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「カンパーイ!」


現在、予選が終わった日の夜です。

なぜか、姉妹でうちの部屋にて打ち上げをやっています。

流石にコーヒーじゃないよ?姉妹の3分の2が酔ったという実績がありますから。

ちゃんとお茶です。


「無事、みんな予選通過したね〜」


陽華、もしかして酔った?お茶に。

いや、流石にそんなことはないでしょう。

なんでも酔ってたら流石に問題になるしね。


「そうね。気がかりだった風華と美華まで……」


やっぱ、双子が微妙なところだったよね。

回復魔法と、支援魔法。後援が主で、攻撃はあまりやらないから姉妹の中ではかなり心配要素だった。


「今年はレベルが高いもんね、風華ちゃん、美華ちゃん」

「そんなに心配されなくても、私、副会長だったし?」

「風華がそれを言うんだったら、私だって3位だったし?」


そうですね。ただ、負け惜しみにしか聞こえないよ、私には。


飛華、陽華は適性魔法で難なくクリア。

風華は自分にひたすら回復魔法をかけまくって、相手が魔力切れになるのを待つ。もしくは逆回復魔法をかける。

美華は、リラックス効果のある香りで眠気を誘い。

夢華は一つ一つの威力は落ちるけど幅広い魔法を使って相手を錯乱。

私は、情報魔法で。

ここまで、勝ちあがってきた。


「生徒会メンバーは私達以外に6人かぁ」


むしろ、残っている人は私達と全く当たっていない。

私達姉妹は見事にブロックがバラバラだしね。


「というか、私達姉妹が枠の半分を埋めちゃっていいの〜?」


知りませんよ、そんなこと。

でも、実力主義なんだもん。しょうがないじゃん。

別に、私だって生徒会に入りたいわけじゃないもん。姉妹と戦いたいだけだし。

姉妹と戦うためには勝ち上がらないといけないんだもん。


ガヤガヤと雑談をした後、明日からのために早めのお開きとなった。

みんな、最終調整があるもんね。

姉妹がいなくなった後、この部屋はとても静かだ。同室の飛華は最終調整、と言って部屋にいなかった。

私は部屋の明かりを落とし、ベッドに潜り込む。


「ヴォルペ」


そう名を呼べば、ふわり、と可愛い精霊が現れる。


「明日からの総当たり戦のことなんだけど」

「うん。どうかしたの?」


ヴォルペがこてんと首を傾げると、それに倣うように耳もへにゃんと垂れた。

可愛い。最高に可愛い。真面目にとっておきたい。

……と、そのことは一回置いておいて。


「明日から、どんどん姉妹と当たっていくことになると思うの」


総当たり戦だ。

姉妹が半分を占めているわけだから、高確率、というか、1日1人ぐらいの割合で当たっていくだろう。

もう、みんなを情報として見るのは無理だ。

それは、よくわかっている。


「明日の初戦の相手は、美華なの」


運がいいのか、悪いのか。よくわからないけど。


「私は試合が始まってすぐ、ヴォルペを呼び出す。ヴォルペは姿を見せなくてもいいから、サポートしてほしい。……私の指示じゃなくて、ヴォルペの意思と判断で」


美華の主な戦闘スタイルはリラックスさせ、眠くさせる香りを流す。相手がそれをかぐことで行動が制限されたり、魔法を使うのに多くの集中力や魔力を使わせる、というものだ。

なにに支援系魔法が関係あるのか聞いたところ……支援するときとかにリラックス効果だったり、集中力を増強させる香料を撒くことがあるらしく、それを変えたのが今回だという。

細かいことはともあれ……とても面倒な相手だ。


「気付かいないうちに美華の魔法にかかって、動けなくなったら、ヴォルペにも指示を出せなくなるかもしれないでしょ?」

「それは……そうかもしれないけど……」


ヴォルペは、戸惑っているようだった。


「だから、今のうちに言っておくね」




「明日からの本戦で、私の指示を待たずに、ヴォルペ自身の意思で私の最善になるように行動してください」




きっと、これまでで、ヴォルペと契約してきた人の中で、こんな指示を出す人はいないだろう。いなかっただろう。

ヴォルペが生きてきた、ずっと長い年月。それは、私にもわからない。

だけど、その長い年月の中で、理不尽な思いとか、契約主からの命令を聞いてきたこともあったと思う。だいたいの人の行動原理は、自分の利益になるか、生きていけるか、だ。それ以外だとしたら、相当凄いと思う。

世の中、優しい人だけじゃないから。まぁ、私も優しくはないんですけどね。


「……むり、だよ。できない」


ボソリ、とヴォルペが言う。


「わたしに、意思なんてない。わたしは、いつかの……けいやく主さまのめいれいがないと……いけないのに」


苦難に、満ちた声。

ヴォルペが精霊で、人間と契約するからこその縛り。

私はヴォルペと契約関係だけど、それは限りなく主従関係に近い。決して、同盟関係などではないだろう。


「わたしに、わたしたち精霊に意思なんて、ない。だから、けいやく主さまをひつようとするのに」


精霊には意思がないとされている。

実際のところ、本当かは分からない。

精霊と契約するという事例はとても少ないからだ。精霊と契約するには精霊を召喚しなければならない。そのスキルを持つ人は少なく、無事に契約できる人はさらに少ない。大陸全体の歴史を振り返っても、数えるほどだろう。

だから、だろうか。

精霊に関する情報は極端に少ない。ただ、言えることは、契約主を必要としている、と言うことだ。


「……ヴォルペに意思がないことなんて、ないと思うよ?」

「だけど……」

「だけどじゃない」


その先に続く言葉はもう聞きたくなくて、ヴォルペの口に指をあてる。

うっ。ヴォルペの小ささで私の指の太さが余計に目立つ……。

と、今はそんなことじゃないね。


「意思は、何かをしようとするときの元となる心持ち、なんだって。ヴォルペは、私達契約主のために何かしようと、役に立とうと頑張ってくれてる。それは、ヴォルペの意思なんだよ」


今調べたからあっているはず……!


「ちがう……それは、きっとちがうんだよ。精霊は、けいやく主さまの命令にしたがわないと……役に立たないと、いけないのに。そこに、意思なんてひつようないのに」


まどろっこしいなぁ。

もしかしたら、精霊が契約主を必要とするのは、精霊の存在意義を決められていて、それが契約主の指示に従い、利益をもたらすこと、と刷り込まれているからかもしれない。

まぁ、仮説でしかないけど。

精霊のこともいつか、調べてみたいなぁ。

……というか、私もこの脱線癖をなおさないといけないかな。


「……命令なら、さっきしたよ。もう一回言おうか?『明日からの本戦で、私の指示を待たずに、ヴォルペ自身の意思で私の最善になるように行動してください』って」


私、命令はあんまり好きじゃないんだけどなぁ。


「……うん」


ヴォルペが、頷いた。

その大きな瞳には少しだけ、涙が浮かんでいる。


「……うん、分かった」


そう。

ならよかったです。

少しだけ、ヴォルペの纏う空気が大人びた感じになる。


「精霊、アルジェント・ヴォルペの名において。……契約主、紫月稜華様の御意思に従い、利益をもたらすことを誓います」


ほわり、と()()が発動する。

だけど、綺麗だ。

綺麗で、暖かくて、優しい。

暗かったはずの寮室は、いつの間にか明るくなっていた。

昼間の様だ。

周囲には緑が見え始め、私はいつの間にか、不思議な森の中に1人、立っていた。

だけど、動かない。動けない。

何かに圧倒され、動くことが、出来なかった。

……これは、なんなの?

今まで、何度かヴォルペに命令という名のお願いをしてきたことはあったけど、こんなことは始めてた。


そしてどこからか、歌うような、滑らかできれいな声が、聞こえてきた。











「精霊は、幸福の象徴。精霊に釣り合う契約主の下で、真価を発揮します。……契約主様に、感謝と祝福を」

お読みくださり、ありがとうございました。

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