表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/150

68 オチロ

「よく、授業に出てられるよな。恥知らずめ」


その1つ1つの単語が、ザクザクと、研ぎ終わっていない刃物のように。刃こぼれした刃物のように、心に刺さる。

鋭利な刃物より、よほど痛い。周囲まで、余計に抉れて。鋭利な刃物だったら、そこからどんどん引き裂いたみたいになるかも知れないけど。

それはともかく。


私には、できなかった。

何も、できなかった。

……私にできることなんて、何もなかった。

考えたくないけど、もし、姉妹が同じ立場なら。私みたいに、しないだろう。

みんな、社交的で、友達が多くて、明るいから。

なんと言われようとも、跳ね除けてしまう。それができるだけの力と、勇気がある。

だけど、私にそんなものなんてない。


「なんだよ。姉妹がいないと、何もできないのか?」


……違う。姉妹は、関係ない。

全部、私の問題だ。

私が、悪いから。


「どうせ、選任祭でもズルしたんだろ?ああ、あの狐がいないと何もできないってわけか?」


……違う。ヴォルペは、関係ない。

全部、私の、問題だ。

それに私、ズルなんて、してない。

だけど、弱い私が、悪いから。


「なら、お前の魔法は、お前のじゃないな」


……違う。()()は、関係ない。

全部、私の問題だ。

全て、私が悪い。

その決めつけらたものが、染み付いていく。

私の、価値になっていく。私の意志なんて、関係ない。


そこへ、銀の狐が姿を表す。暴走状態ではなさそうだが、モフモフした獣の姿だ。

まさか、また私のせいで暴走しちゃったの……?






「やめてくださいっ!」


高くて、可愛らしい声が、静かな教室に響いた。

だけど、その声を聞いた時。私は一瞬でも、安心をしてしまった。

暴走していなかった、と言う安心感。そして、ヴォルペが来てくれた、と言う安心感。


「っ、ヴ……ッ!」


ヴォルペ、と呼びかけ、堪える。精霊の名は、知られない方が、いいだろうか。

それにしても、なんで。

なんで、呼んでもないのに、出てくるの?

こんなところの姿を見せたら、ヴォルペは傷つくのに。精神的にも、身体的にも。

少なくとも、私は私が弱っているところをヴォルペには、見せたくなかった。

……いつも、ヴォルペに相応しい契約主であるために。

だから、姿を見せないでって、あれほど言ったのに。


「いつかは、悪くないですっ!だから、もうやめてっ!」


ヴォルペが悪意に晒される必要なんて、ない。

とにかく、ヴォルペにはこれ以上、この場にいてほしくなかった。


「全部、全部、わたしが悪いのっ!わたしが、いけないのっ!」


ヴォルペの、思い詰めた声が響く。

今までの、大勢のまで取り繕っていたような敬語ではなく、いつもの口調に戻るほど。


「じゃあ、お前が責任を取るのかよ」

「……はい」

「じゃあ、今すぐ消えて、紫月稜華が魔法を使えないようにしろよ。そうだろ?お前がいないと、コイツは魔法を使えない」


魔法を、使えない。

その一言で、良くわからないくらいに胸が苦しくなって。


「……いつか、ゴメンなさい。わたしがいなくなれば、いつかが正しいことが証明されるから……」

「ダメ」


私は、その先に続く言葉を、聞きたくなかった。


「でもっ」

()()、ダメって言っているの。……その意味、分かるよね?」


ヴォルペを縛る、契約主である私が、言うのだから。

お願い。そんな、悲しいことは、しないで。私を、これ以上、1人にしないで。


「……すみません。今日のところはもういいですか?」

「逃げんのか?」

「逃げるも何もないです。この子が混乱しちゃっているんで。あと、これ以上あなた達のくだらない話には付き合っていられません。……研究者は、多忙なものなので」

「ハッ!研究が何になるんだよ」


すごく、言い返したかった。

研究は、すごいんだって。楽しいって。

その恩恵を、いつも私達は受け取っていて、それは気づいていないだけだって。


「……部屋へ転移して」

「でも……」

「早く」

「……うん」


転移してしまえば、もうそこは静かな部屋だ。

一気に、疲れを感じる。


「ゴメンなさい、いつか……」

「いい。大丈夫だから。ヴォルペのせいじゃない。私が弱いからだから」

「いつかは、弱くないっ!」


食いつき気味に、ヴォルペが言う。


「弱いの」


紛れもない、事実だ。




「人間だけど、人間じゃないから。だから、弱いの」


私を、ずっと縛り付けているこの意味を、みんなは、まだ知らない。


「しょうがないんだよ。……私が、私である限り」


もう、諦めるしかないのだ。

私は私でなくなることを諦めるつもりはないけど。

その私であるから付随してくるものには、もう諦めるしかないと思う。


「……ゴメンね。明日からは授業の時にしか、他の人に会わないから」

「だけどっ……!」

「それでいいでしょ?」

「……うん」


納得しきれていないようだったが、渋々頷いた。

ヴォルペが帰ったことを確認すると、ベッドに飛び込み、枕に顔を埋めた。




**




──狐がいなけりゃ、何もできないのかよ。

──どーせ、魔法だって狐のもんだろ?

──狐がいなくなれば、凡人のくせに。

──恥知らずめ。

──オチロ。

──【研究成果】は【研究成果】らしく、人形でいろよ。



私は、車に乗っていた。

狭い山道で、クネクネと蛇行した道。

私でない誰かが運転する車は、かなりのスピードだった。

目の前に、カーブが迫っている。

ハンドルをきっていることが、分かったけど。


……あぁ、これは曲がりきれない。

そう、頭のどこかで感じて。

車は、ガードレールを突き破り、宙を飛ぶ。

キィィィ……と言う、嫌な耳鳴り。

飛行機に乗った時みたいに、耳が変になりそうだった。


……あぁ、私、死ぬんだ……。

そう、思いながら。

頭のどこかで、どうやったら生きられるかを、探していて。

頭を少し浮かせれば、首が折れることはないかな、即死は免れるかな、とか思って。

でも、即死を免れたら、痛みに苦しむのかな、とか思っていて。

だけど、耳鳴りが、すごくて。圧力みたいなのが、すごくて。

私はそこで、意識を手放した。




**




「っ、ぁ……はぁ……」


苦しい。

耳鳴りの感覚が、未だに残っている感じがした。

荒い息を整えた時、やっと周囲の状況が見えてくる。

隣のベッドで、飛華が静かな寝息を立てて寝ていた。窓の外は真っ暗で、雨が窓や壁を叩きつける音しか、聞こえない。

……寝れそうに、ないよね。

こんな夜中に研究室に行くのも躊躇ってしまう。

私は考えた末、私服に着替えて、寮を抜け出した。本当は、夜に寮から出るのはダメだ。

だけどまぁ……研究とかで徹夜、なんてこともあるし、あまり守ってないけど。

この世界に、傘なんてない。

ただ、雨ガッパみたいなのがあるだけだ。

雨が、強く私を叩きつける。


……怖い。寝ても、夢に出てくる。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い……。

……怖い。寝ても、夢に出てくる。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い……。


怖くて、寝れない。

夢に出てくるから。だから、私は寝ない。

その日から、私は寝なかった。授業以外、1日中、研究室に引きこもって。研究していた。休み時間でさえも。

ずっと、ずっと。

研究に、没頭する。

休まない。

余計なことを、考える時間は作らない。

……だけど、限界が近いことは、自分でも分かっていて。

精神的にも、身体的にも。

もうすぐそこにその限界は近づいているか、むしろのその限界を超えてしまっているかも知れなくて。


感じられない。

感情も、五感も。

もう、2、3日は寝ていない。

飛華も絶句していたし、相当ひどい顔だったのだろう。

これではいけないと、わかっている。

だけど、どうしようもなくて、

……もう、これも慣れてきたから、これでいいや。


「いつか……もう、あの方のところに行って……!」


明日から休日、と言う日の放課後、ヴォルペが言った。


「もう、いつかは限界をこえているんだよ……。わたしは、見ていられない。そんないつかのことを。いつかは、こわれちゃっているの。だから、あの方に……ミアに、()()()()もらわないと……」


ヴォルペの大きな目には、涙をいっぱい浮かべていた。


「でも、私はもう慣れてきたし、もういいいよ」

「良くないっ!行かないって言うんだったら、わたしにも考えがあるからっ!」


ヴォルペの目から、大粒の涙がこぼれて。幼さを残す雰囲気が、一気に大人びる。

その後、息を大きく吸うと、ヴォルペは言った。











「アルジェント・ヴォルペの名において、契約主、紫月稜華を、あの方の……ミアの研究所へ。……転移っ!」

あの方……『ミア』の正体とは……!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ