなぁ。
「疑うのであれば、とりあえ次の夢華も測定してみてください。……複合属性ですから。私の仮説、というか常識が正しければ夢華も『属性ナシ』という判定になるはずです。それでも……疑うのであれば、姉を呼んでいただいて構いません」
「稜華、自分が属性ナシって判定されたこと、根にもっているの~?」
「陽華ちゃん、違うよ。稜華ちゃんは自分がとてもメンドクサイ説明をさせられたことを根に持っているんだよ」
陽華さん、夢華さん?
何のことですか?私を何だと思ってます?
先生のほうもこれだけ言えば、十分だろう。
「なっ……つ、次、ドウゾ」
驚きすぎて声が裏返ってる?
いや、でも、これくらい常識でしょ。なにを今更、そんなに驚いているのかな?
夢華が装置に手をかざした。
当然のごとく、何の反応もない。
「1の桜の3、属性ナシ、いや、判定不能……?」
そうそう。その表現が正しいんだよ。属性が図ることができなくても、皆属性があるんだから。
ちなみに最新型だったり、性能が良かったり、古くても性能がいいと、私の場合は白銀、夢華の場合は虹色になる。
私は無属性っていう属性だけど、属性がないわけじゃない。無属性という属性もちなのだ。何にでも対応できる、無限の可能性を秘めた属性。私はそう解釈している。
「そんなわけなイ!」
後ろにいた50代ぐらいの先生?が声を荒げる。
物分かりが悪いのかなぁ。
「疑うのであれば、姉を呼んでいただいて構いませんよ。姉は、〈真紅の月光〉の紫月飛華と、〈夢の中の癒し手〉の紫月風華、〈全ての右腕〉の紫月美華です」
夢華が丁寧にも補足してくれる。
というか、喧嘩売っちゃったなぁ。
目、つけられないといいなぁ。
「おい、紫月姉妹を呼んで来イ!三人ともダ!」
なんか、保護者呼び出しされる気分だな。保護者じゃなくて姉だけど。姉呼び出し、になるか。
というか、この先生傲慢すぎ。検査結果を言ってくれた先生が怯えているよ。
「何か、用ですか?私達も忙しいのですが」
明らかに怒った飛華達がやってくる。
ホント、目だけが綺麗に笑っていなくて、怖い。風華も、美華も同様だ。
さっきも迷惑かけまくったのに今も迷惑かけまくっている。飛華達の捜索隊が出されないといいなぁ。
「美華、私達も一応、生徒会に所属しているんだよね?これでも副会長なのに。」
「そうだよ、風華。当り前じゃない。そろって呼び出されるって、残念過ぎだよね。」
……風華と美華の口調はいつでも変わらないね。
ある意味、すごい。
堂々としていて。むしろ、こっちがすっきりするほど。
初っ端から会場を混乱させる姉妹。それが、紫月姉妹です。