66 私には、できなかった。
side:飛華
私、紫月飛華は9勝2敗で生徒会長に就任した。3期連続だ。
さすがに仕事も嫌ということやってきたし、ベテランと言っても過言ではないと思う。3期連続で生徒会長を務めた人なんて、この魔法学園の歴史を見ても、数えるほどしかいないわけだし。
生徒会メンバーも、既に覚えているし、今期も問題なく終わればいいと思う。……姉妹いると波乱の予感しかしないけど。
とにかく、副生徒会長に稜華。
3位に陽華。
4位に夢華。
5位に風華。
6位に美華。
私達姉妹が見事に上位を独占してしまった結果となった。
……果たして、これは良かったのか。
そして、7位に麗羅。
8位にティリ先輩。
9位に風瀬先輩。
10位にブリティオくん。生徒会入りは初めて。
11位に津城さん。
12位にニアさん、という感じだ。
先輩は無理でも……後輩は、苗字じゃなくて名前で呼べるぐらい、親しくはなりたいと思う。
特に、津城さん。3つ子と同じクラスらしく、仲もそこそこ良いみたい。
小動物みたいで可愛いのに、強くて……すごく話したいっ!って言うのが今の私の気持ちだ。
……そして、麗羅。私の、右腕。
彼女は、すごい。
私と同じく、1年生の時から生徒会入り。しかもその時は副会長だった。
数多の情報網を持っていて、小回りが効いて、気が利いて、器用で……と、有能どころか超有能。ついつい頼ってしまうのが現実だ。
だけど、一応私も頼りすぎている自覚はある。……まぁ、そこは後々修正して行こうとは思っているけど。
基礎魔法力検査でちょっと非常識な結果を出してしまい、生徒会候補生とされ。さらには1年生で生徒会長にまでなってしまった私としては、麗羅の存在は大きい。
……私の唯一無二の親友だしね。
生徒会は実力主義ということもあり、1年生が枠譲りなどなしで入ることができるのは本来、イレギュラーのはずだ。
そう、津城さんのレベルは本来、すごく凄いはずだ。……ここ数年、妹達がいて、生徒の基準がブレ始めているのはちょっとだけ、置いておくことにしよう。
前置きがかな〜り長くなったけど。生徒会選任祭が終わった翌日、事の発端は起こった。
最初は、麗羅が持ってきてくれた、1つの、情報だった。まだまだ小さな、情報。だけど、それは、それには火種が燻っていた。
「飛華……」
そう言って生徒会室に入ってきた麗羅の顔は、青ざめていた。強いていうなら、魔法攻撃で精神的ダメージを受けた人の顔、かな。
食堂も閉じた時間。だから、この室内には、もう私しかいなかった。生徒会に受け渡されている仕事が少し溜まっていたから、処理していたのだ。
「稜華ちゃん、が……」
稜華と麗羅は、名前で呼び合うほどの仲になっていた。
私が稜華のところに麗羅を派遣したのもその1つの理由だと思うけど……。
まぁ、いい感じの関係みたいだ。
稜華も稜華で、顔には出さないけど、確実に彼女のことを慕っているだろう。何せ、【情報】として、見れなくなるほどだもの。麗羅は、それだけの綺麗で強く、美しい……刀、のような魔法を扱っているから。
「これ……今日、知ったもの、なんだけど……」
そう言って資料を差し出した麗羅の手は震えていた。
紙の上には、見たくない現実が広がっている。
───稜華側は、2人だった。
───ずっと、そうだったのではないか?
───だとしたら、ズルいのではないか。
───全試合失格、生徒会は自動的に順位を上げるべきでは?
稜華は、情報系魔法を使える。多分、定期的に情報を集めているだろう。
……もし、このことを知ったら。
「稜華ちゃんは……」
あの子は、繊細だ。しかも、かなり。
多分、たくさんのことを抱え込んで、秘密にしているんだと思う。1人で。
だって……歪、だもの。稜華。
どこか、大人びていて。だけど、子供っぽくって。
どこか、しっかりしていて。だけど、抜けていて。
どこか、達観していて。だけど、何かに執着していて。
どこか、諦めていて。だけど、諦めきてれないみたいで。
一見、完璧だけど、少しだけ綻びがある。それが、私から見た稜華。
いつか、その綻びが大きくなった時。きっと、稜華は、辛い思いをする。
それは、なんとなく分かっていた。
だから、かもしれない。姉妹、だからかもしれない。
到底、目を背けられることではない。目を背けて、無視してはいけない。そう感じていた。
「麗羅。その話をしている人達だけでいい。大袈裟にしないで。絶対にあの子の……稜華の耳に、入ることがないようにして。……負け惜しみは良くないこと。稜華の実力はあの狐の子と一緒であってこそ、真価を発揮すること。情報系魔法は、稜華の本当の適性魔法ではないことを」
私も、稜華に言われるまで、稜華の適性魔法は情報系魔法だと思っていた。
だって、情報系魔法にしか、応用を効かせて……稜華の場合は効かせすぎているけど……いるのを、見たことがないから。基本的に、応用が効いてすぐに使えるのは適性魔法だ。
だけど、選任祭が終わった日の夜。稜華に、告げられたのだ。
───私の、本当の適性魔法は、情報系魔法じゃない。
───本当は、召喚系魔法、なの。飛華との試合の後出てきちゃったのは、私の契約のせいで……ちょっと暴走しちゃったんだよね。私のミスで。
そう言って、なんとも言えない笑みを浮かべる稜華の顔が、やけに頭に残っている。
じゃあ、情報系魔法は?
そう、喉まで出掛かっていたけど。
聞いちゃいけない、気がした。
その時の稜華には、今まで感じたことのない圧というか、そんなものを感じた、だけではない。あと一歩、踏み込めば壊れてしまいそうな、脆さがあったのだ。
「ごめん、麗羅。夜遅くなのに。別に、明日からで大丈夫だから」
「……いい。大丈夫。元は、私が持ち込んだ情報だし……こういうのは、対処が早い方がいいでしょ?」
「……うん。ありがと」
その日は、そう言って終わった。麗羅は早速夜のうちから情報を流してくれていたみたいだ。
1度、どうやっているのかを聞いたことはあるけど、私には全然理解できなかった。確実なのは、麗羅に任せておけばいいってことだ。
数日後には、この噂は消えているはず……そう、眠い頭で思っていた。
だけど、それはただの、希望的観測だったのかもしれない。
「ねぇ、麗羅……これって、マズいやつだよね……」
ここ数日、麗羅が話を持ち込んでくれていた日から。この夜の時間帯は毎日、麗羅と状況確認をしていた。
おかげで(?)、稜華だけでなく、姉妹にも何をやっているのかと怪しまれる始末。
「……うん。しかも、改善しているようで、悪化しているからタチが悪いよ」
3日経った、今日。
噂は無くなっているように見える。
だけど、水面下では、さらに広がっていた。
爆発的に、とまでは言わないけど、確実に、広がっているのだ。
「さらには今回の生徒会の措置に乗っかった噂まで出ているの。稜華ちゃんは、副会長だから庇われている、とか。そこから尾ひれ背ビレがついたりとか……。2つ名にある通り、魔女なんじゃないかとか……」
「何それっ!? それ、稜華、関係ないわよねっ!?」
「……飛華、気持ちは分かるけど……」
「……ごめんなさい」
何で、稜華が。
2つ名なんて、勝手につけられたものじゃないの。私達が名乗ったわけでもないのに。
「今までの溜め込んだ鬱憤が、爆発しちゃったみたいで……。稜華ちゃんは運悪く、その標的になっちゃったみたい。あと、これ……」
麗羅から差し出された資料には、1人の情報が載っていた。
「この人……」
3年花組。マリネッリ・クリスティーナ。
見知った、クラスメイトの名前。……私の、予選決勝の、相手。
学年3位の、元貴族。
「飛華にも、恨みがあるみたいで……前に、この人には同じようなことが起こったんだよね。だけど、今回と対応が違うからって……」
軽率、だったのかもしれない。
もう少し、考えればよかった。即決せず、日を置けば。
……今まで、こんなミス、したことがないのに。
もしかしたら、いや、おそらく、自分でも気づかない内に、焦っていたのだろう。冷静に、後先を考えられなかった。
「飛華、唇……」
「あ、うん……ゴメンなさい」
無意識に、唇を噛んでいたようだった。
麗羅は、きっと情報をぼかしている。ぼかされている中には、聞きたくないこともあるのだろう。麗羅は、それを知ってしまっている。
……私が、麗羅に負担をかけた。
私がやらなきゃいけない。……だけど、私が動いたら。
「麗羅……どうしよう……」
私には、できなかった。
何も、できなかった。
(おそらく)初めての飛華視点です。
第5章 ミアと人形編、どうぞよろしくお願いします!




