55 宿題提出
「では、宿題を回収します。……陽華さん、稜華さん、夢華さん」
は?
現在、始業式が終わって教室へ帰ってきたところですが。
「先生、それはどういう……?」
「宿題を回収するのを、主導してください」
はぁ!?
私達も十分理解不能だが、それ以上にほかの人のほうが理解不能みたいだ。
「では~、宿題を回収しま~す~」
「すべて持って、一列に並んでください」
いや、なんでそんなに切り替えが早いんだよ。
かなり常識外のことを頼まれているよね?
そうだよね?
何をちゃかりと前に出ているのですか?
納得しちゃっていいんですか?
「稜華ちゃんは不備がある宿題を回収してもらっていい?」
「……分かった」
なんでだろ。反射的に返事をしてしてしまった。
でも、指名されたのに何も仕事をしないのはちょっと……ね。
だけど、納得できん!
私は種類別に並べられた宿題に意識を向ける。
宿題という【情報】を見る。
これも、情報系魔法の応用だ。
ここで浮かび上がれ~とかできたらめっちゃ便利だけど、あいにく私にはまだそんな技術は身に着けていない。
いつか、できたらいいな〜って思っているけど、実際のところ、忙しくてなんともならない。こんな細かいことにまで割ける時間がないのが現状だ。
なのでせっせと手で探し出している。
というか、不備がある宿題がある人って、ほとんど同じ人なんだけど。ちょこちょこと名前の書き忘れの人がいるけど。
とりあえず、名前の記入漏れ。……誰かも、分かるんだよね。情報として。
正直、これはしょうがない。
宿題を飛ばして持ち主のところへ。
ちゃんと天井すれすれのところを飛ばすという配慮を忘れない紙だって、勢いよく飛んできたら切れちゃうしね。
「稜華、今のは〜?」
「名前の記入漏れ」
「だそうです~」
聞こえてんのかな?
名前の記入漏れが飛ばし終えたら、今度は不備。名前の時と同じように持ち主に飛ばす。
……ホント、解答欄が真っ白なんだよ。
正直、成績が悪くても魔法力があれば魔法学園に入れるし、座学の成績が悪くても実技の成績が良ければそこそこの成績になる。
でも、だからと言って、座学の宿題を真っ白で出すのは良くないと思うんだよね。
真っ白なら、出さなくてもあんま変わらないと思う。
「……出すつもりがないなら、出さなくていいって伝えて」
「だそうですね」
だから、ちゃんと聞こえるの?それで。
「大丈夫でしょ。聞こえない方が悪いんだもん」
それは絶対良くないよ。
「じゃあ、稜華ちゃんが大声で言ってくれるの?この大騒ぎの中」
「……無理、かな」
教室は未だ、うるさい。
選任祭への興奮を捨てきれないようだ。
ホント、ヘリコニア先生が入ってきた時の静けさはなんなんだったか。
「先生~、終わりました~」
陽華も相変わらずだなぁ。
このうるささの中、のんびりとするとは。
大したもんです。
「……大丈夫そうですね。ありがとうございます」
研究者先生はパラパラと確認し、陽華の手元に戻す。
え?
ど、どういうことです?
「3人で、教科担当の先生にまで持って行ってください」
え~?
マジ?マジですよね?マジですか。
めんどくさっ。
「稜華ちゃん、諦めたほうがいいよ。今更、何言っているの?」
ヘリコニア先生はこういう人でしょ?と夢華が目で訴えてくる。でも、そんなことを言われてもねぇ。
「では、生徒会選任祭について説明します」
え?このタイミングで?というか、もう明日だし、当たり前か。
というか、改めて思うけど、急過ぎ!
もうちょっと準備期間が欲しかったなぁ。
「皆さん知っていると思いますが、生徒会に入る人を決めるもので……」
まぁ、要するに。
生徒会に入る実力者12人を決める。方法は学年も何もごちゃごちゃのトーナメント。
毎年を行われるので、前年度は入れたからと言って入れるとは限らない、実力主義。
各学年最低1人が入ることを基準とし、12位以内にいない場合、その学年で1番順位が上の人が入る。
魔法制限アリ。Sランク魔法を使ってはいけない。
コートから出たら、負け。審判に試合の続行が不能だと判定されたら負け。
来年度、学園にいない現在の五年生はお手伝い。
ということらしい。
「ちなみに、現生徒会長の3年花組、紫月飛華さんは2年連続生徒会長を務めており、学内最強と言われています」
飛華が入学して、今まで2回の生徒会選任祭が行われているから、2年連続、ということだ。
でも、それよりも。
研究者先生がこんなにスラスラ言うって……。
明日は雨、いや、雪でも降るのか?
「次ぐ生徒会序列2位、生徒会副会長は2年雪組の紫月、風華さんです……」
あれ?あ。
もしかして、カンペ?カンペだよね!?
カンペらしきものが見えております!
……なるほど。
だからあんなにスラスラ言えたんだ。
やっぱりヘリコニア先生はヘリコニア先生だね。
「……なので、皆さんも頑張りましょう」
……ごめんなさい、途中から思考が脱線しました。
「では、トーナメント表を配ります。これはクジで決められた、完全なる意図しないものです」
ちゃんと注釈は入れるんだね。
と言うか、もう決まっているんだ。
早いのか、遅いのか。
よく分からないね。
私はトーナメント表を見ない。
あらかじめ人として知ってしまったら、『情報』として認識できない可能性もあるし。
「……夢華、後で私の出るところだけ教えてくれないかな?」
「うん。他の人の名前が書いてないのを渡すね」
「ありがと」
これで、大丈夫なはず。
対象は全校生徒だし、姉妹と早々に当たることなんてないだろう。
クジと言っても、実際は操作されているかもしれないしね。
「では、また明日」
そして先生が解散を告げると一気ににぎやかに。
いや、さらに賑やかに。
「私……」
「宿題の提出~。手伝ってくれるよね~?」
……ハイ。
陽華のにっこり笑いながら問いかけに負けてしまった……。
「転移魔法、使うね」
「ダメ〜。だって、突然転移しちゃったら驚くかもしれないでしょ〜?」
え〜。
でも、それだととてつもない労働力に……。
「あの、私、手伝いましょうか?」
「マジ神様!!」
「え?稜華さん、どういう……」
ってえ?
私のこと、名前で呼んだ?
「つむぎちゃん、いいの?」
「あ、はい。いくらなんでも、3人で全員分の全部の宿題を提出しに行くのは大変だと思うので……」
この子、天使だ。
性格がめちゃくちゃいい。
「それにしても、稜華さんは……」
「ああ、放っておいていいよ。稜華ちゃん、時々壊れるから」
なっ!
し、失礼な!
壊れるってなんですか、壊れるとは!
「そ、そうですか……」
え?
これって、誤解されています!?
「じゃあ、とにかく宿題提出して行こう。分担分けはこっちでやっちゃっていい?」
別に構いませんが。
「じゃあ、つむぎちゃんが国語、陽華ちゃんが社会、稜華ちゃんが魔法学、私が数学と外国語、ね」
分かりました。
夢華が2教科分の負担を負っているのは分かりますが、任せた以上、何にも言えないし。
「それじゃあ、解散っ!」
了解〜。
魔法学の宿題は……夏休み前までの復習と、魔法式の創作、魔法実技の復習、か。
もう嫌すぎて記憶から消去されていましたね〜、はい。
このうち、魔法実技の復習は各自、ということで提出はない。
だから、提出物は夏休み前までの復習と魔法式の創作のみだ。
担当の先生はいずれもトランクイリタ先生、か。
……私、何か重要なことを忘れている気がするんだよね。
全然思い出せないけど。
「……失礼します。1年桜組の紫月稜華です。トランクイリタ先生、いらっしゃいますか?」
職員室の入り口で挨拶?した後、中に入る。
……ヒエェ。
おっかない。
職員室ほど怖いところって、ないと思うんだよね、私。
あの空気感が本当に苦手です。しかも、先生って目つきがわ……鋭い、の方(私調べ、偏見あり、実際がどうかは保証しません)が多い……。
ああ、怖い怖い。さっさと提出して帰ろう。うん、そうしよう。
「5番目の紫月か。なんのようだ?」
……開口1番、これですか。この先生は。
なんですか、5番目の紫月って……。
確かに私は5女だけど、流石にこんな言い方はないと思う。
「……夏休みの宿題の提出です。こちらをどうぞ」
おっも〜い紙の束をドンっと机の上に置く。
……少し指を挟んで痛かった。
「ああ、宿題か。どうせ、ヘリコニアに押し付けられたんだろう?ご苦労なことだな」
はい、とってもご苦労です。
疲れましたよ。夢華に転移魔法はダメって言われたんで。
「それにしても今年はどんな魔法式が提出されたんだか……」
「では、失礼しました」
さっさと帰りましょう、そうしましょう。
私の心臓が(多分)持ちません。
職員室を出たら即座に転移して教室に戻った。
「あ、稜華、おかえり〜」
「……ただいま」
「で、生徒会候補生っているのが、水面下では囁かれているんです」
生徒会候補生?
何それ。
「毎年、各学年、次年度の生徒会に入れそうな実力者を見定めるそうです。1年生は主に基礎魔法力検査の結果が重視されるみたいで」
「へぇ〜、そうなの〜?」
「はい。ちなみに1年生の生徒会候補生は、紫月姉妹ですよ?」
そ、そうなんですか。
津城さんが意外と情報通でびっくりしました。
「じゃあ、私は帰るね」
一声かけてから、転移して、転移して研究者先生の研究室へ行く。あの魔法の使用許可ももらってきた。
私に割り当てられた研究室に入り、周囲に人がいないことを確認する。
……あの子は、私のことを覚えているだろうか?
「……召喚」
お読みくださり、ありがとうございました。




