51 貴女の語る真実
台座の上に、何かがあった。
私達はその正体が気になり、近づく。
ただ広く、明るい空間。
その中心に鎮座している台座。
この空間そのものが、すごく不思議だった。
多くの本棚が並び、古くなっているだろう資料は詰め込まれていた。
それだけでは入らないのか、床にも山積みにされている。
机の上には、ペンやらなんやら、筆記用具があって、古い型の実験用具もあった。
いや、古い型、どころではない。
とてもレトロな、だろうか。
今では現存しているかわからないほどの古い型だ。本でしか見ないようなもの。
なのに、ここには全然古ぼけた姿なんてない。
ただ、使い込まれた姿だけがあった。
ここだけ、この部屋だけ、時間が止まっているようだった。
そして、1番重要そうな、台座の上。
台座の上には、『あにめ』で見るような、『こーるどすりーぷましーん』に近いかな。とりあえず、冬眠マシンとでも呼んでおこう。
とにかく、そんな感じのものが乗っている。
「……開けてみていいかなぁ、美華」
「というか、開けてみようよ、風華」
そうですよね。
この祠の主っぽいですもんね。
気になりますもんね。
私も気になります。
「じゃあ、2人がそれ、開けてくれる?」
飛華は私達の1番後ろにいる。
きっと、台座に近いのは怖いし、だけど離れすぎると怖いから、だろう。うん、そんな感じがする。
「分かった。じゃあ、開ける?美華」
「うん。せぇの、で開けよう。風華」
うん、息ぴったりだね。
「……いくよ、美華」
「大丈夫だよ、風華」
「「せぇ〜の!」」
2人が同時に1つのボタンを押す。
ポチッとな、ですね。
すると、冬眠マシンがピカリ、と光る。
密閉された袋から空気を抜いたような音がして、あたりに冷気が漂い始めた。
冬眠マシンは霧のようなもので姿が見えなくなる。
「え〜?何これ〜?」
「きっと、少ししたら見えるようになるはずだよ、陽華ちゃん」
そうですね。
実際、霧が引き始めていますし。
「ふわぁ〜、誰か来たの〜?」
……へ?
寝起きの眠気が滲み出ている呑気な声。
う〜んと背伸びをし、目元を軽く擦ったのは。
「おっは〜。おや?君達、まだ若いのに、立派だね〜」
10代そこそこの見た目。
青緑のボブはふんわりとしていたが、若干、寝癖がついていた。
「……よっと」
その人は冬眠マシンから降り、軽く身だしなみを整えた後、私達の方に向き直った。
そこで、私は初めてその人が空色の瞳をしていることに気づく。
「こんにちは、勇気ある小さな挑戦者さん。私はブレッザ・プリマヴェリーレ。三次色、青緑の魔術師だよ」
……え?
魔、術、師……。
「今は一体何年なのかなぁ。私、ずっと眠ってて分かんないんだよね。君、教えてくれない?」
ブレッザ・プリマヴェリーレは飛華の方を向き、尋ねる。
っていうか、名前、長いなぁ。青緑の魔術師でいいや。
「えっと、今は現代で……」
「現代って言われても、その時代に生きてたら現代になるんだけど」
確かに。
「えっと、歴史区分、分かります?建国時代、魔術時代、魔法時代、現代っていうやつです」
「ゴメン、分かんないや。魔法も。ちなみに、魔術師が狩られてから何年が経っているの?」
「およそ1万年です」
飛華の答えに、青緑の魔術師は絶句する。
「……ねぇ、ちなみに聞くけど、王国が成立したのは?」
「5万年前、だそうです」
青緑の魔術師ははあぁぁ〜〜っと大きなため息をつき、天を仰いだ。
「何よ、その歴史〜〜〜!」
その高めの声がこだまする。
「嘘ばっかり!嘘ばっかり!酷いよ〜!」
……ですよね〜。
やっぱり、歴史を改変させられていましたか。
そりゃあ、5万年も王国が続くはず、ないですよね。
「いい!?」
青緑の魔術師は私達の方をガッとみて勢いよく言った。
「王国が建国されたのは魔術師狩りが始まった時!」
へぇ〜。
そうなんですか。
そうなると1万年前、かな。
教科書が正しければ。
「魔術師狩りという革命と共に、王国が起こったのよ。それ以前にも、確かに王国はあって私達、魔術師は王国に、そして王に仕えていた。だけど、本当は協力関係よ」
なるほど。
建国は革命と共に、か。
「……最初は、協力関係だったの。だけど、年月を経るごとに、次第に主従関係みたいになっていって。私達は当然、訴えかけた。……どうなったと思う?」
「……さあ?どうなっと思う?美華」
「私に振らないでよね、風華」
青緑の魔術師は目を伏せ、首を緩く振る。
「見せしめにされたわ」
思った以上の回答に絶句する。
「だから、私達はそれぞれの手段をとった。あるお方は直訴し、ある方は逃げ、ある人は自死し……。だけど、ほとんどの魔術師は捕らえられて殺されたわ。そして、魔術師は滅亡して……貴女達の時代に、魔術はもう残っていないのでしょう?」
それはもう、諦め、だった。
元から期待していない。そんな顔だ。
「……ゴメンね、長話しちゃって。そういえば、名前を聞いていないよね?名前は?」
無理やり空気を変えようとしたのが、違和感のあるような、そんな感じの聞き方だ。
だけどまぁ、名乗っていなかったのも事実だ。
「私は、飛華。紫月飛華です」
「風華だよ」
「美華です」
「陽華です〜」
「……稜華、です」
「夢華です。よろしくお願いします」
順番に名乗っていく。
やっぱり、こういう時は順番に、ということが身についているため、被ることもない。
「……みんな、姉妹なの?」
「そうです。私だけが一人っ子で」
「私と美華が双子で」
「私と稜華と夢華が三つ子です〜」
そういうと、青緑の魔術師は俯き、何かを考え込んでいる。無意識にか、何やらぶつぶつと呟いていた。
そして何か思い至ったように顔を上げる。
「……ねぇ、シヅキって、どう書くの?」
「え?紫に月、ですけど……」
紫、という言葉で青緑の魔術師は笑い出した。
高めの笑い声がこだまする。
「そっか。そうなの。そうなのね。だから、色入りなのね。……あの、紫の子なのね」
何故が自身だけで理解し、完結している。
「貴女達、魔術は知らないのに。知らないはずなのに。この祠の、ここまで来た理由はそういうことだったのね。精神に刻み込まれた……というべきでしょうね」
……なんのことを言っているのだろう、と思って。
だけど、1つの可能性に思い至ってしまった。
……この人は、知っている。
知っているんだ。
私達のことを。
私達の、 について。
その結論に達した時、私の心の中は2つの感情に支配された。
恐怖と、期待。
真反対のその2つが、私の心の中で渦巻く。
私達のことを、姉妹が知るんじゃないか、という恐怖。
魔術師のことを、知れるんじゃないか、という期待。
私には、最善が分からなくなる。
「……っと。5番目の子が恐ろしい殺気を飛ばしているから、ここまでにしようかな。じゃあね。おやすみ」
……え?
あっさり引き下がるなぁと思ったらまた寝るの?
「なんでそんなに驚いているの?私は魔術師だよ?世から睨まれた存在。だから、表に姿を出したらいけないの」
なんで。
なんで、手がかりは目の前から消えていくの?
せっかく、目の前に情報源がいるのに。
「だけどね、正直嬉しかった。貴女達が来てくれて。ずっと前は、祠を訪れる人がいて、自力で帰っていたみたいだけど、少し前からは帰れさえしない人ばかりだったから。……もちろん、この間まで来た人はいなかったよ」
彼女のいうずっと前と少し前。
それはいつを指すのか、私には分からない。
「だから、貴女達がここまで来てくれて、ホントに嬉しい。……君達は多分、あの方のモノだから。会えてよかった。もしよかったら、また来てほしいなぁ」
なんだか、臨終のようなセリフだ。
嫌な予感が、した。
「その時にはまた、起きるから。ね?……じゃあ、今度こそ、おやすみなさい」
冬眠マシンの布団に潜り込み、寝る体勢に入る青緑の魔術師。
「……魔術師を悪と、思いますか?」
「思わないよ」
口からこぼれた疑問に、答えが返ってきたことに驚く。
青緑の魔術師は向こう側を向いていて、表情は見えない。
「私は、魔術師は正しかったと思う。いや、正しかった。何1つ、悪いことをしていない。そう断言するよ」
『正しい』は、正解とは限らない……です。




