65 銀狐
「勝者、3年、紫月飛華!」
それにより、会場は大きく湧き上がると共に、戸惑い声が若干、上がる。
……私はまだコートから出されていないし、試合の続行不能でもないのに。
「飛華っ!」
私の、勝負はまだ終わっていない。
それどころか、始まったばかりだ。
……なんとしてでも、被害を最小限、いや、なくさないと。
反射魔法の、どこが危険か。
そんなの、簡単だ。
AとBという人がいるとしよう。
Aが、Bに向かって魔法を放つ。Bが反射魔法を使うと、Bの反射魔法を鏡に、Aの放った魔法が、A自身に帰ってきてしまうのだ。
強い魔法であれば、強い魔法であるほど、Aは深手を追ってしまう。
……飛華は、かなり強い魔法を放っている。ギリギリSランクにならないぐらいの強さ。
だから。
飛華の、攻撃が跳ね返ってしまう。
飛華が、傷ついてしまう。
自分の、自分自身の魔法で。
実を言うと、魔法学園、魔法学校は退学者が多い。
ただ単に成績とかの問題もあるけど、それより大きな退学原因がある。
それは、魔法実技による負傷。身体だけでなく、心も含む。
1度、強烈な魔法攻撃を受けてしまうと、そのことがトラウマになり、魔法がうまく使えなくなる。
魔法を使おうとすると、攻撃を受けた場面がフラッシュバックし、魔法が使えなくなるのだ。結果、実技の成績が落ち、中退、ということもある。
飛華には、そんな思い、させられないっ!
「アルジェント・ヴォルペ、情報分解っ!!」
反射魔法を、分解する。
……そういえば、ヴォルペにSランク魔法を使っちゃダメって言ったなかったよね。というか、区分なんて私、全部覚えていないんだけど。
「飛華せんぱ〜い!おめでとーございますっ!!」
ガヤガヤと賑やかになっていく会場。
果たして、観客席の生徒は、このコート内で起こっていることが、理解できているのだろうか。
私が負けたのは、Sランク魔法を使ったから。まぁ、反則なんだし、しょうがない。
だけど、それ以上に緊急性を擁しているものがある。
「えっ?キツネ?」
銀色の狐が、姿を表す。
「ヴォルペッ!」
……すなわち、異変があったということだ。
ヴォルペは、2つ以上の魔法を同時に扱うことは難しい。
姿を見せないのは魔法じゃないからいいとしても、召喚系魔法と、反射魔法。
その2つを、私は使わせてしまったのだ。
……今回、かなり無理をしてくれていたのだろう。いつもなら、ならないはずの暴走状態になっている。
「飛華っ!離れてっ!」
やっちゃった。また、やっちゃった。
ヴォルペを、暴走状態まで追い込んじゃった。
あの時みたいに、私は魔法の制御が甘いわけでもないのに。
ヴォルペが2つの魔法を使うことになっちゃったせいで。
ヴォルペは自我が保てないようで、いつもの小さな半人半狐の姿ではない。もっと大きくなっている。野生の狐のような大きさ・姿になっている。
……このままだと、飛華だけじゃない。この会場にいる人全員が、危険だ。
ならば、私のやることは決まっている。
ヴォルペを、できるだけ早く暴走状態から救うこと。これだけだ。
「フォルテさん、来てくれてありがとうございました。帰って大丈夫ですよ。……ヴォルペは私が、宥めるから。安心してください」
う〜ん、丁寧に断るのは難しいね。
だけど、フォルテさんは分かったというように一声鳴くと、姿を消した。
さて、肝心のヴォルペだけど……。
私に、威嚇している。
その姿はどこか、ヴォルペ自身が葛藤していて、痛々しくて。私も、どこか悲しくて。
「……ゴメンね」
私は一歩、ヴォルペに近づく。
「寂しかったよね。1人で。ずっとずっと。私と会っても、しばらくしたら私は貴女を呼び出さなくなって。……でも、ヴォルペは待っててくれたよ」
例え、暴走状態になって、獣の姿となってしまっても、ヴォルペはヴォルペだ。
……私が1番最初に呼び出した、精霊。契約精霊。凄く可愛くて、可愛くて、可愛い、精霊。
「私は、それが嬉しかった」
一言一言、紡いでいく。
……ヴォルペ、私は貴女が大切なんだよ。
がうぅぅと、ヴォルペが鳴き、攻撃が放たれる。
「情報分解」
威力が、弱い。
ヴォルペの心が、暴走状態と半人半狐の狭間にあるのだろう。
彼女の心の中で、かなりの葛藤があるはずだ。
「……無理させちゃって、ゴメンね」
既にヴォルペを暴走状態とさせてしまった魔法はない。
召喚系魔法も、反射魔法も、私が情報分解でなくした。
私はまだ暴れているヴォルペの体に抱きつく。うん、フワフワだわ。最高。そして、耳元で囁いた。
「私は、ヴォルペが大好き。……ヴォルペは、ヴォルペだよ」
一瞬、ヴォルペが動きを止める。
それから、徐々に動きが収まって。
しゅるる……と獣の姿から、いつもの半人半狐の姿に戻った。ただし、10歳ぐらいの見た目と大きさだ。いつもより大きいから新鮮味がある。
「申し訳、ございませんっ! 1度だけでなく、2度も……また、貴女様にご迷惑をお掛けしてしまって……。わたしに、貴女様のそばにいられる資格など……もう、ありません。わたしなど、側にいない方が……っ」
いつもの、ほんわかとした喋り方ではない。彼女の中で、相当なことなのだろう。
「迷惑なんかじゃない」
それは、いつになっても変わらない。
ヴォルペがいることで、私は安心できる。
「それに、1度目は完全に私のミスで、今回も私の采配のミスだった。ヴォルペは悪くないよ」
彼女の、閉ざされた心を、溶かしていくように。優しく撫でながら言う。
……なにこの子。めっちゃ抱き心地がいいんですけど。抱き枕にしたい。
「私に、ヴォルぺは必要だよ」
私には、ヴォルペがいないとできないことがある。
ヴォルペがいないと、できないことがある。
「私は、ヴォルペが大好き。大切。何があっても。だから、私の側には、いつもヴォルペがいてほしい」
ヴォルペの瞳から、大粒の涙が溢れた。
それから、ボロボロと止まることなく、涙は溢れ続ける。
「……はい……! わ、わたしも、貴女様の……いつかの、側にいたいっ!」
ギューッとヴォルペが私に抱きついてくる。
「いつか」
ヴォルペは、いつもの幼い口調に戻っていた。
うん、やっぱり、ヴォルペはこっちの方がいいね。
しかも、これくらいの大きさもいい感じ。いつか、一緒に買い物行って着飾ってあげたいわ〜。
**
「生徒会会長、3年、〈真紅の月光〉紫月飛華」
飛華が、登壇する。学長先生から生徒会であることを示すブローチをつけられる。そして、そのブローチが綺麗に並べられた箱を受け取った。
「生徒会副会長、1年、〈異界からの誘い魔女〉紫月稜華」
私の反則は飛華との試合だけ、となった。とにかく、全試合失格、とかにならなくて良かった。
飛華は私のところに来ると、襟にブローチをつけてくれた。金色、多分金でできた、高級そうなものだ。
「稜華、頑張ったわね」
〜〜〜っ!
飛華がそんなことを言ってくれるなんて!
たくさんの人の注目を浴びているから顔に出さない分、心の中で喜びが爆発する。
「生徒会序列3位、1年、〈鉄壁の守護者〉紫月陽華」
「陽華、すごかったわ」
あ、私だけに言ってくれるんじゃないんか。
ちょっとガッカリしました。
「生徒会序列4位、1年、〈万能の助手〉紫月夢華」
ちなみに、私達にも2つ名なるものがついている。生徒会役員には必ず着くのだとか。
「生徒会序列5位、2年、〈夢の中の癒し手〉紫月風華」
「生徒会序列6位、2年、〈全ての右腕〉紫月美華」
「生徒会序列7位、3年、〈雫の支配者〉仙水麗羅」
生徒会序列〜位ってなっているけど、正確な順番が着くのは生徒会だけだそう。あとは大体なんだって。
全員の順位なんてつけていたら、絶対に終わらないよね。
「……以上が、生徒会新メンバーである」
生徒会役員の名前が全て呼ばれ、締めくくられたことで生徒会選任祭は終了を告げた。
以上にて、第4章 生徒会選任祭編、終了です。
設定等の方に、登場人物まとめをアップしました!
そして、次回より
第5章 ミアと人形編
に入ります。
どうぞ、よろしくお願いします。




