6 嫌わないで。
「飛華に、嫌われるよっ!」
え……。
飛華が、私を嫌う……?
飛華は、私を避けるようになるの……?
「……手遅れだったかぁ」
夢華の声が響いた。
実際は、そんなに響いていないかもしれない。だって、周りにはまだ、話し声にあふれているから。
みんな、自分のことで精一杯なのだろう。きっと、あの時の、『私』のように。
あるいは、興味がない、かな。
わざわざ喧嘩しているところに、仲裁に入るお人好しなど、世界に数えるほどだろう。大体の人は、見て見ぬふりをする。傍観者、だ。
どこかで、何処か冷たくそう考えている私がいた。
だけど、何処かで多分、怒っている、と思う。
「稜華!大丈夫!?」
大丈夫じゃない自信がある。
飛華に嫌われる。飛華に嫌われる。飛華は私を嫌う。
その言葉が、頭の中に木霊する。
「ゴメン、次、私、飛華ちゃんを連れてくる!」
「飛華、私のこと、嫌いになっちゃうの……?」
そんな未来、あってほしくない。
絶対嫌だ。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対絶対絶対……。
そんなのは、嫌だ。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ……。
「ヤバいヤバい、風華、早く飛華を連れてこないと大変じゃん!ホントの本気で稜華が爆発しちゃう!」
「そんなこと、とっくのとうにわかっているに決まってんじゃない!私も探しに行けばいいんでしょ!」
話し声が、どこか遠くから聞こえるようだ。
あるいは、耳に入るけど、そのまま通り過ぎているような。そんな感じだ。
意味自体は分かるけど、理解はできない、みたいな?
どこか熱いのに、どこか冷たい。そんな、矛盾したような状態だった。
「そう!分かってるじゃん!」
「私をナメないでよね!」
「壁、張っておいた方がいいよね〜。いろいろな意味で〜」
飛華に嫌われるぐらいなら。
飛華が、私を嫌うぐらいなら。
飛華と、一緒にいられなくなるのなら。
飛華が、私に話かけてくれないのなら。
飛華が、私を避けるのなら。
飛華は、私と一緒に居たくないと思うなら。
飛華が、私のことを迷惑と思っているのなら。
飛華が、私のことを邪魔だと思っているなら。
飛華が、私のことをいらないと思っているなら。
「この世界は、滅んでしまえばいい……」
そう、本気で思って、願って、叶えてしまっても、いいのではないか。
この世界には、魔法があるから。
魔法の可能性は、無限大、だ。
工夫して、創作して、応用すれば。どんなに初歩的な魔法も、凶器となって。
世界を滅ぼす力だって持てる。
私は、それを知っている。
世界を滅ぼす魔法の作り方だって。
「夢華、稜華はどこっ!?」
「こっち!」
「了解っ!」
飛華の声が、聞こえた。
幻聴かなぁ。
そう考えながらも、私の頭の片隅では、魔法の構築が進んでいて。
そうしながらも、私の頭の片隅では、生きようとして、必死に光に手を伸ばそうとしていて。
「稜華!落ち着きなさい!」
視界が、さえぎられる。
目の前は、制服一色だ。
頭の上から、荒れた息が聞こえていた。
相当、走ったのだろう。頑張らせてしまったのだろう。無理をさせてしまったのだろう。邪魔をしてしまったのだろう。
「飛華……」
飛華だ。飛華の匂いだ。
飛華が、私を抱きしめている。
息の音が小さくなり、そして、少し、無言が訪れる。
そして、飛華は、私に問いかける。
「……稜華、私って、そんなに信用できない?」
信用できないことなんて、ない。信用できる。
1番、信用している。
飛華は、私に問いかける。
「私が稜華を嫌いになるなんて、信じられる?」
信じたくない。
そんなこと、絶対にあってほしくない。
飛華に、嫌われたく、ない……。
「私は、稜華が大好きだからね。……だから、安心していいんだよ」
「……うん。ゴメンなさい」
そう諭され。頭が、冷えていく。
そのことで、今まで怒っていたのだと、確信する。
まただ。また、やっちゃった。また、飛華に、みんなに、迷惑を掛けちゃった。
「感動シーンだよ~。夢華、カメラは回してる~?」
「回しているわけないよ。というより、陽華ちゃん、壁、張ってある?この感動シーンを部外者に邪魔されたら私でもキレるし。ね?」
「大丈夫、張ってあるよ~。最高硬度で~!」
「ホント、美華は役に立たなかったよね」
「はぁ?何言ってんの?そういう風華だって来ただけじゃん」
「うっさいな~。美華は私についてきただけで、何もしてないって言ってんの」
「そういう風華も風華じゃん。夢華に連れてこられるだけで、あとは何もしていない。私と同等未満だよね」
「はぁ?同等未満の訳ないじゃない。せめて、同等以下、と言ってほしいんだけど。まぁ、ベストは同等、かな」
「じゃあ、風華は同等以下ね。何もやっていない私の」
こんな時でも、みんな、いつも通りだ。
双子はどーでもいい会話していて、陽華と夢華はよく分からない会話をしている。
どっちも、意味のないような会話をしている、と言う点では同じだ。
これは、多分、いつもの、日常、なのだろう。
それからしばらくして、飛華が私の顔を覗き込む。
別に泣いたわけじゃないし、それほど見苦しいわけでもないはず、だ。
「稜華、もう大丈夫?」
「……うん。ゴメン」
……恥ずかしい。こんな大勢がいるところで。
今朝は誰も人がいない図書室だったから、まだ良かったけど。
こんな全校生徒が集まっているところで。
「会長〜!どこですか〜!」
「副会長〜!見ませんでしたか〜!」
「飛華、どこにいるの!?」
遠くから、飛華を呼ぶ声が近づいてくる。
副会長、は風華のことだっけ?
もしかしたら、飛華と風華という、ツートップがいないことで運営側に支障が出てきているのだろう、きっと。
「麗羅、声が大きいわよ……」
飛華はボソッというと、立ちあがって制服のスカートの汚れをはらう。
声の方を1度見た後、私達に向き直った。
「じゃあ、私達も持ち場に戻るね。クソつまらない基礎魔法力検査も、そろそろ始まるよ。ほら、風華と美華は持ち場に戻って」
……持ち場なんてあるんだ。
というか、サラリとクソつまらないって言ったね。生徒会長という立場としてはどうなんだか。
「ゴメン、陽華、夢華」
私は飛華と双子がどこかに行った後、小声で二人に謝る。
今回、というか今日は迷惑をかけすぎました。
それは自覚しています。
夢華にはあちこち走らせちゃったし、陽華には壁を張ってもらっちゃったし。
「いやいや~、さすがに私でもイラっとしたしね~」
「むしろ、稜華ちゃんがキレたのでこっちが冷静になれたよ」
「ほんと、うちの飛華を呼び捨てにするとか、信じられない〜」
「そうそう。飛華ちゃんは温厚すぎだよね。イラついたら相手が2度とやらないように、ガンって釘を打たなきゃ」
……なんか、ゴメン。そして2人の意見が過激すぎる。
特にガンっていう部分。思いっきり叩きつけるような効果音だよ。
それに、いくら本人がいないからって、飛華に文句を言っちゃ、あんまり効果がないっていうか、説得力が無いっていうか……。
どちらにせよ、私達は実技場の端っこで、後ろのほうにいるから、さっきもあまり目立たなかったみたいだ。うん、良かった良かった。
誰も気にしていないみたいで良かった。
ホント、黒歴を作るところだったよ。助かりました。
とっても感謝しています。
ええ、とっても。
「これから、基礎魔法力検査を開始いたしますっ!」
その声が、実技場の前方から響いた。
稜華が恐れること。それは、嫌われることです。
そして生徒会長のムチャぶり(役割の押し付け)に限界がきた生徒会所属の麗羅さん。