53 帰宅
「残念だったね〜」
船の上で陽華が言う。
私達は姉妹旅行を終盤に迎え、帰路についているところだ。最初は魔法で帰宅予定だったけど、急遽?船で帰ることになった
「報酬、お小遣い程度にしか出なかったもんね」
そう。
交渉の結果、報酬は1人当たりお小遣い程度。
ボッカボカ稼ぐには至らなかった。お小遣いと言ってもそこそこ高額だけどね。
それこそ、旅費の8割ぐらいの。
だけど、その代償として今回、祠攻略による、管理者側にマイナスなものは全て広めるな、と言われた。
これは、口止め料だろう、きっと。
そうじゃなきゃ、子供にこんなことをしないだろうしね。
管理者側から見ても印象が落ちることは避けたいはずだし。
「というか、帰ったら何する?」
確かに。
旅行、終わったもんね。
しかもその旅行で夏休みの醍醐味をほとんど味わったわけで。
「何するも何もないでしょう?」
え?飛華さん、そんなにやることがあるんですか?
それはそれで羨ましい……。
「宿題よ」
……え?
も、もう一度おっしゃって頂けます?
「宿題。勉強が学生の本分でしょ?」
……ですか。
そうですか。
とっても、とっても悲しいです。
「というか、みんな、夏休みの課題のプリント、ちゃんと見た?半端ない量の宿題だと思うんだけど」
……。
はい、飛華以外の全員の視線が明後日の方向に。
うん、みんな諦めかけているね。
私もそうだよ。
「まず、各教科、夏休み前までの復習でしょ?」
はい。
「それから、国語は夏休みの思い出の作文、外国語は作文、魔法学は魔法式の創作と魔法実技の練習……」
飛華の口から恐ろしい内容が次々と流れ出ている。
「……と言うのが、1年生の課題のはずだけど?」
え?1年生なの?
飛華の、つまり3年生の課題じゃなくて?
「稜華、寮の部屋にプリントが置きっぱだったから。読ませてもらったわ」
なんじゃそりゃ。
「ちなみに2年生は……」
「飛華、もういいから。そうだよね、美華」
「うん。大体覚えている……はずだよ、風華」
そう言う双子の顔も絶望で染まっている。
ホント、飛華って時々恐ろしい。
「と言うわけで、帰ったら宿題処理ね」
ニコリ、と微笑んで告げる飛華。
無慈悲にも私たちに余命宣告(違います)がされた。
**
「ついた〜」
はい、帰って参りました。
だけど、かなりみんなぐったりしている。
もちろん、私も。
行きより帰りの方が疲れるのは決定時効だった……。
しかも今はもう夜。
外は真っ暗だ。
いやぁ、山道、怖かったね。だって、山に入ってすぐ日が落ちていったもんね。
あいにく、麓にはロクな集落がない。
だから、戻るより進む方がいいってなって……。
強硬突破、だ。
飛華は半泣きだ。
というか、帰ってくる途中にも夜道はやだ、胆試し第2弾なの!?とか、グチグチグチグチ……弱音を吐いていた。まぁ、胆試し第2弾は否定できないけどね。
「なんでウチはこんな山奥にあるの!?」
飛華さん、落ち着いてください。
山奥っていうほど山奥ではないです。
まぁ、そこそこに山の中にあるけどね。
「これは支援者の意向、だよ」
これが、理由だ。
私達の家が、山奥にある理由。
「……支援者、が?」
「うん。支援者の方が、私達の権利のほとんどを握っているから。私達は逆らえない」
「稜華ちゃん、それって、どういうことなの!?」
……あれ?
みんなの反応が過激気味だ。
苦虫を噛んだような、あるいは怒ったような、そんな顔をしている。
そんな怒ることだっけ?
「どういうことも何も……私達は支援者の方によって生きているってことだよ」
実際、間違っていないしね。
「……稜華は、会ったことがあるの〜?」
「……どうだと思う?」
ちなみに、他の姉妹は、会ったことはない。
「なさそうじゃない?美華」
「いや、ありそうだよ、風華」
……フフ。
どっちでしょうね?
「それよりも、なんで稜華が、稜華ばかりが、そんなに情報を握って……」
「私だから」
理由なんて、シンプルだ。
「1番、利用しやすかった。中継ぎ役に適していた。ただ、それだけだよ?」
それ以外に、理由なんてない。
支援者は、あの方は。
私達の、支援者なのだから。
私達、1人1人を見ているのではない。
『私達』を見ているのだから。
「だけど、なんで稜華は支援者の情報を出してくれないの!?」
「伝えちゃいけないからに決まっている」
別に、そんな条件がなくても、伝える気はないけどね。
「私はただ単に、たまたま、不幸にも中継ぎ役というものに当たってしまっただけ。ただ、それだけだから」
「不幸って……私達は、稜華ちゃんみたいに、知れないんだよ!?知りたくても!」
叫ぶような、夢華の声。
だけど、そんなこと、言ってほしくなかった。
「私だって、知りたくって、こんなに知ったわけじゃないっ!」
何度だって、思っている。
何度どころじゃない。何百回も、何千回も、思って、考えて、悩んで。
「私が知っているのはプラスの情報だけじゃないっ!知りたくないものだってあったの!」
ねぇ、なんで貴女は私を、私にここまで理解させてしまうのですか?
私は、辛いのに。
嬉しいけど、辛いのに。
「私は、いつだって気をつけてきた!……本当のことを知れば、きっとみんなは失望する。驚く。普通に受け止めるなんて、できないっ!」
だって、私がそうだもの。
知りたくない。知らせたくない。
分かりたくない。分からなくていい。
「私だけが知っているから、みんなは傷つかない。傷つくのは、私だけで済む。その理由、わかるよね!?」
むしろ、このことがわからないなんて、ないだろう。
みんな、勘が良くて、頭が良くて。
「だから、私は余計にシャットアウトしているの!」
そう言い切って。
みんなが、やけに無口で。
私だけが、一方的に怒っているようで、嫌で。
逃げた。
部屋に、帰って。転移する。
机に向かっていた人が、ゆっくりとこちらを見る。
「……稜華さん?」
「……夜分遅くに、すみません」
その先には、いつもと同じように机に向かうヘリコニア先生がいる。
「どうしたんですか?」
「……ちょっとした姉妹喧嘩です」
今は、かなり落ち着いている。
さっき、あんなにムキになってしまったのが不思議なほど。
そもそも、律儀に答えなければよかったのに。
「どう見てもちょっとした、では済まないような顔ですよ」
私は、何も返す言葉が見つからず、黙る。
「まぁ、喧嘩をしたということはいい関係なことでしょうね。……一方的な支配関係などではないので」
私には、よくわからない。
「ただ、時間が経てば経つほど、関係の修復は難しくなります。早いうちに謝るのが得策ですよ」
「……たく、ないです」
私は。
「負けを、認めたくないですっ」
自分から謝るって、全面的に私が悪かったです、って言っているようなものじゃない。
そんなのは、嫌だ。
「ふふ……稜華さんらしいですね。ですが、それだと、ずっと平行線ですよ?それに、稜華さんだって、多少は悪いとか、分かっているんじゃないですか?」
「……分か」
「わからないなんて言わせませんよ。……私はお邪魔になるようなので、少々、失礼しますね」
ヘリコニア先生はそういうと、研究室を出て行った。
……どういうことだろう?
少し、ほんの少し、魔法発動の兆候がある。ただ、それだけだ。
「稜華っ!」
その5つの声に、驚愕する。
「……なんで、みんな」
なんで。
なんでここにいるの?
「稜華を追いかけてきたからに決まっているよ、美華」
「といういうか、研究室にいてよかったよ、風華」
……そうですか。
「稜華〜、ゴメンね〜、ゴメンなさいぃ〜」
陽華は半泣きで抱きついてくる。
「転移魔法で、稜華ちゃんの後を追ってきたんだよ。ホント、大変だった〜」
……そうなんですか。
「稜華っ!」
その勢いで、私は倒れそうになる。
だが、体は傾いただけで、倒れることはなかった。
「……飛華」
「ゴメンね。稜華にばかり、辛い思いをさせちゃって、気を使わせちゃって……」
飛華は私を全力で抱きしめているらしく、かなり苦しい。
「……私の方こそ、ゴメン」
その言葉は、口からするりと、溢れた。
「秘密のことが多くてゴメンなさい。今は言えない事が、多くて、ゴメンなさい」
だけど、いつか、言える日が来るって、私は信じているから。
「もうちょっと、待ってほしいの」
「いいよ。いつまでも、待っている。話してくれる日まで」
**
「いつか、仲直りできたみたいでよかった〜」
その声は、異空間に、響いた。
果てなど見えない、永遠に続いているような空間。
そこに、その声の主はいた。
「わたしも、またあの子の近くにいけたらなぁ……」
白銀の子狐が、そう呟く。
自分とは少し違う場所にいる、契約主を眺めながら。
「わたし、あの子の役に立てるようにがんばったし……」
その努力を示すように、子狐は人型になった。
「早く、よんでほしいなぁ」
その望みは、異空間に寂しく響き渡った。
というわけで、夏休み編はお終いです。
なので、設定等の方に、夏休み編の登場人物を更新しました。
そして、明日は6姉妹の誕生日です♪
ギリギリ夏休み編が終わってヨカッター(安心)




