60 迷子放送は、恥ずかしいっ!
「呼び出しです。1年、紫月稜華さん。5分以内に第5コートまでお越しください。繰り返します……」
……恥ずかしい!
迷子放送は、恥ずかしいっ!
これ、全校放送なんじゃないの!?
私がいないから迷子の如く放送をかけられて……。
というか、普通に行ったら5分じゃ無理じゃない?まぁ、私には転移魔法があるからいいんだけどさ。
「……転移」
私は第5コートへ行き、コートに上る。
「あ、来ましたね。では、2年、ブリティオ・バスキさんと、1年、紫月稜華さんの試合を始めます。……準備はいいですか?」
あ、多分大丈夫です。あんまり準備してきた自信なんてないんですけど。
「それでは、始めっ!」
その合図と共に、遠くにいるブリティオ・バスキの全身が赤い光で包まれる。
わぁ、目に悪いね。
「強化っ!」
わぁ、声大きい。
……なんて思っていられたのも一瞬で。
気づいた時には、もうすぐ目の前に、いた。
「……っ、転移っ」
「強化」
え?これ以上強化してどうするの?
そう思った、次の瞬間には。
「……!?」
魔法制御が、効かない。
魔法が強化されていて、下手したらコートから出てしまうだろう。
「情報分解」
相手の魔法を分解し、私はしっかりとコート内に足を下ろした。
……正直、甘く見てたかもしれない。
舐めてた。私。相手のこと。姉妹じゃないからって。
でも、本戦まで勝ち上がってきた実力者だ。
もう、素早く片付けるしかない。
「情報転移」
姉妹じゃないし、ヴォルペの力を借りなくてもできる。
そして、相手はしっかりとコートの外にいた。
「勝者、1年、紫月稜華っ」
……そろそろお昼時か。
あと1時間、といった時間だ。
食堂に転移し、お昼ご飯を注文する。うん、混まないうちにね。だって、お昼は完全に休みになるだろうし。受け取ると私はすぐに寮室へ転移し、計画を練り直す。思った以上に、レベルが高い。いや、今までがかなり甘く見てただけなんだけど。そこそこ本気を出さないと危ないだろう。
次は……ニア・ミニア、だっけ?
せめて、どんな魔法を使ってくるのかが分かればかなり対処できるんだけどなぁ。
とにかく、速攻で転移させる。そうしよう。
……あんまり変わっていない気もするけどね。まぁ、いいだろう。そうしたら、対姉妹なんだけど。
飛華は、かなり辛い戦いになるだろうから、置いておいて。
風華、陽華、夢華。
この中で、1番戦略を立てやすいのは陽華、かな。
大体防御しているし。
お昼を食べながら、考える。
外からは干渉できない。干渉できるほど弱いものではない。
だから、できるだけ早く、陽華の防御の中に、入らないといけない。
それか、ものすごく小さくてもいいから、穴を開けてそこから攻撃するとか……。
……うん、難しいね。次行こう、次。思考停止は時間の無駄だ。
次、夢華。
いろいろな魔法を使ってくるけど、1つ1つの威力は少し劣る。
ただ、その魔法の枠が広すぎるんだよね……。
攻撃魔法を使ったと思ったら、今度は防御魔法を使うし。ダメージを受けたら自力回復するし。自分自身を支援して魔法の効果を上げるし。
姉妹の魔法の威力を落としてくっつけたような感じだ。
すごくタチが悪い。
「……1年、紫月稜華さん。第3コートまで来てください。試合です」
……あれ?
またやらかした?呼び出し放送がかかるって。
窓の外は少し赤い。
……そんなに時間が経ってたの!?
とにかく、早く行かないと!
2回目の迷子放送は悲しいよ!もう放送されちゃったけど!
「転移」
コート近く、ホントーに近くに転移し、急いでコートに上る。
「はい、では、4年生、ニア・ミニアさんと1年、紫月稜華さんの試合です。では、始めっ!」
ニア・ミニアはポケットから、何かを取り出した。パッと見た感じ、武器ではないっぽいね。
でも、何だろう?ちっちゃい、塊?
「火よ、灯れ」
わ。すごく燃えた。
火属性、かな?
「飛べ」
その火の塊は、私の方へ勢いよく飛んできた。
「情報分解」
私の前で火の塊は跡形もなく消え去る。それを見たミア・ミニアはチッと舌打ちをした。
……怖い!
実際、かなり距離が離れているのに舌打ちがここまで聞こえるなんて!
すると今度はポケットからたくさん塊、というか、これ、木を小さくしたやつだよね。木片だった。
ポケットから出した木片を全て中に投げたニア・ミニア。
「飛べ!爆せろ!」
ありゃあ、これはかなり恨みがあるやつですか?
怖いですね。一体何があったんでしょうか?すごく気になります。
「情報分解」
またしても、木片は消え去る。
それでも飽き足りないのか、まだポケットから木片を出す。
「……っ、ぶっ飛べ、爆発しろ!」
あ~、これはちょっと危険かな。下手したら、ルールに引っかかる可能性がある。
「氷像」
凍れ。すぐに、ニア・ミニアは氷像になる。
……うん、前回はちょっとヤバかったんだね。使った相手が悪かった。よく分かりました。
「転移」
歩くのが面倒だったから魔法を使ってニア・ミニア改め氷像の近くに行く。
手を当てると、私は彼女の【情報】を読み込んだ。
**
……私、ニア・ミニアは元貴族だった。
五大都市のひとつ、クアットロ・ラーゴの領主の家系に生まれた。
一族は全員、水属性。
水を操る魔法、つまり水操系魔法を適性としている人が多い。
水操系魔法を適性としなくとも、水に関する魔法を適性としている人しかいなかった。
水に関係する魔法に適性がある者しか、一族にいなかったのだ。
私は、本家の長女。
親族は皆、私に期待をかけていたらしい。その証拠は、名前だ。もう、昔のこと過ぎて忘れてしまったけど、確か、私の名前の由来は、美しい湖、だったと思う。
だけど、5歳の時。親族の見守る中、私の魔法属性・適性魔法検査が行われた。
五大都市が領地と言うこともあり、それだけの経済力があった。
火属性、付与系魔法。
それが、私の属性と適性魔法だった。今も、そう。ずっと変わらない、私の属性。
親族の中で水属性でないことは何度かあったが、本家の子供が水属性じゃなかったことなど、ないそうだ。水に関する適性魔法を持っていないことも。
親族は、落胆し、呆れ、私を見下した。
本家の姫が、なんてことを、と。
……別に、私は悪いことなんてしてないのに。
その後は、少しだけ変わったことがあったけど、それは些細なことだった。1つ下の妹は、変わらず私に懐いてくれた。私は、嬉しかった。
1年後、その妹が同じことをした。
水属性、水龍魔法。
水龍魔法。それは、水龍と呼ばれる神の化身を、操る魔法。一族にて、最強最恐。初代当主と同じ適性魔法らしい。
妹が、次期当主になることが、決まった。
それから、私の周囲は私が分かるほど分かりやすく変わっていった。破綻した。
使用人が減った。
家庭教師が来なくなった。
部屋の家具や玩具が減った。
妹が、私を見下すようになった。
……部屋を、領城の離れに移された。
私は疎まれている。
そのことを気づいたときにはもうどうでもよくなっていた。
誰もいなくなって、1人になって。何年目だっただろう。
魔法学園に入学する1年前だったから、5年前かな?
貴族制度がなくなった。
家族は、猛反発したらしい。だけど、私には関係ないことだった。私は、厄介者だから。
あの日から、あの検査の日から、ずっと蚊帳の外だった。
変化と言えば、部屋から出れなくなり、ご飯の量が減ったことだろうか。ご飯の質はもっと前から落ちていたから、特に気にしなかった。
だけど、ある日。
私のいる部屋に、誰かが来た。深緋の髪に、深緑の瞳をした人だった。
「貴女が、本家の長女ですか?」
「……そうでしたが、ずっと昔からその役目は妹のモノです。……私は、異端ですから」
だって、きっともう私は死んだことになっているだろうと思ったから。
「……異端?魔力はかなりあるようですが?」
その人は、不思議で仕方がないようだった。なんで、そんな簡単なこともわからないのだろうと私は首をかしげる。
「だって、私は火属性、付与系魔法ですから。それは、だめです。水属性、せめて水に関する適性魔法を持っていないと」
「ちがいますね」
その時、私の中の常識が崩された。
ガラガラと、音を立てて崩れていく。
「たとえ貴女の言う条件に当てはまっていなくとも、魔法を使えるということは凄いことです。……貴女は、それを誇りに思っていい」
私には、誰のことを言っていて、なんのことか、分からなかった。
「領家は王家謀叛の罪で改易になりました。よって、私が後処理の確認に来たのですが……離れからかなりの魔力を感じまして。来たのです。そしたら、貴女がいたわけです」
「……私は、処刑ですか?」
むしろ、そうあってほしいと願った。
もう、こんな生きづらいのは、嫌だったから。私は、いけない子なのだから。
「はぁ?何言っているんです? 貴女みたいな有能になりそうな人材をつぶすわけないではないですか。さっさと出てきてください。私が貴女を一時的に引き取ります。その後、魔法学園に入学し、自立しなさい。いいですね?」
「……分かりました」
きっと、これは私のバツなのだろう。そう解釈した。
「……自己紹介はまだでしたね。私はセニア・サラ・ヘイシソウ。王国の筆頭魔法師です。貴女は?」
「ニア・ミニア、です」
「そうですか。ミニア、頑張りましょうね」
私は、彼女によって、暗がりから明るい世界に、出た。
**
……重っ!
思った以上に、重いっ!
まぁ、苦しみからはさっさと解放させますか。
「転移」
ニア・ミニアをかたどった氷像は、コートの外に出た。
「勝者、1年、紫月稜華!」
もちろん、その後に氷像は溶かして、乾燥魔法もかけたから、風邪は引かないと思うよ?
お読みくださり、ありがとうございました。




