67 オチル
ここから数話、シリアス気味になります。
苦手な方は下記のリンクより、69話に飛んでください。
https://ncode.syosetu.com/n7362hn/69/
オチル、オチル、ドコマデモ
オチロ、オチロ、ドコマデモ
チノハテマデ、オチヤガレ……
**
……いつもと、違う。
寮の部屋から出て、十数メートル。
私は、何かが違う、と感じる。
空気、視線、声……いつもと、決定的に何かが違う。
だけど、その原因は分からない。
「稜華。早く、朝食に行きましょう」
「あ、うん……」
後から出てきた飛華に言われ、私は進む。
「飛華、なんか、違くない?」
「気のせい……って言いたいけど。私達が、生徒会役員だからじゃないの?」
若干、やり投げが感じられるけど、納得してしまう。もう、4日が経ったけど……まぁ、他に原因は見当たらないし、そういうことにしておこう。
……そう思うと、私たちの部屋のあたりって安息地だよね。
飛華と私の部屋の目の前は陽華と夢華の部屋。その隣は麗羅先輩と津城さんの部屋。その目の前、つまり私たちの部屋の隣は風華と美華の部屋。突き当たりの部屋って最高です。
そんな、安息地帯から出たところなのだ。
それに、ここ数日、飛華の帰りが遅いのも気になる。
目に見えて疲労が溜まっているし……。
**
「……ッ!」
「いつかっ!」
私は思わず魔法を強制的にシャットダウンしていた。そして、混乱も、していると思う。少なくとも、ヴォルペが自ら出てくるぐらいには。
「ゴメン、大丈夫だから」
「だいじょうぶ、じゃ、ないよね、いつか……」
ヴォルペが悲しげに言う。
私が、このことを知ったのは偶然ではない。
飛華の疲労の原因が知りたくて。ただ、ただただ情報収集していただけ。
怖かった。悪意に、満ちていて。
怖かった。一方的で、よくあることで。
恐怖のどん底に、オチル。
……私の、せいだ。
私のせいで、飛華にも、麗羅先輩にも、迷惑をかけて、生徒会にまで。
飛華は、私のために動いてくれていて。麗羅先輩とも、毎晩毎晩、対策を考えてくれていて。
……私は、そんなことも知らず、のうのうと過ごしていて。
2人にまで、悪口が広がって。
飛華には、知られないように、しないと。幸い、まだ飛華は帰ってきていない。
だけど、ここ数日の帰ってくる時間を見ると、後10分ほどだろう。
今のうちに、何もないように、装わないと。だけど、あの【情報】が、声が、言葉が、文字が、繰り返される。
「ただいまぁ……って稜、華?」
そして、飛華が帰ってきてしまった。
いつも通り、を多分装っているのだろう。だけど、私の様子を見ておかしいと感じ取ったようだった。
「飛華……ゴメン……」
「稜華、貴女……まさかっ……!」
「ゴメン。ゴメンね。ゴメンなさい。私のために、飛華も、麗羅先輩も、生徒会も……」
もう、おそらくほぼ全校に広がっているのだろう。
飛華の疲労の原因は、私だ。
「ゴメンなさい……。麗羅が情報を持ってきてくれた時は、かなりまだ小さい状態だったんだけど……私も、麗羅も……その状態が見過ごせなかった。手を打ったら、余計に広がっちゃったみたいで……」
飛華が、謝ることじゃないのに。
いけないのは、私だ。
私が、弱いから。反則を、犯してしまったから。
ヴォルペに頼らず、1人で全力を出せないから。
──チート能力だよね。
ヴォルペの、悪意ない言葉が、今になって、胸に抉り込む。
私は、召喚系魔法を使っちゃいけないの?
私は、情報系魔法を使っちゃいけないの?
私は、転移魔法を使っちゃ、いけないの?
私に、適性魔法が2つあるといけないの?
私は、戦略を立てたら、いけないの?
私に、ヴォルペがいたらいけないの?
私は、全力を出しちゃ、いけないの?
──うん、そうだよ。
──貴女が、紫月稜華が、全て悪い。
そう返ってきてしまうことは、容易に想像できて。
簡単に想像できてしまうことが、怖かった。
……怖い。悪意と、興味の視線の注がれることが。
あいにく、今週はまだ、数日あった。
「稜華、もう、授業に出なくても……」
「……ダメ。それは、ダメだよ」
それは、私が1番、良くわかっていると思う。
情報系魔法を扱ってきた、私が。
「私がいなかったら……余計に、噂が広がる。火に、『がそりん』を注ぐようなものだから……」
だから、私は何かを知っても。
何も、気づかないフリをしなければいけない。
「それに、あの方から……指示を、受けているから……」
「あの方?」
そんなこと、答えられない……。
そういう前に、私の意識は暗転した。
**
「稜華……」
起きた時には、朝になっていた。
飛華が、心配そうに私を覗き込んでいる。
「おはよ……飛華」
「……今日、行くの?」
「そうだよ?」
本当は、行きたくないけど。私は、行かなきゃいけないから。
「稜華、本気?」
飛華は、私の目をじっと見つめている。
言っている言葉は、あの日……入学式の日と、同じ。だけど、そこに乗せられている重さは、全く違った。
「……うん。本気」
「ウソ」
「嘘じゃないよ」
「じゃあ、なんでそんなに辛そうな目をしているの?」
辛くなんかない。
そう言おうとしたけど、その言葉は口から溢れなかった。
「あ、れ……?な、なんでだろ……」
いつもなら、こんな言葉、簡単に出るのに。
自分の本心ではない言葉なんて、思った以上にするりと出るのに。
「ねぇ、なんで我慢するの……?」
「我慢なんて、してないよ?」
「……してる。我慢して、辛くなった目をしているよ」
「……ゴメン。私は、行かないと……いけないから」
私の意志なんて、関係ない。
ただ、必要ならする。必要ないならしない。ただ、それだけだ。
「……それが、稜華のいう、【支援者】の意向か、知らないけど……私は、稜華をそうやって縛りざるえない状況にした人と、分かり合える気がしないよ」
……どこかの世界の話だけど。
義務で、自分を縛り付けるのは、良くないらしい。だけど、私はそうせずにはいられなかった。
部屋から遠ざかるにつれ、だんだんと人が増えてくる。
向けられる視線。ここ数日の、違和感の原因。わかってしまえば、違和感でもなんでもない。
興味、悪意、哀れみ……。
その、全てが苦痛だったのかもしれない。
だけど、そんなことは、感じていられなかった。
感じないように、した。
全て、無視して。余計なことは考えない。
そうして、1日が終わる。
──あんたが、いけない。
──お前が、お前たちが俺らの人生を狂わせたんだよ。
──おかしいんだよ、姉妹揃って。バケモンだ。
そう、罵倒される夢を見て。1日が始まる。
小さな、話し声。
自意識過剰になっているのかもしれないけど、それらが辛かった。
いつもは、うるさく感じられる賑やかなしゃべり声の方が、落ち着くと感じられるほど。
向けられる視線、声。
蔑み、罵倒、嘲り……。
そうして、1日が終わる。
──チート能力だよな。
──なんであんな能力をアイツらが。
──それだけの価値があるのかよ。
そう、自信を否定される夢を見て。昨日と同じようで、少し違う夢を見て。1日が始まる。
向けられる視線と、話し声。
……大丈夫。私は、まだ生きているから。
そう、自分に言い聞かせる。
授業以外の時間はもう、ほぼ研究室に篭りっきりだ。
あくいからにげるように。研究に、没頭するしかなかった。……没頭できたかは別として。
「知らないのか?」
やっと。やっとだ。
1日が、そう思えるように、長かった。そんな時だった。そう言われたのは。
まだ授業が終わったばかりで、生徒はまだまだ教室にたくさんいた。
……だけど、陽華と夢華、津城さんは生徒会の方で先に抜けていた。
名前も知らない、クラスメイト。すごく狡賢そうだなぁ、とボーッとしながら思った。
その人の周りに、数人がいる。私を、取り囲むかのように。
だけど、誰も動こうとしない。まぁ、それはそうだろう。
心理学的に、1人が危機に陥った時、周囲に人がいない方が救出に動くらしい。つまり、大勢だと動けない、ということだ。
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オチル、オチル、ドコマデモ
オチロ、オチロ、ドコマデモ
チノハテマデ、オチヤガレ……
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「よく、授業に出てられるよな。恥知らずめ」
飛華と麗羅が一生懸命、対策をしていたのですが、稜華に知られてしまいました……




